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074話 塔の内部は、なるほど迷宮と呼ぶにふさわしいほどに入り組んでいる

更新です。

 塔の内部は、なるほど迷宮と呼ぶにふさわしいほどに入り組んでいる。

 通路は見通せる方が珍しく、分岐は多岐に及んでいる。

 さらになっち(「・ω・)「に曰く、ある一定以上離れた場所の構造をまったく把握できないという。

 まるでその先の空間が存在していないかのように不自然なまでに反響が喪失し、近づくにつれてその境界が移動するという。


 おかげで南の山で見せたようなマッピング能力は発揮しにくく、一行は、特に目的地があるでもなく、なんとなく内側に行くようにと目指して進行している。


 こつこつ、がしゃがしゃ、足音と、めらめら、炎の音。

 妙に静かな通路、言葉をなくせばあるのはそれだけで、なにかおどろおどろしい気配がじわりじわりと足元に淀んでいる気がする。


 それが現れたのは、突然だった。


 待ち受けていたのでもなく、襲い掛かってきたのでもなく、それは唐突に出現した。

 松明の灯りに揺れる影、最後列を歩くなっち(「・ω・)「の影が、まるで風に吹かれるように踊る。


「ユア様」

「んー、わ、なにそれ」


『シャドウストーカー』LV.5 

・耐性:闇呪、物理

・弱点:聖光

・ドロップ:影魔の残滓

〜詳細〜

実体を持たない影のモンスター。実体を持たないなんらかのモンスターが影と同化するとも、影自体がシャドウストーカーになるのだとも言われている。実体がないゆえに物理的な影響はほとんど受けないが、影なので強い光に照らされると存在できない。


「なかなか厄介っぽいね」

「問題ない」


 くるり、手の中で杖を躍らせたリコットが影を見上げる。

 たなびいた影は音もなくその背を伸ばし、壁を這い天井に至り、そうしてユアたちを見下ろし―――


「目を閉じて―――『閃光(フラッシュ)』」

「めぎゃあぁあ!?」


 リコットの放つ閃光が通路を白に満たした。


 レベル2陣魔法『閃光(フラッシュ)』。

 名の通りの閃光を放つだけの魔法であり、『気絶』といったバッドステータスを付与したり純粋な目くらましとしても使用できる。


 ともすれば失明しかねないほどの光は、目を閉じ損ねたリーンの視界に少なくないダメージを残し消えた。


 ユアたちが目を開けば、シャドウストーカーはその身をひどく乱し、不安定そうにノイズを走らせている。

 

「一撃、とはいかないっぽいね、さすがに」

「ん……『拡散(スプレッド)』―『光弾(ライトバレット)』」


 とはいえまともに行動できるような様子でもなく、シャドウストーカーは光弾に打ちのめされあっさりと消失した。


 周囲を警戒して他にモンスターがいないことを確認すると、リコットはリコットはドロップアイテムである『影魔の残滓』を出現させてユアに捧げるようにした。


 それは真っ黒な粉で、きらりんも興味深げに覗き込んでくる。


「粉、だね?」

「それ減ってないっす?」

「ん」


 きらりんが言う通りに、その粉はリコットがてのひらに出しているだけで溶けるように減っていってしまっている。

 そのためユアが観察眼を向けたところでさっさとインベントリにしまって、そろって詳細のウィンドウを覗きこむ。


『影魔の残滓』

・シャドウストーカーの残骸。影が物質化したものであると言われ、光に照らされると溶けてなくなってしまう。影に溶けると影を色濃くする効果があり、暗殺者が装束に振りかけることで夜に紛れるために使っていたとされる。


 どうやら減っていたのは光に照らされたからということらしい。

 なんともファンタジックな素材できらりんがわくわくしたりはするものの、今の薄暗さでも溶けるとなるとなんとも使い勝手は難しそうだった。

とはいえ新しい素材であるからヘπトスに渡してみようと、きちんと保管しておくことにする。


「とりあえず、出てきたらさっきみたいにリコットにやってもらおっか」

「ん。任せて」

「物理殺しっすからねー」

「むぐぅ」

「まあまあ。次はちゃんと注意するから」


 閃光をもろに受けたリーンが唸れば、ユアは苦笑してその頬をなでる。

 リーンはむふーと満面の笑みでそれを満喫し、「こんどはばっちしめーとじるねっ!」と気合十分に鼻息を吐く。


 とはいえ、迷宮のモンスターはシャドウストーカーだけではない。


「……?」

「あの灯りが怪しいかと」

「ああ、やっぱり」


 道を曲がってくるなりユアとなっち(「・ω・)「がほぼ同時に気が付き、ふたりだけでなにやら納得する。

 はてなと視線を向けるリーンやきらりんとユアの視線の先を追うリコットに、ユアはむむむと言葉を探しながら見つけたものを説明する。


「んと、あそこの、松明の光?多分敵なんだよね」

「ん。捉えた」

「……すみません、どこっす?分かれ道の奥のやつっす?」

「そうそう」

「むむむー」


 ぎゅぅー、と目を凝らすリーンではあるが、ユアたちの捉えた光は、周囲よりもほんの少しだけ輪郭がはっきりしていてやや明るく見える程度の差異しかないもので、距離があるとそうと分かっていても見失いそうになるような相手だ。


 観察眼を向けてみれば、その正体が明かされる。


『グリムキーパー』LV.5 

・耐性:聖光、物理

・弱点:闇呪

・ドロップ:光魔の残滓

〜詳細〜

実体を持たない光のモンスター。実体を持たないなんらかのモンスターが光と同化するとも、光自体がグリムキーパーになるのだとも言われている。実体がないゆえに物理的な影響はほとんど受けないが、光なので光源がなければ存在できない。


「んおー、わからん」


 詳細が分かったところで見つかるでもなし、お手上げらしいリーンにユアは笑み、一方でリコットがさっそく攻撃を仕掛ける。


「『強力(フォース)』―『呪弾(カースバレット)

強力(フォース)』―『呪弾(カースバレット)』」


 放たれた呪弾が光を打つ。

 その途端光は揺らぎ、揺らぎ、わずかに目と口のような形の輝きを見せたと思うと、弾けるように光の粒子が立ち上る。


「おおー!いたー!」

「まったく待ち伏せがいのないパーティっすよね」

「リコットもなっち(「・ω・)「もそろってるからねー」


 あんまりあっさりと処理された新モンスターに苦笑するきらりんに、ユアもまた苦笑する。

 物理的に隠れている相手であれば、よほどのことがなければ不意打ちを狙撃し返せてしまうのが現在のユアたちだった。とくに今いる迷宮のような構造が単純な場所であればなおのこと、モンスターの不意打ちなど喰らう訳もない。


「で、こんどは光の粉ね。まぶしくなるんだって」


 ひとときだけリコットの手の中に取り出したドロップアイテムの白い粉―――『光魔の残滓』に観察眼を向けたユアが、ふむふむと頷きウィンドウを共有化する。


「スターに食べさせたら強くなるんじゃないっす?」

「ええ?」


 どうだろう、と頭上の三体のスターに視線を向けるユア。

 じぃ、としばし見つめ合っていると、なんとなく通じ合った気がして、ユアはそっと首を振った。


「そうでもないって」

「あそうっすかー」

「なんかきらりん最近雑じゃない?さすがにほんとに分かった訳じゃないよ?」

「もうなんか、先輩ならなんでもありな気がしてるっす」


 遠い目をするきらりんに、リーンまでもうんうん頷く。


「ユアだからなー」

「ユアさんは、すごい」

「ユア様の観察眼は私からしても驚嘆せざるをえません」

「おねえさまのおめめ、ゾフィはだいすきですの♡」

「うーん」


 なぜか次々に褒めてくれる一行にユアは頬をかく。

 それから視線を上げれば、スターが同意を示すようにふわりと揺れた気がした。


「まあ、いいけども」


 肩をすくめるユアに、きらりんはじっとりとした視線を向ける。

なぜこの期に及んで納得いかなさそうなのかまったく疑問らしい。


さておき。


どうやらこの辺りのモンスターは主にシャドウストーカーとグリムキーパーらしく、進んでいるとちょくちょく遭遇しては足を止めることすらなく瞬殺していく。


そうして進んでいると、やがて一行は通路の突き当りに階段があるのを発見した。

発見したというものの、実際はそこそこ離れたところからすでになっち(「・ω・)「が補足しており順当にそこを目指してきたのだが。


階段の上は、覗き込んでみても見えないほどに真っ暗になっている。


その既視感に、リーンはむむっと表情をきりっとさせてユアを抱きしめ、リコットやきらりんもすすすっとそばに寄ってくる。


 それから顔を見合わせて、なるべく足なみを揃えつつ階段を上っていく。


 ひととき暗闇に包まれながらも互いの息遣いを感じながら階段を上っていき、そうして暗闇を抜けた先には代わり映えのない光景が広がっている。


「大丈夫そうだね」

「ん」

「よかったー」

「なぞに緊張したっすよ」


 とくにはぐれるメンバーもおらず、わいわいと安堵する一行。

 そうしながら一行は、迷宮探索を続けた。



《登場人物》

(ひいらぎ)(あや)

・実際、スターはそこまで高度なAIを積んでいたりしないので通じ合えたとかは完全に気のせいです。粉吸わせてもなんともないのはほんとですけれど。


柳瀬(やなせ)(すず)

・集中力がね。足りてないですよね。胸に綾抱いてんだからね。しかたないね。


島田(しまだ)輝里(きらり)

・綾が無機物と話しててもびっくりしない。それはちょっと違うんとちゃうかね。気持ちは分かる。どういう感情で綾と接すればいいかいまいち分かってない感。


小野寺(おのでら)(あんず)

・大活躍の予感。なんだか物理耐性持ち多い気がしましたが多分気のせいじゃないですよね。なんででしょうね。なんも考えてないせいでしょうね。


沢口(さわぐち)ソフィア(そふぃあ)

・燃やしがいのある敵はいなさそうなのでちょっぴり低めのテンション。ソフィがおめめ好きとか言うとちょっとびくっとしちゃいますね。いやもちろん、眼球ではなく目なのでそんな猟奇的な趣味ではないんですけど。作風に遭わないし、また小説削除されたらやですしねー。


如月(きさらぎ)那月(なつき)

・遠くが分からない、ならまだしもある一定距離から不自然に把握できないから何かあるかもしれないとはふつう思わないですよね。どうなってんだろう。っていうかそもそも人の身でその構造把握能力どうなってんだよ。いまさらですし、またかよですね。はいはいセンシティブセンシティブ。


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