081話 てらてらとぬめる肉の洞
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よろしくお願いします。
てらてらとぬめる肉の洞。
待ち望むように粘液を溢れさせ、くにゅくにゅと蠢く淫らな肉。
火照った肌に手を触れて、いやらしく振るえる唇をそっと親指で抑える。
硬いところに指先を滑らせれば、吐息が乱れ、すがるように身体を押し付けてくる。
それに応えるように。
綾は杏の体内へと―――そっとハブラシを進めていった。
しゃこしゃこと。
白く輝く杏の歯を、丁寧に丁寧に磨いていく。
鉛筆を持つようにハブラシをもち、余計な力をこめないように優しく。
歯の根本、歯肉の縁をなぞる。
「んっ、ふ、」
こそばゆいような心地よさに、杏は蕩けるように声を漏らす。
泡立つ歯磨き粉に唾液が白く濁っていく。
量を増していく白濁は、綾がハブラシを奥に進めると口の端からどろりと零れ落ちる。
ハブラシに押され、くぶゅ、と広がる唇。
杏の舌が蠢き、じゃれつくようにハブラシを押す。
無理に動かすことで痛みを生まないようにと、くりゅくりゅ回すようにして奥歯を磨いていく。
綾にされるのが心地いい杏は、綾の手に頬を擦り付けながら熱っぽい視線で綾を煽った。
ぐい、と、綾は杏の顎を持ち上げる。
口づけるように覗き込んで、綾はハブラシを繰る。
しゃこしゃこしゃこ、奥歯を念入りにこすり上げる。
くるり回して、歯の裏側。
しゃこしゃこしゃこと、ハブラシの細やかな毛先が杏の粘膜をくすぐる。
挿入された柄に絡みつく舌。
自分で舌を動かしながら、舌根の異物感に杏はえづく。
溢れ出す白濁が、だらだらと顎を伝って落ちていく。
飲み込まないようにとんぐんぐ動く喉、呼吸が苦しいらしく荒らぐ鼻息、膨れる鼻の穴、揺れる口蓋垂をすら綾は愛おしむ。
焦点すら揺らぎ、広がった瞳孔いっぱいに綾が映る。
緩やかな愛撫を健気に受け入れただただ身を委ねる姿に、湧き上がる支配感。
目の前の少女が己のものであるという歪んだ優越感。
そんな、人権をすら踏みにじりかねない程の熱狂を、受け入れてくれているという快感。
それに報いるようにと、杏の口内を愛し尽くす。
苦悶を嚥下する杏は、ただただ幸福に頬を染めていた。
やがて、綾は杏の口内からそっとハブラシを取り出す。
惜しむように伸びる舌先を焦らして、綾は口の中に水を含んだ。
そうして当然のように口付け、杏の口内へと水を送り込む。
くちゅくちゅ、と。
杏の口内の白濁を、綾の口内の水と混ぜ合わす。
歯の隅々までもを念入りに舌で擦り上げ、それから汚れた液体を吐き出す。
それを、もう一度。
互いの口の中が綺麗になるまで、繰り返し、繰り返す。
そうしたら、今度はシャワーで身体を清めた。
歯磨き粉により汚れた杏の肌を、指先でそっと綺麗にしていく。
くすぐったそうに身をよじる杏を、めいっぱい可愛がった。
歯磨きを終えたふたりは、身体を拭くとまたゲーミングデスクに向かう。
疲れ果てて動くことすら億劫な杏は、綾が優しく抱いて運んだ。
ひたすら怠惰に過ごした昨日。
寝ているときか、それとも愛し合っていたときか、気がつけばそれは終わっていて。
至る今日、お泊まりデートの終わるその日であっても、ふたりには少しの変わりもなかった。
ただただ、ふたり、のんびりと時を過ごす。
まるでそうしていれば、本当に時の進みが遅くなってくれるのだと、そう信じているみたいに。
「杏。いま、何時かな」
ふと、綾が呟く。
消耗してなお精細を欠かないどころか、余裕がなくなった分洗練されたプレイングでコテンパンにされながら。
視線を逸らせば目につく時計を、けれど、綾は見ようとしなかった。
「分からない」
「……そっか」
見上げる杏の額に口付け落とす。
例えばこのまま、時計に気が付かなくて。
今日が終わることになんて、気が付かなかったら。
そうすることが、出来たのなら。
「ずっとこうしてるのも、いいのかな」
ぎゅむ。
杏を強く抱き締めて、綾は吐き出すように喉を震わせた。
杏はただ、静かにそれを受け入れる。
「ねぇ、杏」
「……ん」
「杏は―――私とずっと、一緒に居たい?」
「……」
杏の耳元で、そよ風よりも緩やかに、けれど聞き逃せないほど明確に。
問いかけるその言葉に、杏はそっと吐息を零す。
もぞもぞと、杏はおもむろに身体を反対向きにして綾と向かい合った。
ふたつの静かな視線が、重なる。
「あやさんが、いいなら」
杏は迷いなくそう答える。
いつものように、本心から、そうやって。
「そっか」
望んでいた通りの言葉に嬉しそうに笑んだ綾。
けれどその表情はたちまちくしゃりと歪み、綾は苦しそうに胸を抑える。
「ありがとう。嬉しいよ、杏」
綾はそっと杏を抱きしめる。
胸の中で吐息する生き物が、綾には愛おしくて堪らなくて。
だから。
「もう、朝8時だね」
「……ん」
ちらと横目に見た時計、示される時間は7時57分。
偶然にも健康的な起床時間になったものだと、綾は苦笑する。
それから綾は目を閉じ、そして開く。
「ねえ、杏。実はプレゼントがあるんだ」
身体を離した綾は、杏に優しく笑みを向ける。
ゆるりと頷いた杏を抱いて、綾はベッドルームへと向かった。
そうして杏を寝かせると、自分は玄関に向かい、脱ぎっぱなしのコートから目当てのものを探り出した。
戻ってきた綾を、杏はふらふらとしながらも寝台に座って待っていた。
ぱちくりと瞬くその目が、綾の手に持つ小さな箱を見やる。
「えへへ、約束してたやつ」
そう言って開く箱の中には、きらりと光る一粒のピアス。
小粒な宝石の輝く、柔らかな丸みのジュエルリーフ。
大きさは控えめだが、透き通るような杏の肌の中には異様に目立つ。
綾は杏を押し倒し、うっそりと微笑みながら見下ろした。
「私の印を、刻んであげるね」
くゆり、おへそを指先で弄ぶ。
今からここに取り返しのつかない痕をつけるのだと宣言するように、執拗に。
「いいでしょ?杏」
「……ん。ほしい、あやさん」
「そう。うふふ」
うっとりと力を抜いて身を委ねる杏に、綾は上機嫌に笑う。
一緒に持ってきた消毒綿でへそを綺麗にして、そうしてピアッサーをへそにあてがった。
付属のピアッサーは購入したピアスをセットし同時に挿入できるようになっており、それさえあれば苦もなく初めてのピアス穴を開通できる。
皮膚をつまむようにしてセッティングをしたら、じぃと杏の瞳を覗き込む。
「いくよ?杏」
「ん、きて、きてっ」
肌に触れる冷ややかな機械の感触。
今から綾の証を刻み込んでくれるそれに、杏は興奮しているようだった。
そんなところも愛おしいと、綾は目を細め、そして―――
「好きだよ」
ばちんっ。
「っ、あ、」
ぴくんっ、と弾む小さな身体。
ぎゅ、とシーツを握る手。
見開かれた杏の目が、ゆるゆると自分の腹部へと向かう。
赤く滲む液体と、その中に輝く宝石と金属の煌めき。
視線を戻せば、綾は悪戯めいた笑みを浮かべている。
「開いちゃったね、杏」
「ぁ……」
杏の口角が不器用に上がる。
震える手がそっと腹部の冷ややかな異物に触れる。
指先の濡れる感覚。
皮膚の突っぱるような、微かな痛み。
眼前に持ち上げた指先には、ぬるりとした血液がついていた。
ちろり。
それを舐りながら、杏は恍惚に身を震わせる。
視界がぼやけ、熱狂が雫となって落ちていく。
自分の血液。
傷。
綾に付けられた傷。
塞がぬようにと詰められた金属。
綾の手で与えられた肉体の欠損。
印。
「ぅ、あ、っあ、」
「喜んでもらえてよかった」
言葉を忘れ、身を震わせる少女。
それを見下ろしながら、心底から嬉しそうに綾は笑む。
頬に手を触れ、雫を舐めとるように口付ける。
胸の中に広がる、確かな充足感。
自分を好いてくれる人に、自分に全てを捧げる生き物に、取り返しのつかないことをする心地良さ。
肌を突き破る重い感触を指先に思い出し、綾は自然、慈しむように杏の頭を撫でる。
痛みを与えたことに、ほんのわずか、罪悪感はある。
けれどそれ以上に、綾は至福の心地だった。
痛みすら、だ。
嗅覚の全てを満たして、視覚の全てを奪って、聴覚の全てを尽くして、味覚の全てを浸して、触覚の全てに刻んで、その上痛覚すらも自分のもの。
生命の危険信号を、好きで上書きする背徳。
杏の感覚の全てを、綾が網羅するということ。
「杏、好きだよ」
「すきっ、あやさん、すき、」
ぎゅう、と。
切羽詰まった様子で抱きついてくる杏。
その小さな体躯は、幾度もの刺激にくたびれ果て、今やろくに力を持っていない。
「あやさん、ゃ、やっ、すきっ、すきっ」
腕を回すことすら続けられず、離れることを厭うようにいやいやと泣きじゃくる姿は幼子ですらない。
「大丈夫だよ」
安心させるように身体を寄せる。
ベッドと自分で抑えつけるように、身体を重ねる。
「全部、私があげるから」
いつの間にか綾の瞳から、慈しむような色は消えていた。
それとも、その黒く染った混沌をこそ慈愛と呼ぶのだろうか。
覗き込む杏は呼吸を忘れ、無意識のうちに口角を上げた。
―――だから永遠はないのだと。
そんな自嘲を口の端に乗せながら、まつ毛を重ねる。
「だから全部、私にちょうだい?」
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《登場人物》
『柊綾』
・支配欲と所有欲と性欲と愛欲と。そんな全部を向けてもいいのが『好き』なんですって。なんとなくお姫様って自己中心的なイメージと一緒にあることが多いかなって。僕はそう思いました。相手の全部を自分が司るという究極の依存、それをナチュラルに求めてしまうことを、彼女はあまり好ましく思っていないようですけど。
『小野寺杏』
・特別といえばこの子も特別なのかもしれない。他の面子と比べても、特に綾に対する生命的な依存度が飛び抜けている。多分きっと、綾がいなくなった時に自然と徒になりにけるのは杏だけでしょう。他もまあ、能動的にっていう可能性はありますが。かと思えば、惰弱に虚弱を和えて脆弱で味付けしたようなよわよわのよわなので、長時間綾と愛し合っているとそれはそれで消耗が激しい。難儀ですね。楽しそうなのでいいですけど。
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