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姫的な彼女のゲームの話・改  作者: くしやき
広がる世界と閉鎖的な花園
90/93

閑話1 リコットの肩慣らし

更新です。

しばらくAW閑話が続きます。

 『姫百合の園(プリンセス・ガーデン)』の始動した翌日。

 大忙しなユアがまたしばらくログインできないということで閑古鳥かヘπトスが鳴きそうなことを予感させたホームに、午前中からリコットがログインしてきた。


 慌てて工房から顔を出すヘπトスにちらっと目線をくれてやっただけで、彼女は気にせずホームを出て行こうとする。

 当然ヘπトスはそれを許さず、高速で回り込むと入り口をふさいだ


「待ちなさい!このホームに顔を出したくせにこの私に挨拶もせずいくとはいい度胸ね!?せめてどこに行くかくらい教えなさいよ!?」


 肩を怒らせてそんなことを言うヘπトスにリコットはため息を吐き、そうして投げやりに呟く。


「東。装備の慣らし」

「それなら私も同行するわ!?わたしの武器をまともに使えるかどうか見てやるわ!」

「…………勝手にして」


 心底嫌で、絶対に来るなとすら言いたいリコットだったが、しかしそれはそれで面倒なことになりそうだったので、結局諦めて承諾した。


 そんな訳で東の街にやってきたふたり。


 どうやら本当にリコットの戦いぶりを見るつもりらしく武器も持たずに腕を組んでいるヘπトスを尻目に、リコットはステッキをくるりと回しながら、街を徘徊する住民風モンスターの一団に歩み寄って行った。


 当然に反応して掴みかかってくる住民の腕をステッキで弾き、流れるように突き上げる杖先に『魔力弾』を発射させその顎を弾き飛ばす。

 たたらを踏む住民の頭に、杖を利用してふわりと飛んで着地したリコットは続けざまに足元に魔力弾を放ちながらにして跳躍、住民の一団を眼下に連射する魔力弾で数体を仕留めると他の住民の頭に着地し、ステッキの曲がった持ち手を眼窩にねじ込みながら飛び降りる。

 その勢いで身体が後ろにそる住民の腰を魔力弾を放つ足蹴りで上向きに弾き飛ばすと、そのまま住民を背負い投げる。


 ごぎ、と嫌な音を立てながらステッキの持ち手が抜け吹き飛ばされる住民を追撃の魔力弾で滅多打ちにして処理すると、背後の住民の足を杖先の魔力弾で弾き飛ばして転倒させつつその顔を掬い上げるように持ち手を眼窩に突き込み、倒れ伏したその頭をひょいと飛び越えることで首をねじり折る。


 そうして一団を全滅させたリコットはくるりと杖を回して感覚を確かめると、次々に襲い掛かってくる他の住民たちへと杖先を向ける。


「『拡散(スプレッド)』―『闇槍(ダークランス)』」


 顔面に向いた杖先から放たれる拡散する闇の槍撃が住民の頭を消し飛ばす。

 続けざま閃かせた杖先から、とめどなく紡がれる祝詞が次々に闇を放っていく。

 そうしながらもう片方の手で、あるいは足先から魔力弾を放って接近を拒み、ひるんだ端から処理していく。


 ほどなくして住民の数が徐々に減り、代わりに鎧をまとった戦士がリコットへと襲い掛かってくるようになる。


 振り下ろされる長剣を魔力弾で弾き顔面を闇で撃ち抜けば仰け反る戦士、その足に持ち手をかけて引きながら魔力弾で顔面を追撃、仰向けに倒れるのに合わせてつかつか近づき顔面を撃ち抜いて処理する。


 続いて住民の合間を抜けて飛翔する矢をするりとすり抜け、魔力弾を乱射しながらお返しと杖先を向ける。


「『強力(フォース)』―『光槍(ライトジャベリン)』」


 放たれる光の槍がらせんを描きながら疾駆、現れた弓師の顔面を射抜く。

 さらに続けざまに叩き込まれた魔力弾に打たれた弓師が光に消えるのを見届ける間もなく迫ってくる住民を処理し、さらに襲い掛かってくるふたりの戦士を相手取る。


 突き出される槍を魔力弾で跳ね上げもう片方の戦士に叩き込み、咄嗟にそれを受ける戦士の脇を抜けて槍の戦士の懐に。即座に片手で掴みかかる戦士を掻い潜りその背後に回り、槍を振り回しながら振り向く戦士の眼窩に突き込んだ杖先から闇を爆ぜさせ一撃で仕留める。


 体勢を取り直し手斧を振るう戦士に一歩下がって攻撃を回避、石畳を叩く手斧を踏みつけ軽やかに跳躍、前のめる戦士の顎に持ち手を引きかけ手の中で魔力弾を弾けさせればその勢いで強引に持ち上がる戦士の頭。続けざまに杖先を踏みつけることで強引に首をへし曲げ、流石に外れて空転するステッキをキャッチしながら着地。そしておかしなほどに頭を後屈させてふらつく戦士を闇の一撃で元に戻してやる。


 そんなところでひとまず満足したらしいリコットは、住民たちの合間を抜けて速やかに東の街から離脱した。


「やるじゃないのあなた!」


 と、もうログアウトしようとしていたリコットに掴みかからんばかりの勢いで話しかけてくるヘπトス。無視してウィンドウを操作しようとするその手を掴まれ、一瞬GMコールしてやろうかとすら思う彼女にヘπトスはきらきらと目を輝かして言葉を続ける。


「そこまで動けるとは思わなかったわ!これは革命よ!?となれば必然!そう!この私はあなたというキャラクターを練り直さなければいけないということよ!?」


 一体何を言っているのかと呆れ、しゅるりと手を抜き出すリコット。

 負けじとヘπトスはその腕を掴む。


「付き合いなさい!あなたの新装備の案が浮かんで浮かんで仕方ないのよ!?あなたの動きをもっと見せてもらうわ!」


 そう言われてリコットは、ヘπトスを無視してログアウトすることを止めた。

 なにせヘπトスの作品と言えば、それだけでユアが喜ぶような代物である。

 ヘπトスがうざいことや面倒なことなど、ユアが喜ぶ可能性の前には塵芥に等しい。


 リコットはずぃっとヘπトスに顔を寄せる。

 たじろぐ彼女に、リコットは告げた。


「付き合う。けど、最高の品を作って」

「言われるまでもないわね!」


 そんな訳でリコットはいろいろな武器を握らされたりいろいろな動きを指示されたりとヘπトスに付き合ってやる。

 全てはユアを喜ばせるため。

 そのためなら彼女は、いくらだって頑張れるのである。

次回更新は8/16です。

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