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斯くて少女は、新たな一歩を踏み出す  作者: takosuke3
二章 ~広がり始める世界~
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4:異郷の学生達

 (ドゥラグニ)──この世で最も強大とされる種族の一つ。

 幼体でも強靭な肉体と生命力を誇り、成体ともなれば高い知性まで兼ね備え、例え大軍を擁しても屠ることは困難を極め、果ては天災そのものとまで称された伝説まである。

 そんな伝説の種族の統率者だの帝王だの──〝魔王〟も〝天災〟も、決して大げさな肩書ではないということを、目の前の実物ははっきりと物語っていた。

「そなたの事は、話に聞いておった」

 魔王にして天災は、しかし穏やかな笑みで話しかけてきた。

「鏡華は心配なかろうが、蒼真と一つ屋根の下では、気苦労も多かろうて」

「貴方、蒼真のトモダチ?」

「友というよりは腐れ縁……付き合いが長いだけの仲じゃ」

 燐耀は、うんざりしたように肩をすくめる。

「正確には、高桐と我が一族が長い付き合いでの。その流れで幼少期からの付き合いで、今や学び舎まで同じにしとる」

 学び舎──蒼真と同じ学校に通っているということらしい。よく見ると、彼女が来ている服の胸元にあしらわれている徽章は、蒼真が来ていた制服にも同じものがあった。

「龍も学校デ勉強スルの?」

「当然じゃろう」

 アレクシアの驚きがかなり不本意だったらしく、燐耀は眉をひそめる。

「妾のような若輩が、〝修学不要〟などと、どの口で言えるものか。神聖帝国はどうだか知らぬが、陽出の進歩はただでさえ目覚ましいものじゃて。例えば、これとかの」

 燐耀が制服のポケットから取り出したのは、小さな機械──形は少々違うが、ケータイだった。

「次世代型──設計段階から見直した新たな機種が、開発されておる。早ければ来年中、遅くとも再来年の始めには、世に出回るそうじゃ。妾のコレは、先月買い換えたばかりの最新型だというのにの」

「来年……」

 機械には詳しくない。しかし、その進歩の速度が凄いことくらいは、アレクシアにも理解できた。

「そうじゃ。新しいと思いきや、あっという間に〝昔〟どころか〝太古〟の存在になりかねん……あのように怠けておるとな」

 燐耀の視線を追った先──網状の高い柵の向こうで、木を枕に眠りこけている蒼真がいた。


*****


 柵の向こうの敷地内には大小さまざまな建物が立ち並んでおり、人類のみならず様々な種族が肩を並べて動き回っている。見たところ、少年や少女と言って良い年代の者が多く、彼らが来ている服は、形こそ種族や性別によって多少異なるが、共通して同じ徽章があしらわれていた。

「ココが、蒼真と燐耀ノ学校?」

「そういうことじゃ」

 と、燐耀は軽々と柵を飛び越えると、蒼真に歩み寄り、

「これっ、起きんか不良学生」

 と、つま先で蒼真の頭を小突く。

「……あ~……?」

 蒼真はうっすらと目を開け、

「何だ、リン子か……」

 どうでも良さげに再び目を閉じ、ごろりと燐耀に背を向ける。

「……燐耀じゃ」

 そんな蒼真の襟首を、燐耀は舌打ち交じりに引っ掴み、軽々と持ち上げて木に押し付け、

「何度言えば分かる? 妾の名は、燐耀じゃっ!」

「とかいう立派すぎる名前が面倒だから、普段はリン子で通ってんだろ」

「燐、耀、じゃっ!」

 居丈高に名乗りを上げると、魔力とは別の、強烈な威圧がアレクシアを凍り付かせた。アレクシアだけでなく、談笑していた他の学生──特に、魔力への感受性が高い亜人たちが、会話や足を止めて振り向いた。そしてすぐに、納得するような仕草や表情を見せながら、各々の動きに戻っていく。どうやら、この二人のこのようなやり取りは、いつもの事らしい。

「ああ、分かったから落ち着け落ち着いてくださいませ龍のお姫様~っと」

 蒼真は、吊り下げられたまま、ふざけた調子で燐耀をなだめると、網の向こうにいるアレクシアに目を向け、

「で、お前はンなとこで何やって……て、お袋の使い走り(パシリ)ってのは見りゃ分かるか」

 背嚢と自転車に気づいて、蒼真は納得したように頷く。

 アレクシアは、蒼真の性格と今の状況を考え、

「蒼真は、何しテル? 勉強から逃げテ、お昼寝?」

「……お前は俺が授業をサボる不良学生に見えるのか?」

「見エル。トテモ、凄く」

 アレクシアは、深々と頷いて即答した。普段の蒼真の行いを思えば、何を迷う事があるのか。

「……あ~そすか~」

 アレクシアの微塵の迷いの無い即答に、蒼真は返す言葉を詰まらせた。

「帝国の娘も言うではないか」

 と、燐耀は小気味よく笑うと、吊り下げた蒼真を軽く揺らし、

「それに、事実じゃろう? そなたが遅刻、サボりの常習犯というのは」

「……今は昼休みだ。昼寝して何が悪い?」

 蒼真は、むっつりと吐き捨てる。

 実際、他の学生達は談笑したり読書をしたり食事をしたりと、いわゆる〝授業の風景〟ではないから、休み時間であるのは確かなようだ。

「……昼休みだけなら、のう~」

 燐耀は、ぐいと蒼真に顔を近づけ、

「そのまま眠りこけて午後の授業に遅れるのは当たり前っ! 下手をすれば、放課後まで寝こけておるではないかっ!」

 驚きはしなかった。むしろ、蒼真ならありそうだと、妙に納得できる。しかし、そこまで考えが及ぶと、当然の疑問が浮かんだ。

「いつもソウイウコトしてる、なら、トテモまずい、と、オモウ」

「……ところが、大丈夫なのじゃよ。こやつの場合、残念なことにのう」

 本当に残念とばかりに、燐耀は深々と溜息を吐き出し、

「こう見えても成績は優良で、成すべきこともきちんとこなしておる。故に、あまり強く出られぬのじゃ。全く、タチが悪いことこの上ない」

「失礼だねチミ? 世渡り上手と言ってくれたまへ~」

 ふざけた調子で茶々を入れる蒼真に、燐耀は再び深々と溜息。もはや怒りを通り越した諦めの感情に、アレクシアは柄にもなく同情の念を覚えた。

「む? 予鈴じゃな」

 建物の最も高い位置に設置から響いた鐘の音に、燐耀は残念そうに肩を竦め、

「アレクシア、じゃったな。もう少し話したかったが、そういうわけじゃ。いずれ茶でも飲みながら、ゆっくり話そうぞ……と、そういえば、アレクシアは本は読むかの?」

「あ、ハイ」

 何せ、学院では足繁く資料室や蔵書庫に通っていたくらいである。

「なれば、時間があるときにでもそこの建物にでも入るが良いて。そなたの世界(・・・・・・)が、今少し広がろう……では、行くぞ不良学生」

 と、燐耀は吊り下げていた蒼真を軽々と振り上げ、荷物のように背中に回した。

「これから楽しい楽しい、お勉強の時間じゃぞ~」

「きゃ~いや~人さらい~犯される~」

「妾に痛めつける趣味は無いのでな。全ては一瞬……そう、一瞬じゃ」

「こ、殺される~っ?」

 蒼真の悲鳴を黙殺し、燐耀は蒼真をぶら下げたまま颯爽と去っていく。

 その姿が見えなくなったところで、アレクシアは大きく深呼吸。今になって気づいたが、思った以上に身が竦んでいたらしい。手の震えが、まだ止まらない。

 その姿が見えなくなったところで、アレクシアは大きく深呼吸。今になって気づいたが、思った以上に身が竦んでいたらしい。手の震えが、まだ止まらない。

 こんな状態で走るのはさすがに危ないので、アレクシアは自転車に乗らずそのまま押して道路を横切り、向かいの建物に入った。

 ちなみに──建物の入口に掲げられた看板には、公共図書館とあった。

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