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魔王の姿

 今日は日中に各居室の一斉清掃があったの。だから、いつもは部屋の中で待っているリゲルは、シリウス殿下の使い魔キュオンと一緒に殿下の執務室に避難していたわ。


 一緒に部屋に戻ると、リゲルはくんくんと部屋の匂いを嗅いではキョロキョロと部屋の中を見回している。

 どうしたの? 落ち着かないのね。


「……いや。それより、なんでそんなことになった? それじゃあまるでプロポーズみたいだぞ」


 そうなのよね……。なんでかなんて分からないわ。気が付いたら口から出ちゃってたんだもの。


「その顔……。フラレたのか?」


「フラレないわよ! フラレてない、と思うわ……」


 殿下はおっしゃったもの。


『ステラは俺が望む、理想的な婚約者だ』


 って。でも、こうもおっしゃったの。


『だが、俺は王子だ。第3王子ではあるが、王子である以上、最も大切にするべきなのは国の平和と国民の幸せだと思っている』


 殿下は静かにきっぱり、そう、おっしゃったの。


「つまり、伴侶の幸せは二の次ってわけだ」


「…………」


 そう、いうこと、よね。


 殿下は言外に、私が殿下の「最も大切なもの」にはなり得ないのだと伝えたの。


 愛されたかったけれど。大衆小説のヒロインのように、王子様の綿菓子のような甘い愛に包まれてみたかったけれど。

 私が愛した王子様の、私は1番にはなれない。


 でも、シリウス殿下はそういう方だ。

 国を愛し、国民を愛している。

 だからこそ、国の平和を願い、国民の幸せを願う殿下の心は広く大きく温かい。


 そんな殿下だからこそ、私は殿下に恋をした。

 そばにいたいと思った。

 だから。


「いいの」


「ステラ……」


「いいのよ。シリウス殿下のおそばにいられれば、私はそれだけで」


 多くを望み過ぎては不幸になる。身の丈にあった幸せに感謝しなければ。


 理想の婚約者だと言って頂けた。理想の王子妃だと言って頂けるよう、精進しよう。

 殿下を支え、共に人生を歩むに相応しい伴侶になれるように。


「…………」


 よっこいしょ、とばかりにリゲルが立ち上がった。

 あら、リゲルが私の膝の上に……。

 膝の上に乗ってくることなんてあまりないのに。元気付けようとしてくれ……。


「うきゃ!」


 ちょ、なに?! ビンタ? 

 猫の手のビンタなんて痛くないわよ! あー、びっくりした。

 もう。何するのよ?!


「辛気臭い。それより、探していたものは見つかったのか?」


 辛気臭い……。悪かったわね。


「魔王の姿については記載があったわ。それによると、頭部は山羊、体は人間の男性で、12枚の美しい羽根を持っているって」


「ふむ。なかなかに禍々しい姿だな」


 リゲルは想像できるの? 私にはさっぱりよ。

 だって、体は人間の男性で、頭は山羊でしょ? その背中に左右6枚ずつの羽根……。


 どんな?


 羽根って、トンボの羽根みたいな感じかしら。でも、それだと12枚あっても飛べそうもない。

 だとしたら鳥の翼みたいな?

 でもそれが12枚もあったら、背中がわさわさして大変なことにならない?


 記録してくれたひと、似顔絵も残してくれたら良かったのに。


「実際に見れば分かるだろ。聖剣と女神像の関係の方はどうなんだ?」


「そっちは、記録が見つからなかったわ……」


 カノは聖剣と女神像は惹き合うと言ったけれど、そう言った記載は今日見た限りでは見当たらなかった。


「それも、やってみれば分かるんじゃないか」


「でも、やり方が……」


 今までだって聖剣を持って戦っていたのよ? でも、女神像の気配なんてちらっとも感じたことがない。ということは、ただ聖剣を持っているだけではだめ、ということにならない?


「聖女の加護が必要なんじゃないか? カノに念じてもらったらどうだ?」


 聖女の加護……?


「そうね。明日はカノにお願いしてみるわ」


 瘴気が現れるようになってかなりの日数が経つ。魔物化した動物と日々戦う騎士たちは疲弊し始めているわ。

 なかなか完全に解決できない現状に、国民も不安を感じている。

 国民の不安を感じて、シリウス殿下も心を痛めている。


 なにより、カノをいつまでもこの世界に留めていることを最も憂いているわ。

 殿下は、カノをこの世界に召喚する原因を作った者を許しはしないと思う。


 私も、早くカノを元の世界に帰してあげたい。

 もちろん、1番はカノのために。そして、シリウス殿下のために。


 



 なんだか、嫌な感じ。

 あまり交流のないメイドたちが、遠巻きに見ているような気がするの。

 ただ、見ているだけじゃないわ。ひそひそと、噂話をされているような、そんな、嫌な感じ。


「ねえ、ミモザ?」


「……大変、申し訳ございません。ステラ様に不快な思いをさせている者たちについては、厳しい対応を行います。根拠の無い噂話や中傷などあってはならないこと。王宮に勤める者としての自覚が足りません」


 やっぱり、ミモザは気付いていたのね。それほど、あからさまではないから、関わりのないひとは気にも留めないと思うけれど。


 深々と頭を下げるミモザからは、困惑と憤りの気持ちが感じられる。


「ミモザは、その「根拠の無い噂話」の中身を知っている?」


「それは……、はい。知っております」


 その内容を聞いて、私は唇を噛んだ。

 曰く、英雄としての私の働きが至らないから、魔王の討伐がままならないのだ、と。




「はあ!」


 しまった。仕留め損ねた。


「……っ!」


 逃がさないわ!


「ステラ様、深追いは危険です。ステラ様!」


 静止の声が聞こえていないわけじゃ無い。けれど私は魔物を追った。


 倒さなければ。魔物を逃したなどと知れては英雄として更なる不信感を持たれてしまう。

 私は、英雄というだけではない。シリウス殿下の婚約者なのよ。

 私の悪評はシリウス殿下の足をも引っ張ってしまうわ。

 そんなことは、絶対に出来ない!


 魔物を討ち滅ぼし、必ずや魔王の討伐を。時間の猶予はもう無いのだから。


 追い詰めた!


 鹿の魔物は、行き止まりの崖の前で足を止めると振り返った。


 覚悟!


 聖剣を横に薙ぎ払う。剣先が鹿の首を刎ねる一瞬前、鹿は空を見上げて声高く鳴いた。


「ステラ様!!」


 バサバサっと翼を羽撃かせる音が、やけに近くに聞こえたの。


 鋭い爪も嘴も、振り返ることが恐ろしいくらいすぐ間近に迫っているのを感じたわ。


 しまった。誘い込まれた?

 魔物に連携する知恵があったなんて……!


「ステラ様!」


「きゃっ」


 抱き抱えるように地面に伏せて、私の頭を守るように庇ってくれたのはイオだった。


「痛ぅ……」


「イオ?!」


 イオはすぐに立ち上がって剣を構え直した。あれはワシ? それともタカ?

 大きさ的にワシかも知れない。


 上空を大きく旋回していたワシは狙いを定め、一直線に降下を始めた。




「ごめんなさい」


 携帯していた救急道具で応急手当てをしながら謝った。

 イオはオオワシの先制攻撃で額を突かれてしまったのよ。傷は深くないのだけれど、出血しやすい場所だからちょっと見た目が……。


 男前が上がってしまうわね。


「ステラ様に怪我が無くてなによりです。今日は、どうなされました? いつものステラ様の剣ではありませんでしたね」


「…………」


 情け無いわ。他人の目に、こんなにも影響されてしまうなんて。

 しかも簡単に見破られて。イオに怪我までさせて。


「少し、焦っているのかも知れないわ。功を急いてもいいことなんて無いわね。もっと堅実に頑張らなくては」


「ステラ様は、十分頑張っておられますよ」


 イオは強面に真面目な表情で私を見つめる。朴訥な言葉はイオの本心だと素直に感じられてホッとするわ。


「シリウス殿下にも、ステラ様の頑張りは伝わっています。ひとりで頑張ろうとせずとも大丈夫です、ステラ様」


 イオは、薄く広まりつつある噂話を知っているのかしら。


「ありがとう」


 イオは頷くとゆっくりと立ち上がった。


「では、戻りましょう。これを」


 あら、聖剣。いつのまに。

 さっき、地面に伏したときに手から離れたのね。失くさなくて良かった。


 異変は、直後に起こった。


「ーーっ!」


 イオから聖剣を受け取ったとき。どくん、と聖剣が脈打ったように感じたの。

 まるで生あるもののように。


 あ! これ、女神像の、気配……?


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