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手がかりを求めて

 その日の朝はシリウス殿下とカノ、イオ、そして私の4人で食事を取りながら打ち合わせをしたの。


「状況は捗々しくない」


 シリウス殿下の所作はとても美しい。ナイフとフォークを滑らかに動かして、ミルクと卵をたっぷり含ませて焼いたパンを切っている。

 熱々のパンの上ではちみつとバターが溶けていく。その上にフレッシュなレモンを絞ったから、爽やかな香りが広がったわ。


 艶やかなはちみつとバターが滴って落ちそうなのに、決してこぼすことなく召し上がる。素晴らしいわ。ずっと見つめていたい……。


 ぴし!


「あん! ちょ、リゲル!」


 足! 尻尾で叩いたわね?!

 足元で控えるリゲルに小声で文句を言うと、リゲルはつんとそっぽを向いたわ。


「口開いてるぞ」


 は!

 いけない。殿下に見惚れるあまりに間抜けな顔を晒してしまったわ。

 やだ。殿下が笑っていらっしゃるじゃない! もう、恥ずかしい!


「ステラは使い魔と仲が良いよね」


 カノまでにやにや笑ってるわ。ああ、ほっぺたが熱い。


「そうね。平均以上には仲が良いと思うわ。カノも仲良しでしょ?」


「んー、そうだね。でも、仲良しっていうのとはちょっと違うような? よく懐いているとは思うし、必要なことは教えてくれるけどね。イオはいつも連れているよね?」


 プースはカノの膝の上で丸くなっているわ。寝ているのか寝たふりをしているのか、話題になっても顔を上げない。


 話を振られて、イオは微妙な表情で言い淀んだの。


「自分は、使い魔と言葉を交わすことはほとんどありません。ただ、離れたがらないのでポケットなどに入れて連れ歩いてはいますが」


 ライデンは、今もイオの肩の上で毛繕いをしている。時折り、私を見ているような気がするのよね。ほら、今も。目が合ってるよね? あ、隠れちゃった。


「王子様は?」


「キュオンか? 子供のときほどは話さなくなったな。良く訓練された犬のように賢く指示に従うが、私に助言をすることは無くなった」


 殿下は足元に蹲るキュオンに優しい目を向けた。でもすぐに厳しい表情に戻ったわ。


「話を戻すが」


 そうだった。状況があまり良くない、という話だったわ。

 リゲルのせいよ? 茶々を入れるから。

 リゲルはそっぽを向いたまま、ゆらゆらとしっぽをゆらめかせているの。


「瘴気の浄化については一進一退、と言ったところだが、報告によると魔物は増えている。女神像を見つけないことには埒があかない」


 殿下がまた切り分けたパンを口に運ぶ。足元から冷たい視線を感じるわ。分かってるわよ。見惚れている場合では無いのよね。


「何か、手がかりがあれば良いのですが」


 イオがそう言ってナイフとフォークを置いた。まあ、食べるのが早いのね。

 

「もう壊されちゃって無い、とか?」


 カノったら恐ろしいことを。

 あの像は主神クレーターの宿木。神そのものではないけれど、霊験あらたかなもの。

 壊すなんて恐れ多いわ。我が国の民には、ちょっと、出来ないと思うわね。


 でも。


 そもそもあの像は、魔王を封じ込めるために(あつら)えられたもののようだったでしょう?


 魔王は先の英雄によってその核を破壊され女神像の中に囚われたのよね。魔王が復活した。すなわち、破壊された核が蘇ったということになる。理由はおそらく、御神酒の供給が無くなり主神の力と魔王の力が逆転したため。


「魔王とは、一体どのような姿をしているのでしょう。復活した魔王は、今もまだ、女神像に囚われているのでしょうか?」


 御神酒が捧げられなくなった女神像に、魔王を繋ぎ止める力が残っているかしら。


「魔王は未だ女神像に囚われている、と考えていいだろう。女神像から逃れらるなら、女神像ごと持ち去る必要はないからな」


 そうか。そうね。でも。


「女神像を持ち出したのは再び封印されるのを防ぐため、ということは?」


 そう! それよ、イオ。それも考えられるわよね?

 だけど、シリウス殿下は首を横に振ったの。


「それならば、それこそ叩き壊せば済む」


 うーむ。わざわざ苦労して運び出しているのだものね……。

 

「とは言え、魔王の本来の姿というのは調べておいた方が良さそうだな。また、記録を探すか」


 はいはい。ご一緒します。お手伝いしますから、そんな風にじーっと見ないで下さい。

 あの蔵書の中に、女神像を見つける手がかりないかしら。望み薄かな。前回は女神像が盗まれたわけじゃないものね。


 となると……。


「ねえ、ステラ。女神像の場所ってステラなら分かるんじゃないの?」


 おかわりした焼きたてのパンにレモンを絞りながらカノが言ったの。

 不思議そうに、首を傾げて。


「どういうこと?」


 私も首を傾げちゃうわよ。


「だって、女神像と聖剣は互いに呼び合うんでしょ?」


「そうなの?!」


 なにそれ、知らないわ。


「あ……」


 あ?


 イオの声はよく通るから小さな呟きにみんながイオを見たわ。期待を込めて。

 何か名案が浮かんだの?


「いえ。なんでもありません」


 違うの?


 イカツイ強面は表情が変わらないけれど、やや下がった視線は私の手元を彷徨っているみたい。


 もしかして、イオもおかわりしたかったのかしら。遠慮することないのに。頂いたら?

 討伐の最中にお腹が空いてしまったら困るでしょう?


 私、残さないわよ?


 おかわりを勧めると、イオは躊躇いがちに頷いた。


「では、トッピングに生クリームを追加で」


 甘党……?




 

「お尋ねしたいことがあるのですが」


 くすくすと楽しそうに笑うシリウス殿下に問いかける。


「なんでしょう、ステラ様」


 もー、また。ステラ()とか、やめてください。


「なぜ、今日もそんな格好を?」


 殿下はまたアークの執事服を着て、髪型も変えている。ここまで来る間に、殿下と気づいた様子のひとはいなかったわ。


 警備の騎士様も、とても王子殿下相手とは思えない形相で、睨むように見ていたし。


「それはここの使用許可を、ステラ様が王族の歴史を勉強するため、という名目で取っているからです」


 殿下はそう言って恭しく巻物状の書を広げて見せてくれたわ。警備の騎士様に見せていたものね?


 本当だ。確かに、私が王子妃教育の一環として王族の歴史を学ぶためとある。

 なるほど。私の学びのために王子殿下が付き合うというのは確かにおかしい。だから変装?


「どこに魔王復活を目論んだ者が潜んでいるか分からないからな。女神像や魔王のことを、俺が調べていると悟られない理由の方が良いと思ってね」


 ……本当にそれだけですかね? 純粋に、変装を楽しんでおられるようにお見受けしますが。


 ふふ。でも、殿下の秘密を共有しているようで、私も嬉しいです。


「魔王の姿と女神像と聖剣の関係、だな」


「はい」


 そうだ。あまり時間がない。書棚に向かう殿下に倣って、私も該当の書籍を探さなくっちゃ。


「女神像と聖剣は互いに呼び合う、か……」


「知りませんでした」


「俺もだ」


 カノは、みんなが知らないとは、それこそ知らなかったと言って驚いていたわ。聖剣から女神像の反応が得られないから見つけられない、と思っていたみたいで。


 だからすでに女神像は壊されて存在しなくなっているのでは、と考えたのね。


 だけど、話の流れからそうではなさそうだ、と感じて不思議に思ったみたい。


 カノは使い魔のプースから聞いたそうだけどリゲルはそんなこと教えてくれなかったしな。


「ステラは、なぜ剣を? 貴族の令嬢にしては変わった趣味だと思うが」


 パラパラと手にした本をめくりながら殿下が言った。

 正直に言うべきかしら。

 言ってもいいものかしら。


「……私、子供の頃から殿下をお慕いしていました。いつかお側に上がることが出来たら、殿下をお守りしたいと思って父に頼みましたの」


「子供の頃から……?」


「はい。殿下の10歳のお誕生日パーティで初めてお目にかかったときから。王宮でのパーティは初めてで、豪華で荘厳な様子に気後れしていましたの。大人がたくさんいて、人見知りだったので、同世代の子供たちともなかなか打ち解けられなくて」


 賑やかで、華やかで、なのにひとりぼっちみたいな奇妙な寂しさの中、私には手が届かない、テーブルの上のケーキを取ってくれた男の子がいたの。


「俺……?」


「はい」


「覚えてない……」


「はい。殿下にとっては取るに足らないことだったのですわ。当たり前のことで、とくに優しくしようとしてくださったわけではないのだと思います」


 殿下は静かな瞳を驚いたように丸くしている。


「それでも私は嬉しかった。殿下にとっては当たり前の振る舞いでも、私にはとても優しく感じられました。自然に、当たり前に、見ず知らずの者に優しくできる心の広さに、感動し、心惹かれたのです」


 たとえ、殿下の記憶に残るような出来事ではなかったとしても。いいえ、だからこそ。


 その広い心のそばにありたいと願った。


「どうか、そばにおいて下さい。必ず、殿下をお守りします」


 他の令嬢たちと比べて、特別に優れたところがあるわけではない。だけど、他の令嬢たちは剣など握らない。

 魔王復活のこの度の凶事。国を守るため、殿下と共に戦えることを誇りに思う。


 見つめる先、驚きに開かれた瞳が柔らかく綻んだ。


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