077話 「おっ!宝箱っす!」
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「おっ!宝箱っす!」
なっち(「・ω・)「の導きで発見した箱。
建物の片隅にぽつねんと鎮座するそれは、金属製の宝箱だった。
『鉄の宝箱』
・鉄製の宝箱。少しだけ価値のあるアイテムが入っている。
これまでのものよりも明らかにグレードの高いそれに、きらりんは瞳を輝かせ歓声を上げた。
ユアがにっこりと笑みながらそれがミミックでないことを確認すると、きらりんは喜び勇んでそれを開こうとし、
「お待ちを」
「っとっす」
「わっ」
「『強化』―『光弾』」
突如口を開いた宝箱を咄嗟に蹴り飛ばすようにして距離を取るきらりんの脇をぬって飛翔する強化光弾。
リーンによって避難させられながら慌てて『観察眼』を向けるユアの視界に、その宝箱の正体が明かされる。
『ミミック』LV.20
・耐性:物理
・弱点:風雷、炎熱
・ドロップ:なし
~詳細~
なにかに擬態することで形を持つモンスター。擬態する前の姿は未だかつて確認されたことがなく、果たしてミミックと呼ばれるモンスターが本当に同じものなのかも定かではない。
宝箱の中に覗いた宝石に目を輝かせるきらりんをかすめるように飛来するリコットの光弾とスターの攻撃に撃たれながら、ミミックはその身を震わせ飛び掛かった。
「甘々っす!」
そのころにはすでに両手にメイスを構え臨戦態勢となっていたきらりんが、中身を晒しながら飛び込んでくるミミックを迎え撃つ。
ガギッ!
さながら投球するかのようなフォームで振るったメイスがミミックと耳障りな音を立て衝突。
勢いを殺されほんの一瞬制止するミミック、吹き飛ぶように跳ね返るメイスの勢いに従い大きく腕を回転させたきらりんの一撃が、落下しようとするミミックを下から打ち付ける。
ギンッ!と弾んだミミックが、その身をぐるりと回転させわずかに弾き飛ばされる。
「『拡散』―『光弾』」
す、ときらりんの脇をぬって前に出たリコットの魔法がミミックを撃ち飛ばし、壁に衝突する瞬間叩き込まれたメイスがミミックを斜め下向きに壁に叩きつける。
ゴッッ!
砕けひび割れる壁が示す衝撃。
「『強撃』っす!」
身を翻したきらりんは続けざまに両手のメイスを同時に振り落とし、ミミックを床に叩きつける。
「おぉ!」
即座に跳ね上がりメイスを弾き飛ばすミミックにきらりんは楽し気な笑みを浮かべながら一歩後退、その一歩の反動を惜しげもなく乗せた一撃で再度ミミックを壁に叩きつける。
追い打ちに叩き込まれる光弾に撃たれながら落下するミミックに、
「『きょぉおおおおおげきぃ』!」
「はいっすー」
天井に引っかからないようにと大剣を背負い投げの姿勢で振るうリーンの一撃が、すれ違うきらりんの髪を揺らし赤い残光を刻みながら叩きつけられる。
「くぉお、おお!?」
リーンの腕をじーんとさせる程に強力な一撃はしかしまだとどめとは至らず、ミミックはギャリッと床を擦って横スライドし大剣から逃れると、箱の角でコマのように回転しはじめる。
「回転力なら負けねーっすよ!」
床に傷をつけながら不規則な軌道で機敏に蛇行するミミックの体当たりに、きらりんはメイスから手を離すとその場で回転する。ちょうど半周で空中のメイスを握ったきらりんは、地面を踏みしめ停止しながらメイスにかかる遠心力を存分にミミックにたたきつけた。
「やるっすねー!」
ギガッ!と音を立てはじき合うきらりんとミミック。
喜々として体勢を整えるきらりんと裏腹に回転力をそがれたミミックはそのまま体勢を崩すと胴体が接地し倒れた。
「けっきょくシンメトリーなんっすよやっぱ」
どうやらなにかこだわりがあるらしいきらりんは、回転の名残で滑るミミックを見下ろしながら満足げにうなずく。
「もいっちょー!『強撃』!!!」
その隙に、しびれから回復したきらりんはまた大剣を振り下ろす。
その一撃がとどめとなったようで、ミミックはそのまま光に弾けた。
「お疲れみんな。ごめんね、油断してた」
「問題ない」
「仕方ないっすよ。観察眼最強説とはいかなかったっすね」
「そこまで過信しない方がいいかもね」
「おたからー!」
ふむふむと頷くユアへと、ミミックの落としていった黒色の宝石を自慢げに掲げるリーン。
宝石に透ける黒色の光がリーンの顔を照らし、なにかホラーっぽい。
それを恭しく受けとったユアが『観察眼』を向けてみる。
『ダークライト』
・夜空から落ちてきたとされる闇色の宝石。光を闇色に染める不思議な性質からその名が付いた。その性質ゆえに照明などの装飾として使われることが多いポピュラーな宝石。
「すごい、ちゃんとお宝だ」
「見事なものですね」
「きれ―っす」
「わるくありませんの♪」
スターに透かすダークライトを脇から覗き込むきらりんとゾフィ。下から覗き込むリコットや言葉だけ感心している風のなっち(「・ω・)「はあまり興味なさげで、むしろ楽し気なユアに向く視線の方が主である。
言葉ぶりとは裏腹になかなか気に入ったらしいゾフィにユアは笑みを浮かべ、そのきらめきを近づかせてやる。
しばし夜闇に魅入り、冒険再開。
「―――ユア様」
「なあに?」
建物を渡り継ぐように歩いていると、不意になっち(「・ω・)「が声を上げる。
ユアの言葉に言葉で応えずなっち(「・ω・)「はひらりと前に出ると、しばらく先でしゃがみ込む。
「なにか……スイッチのようなものがございますね」
「スイッチ?」
「トラップっすね!?」
喜び勇んで飛び出ては喜々としてスイッチを踏もうとするきらりんの足を、なっち(「・ω・)「が当然のように止める。
「きらりん様。不要なリスクは避けるべきかと」
「やや、ゲーマーの世界には漢識別という由緒正しい概念があってっすね」
「まあ、そこまで大変なのでもないだろうし大丈夫じゃない?」
「御意に」
「っとぉ」
ぺしっと振り払うようにきらりんの足を退かしたなっち(「・ω・)「はそのまましずしずとユアの元に戻り、大袈裟にくるりと回ったきらりんはその足でスイッチを押下する。
かちっ。
じゃきん!
「おぉっとお!?」
足元から素早く生えてきた金属の槍を回避するきらりん。
目前を通過する槍に命を脅かされながらもその表情は極めて楽し気で、するする戻って行く槍を尻目に嬉しそうに戻ってくる。
「やっぱダンジョンにはトラップが付き物っすよね!」
「なかなか殺意高そうだね」
「……やきとり食べたいなー」
「今のでそれ連想するんっす?!」
反射的に我が身を抱いて目を見開くきらりん。
口をむぐむぐさせるリーンはそんなこと気にせずにじぃとユアを見て、今度久しぶりに居酒屋にでも行こうと約束を取り付ける。
「ひとまずなっち(「・ω・)「は罠を優先しよっか。マップの方は、どのみち行くあてないしね」
「かしこまりました。ユア様の前のあらゆる危険を暴いてみせましょう」
「よろしく」
広大な上に目的地もよく分からないマップの把握よりも、分かりやすく危ない罠の方を優先する形で警戒を張り巡らせるなっち(「・ω・)「。
そんな都合のいいレーダーがあるものかとやや疑ってみるきらりんではあるものの、その直後になっち(「・ω・)「が視界内にいくつかの罠を検知したのでもうなにも言うまいと気にしないことにする。
そんなことより、と視線を向ければ、ユアは心得たとばかりに頷く。
「もちろんいいよ。大岩とか転がってきたら一緒に逃げようね」
「それは楽しそうっすね!」
にっこりと笑み、きらりんはなっち(「・ω・)「の示す罠にあえて引っかかりに行く。
一応、罠の種類を把握することで対策を立てやすくするというパーティの利益を建前とできなくはないものの、楽しいという気持ちを微塵も隠そうとしていなかった。
「ほいっ、」
足元のスイッチを駆け抜け、左右の建物から射出された目に見えないほど細い針を掻い潜る。
さらにインベントリから取り出した石ころを無造作に投げつけ進行方向左側の建物の壁に設置されたスイッチを押下、その瞬間吹き出した明らかに毒々しい赤黒いガスを壁を蹴って飛び越える。
着地、ゴロゴロと転がり勢いを殺して立ち上がるその一歩で踏み抜いたスイッチによりパカッと開く足元を飛び退いて、ちょうど突き当たりの壁にタッチ。
そこにトラップはなかったもののちょうどシャドウストーカーたちが待ち受けている。
しかしきらりんは慌てるでもなくどこか挑戦的に振り返り、炸裂する閃光に目を焼かれる。
きらりんが悶えている間に光弾を連射したリコットによりシャドウストーカーは全滅し、一行はしゃがみこむきらりんの元に赴く。
しばらく唸っていたきらりんは目をしぱしぱしながら立ち上がり苦笑を浮かべた。
「やー、ちょいとはしゃぎすぎたっす」
「楽しかったならよかった」
「楽しかったっす!」
ぴょんこと飛び跳ねるきらりんをなでなで。
罠というなにやら厄介なギミックが増えはしたものの、一行はまだまだ楽しむ余裕があるのだった。
■
《登場人物》
『柊綾』
・罠といえば大岩ゴロゴロとか思い描く古典派。興味がないとも言う。
『柳瀬鈴』
・ハニートラップとか?多分一番悪質なやつにすでに引っかかってると思います。
『島田輝里』
・罠とあればとりあえず踏みたい。即死トラップでもけらけら笑うタイプ。
『小野寺杏』
・罠って言うとブラフとかのイメージ。見抜くのも仕掛けるのも得手としているようですよ。
『沢口ソフィア』
・地雷とかかな。うん。
『如月那月』
・戦術とかそういうの。あと地雷。
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