078話 立ち上がる柵に遮られる通路
更新です。
AW回区切るぞと思ったら長くなってしまいました
立ち上がる柵に遮られる通路。
袋小路の十字路に閉じ込められた一行の周りで、ゆるりと立ち上がるのは種々多様なモンスターたち。
青色のゴブリンや草原にいたオオカミ、巨大な蜘蛛のモンスターにロックドットや蠢く金属など、明らかに生息地の異なっていそうなモンスターの混成グループだ。
『ブルーゴブリン』LV.12
・耐性:水冷、炎熱
・弱点:風雷、緑地
・ドロップ:なし
〜詳細〜
・青色の肌を有する小鬼のモンスター。水辺を根城にしているだけあって指の間に水かきがあり、泳ぐこともできる。主食は海藻であり、水中の温厚な生物と友好関係を築いている姿も見られる。
『カルムウルフ』LV.11
・耐性:炎熱
・弱点:なし
・ドロップ:なし
〜詳細〜
・灰色の毛並みを持つオオカミのモンスター。温厚な性質であり、戦う力を持たないモンスターなどと根城を共にしている。温厚と言ってもその戦闘力は非常に高く、根城を脅かす愚か者は容易くその鋭い牙の餌食になる。
『ジャイアントスパイダー』LV.13
・耐性:炎熱
・弱点:なし
・ドロップ:なし
〜詳細〜
・巨大な蜘蛛のモンスター。その巨体故に樹上などに巣を作ることをやめ、自分で掘った穴を巣として引きこもり地表に垂らした粘着糸に引っかかった獲物を引きずり込んで捕食する。その性質故に前足にぎざぎざとした突起のような物がいくつも生え、つかんだ獲物を逃さない。
詳細文の内容とこの場所が驚くほどマッチしていないモンスターたち。
しかしながらそんなことは意に介した様子なく、モンスターたちはユアたちを見つけると一斉に襲い掛かった。
「『拡散』―『呪波』」
魔物たちに先がけ放つリコットの魔法。広がった闇が通路を満たす。
困惑の声を聞きつけ飛翔する魔法と魔力弾、そして矢とついでにスターの攻撃。
困惑は悲鳴に、その合間を縫うように駆けるきらりんもおおよその位置にあたりをつけて攻撃を仕掛けていく。
「きらりんさん、右足元です」
「ほいっす」
視界がないのは当然視線すら向けることのないなっち(「・ω・)「の指示にメイスを振るったきらりんの手に硬質な手ごたえ。続けざまに重ねる二撃目でそれを弾き飛ばすと、空中を飛翔する魔力弾が追い打ちに叩きつけられる。
やがて闇が晴れた頃には死に体のゴブリンとヒビに満ちたロックドットが残っていたが、それも追撃に撃たれ光に弾ける。
モンスターが全滅すると通路を塞いでいた柵はすすすと埋まり、何事もなかったかのように道が開けた。
それを見やってから、リコットはきらりんへと視線を向ける。
向けられたきらりんはぎょっとして首を振り、すがるようにユアに視線をやった。
「ちょ、や、これはしゃーないっすよね!?」
「あはは。別にリコットも責めてる訳じゃないよ」
「ほんとっす?」
そもそも罠と知りつつ喜び勇んで突撃したきらりんもろともに閉じ込められた一行である。
てっきりそれを責められているのかときらりんは思っていた。
ユアに言われてリコットに視線をむけるきらりんだが、きらりんからはリコットの感情はうかがい知れない。むしろ無表情というのはそれだけで不満げに見えてくるくらいだ。
「……や、まあ、ちょっぴりうかつだったとは思うっすけど」
結局そう言って頬をかくきらりんにユアは笑み、それからリコットに視線を向ける。
ユアにたしなめられたリコットはふぅ、とひとつ吐息をこぼし、それからぽつりと呟く。
「どっちが、いい」
「はいっす?」
「光と、闇」
じぃ、と見つめられてたじろぐきらりん。
ユアは苦笑し、口を挟んだ。
「ああして囲まれたときは、フラッシュで目くらましするかさっきみたいに煙幕を張るかどっちがいい?って聞いてるんだよ」
「あ、ああー!そゆことっすか!」
なるほど、と納得するきらりん。
先ほどの戦いがあそこまで一方的だったのは間違いなく煙幕により敵を攪乱できたことも大きい。しかしながら視界のない中での戦闘はそれはそれで困難なところもあり、次は閃光による一時的な目くらましの方がいいか、ということをリコットは訪ねたいらしかった。
納得し、けれどふと、何故自分に聞くのかと疑問になるきらりん。
その理由に察しがついた瞬間、きらりんは無駄に胸を張って見せた。
「私はぜんぜんなんでも合わせるっすよ!ええ!光でも闇でもなんでもこいっす!」
「そう」
自信満々に、挑戦的に告げるきらりんにリコットはあっさりうなずく。
拍子抜けするように瞬くきらりんにユアはクスクスと笑った。
なんとなく釈然としないものを抱え頬を染めながら、きらりんはなっち(「・ω・)「へと視線を向ける。
リコットからみて特に気を遣わなくても問題ないと判定されるなっち(「・ω・)「への対抗心をむき出しにしてみても返ってくるのは一瞥程度。
まったく相手にされていない。
今に見てろっす、とこれまでのゲーム経験から視界の悪い中での戦い方を思い出すきらりんなのだった。
けれどそれから少しして、なっち(「・ω・)「が気が付く。
「―――ユア様」
「うん。来ちゃったみたいだね」
なっち(「・ω・)「の警告を受け、ユアは周囲を見回す。
リーンにむぎゅうとされながら見回す視界の至る所から湧き出す光の粒子。
大地が揺れ、振動に欠ける壁材が空に溶けていく。
探索中二度目の構造変化。
一度も体験すれば驚くほどでもないと、ユアはリーンに身を任せる。
「けっこうスパン短いね、やっぱり」
「探索も一苦労っすねー」
「うぅ~、おちつかなーい!」
「そんなに心配しなくても離れたりしないと思うよ?」
「それフラグって言うんっすよ先輩」
「……」
「あー、すんませんっす」
ちょっとした軽口をリコットに睨み付けられすごすごと身体を縮めるきらりん。
そうしながらも一応ということで身を寄せ合う一行は、やがて溢れる光に包まれ崩壊していく建物に飲まれた。
足下のおぼつかないような感覚が消え。
肌に触れる、薄気味悪いじめっとした空気。
なんとなく味を感じる気がする、カビっぽい不快な匂い。
ひび割れ欠けた石壁の隙間から生える薄ぼんやりと光るコケや木の根が、遺跡とはまた違った遺物感を思わせる。
「地下のようですね」
「それはまた分かりやすいね」
「その心はっす?」
「気圧と気温からの推察です」
「相変わらずの耳っすね……とするとここは地下迷宮っすか」
「ダンジョンだー!」
天に延びる塔、地表に栄えた遺跡ときて地下を巡る迷宮。
なるほどユアの言う通り分かりやすいラインナップだった。
どうやら塔と同じく基本は通路を進んでいくタイプらしく、一行は一本の通路の中間にいるらしかった。
とりあえず探索を再開してみると、通路を進んでいった先で一行は開けた空間に遭遇する。
特に何があるでもない、四角い部屋。
その割には駆け巡れる程度に広く、どう考えても何かしらが待ち受けているようにしか見えない。
見通してみれば奥には他の通路が伸びており、もしもそこに向かいたいのならばどうしても部屋を通過しなければいけない様子だった。
その部屋を入り口あたりから見分していたなっち(「・ω・)「が、やがてユアを振り向く。
「特に異常は確認できません。『観察眼』にも反応はないようです」
「ことごとくばくはつしてしまえばいいんですの♪」
「それは最終手段ね。一応警戒していこうか」
ゾフィをなでなでしながらユアが言えば、今から構造変化するのかというくらい寄り添ってくる一行。
警戒がイコールでユアを守る(ついでに密着する)ことにつながっているのはもはや言うまでもないことだった。
そうして一行が部屋に足を踏み入れた瞬間、その部屋の中には数匹のモンスターがいた。
ぼろきれをまとい木の棍棒を持つ二足歩行の豚、ちょっぴり上等な装備の黒いゴブリン、地上でぴちぴち跳ねるトゲだらけの魚、巨大な蠢く水滴に戦士の形をした石像。
それらのモンスターたちが、唐突に現れた。
いや、現れたというよりは表れたとでも表現したくなるような、それは出現だった。
まるで視界にかかっていたフィルターがなくなったように、そこにいたことにこの瞬間気が付いたように、モンスターは表れたのだ。
そしてモンスターたちも同じようにユアたちに気が付き、その意識が一行へと向けられる。
「『強化』―『閃光』」
「ぷぎぃ!?」
「ぎゃあ!」
リコットの放った閃光に、豚とゴブリンが悲鳴を上げる。
「生ものは任せるっすー!」
それと同時、目を閉じ閃光を避けながら駆け出していたきらりんが長剣とメイスを手に豚とゴブリンを目掛け突貫する。
なっち(「・ω・)「の矢がその援護のために放たれる中、リコットは右手を照準に魔力弾で石像を滅多打ちにしながら杖先を水滴に向け魔法を放つ。
一応リーンから降りたユアの向ける『観察眼』が、現れたモンスターたちの正体を看破していく。
『プアーオーク』LV.16
・耐性:水冷、風雷
・弱点:炎熱
・ドロップ:なし
〜詳細〜
・強靭な肉体を有する豚のモンスター。オーク種の中でも地位が低いためまともな装備もなく、また栄養不足のため比較的小柄。しかしながらその空腹感が凶暴性にもつながっており、戦う術のない者たちからすれば悪夢のような存在。
『ブラックゴブリン』LV.15
・耐性:なし
・弱点:なし
・ドロップ:なし
~詳細~
・黒い肌を持つ小鬼のモンスター。ゴブリン種の中でも砂漠などの過酷な環境に生息していることが多く、強靭な肉体を持つ。しかしながらその狡猾さは変わることがなくとても厄介。
『ニードルフィッシュ』LV.16
・耐性:なし
・弱点:風雷
・ドロップ:なし
〜詳細〜
・針のような鱗を持つ魚のモンスター。進行方向を向いた針のように鋭利な鱗によって泳いでいるだけで獲物を確保できるという。しかしその分水の抵抗を受けやすいらしく泳ぐ速度は遅いため、逃げ切るのは容易。
『生ける水球』LV.15
・耐性:物理、炎熱、水冷
・弱点:風雷、緑地
・ドロップ:なし
〜詳細〜
・意思を持った水のモンスター。名前の通り球体の状態で水辺などをさまよっており、触れたものを水圧で押しつぶす。五感に相当するものを有しておらず、緩やかながらもまったく予想もつかない軌道で動き回るため巻き込まれる事故が後を絶たない。
『戦士像』LV.16
・耐性:魔法
・弱点:打
・ドロップ:なし
〜詳細〜
・施設などの防衛のために作られた魔導人形。優秀な戦士達の動きを解析してインプットされているが、量産型のためボディの質が低くその動きを十全に発揮することはできない。
相変わらずちぐはぐな混成のモンスターたち。
それもレベルはユアたちに迫るほど高く、やっかいな耐性持ちも目立つ。
ユアは即座に胸に抱えていた『白銀の白百合』を突き立てた。
「一応警戒していこうか―――『領域構築』―『決戦場』」
足下に広がる円形の領域が紅いスパークをほとばしらせる。
「♪」
「あー、ゾフィはここは我慢かな。敵の強さも見てみたいし」
「わかりましたの♪」
むらっときたらしいゾフィをなでなだめるユアの視線の先で、先駆するきらりんの戦いはすでに始まっている。
「寝ぼけてんじゃねーぇっす!」
「ぐぎぇっ」
目を押さえ悶える黒ゴブリン、その首元に長剣の切っ先を突き込む。
長剣は黒ゴブリンの強靱な肌を突き破るまでに至らずもその喉を圧しつぶし、はき出すような悲鳴をあげてたたらを踏むその顔面をメイスでぶん殴る。
「ぐ、ぐがぁ!」
「おぅ、けっこかてぇっすね!」
首で受け止めたきらりんのメイスを吠えながらはじき飛ばす黒ゴブリンに、きらりんは歓声を上げながらくるりと回って衝撃を殺す。
その耳元を通過する風切り音。
「ぎゃぁああ!?」
高速で飛翔する二矢が、咆吼する黒ゴブリンの見開かれた目を寸分違わずぶち抜いた。
「さすがっすね!」
絶叫する黒ゴブリンにひゅうと口笛を吹きながらメイスをインベントリにしまったきらりんは、半身になった状態で右手に持った長剣の切っ先を黒ゴブリンに向け引き寄せるように胸元に構える。
ほんの一息の間に狙い澄まし、弾かれるように飛び出すまま悶える黒ゴブリンの首元を狙いフェンシングのように長剣を突き出す。更に踏み込みの右足を残すままに左膝を柄頭にたたき込んだ。
リアルでやれば膝蓋骨が粉砕しそうな無理のある一撃ではあるが、強化されたアバターと遊びを持たせた物理演算によって保護された膝は強烈なインパクトを余すことなく長剣に伝え黒ゴブリンの喉を突き破った。
はじき飛ばされた黒ゴブリンを追撃するなっち(「・ω・)「の矢を尻目に、物のついでくらいの気軽さですでに眼球を射貫かれ済みのオークへと視線を向けるきらりん。
「作業ゲーの感覚っす!」
などといいながらもそれはそれで楽しげに、遮二無二豪腕を振り回すだけのオークを処理に向かうきらりん。
喉を突き破り長剣の刺さったままの黒ゴブリンは放置しておいてもなっち(「・ω・)「が仕留めてくれるだろうと放置で、さあどう処理してくれようかと両手に長剣を構えてどう猛な笑みを浮かべる。
一方のウォーターボールと戦士像。
弾けはするものの効いているのかいまいち判然としないウォーターボールに強化光弾を放ちながら魔力弾で戦士像を滅多打ちにするリコットではあるものの、流石にこのレベル帯のモンスターはそう易々と抑えられるものではないらしく、戦士像は魔力弾の衝撃をはじき返すように駆けだした。
「『付与』―『魔力保護』―――『やっちゃって』」
「おうさー!」
リコット、なっち(「・ω・)「の順に『魔力保護』を付与したユアから最後に付与されたリーンが、大剣を引きずり疾駆する。
「『強撃』いいいいい!」
切っ先でこすり石壁の破片を散らしながら戦士像に接近したリーンは、それ以外の選択肢などそもあり得ないとばかりの勢いでいつものように投げ飛ばすように大剣を振るう。
それに対し戦士像は片腕のバックラーを向け、大きく身体を沈ませることで地面を滑りながらも受け止めて見せる。
「おいしょお!」
更に反撃と長剣が振るわれると同時、リーンは地面を踏みしめ身を投げ出すようにぶちかます。
さすがの質量差もありぶちかましを受け止められたリーンは、長剣の切っ先は当たらずともその石の腕に殴られながら大剣を手放し、戦士像に抱きついた。
「いっくぞぉらぁあああああ!!!!!」
奮起の声と共に、リーンは全力で踏ん張り戦士像を持ち上げる。
もがく戦士像を逃すものかと更に腕に力を込めたリーンは、そしてぎょろりと視線を巡らせ狙いをつけるともろともに倒れ込むように戦士像を投げ飛ばす。
その先には、最初の時点からぴちぴちするばかりで何故こんなところに出現してしまったのかまったく理解できない魚類。
「ぐはぁっ」
等身大の石像でとげとげしい鱗を砕きながらニードルフィッシュをたたきつぶす、その勢いのまま地面にたたきつけられたリーンが「がくっ」とわざとらしく力尽きる。
そしてちらちら視線を向けてくるあたりどうやらユアに『治癒』されたいらしいが、ユアの『治癒』は直接接触がなければ届かないのだった。
仕方なく諦めて立ち上がったリーンは、地面に落ちている大剣を拾い上げ肩に担いだ。
すでに光に散ったニードルフィッシュのおかげで衝撃が緩和され腕が折れただけにとどまる戦士像が立ち上がろうともがくのを見下ろし、そして大きく上体を反らせる。
「ちぇぇりおぉぉぉおおおおおおおおおお―――!!!!」
体重と遠心力を乗せた存分に乗せた振り下ろしが戦士像を打ち砕き―――
「お゛っ!?」
ついでに大剣の刃が大きく砕けた。
石像、つまり人の大きさもある岩を力任せにがつんがつんとぶん殴っていれば、その損耗が並々でないのは当然のことだった。
「お、おぉまいが……」
大剣の破損も二度目となれば多少ショックも小さいリーン。
涙目で見つめてくるおろおろした様子にユアは苦笑し、手招きして戻ってくるように伝えてやる。
そのとたんリーンは大剣をしまってユアの元へと駆け戻り、むきゅうと抱きついてはぐいぐい頭を押しつけめいっぱい甘える。
「ゆぅうぁあああ!」
「うんうん。今度へπトスさんに丈夫な大剣作って貰おうね」
「うゅ……私のぜんりょくに耐えれるやつがほしい」
「強大な力をもてあます魔王みたいなこと言ってる……まいいや。はい『治癒』」
「はわぁ」
めそめそしていたのにユアに『治癒』してもらったらすぐに機嫌をよくするリーン。
そんなところも愛らしいとなでなでなで。
している間にも戦闘は佳境を迎えている。
リコットがさも当然のようにユアからの魔力補給を受けながらせっせと強化光弾を打ち込んでいたウォーターボールは、結局その恐るべき水圧を発揮することなく蒸発するように光にはじけていった。
「あ、おめでとリコット」
「ん」
黒ゴブリンは喉から長剣を生やしたままなっち(「・ω・)「に針山にされ力尽き、残るオークはてきぱきと四肢を切り裂いたきらりんによって地面をじたばた暴れるだけの哀れを誘う生き物になっている。
「でかいのは転がしとくに限るっすね!」
などと物騒なことを言うきらりんが執拗に頭を蹴りとばし、手の空いたリコットが援護射撃といった様子で魔法を放つ。
「『強化』―『闇槍』」
LV.3陣魔法『闇槍』。
闇が集い魔方陣の正面に構築された槍が、渦を巻くようにぎゅるぎゅると回転しながら一直線にオークを打ち抜きその肉を散らす。
さんざん使ってきた割にようやくついさっきウォーターボールを殴っている間にレベルアップした陣魔法の新魔法である。
比較的射程は短い代わりに高威力を狙えるらしい。
「わお。いいね、新魔法」
「ん」
これまでメインに使ってきた『~弾』に比べ明らかに上がった破壊力にユアが嬉しそうに笑み、リコットもそんなユアが嬉しくて満足げにうなずく。
それからしばらくきらりんのサンドバック兼リコットの実験台にされたプアーなオークが光に消え、一行は一息つく。
「お疲れ様、みんな」
「ん」
「もったいなきお言葉」
「おういえー」
「おつっす。やーびっくりしたっすね」
「ねー」
ともすれば『観察眼』よりよほど鋭敏ななっち(「・ω・)「の感覚を以てしても把握できなかったモンスターたちの存在。
あれはやはり罠の類かとなっち(「・ω・)「に視線を向ければ、頭を下げて謝罪される。
「申し訳ありません。現在の情報からは判別しかねます」
「はいはいっす。ローグライク的なことだと思うんっすよ」
「ローグライク?」
ローグライクと言えば、ターン制ダンジョンものの代名詞ともなる作品群である。
通路と小部屋からなるダンジョンを探索するという点で確かに今の構造と似通うところはあるが、きらりんの言いたいのはそういうことではなさそうだった。
「三人称視点でも部屋に入らないと中の様子がうかがえないってローグライク結構あるっすけど、それをVRでやってる感じっす?もしかすると通路の一寸先も実は闇かもしれないっすよ」
「システム的に仕方ないってことだね、じゃあ。警戒していくしかないかな……ん?」
などといった端から、奥の通路からひょっこりと現れるもこもこした白色の猿のようなモンスター。
なっち(「・ω・)「が視線を鋭く光らせ、リコットが速やかに杖先を向ける。
『スノーエイプ』LV.15
・耐性:水冷、炎熱
・弱点:なし
・ドロップ:なし
~詳細~
・雪山を根城にする猿のモンスター。白い毛皮で雪の中に紛れ、群で狩りを行う。豊富に空気を含んだ厚い毛皮は温度を遮断し、防寒具の素材としても一級品。
「『強化』―『聖槍』」
光が弾けるように出現するのは聖なる槍。
らせん軌道で飛翔したそれは、寸分違わずスノーエイプの眉間を打ち抜くとその身体を『停止』させる。
闇槍と同じくLV.3陣魔法であり、威力は見劣りする代わりに長射程と『停止』(一時的に動きを止める)の状態異常を有する汎用性に優れた魔法だ。
見事に一発で『停止』したスノーエイプは、リコットの魔法と魔力弾に打たれなっち(「・ω・)「の矢に射貫かれろくに見せ場もなく消滅する。
「やはり私では感知できないようです」
「不意打ち注意だね」
どことなく納得のいっていない様子のなっち(「・ω・)「に苦笑するユア。
なにはともあれある程度この地下迷宮の性質が分かったところでいざ探索……と行きたいところだったが、残念ながら今回の探索はここまでということにする一行。
「時間もだし、リーンの剣も壊れちゃったしねえ」
「まあキリいいと言えばいいっすから……ちなみに寝るまでチャットとかはできるっす?」
「むむ……しゃーないなー」
じ、とユアだけを見据えて問いかけるきらりんに、なぜかリーンが答える。
ユアはにこにこ笑みながらリーンをなでなでし、うなずいた。
「じゃあ今日は音声つなぎながらお風呂とか入ろっかなぁ」
「おふぉ!?」
「ん」
「なかまはずれはいやですの♡」
「おふ、おふ、えぁ、ちょ、ちょっと先に身だしなみだけ整えといた方がいいっす!?」
「あはは。別に、見せたいならカメラもつけていいけど」
「またの機会にしとくっす!」
という訳で。
さっさとAWからログアウトした一行は、みんなでわいわいとお話をしながら床につくのだった。
■
「―――ねえ、鈴」
「……」
「頑張るのはいいけど、さ」
「……」
「あんまり一人で、遠くにはいかないでね」
「……んゅ……」
「ふふ。……おやすみ」
「…………ゃしゅ…み……、……」
■
《登場人物》
『柊綾』
・ちなみに二回目のお風呂らしいですよ。完全に輝里を可愛がるためだけの提案ですの。頑張る鈴は応援したいけど……みたいな複雑な何かがあるのかもしれないしないかもしれない。多分ない。話はもっとシンプルで、それはいつだって変わることがない。
『柳瀬鈴』
・ゲームの後の時間を許すって、彼女にとっては多分本来あり得ない以前に考えることすらないことなんですけどね。他の人とのデートの準備とかを除くおうち時間は全て鈴のものなので。頑張ってるみたいですよ。なににつながるでも、きっとないですけど。
『島田輝里』
・意識的に訊いてると、身体を洗う音とかって結構聞こえるものですよね。やかましい鈴が一緒にお風呂入っててもなお。衣擦れとかもだし、ベッドのこう沈む音とか。嫉妬心は通話切った後に発生するくらいの集中力でした。お風呂妄想がはかどりますね。
『小野寺杏』
・自分以外の人間が混ざった綾との通話って新鮮で興味深いとちょっぴり思ったり。むしろどちらかというと、鈴の心境の方が気になる。一種のリスペクトがあったりもしますし。どちらかといえば、『なにやってるんだろうこの愚か者』みたいな方向ではあるんですけれど。
『沢口ソフィア』
・狭い部屋、密集するモンスター……つまりそういうことですね。はい。ユアの生活音ASMR(?)という新規コンテンツを開拓したことによりストーカーレベルの向上が見込まれますがその点に関して私からは特にありません。ええ。
『如月那月』
・自尊心をずたずたにされても涼やかな表情でいられるタイプ。確かな実力に裏打ちされたプライドの高さがありそう。システムとか言うやつのせいであれを見落とすとか許せねえよなあおい。でも今のところ打開策ないのでぐぬぬ、みたいな。
ご意見ご感想頂けるとありがたいです。




