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女神像のひみつ

 ぱらぱらと紙をめくる音だけが響く。

 

 たくさんの蔵書の中から目当てのものを探すってとても大変だと思ったけれど、さすが王家の管理だけあって蔵書はきちんと体系立てて保管されていたの。


 だから、前回魔王が現れたあたりの時代の記録を順番に見ているのよ。

 とは言っても、なかなかピンポイントで欲しい情報には辿り着けない。闇雲に探すよりは遥かにいいけれどね。


 6冊目。今度こそヒントが書かれていて欲しい。答えでもいい。


 うーんと?


『朝食にいちごを食せし稚児の笑みはいと可愛し』


 なにこれ。日記?

 食事のこと、天気のこと、子の成長のこと等が書かれている。侍女の業務日誌かしら。


『蝶と戯れし稚児の御神酒を誤りて飲みしは心無くてわろし』


 斜め読みしながらページをめくっていく。


『今年の酒造りの悪きこと重なりぬ。かくてようよう治安の乱れたるは魔王の姿見えし夕べより始まりたる』


 魔王の姿見えし……?


『植物の多くに奇妙なるもの現れて枯れたるは魔王の仕業なり。その声赤子の泣きたるがごとくなり。この頃より稚児の病の得たり。泣かなきこと、笑わなきこと、顔に色のなきこと、異様なり』


「何か、見つかったかい?」


「はい。こちらをご覧ください、殿、か……」


 あら? 殿下ったらどうしてじとっとした目で見ているの?

 ……ああ、そうか。


「あの、セイ? これを一緒に見てくださる?」


「はい。ステラ様」


 素敵な笑顔。ちょっと色っぽいですね。でも面倒くさいです、殿下。


 殿下はサラサラと目で文字を追っていく。真剣な表情。そちらの方が好みです。


「御神酒、か」


「ええ。この「稚児」とは、王族のどなたかでしょうか」


「魔王が現れた頃に幼児だった、となると……」


 殿下は大きな紙をテーブルに広げた。これは、王族の家系図ね?


 端に書かれた年代から見当をつけ、指を横に滑らせていく。男性らしく骨張った手、形良く整った指先に目が吸い寄せられる。

 いけないいけない。見るのは殿下の手ではなく、家系図の方よ。


「当時の国王はアルゴル・レグルス、このひとだ。その子は3人。アケルナ、エルナ、フォーマ。フォーマ?」


「なにか?」


「歴史上、廃嫡となった王子が何人か存在する。確かそのうちの1人が、あった、これだ」


 殿下は別の本を広げて見せてくれた。

 フォーマ・レグルス。8歳の頃より奇行多し。魔女の裁定により魔と交わりしこと明らかなりて廃嫡とす。


「奇行多し……。魔女の裁定……?」


「魔王が現れたとき、その原因の究明が行われた。この記録によると、誤って王子が御神酒を飲んでしまったことから誤飲を防ぐために御神酒を捧げるのをやめてしまったことが原因ではないか、とあるな」


 御神酒を?

 だけど。


「我が国の主神は……」


「そう。酒の神クレーター。豊穣と酒を司る神だ」


 では、御神酒を供えることをやめてしまったから魔王が現れた、というの?


「殿下は、いえ、王族の方々は魔王の復活について、どのように理解されているのでしょう?」


 殿下は、どこまでご存知でいらっしゃったの? 魔王の復活はひとの手によるものだ、とはおっしゃっておられたけれど。


「……一般的な王子教育において、過去の具体的な事例を学ぶことは無かった。おそらく、当事者であるこの王子と周りの者を慮ってのことだろう」


 ……そうね。誤って御神酒を飲んでしまった小さな王子様に罪を問うのは酷だわ。

 御神酒のお供えをやめたのも王子様のことを思ってのことで、きっと、神様を蔑ろにするつもりは無かったのだろうし。


「簡潔に言うと、教えられるのは、魔王は主神クレーターの御力が弱まると力を増す、と言うことだ。だから供物を怠ってはならない、と。そして魔王は前回召喚された異世界の女性によって女神像に封印されている。このことは万が一にも魔王復活を目論む者が現れないよう秘匿されている」


「でも、現実に魔王が復活した、ということは」


「女神像への供物がなされなかったのか。若しくは捧げられた供物を奪ったものがいるのか。だが、そうならないために神殿の乙女達がいる」


「…………」


 神殿の乙女。やはり、シャウラなら可能だわ。もしもシャウラが、供物を捧げないことで魔王を復活させることが出来ると知っているならば。


「もちろん、神殿の乙女達には魔王のことは知らされない。彼女達は純粋に神に仕える仕事として、舞や供物を捧げている。聞き取り調査を行ったが、不審な発言をした者はいなかった」


 殿下は厳しい顔をして、「だが」と続けた。


「秘密を知り、凶行に及んだ者は確かにいる」


 秘密を知っていた者はごくわずか。秘密がどのように漏れたのか、それはとても重大で繊細な問題。


「女神像については、なにか見つかりましたか?」


「ああ。設計図を見つけたよ」


 設計図? 見て分かるかしら。


「とても、面白い造りだね」


 分厚い本の半ば。開いて見せてくれたページを覗き込む。


「これは……!」


 そこには神殿の女神像の内部構造が細かく記されていたの。

 どのように魔王を封印するのか、封印を維持するためにはどうしたらいいのか、詳細に記述されているわ。

 確かに、内側の構造は面白い。具体的な仕組みはちょっと理解できないけど、面白い仕掛けがされていると思うわ。


 そして、続くページに記載されていたのは、女神像の()()()だった。





「バラせるってことか」


 リゲルは緑色の瞳を細めたわ。長い尻尾がぱたぱたとクッションを叩いている。


「そういうことね。つまり、分解してしまえば、それでもひとつひとつのパーツはそこそこな大きさだけれど、裏の隠し扉からも運び出せるのよ」


 しかも、バラしたパーツを女神像だと気付かれる心配もないわ。だって、誰も分解できるなんて知らないのだもの。


「分解すると、中の魔王はどうなる?」


「女神像の内側は空洞になっているの」


 記述によるとね、聖剣で魔王の核を破壊すると聖剣は魔王を縛る鎖となって女神像の内側に固定できるようになるの。

 魔王が復活した、ということは破壊された核が復活しているということなのよ。

 その核は女神像の内側に固定されている。足に当たる場所にね。


「じゃあ、足を見つけなきゃいけないのか」


「そうね。だけど、封印を維持するには全体が必要よ」


 女神像は大きな(さかずき)を手に持っているの。この盃に御神酒を注ぐと内側に引き込まれるようになっていてね。縛られた魔王に降り注ぐ仕組みになっているのよ。


 魔に類するものは聖なる御神酒が弱点。捧げられる御神酒によって主神クレーターの御力を保ち、さらには魔王の力を弱体化する一石二鳥の仕組みになっていたのよ。


 女神像を見つけて魔王の核を聖剣で破壊すれば、新たに瘴気が生まれることはなくなる。

 カノを元の世界に帰してあげられるわ。


 だけど問題は。


「で、そのバラされた女神像はどこにあるんだ?」


 それなのよね……。


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