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斯くて少女は、新たな一歩を踏み出す  作者: takosuke3
一章 ~異郷と格差~
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1:異郷の母子

「くだらん」

 父は見放した。

「もういいわ」

 母は諦めた。

「何が妹だ。出涸らしがっ!」

 兄は唾棄した。

「やっと消えるのね」

 姉は安堵した。

「例外というのはどこにでもある」

「生まれてきた瞬間、終わっていたんだ」

「最初から血迷っていたのさ。こうなるのも無理はない」

 教師や同級生らは、同情と侮蔑を投げながら、アレクシアを断頭台に抑えつけた。

「我が友に、そしてこの世の全てに、生まれてきたことを冥府で詫びろっ!」

 そして濡れ衣を着せた張本人は、正義の義憤を張り付けた(・・・・・)顔で叫びながら、鎖の留め具を躊躇無く外した。

 解き放たれた断頭の刃が、耳障りな音を立てて、哀れな贄に食らいつき、


「………………………………あ」


 木目の平面が突然視界を埋めたものだから、それが天井だと気づくのに随分と時間がかかった。

(生きてる……?)

 首に触れてみれば、切れていない。そもそも、手が動かせるということは、首と胴はまだ離れていないということ。

 夢を見ていた事をようやく自覚して、しかし横倒しになっているのは夢でないと気付いて、アレクシアは体を起こす。

 アレクシアが横たえられていたのは寝台ではなく、床の上に敷かれた分厚いクッションの上。被せられたブランケットは、分厚くも重さを感じさせず、起き上がれば簡単にめくれた。

 そして、この部屋──床は草を編み込んだような板がいくつも敷き詰められ、扉は格子状に組まれた木枠に真白い紙が張られている。

 どれもこれも、神聖帝国では(・・・・・・)見たことが無い。

「……どこ、ここ?」

 ようやく考えがそこに行きつき、アレクシアは慌てて立ち上がり、

「い……っ」

 全身に痛みが走る。体を確かめると、今まで着ていたボロボロの囚人服ではなかった。

 肩から足まですっぽりと覆うゆったりした形はガウンと似ているが、材質は違う。手足と言わず、全身に包帯や絆創膏が付けられており、どうやら誰かの手当てを受けたことは確からしい。

 つまり──今の自分は、見ず知らずの何者かの手の内にあるということ。

 アレクシアの緊張感が一気に膨れ上がる。

 そんな時に、扉がいきなり左右に開いたものだから、

「びゃあぁっ?」

 悲鳴──というか奇声を上げて壁際まで飛びのき、ブランケットを頭まで被って身を隠す。

「××××××××……」

 よく聞き取れないが、声をかけられたことは分かった。恐る恐るブランケットの中から顔を出すと、部屋の入口に立つ少年と視線が合う。

「××××、××××」

「え、えっと……」

 奇妙な生き物を見ているような、何とも言えない目を向ける少年。やはり、言葉は分からないが、アレクシアの行動に呆れているらしいことは、とりあえずは伝わってきた。

「××……俺の言ってるコト、分かるケ?」

 少年が発したのは、耳慣れた帝国語。端々の発音はやや怪しいが、気にしなければ充分聞き取れるので、アレクシアは頷いてみせた。

「ヨロシイ。次、これは何本?」

 と、少年は指を立てて見せた。

「三本……て、そんなことよりもっ!」

 アレクシアはブランケットを体に巻いたまま跳ね起き、

「貴方は誰っ? ここはどこなのっ? 私をどうするつもりっ?」

「一つ目と三つ目は、コッチの質問ナンダケド」

 少年は、面倒そうに溜息を吐き出し、

「まあイイ……俺はソーマ・タカギリで、ここは俺が住んでる家。歩けるなら、ついてコ」

 と、少年は立てた三本指で招くと、アレクシアの返事も待たずに歩きだした。

 どうするか迷うが、こうしていても始まらないので、アレクシアは身を包んでいたブランケットを置いて、ソーマと名乗る少年に続いた。


*****


 木の板を張った廊下を横切り、ガラス張りの仕切り戸を開け、用意されたサンダルらしき履き物を引っ掛けて庭に出ると、

「っ!」

 途端に、アレクシアは総毛立った。

 そして、気が狂いそうになった。

「オイ?」

 卒倒しかけたところで、ソーマの声に我に返った。

「まだ、寝ぼけテル?」

 腕を引かれて、ようやく自分が膝をついていたことを自覚する。

「……だ、大丈夫」

 本当はあまり大丈夫ではないのだが、とりあえずそう言っておいた。

「ナラ、良いケド」

 訝りながらも、ソーマはアレクシアから離れ、庭の端に設けられている池の縁に立った。

「お前、ココから出てキタ。底にあるのハ、法術式じゃないノカ?」

 ソーマの横に立って池を覗き込むと、確かに水底に法術式が描かれている。それも、アレクシアには見覚えのある術式だった。

「お前、これだけ持っテタ」

 ソーマが差し出したのは、これもまた見覚えのあるグラス──牢獄にて、師が毒酒と持ってきた法具だった。

 刻まれている術式は、水底と同じ──ではなく、よく見れば微妙に差異がある。構文を読み解くと、どうやら対になっているようだ。

「論より証拠ダ。使ってミロ」

 ソーマに促されたアレクシアは、試しに術式を起動してみる。光が爆発するが、さすがに二度目では意識を飛ばされることはなかった。

 代わりに、

「わぷっ?」

 水を被る感触に、アレクシアは咳込む。光が晴れると、池の中で尻餅をついていた。

「転移術式とか言う、法術ラシいな。片道だけとはいえ、便利なモンダ」

 言いながら、ソーマはアレクシアを池から引っ張り上げる。

「まあ、往復でも片道でも、俺達には(・・・・)使えナイから関係ないケド」

「……使えない?」

 ソーマの言い回しに、アレクシアは引っ掛かりを覚えた。

 法具に不備が無いことは、たった今証明されている。つまり、問題があるのは使った者(ソーマ)達の方だということ。

「アタリ前だろう……俺達には、そもそも〝法力〟ガ無い」

 アレクシアの手を握るソーマの手が、不意に強められる。

 強弱や大小の個人差はあるものの、神の寵愛の証たる法力を全く持たない人類などあり得ない──神聖帝国民(・・・・・)ならば。

 つまり、

「じゃあ、貴方達は……というか、ここは」

陽出乃国(ヒデノクニ)……神聖帝国では、〝ケオセスタ〟とか呼んでタカ?」

 その名前こそが、二つ目の質問の本当の答え(・・・・・)となった。

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