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トンデモ召喚

 聖女召喚。

 それは、この国に魔王が復活した際の、唯一の希望。

 儀式によって召喚された聖女様が、国を蝕む瘴気を浄化し、選び出した英雄に魔王を打ち倒すための聖剣を授ける。


 選ばれた英雄は聖女様とともに魔王に立ち向かい、与えられた剣で瘴気を生み出す魔王を討伐するのよ。


 この国に、お伽噺のように伝えられる美しい物語。子供の頃から何度も聞いたわ。絵本も読んだし、大人向けに改稿された物語だってある。


 その聖女様の正体が、異世界に住む、普通の女の子ですって?


 その世界で家族と暮らしていた普通の18歳の女性が、自宅で寛いでいるときに、突然、なんの打診も断りもなく、見も知らぬ異世界に連れて来られたと言うの?


 生まれ育った世界では聖女でもなんでもないのに? 聖女なんて存在しない世界で、普通に、ごく普通に暮らしていただけなのに?


「なんで、そんなことに……」


「なんでって、必要なんでしょ? 異世界の人間が。そうしないと国が滅ぶっていうなら、仕方ないんじゃない?」


 そうよ。必要よ。仕方ない? この国にとってはね。でも。


「だって、そんなの、酷すぎるじゃない」


 考えられる? 家族からも慣れ親しんだ土地からも引き離されて、たったひとり、知る人のない世界で。


 例えば私が、今。この窓の向こうがここではない異世界で、「あなたは聖女です。さあ、この国を救ってください」って言われたら?


 分かりました、って言える?

 冗談じゃない! ってならない?


 こんな世界知らない。勝手なこと言わないで! 今すぐ元の世界に帰して! って、言うんじゃない?


 関係ないもの。見たことも聞いたこともない世界の国が滅ぼうと、なんの関係もないもの。

 助けてあげなくちゃいけない理由がある?


 私、大好きなひとの婚約者に選ばれたのよ。それなのに、もしも私が突然姿を消したら。何日も戻らなかったら。


 たとえ何日か後に戻れたとしても、きっともう、そのときは私は殿下の婚約者ではなくなっているわ。相手は王子様よ。婚約者に決まってから姿を消したなんて不敬も甚だしいわ。もしかしたらお父様だってお咎めを受けるかもしれない。


 カノは……?


 今、この世界にいることで、失うものが、ありはしないの?

 この国を救うために、何かを犠牲にしているということは……?


 見つめると、カノは苦々しい笑みを浮かべていた。

 初めて見る。カノのネガティブな表情。


「そりゃあさー、なんで私がって思ったよ? だって私、聖女なんかじゃないしさ。だけど、偉そーなひとが来てさ、頭下げんのよ。すまないって。申し訳ないって。多くの民を統べる者としてどうしても必要なんだって」


 ……それって、国王様? 国王様が頭を下げて?


「大勢の命がかかってるって言われたら仕方ないよ。そうまで言われて突っ撥ねる根性無いし。あとあと、寝覚めも悪そうだし。まあ、でもさ。たくさんのひとの命がかかったピンチを救えることなんて、人生の中できっと無いじゃない? これって、すごいことだと思ったんだよね。ヒーローになれちゃう、私」


「カノ……」


「とは言っても、簡単じゃないけどね。そもそも生活するのが予想以上に大変だし。文化とか習慣とか色々違うでしょ? マナーは最低限だけ守って欲しいって言われて了解したけど、あれは失敗だったね。ちゃんと躾けてもらうべきだった」


「躾けて、だなんてそんなペットみたいに……」


「同じようなもんよ。最初は気楽に考えてたけど、こっちが何かするたびに「あーあ」って顔されてさ。でも自由にさせろって指示が出てるから誰も注意してくんないし。神殿の乙女って子達も、見た目は綺麗だけど腹ん中は真っ黒系だよね。くすくすひそひそ、感じ悪いったらなかった。だけどステラは」


 真っ直ぐ私を見る、その瞳にはもうネガティブな色はない。


「え?」


 私? きょとんとしちゃう。カノはにんまり笑うのよ。


「ステラは、最初からちゃんと注意してくれたでしょ? なんで手袋をしてなくちゃいけないのか、ちゃんと教えてくれた」


「え? あー…、あれね?」


 言えないわ。落ち込ませるためだったなんてことは。


「ひらひらドレスも似合わないってはっきりいってくれたし。自分でも絶対に似合わないと思うのに、「お似合いです」ってしら〜っとした笑顔で言われてもさ、馬鹿にされてるとしか思わないよ」


 ……ああ、それね?

 そうか。あれもそれも、みんな裏目に出てたんだ。


「ステラはちゃんと、ダメなものはダメって言ってくれる。ミモザも言ってくれるけど、ミモザは私のことを知ってるからね。ステラは知らなくても、私のことを「聖女」だと思っていても、ちゃんと言ってくれた」


 あははは……。待てよ。いっそ、落ち込ませたかったんだって言ったらどう?


「それに、ステラはヤキモチ焼いたりして、可愛げがあるよね。ステラの王子様も、王子様の中で一番気にかけてくれくれるけどさ。本当にヤキモチ焼く必要なんかないよ。王様に私の面倒見るように言われてたから、それだけだから」


 駄目だ。カノってば、私の決死の名演技をやきもちのせいだと思ってる。それもあるけど、かなりあるけど、それだけじゃないのよ。


 でも、やきもちではない、私はカノを落ち込ませたかったんだ、と力説したところで、落ち込んではくれないわよね……。


 それに、シリウス殿下がカノに心を砕くのは、カノの境遇をご存知だからだっていうのは本当かしら。

 カノの言う通り、国王様の指示があったから?

 本当に、そうだとしたら……。

 どうしよう。ちょっと嬉しい。


 カノのこと聞いたばかりで、私もカノに申し訳ない気持ち、いっぱいあるわ。私の住むこの国はカノに酷いことをしているのだもの。

 それなのに。


「カノは、強いのね。カノにとってはとんでもない状況なのに、とても前向き」


「後ろを向いてもしょうがないからねー。全て解決したら元の世界に戻れるって言うなら、解決すれば良いだけよ。で、私は異世界のヒーローになるの。カッコイイでしょ?」


 にかっと笑って、むんって力こぶを作ってみせるの。ええ、カノ。とてもカッコイイわ!


「ふふ。素敵よカノ。頼もしいわ。マイナスの状況をプラスに考えられるなんて本当にすごい。カノはこの国のヒーローよ。ふふ、そんな風に考えることが出来るなんて、カノって本当に面白いひとね」


 だけど、どうしよう。このままじゃ英雄は見つからない。全て解決したらカノは元の世界に帰ることが出来る、ということは逆に言えば、英雄を見つけなければカノは元の世界に戻れないということになってしまうのに。


 んん? なに? カノったら、表情を輝かせてどうしたの?


「ステラ!!」


「わっ!」


 なに? 急に大きな声出さないでよ、びっくりするじゃない!


「やっと見つけた! ステラが英雄だったのね!!」


「は?!」


 なんですって???


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