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斯くて少女は、新たな一歩を踏み出す  作者: takosuke3
三章 ~静寂にして不穏な一夜~
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6:頼れる後押し

「その様子では、だいぶ迷走しておるようじゃが、先に申し添えておくぞ」

 燐耀は、自分の茶を一口すすり、

皇龍()をアテするというのは、最初から除外せい」

 厳格に突き放されて、アレクシアは言葉に詰まる。

 皇龍ならば──それは、多少なりとも期待していたことだった。

 燐耀は、アレクシアの分かりやすい反応に肩をすくめ、

「鏡華も言っておったじゃろうに。これはそなたが解決するべき問題……いや、乗り越えるべき試練じゃからの」

「それは……マダ戦うかドウカも」

「まだそこ(・・)かよ……」

 もごもごと言うと、蒼真は呆れるように鼻を鳴らした。

「急いで決めろってのは、具体的にどうするかってことまでだ。戦うにしても逃げるにしてもな」

 燐耀も蒼真も、正論を言っている。そもそも、自分がここでこうしていることからして、充分助けられている。この期に及んで、手を差し伸べられないことに落胆するなど、筋違いである。

 それは、分かっているのだ。

「それは……デモ」

「そんなデモデモダッテで考えるフリ(・・・・・)していじけてたって、奴は来るぜ。自分に都合の悪いことを、何もかもお前に押し付けるためにな」

 苛立ちを隠さず、蒼真は吐き捨てた。

「で、お前をぶっ殺して、その首を持ち帰って確かに討ち取りましたって声高に叫んで、のうのうとふんぞり返って腹を抱えて大笑い、と……お前、よくあんなのとお友達やってたな?」

「友達、チガウ」

 冗談じゃない。間違っても、〝友達〟であって堪るか。

「まあ、友か否かはともかくとして……あの済ました面での大笑いか~」

 それを想像したのか、燐耀はさもおかしそうに吹き出した。

「そういえば、最近流行りのあにめ番組に、そのような悪女が登場しておったのう。それが現実に拝めるとあらば、それはそれで面白そうじゃ」

 〝あにめ番組〟がどういうモノかはよく分からないが、あのエリッサなら確実にそうするであろうという予想が、半ば確信に近い形でアレクシアにはあった。

 あのエリッサなら、と。

「……」

 エリッサのそんな姿(・・・・)を想像してみたら──腹の内で、何やらグラグラと沸くような感触が生まれた。

「見ている分には面白そうじゃが……嘲られる道化役はそなたじゃぞ、アレクシアよ」

 燐耀の笑みは、とても優しい──小さな子供を諭すかのごとく、慈愛に満ちていた。

「己の実力も弁えなかった愚か者、追い詰められて自棄になった憐れなクズ、まああの出来損ないにはふさわしい最期……」

 あるいは──憐れむように。

「そなたは、死んでからも笑い者じゃろうな。その大笑いする第一人者だか代表格だかは、誰じゃろうな?」

 誰──その顔が思い浮かべた瞬間、腹の内で沸くものが何なのか、自覚した。

 恐怖ではない。

 怒りだ。

「本当にそれで良いのか?」

「……イイエ」

 呻くように絞り出される否の言葉が、気づけば吐き出されていた。

「絶対に、イイエ」

「なれば良し」

 と、燐耀は鷹揚に頷いて見せると、再度茶をすすり、

「では、改めて策を講じるとしようかの。頭数を揃えれば、多少なりとも良い方向に転がるだろうて」

 頭数を揃えれば──それは、

「……私ヲ、手伝ウ?」

 そなたが解決するべき問題──と、ついさっき突き放していたのに?

「そなたが決すべき事案ではあることは、間違いない」

 燐耀は、何やら偉そうな顔で頷きながら言うと、不意に不敵な笑みを浮かべ、

「が、タダで高みの見物を決め込むほど、厚顔無恥なつもりもない。手は貸せぬが、知恵を授けるくらいはさせてもらおう……まあ、不要ならば無理にとは言わぬが」

「そんなことは、トテモ、無い」

 考えがまとまらない今、知恵を貸してもらえるだけでも、とてもありがたい。

「話はまとまったな」

 と、蒼真は立ち上がり、

「そんじゃ頑張れよ~」

「何を他人事のように言うておる? 待たんか」

 さっさと出て行こうとする蒼真の襟元を、すかさず燐耀が捕まえた。


*****


「ここまで首を突っ込んでしまった以上、そなたにもしっかり働いてもらわねばな」

「えぇ~?」

「まあ、あれじゃ。タダとは言わぬぞ、ほれほれ~」

 蒼真を振り向かせた燐耀は、ふと何かを考えると、自分の浴衣の襟元を大きく開いて見せた。

「今なら、妙齢の美女が漏れなく付いておるぞえ。それも二人もの~」

 なかなかどうして大きく実っている上に、形もお見事──それがはっきり見せるのに、肝心の部分は決して見せない、絶妙な線引き。

 見えそうで見えない──それは、かえって扇情的な雰囲気であった。

 なのに、

「あ~はいはいそうだったそうでした~」

 蒼真は、鬱陶しげに燐耀の手を振り払うと、さも仕方なしとばかりに二人に目を向けてやり、

「え~何だって~? 妙~齢~の~ビジョ~? むしゃぶりつきたくなりますね~夜這いしたいね~襲いたくなりますね~がおがお~」

 それはもう、わざとらしく、両手で瞼を大きく広げて、見たくもないのに仕方なく見てやってるんだと言わんばかりに。そして、大きく開かれた眼には何も映していなかった。

「……」

 別に、自分の容姿が優れているとは思わないが、かといって特別劣っているとも思わない。なので、何だか物凄く釈然としなかった。特に女としての矜持とか誇りとか自尊心とか。

「……心中、察して余りあるぞ」

 何とも言えない表情を浮かべるアレクシアの肩に、燐耀が優しく手を置いた。アレクシアと同じような、何とも言えない表情を浮かべて。

「鏡華も案じておったし、妾も前から思っておるが……そなたは本当に年頃の男子(おのこ)か? 年頃の女子(おなご)の閨に足を踏み入れるなど、泣いて喜ぶものじゃろうに」

「あ~はいはい涙が出るほど嬉しいね~」

 と、泣き真似などして見せる蒼真。

 燐耀は諦めたように深々と溜息をつき、

「蒼真よ。そなたには女の魅了より、もっと直接的で分かりやすい手段の方が良さそうじゃの?」

 いつの間に用意したのか、その手には荒縄が握られていた。

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