070話 追い出されてしまった一行は、ちょっとぶりにカフェにやってきていた
更新です
だらだらやるのもよくないかなって思ったけど楽しいので気にしないことにしました
追い出されてしまった一行は、ちょっとぶりにカフェにやってきていた。
長らくモンスターをばしばし討伐してきたこともあり、冒険者ギルドに寄った一行は、リーンの大剣を含め装備をしっかり修復してもそこそこゆとりがある程度には懐が温まっている。ついでに久しく忘れていたゾフィとなっち(「・ω・)「の登録も済ませたので、次回からは更なる報酬が挑めそうだった。
カフェにやってきたユアたちは、相変わらず色とりどりなケーキたちを前にのんびりと話す。
「クラン名、どうしようねー」
逆に不思議なきわめてシンプルなショートケーキを食べながら視線を巡らすユア。
きらりんはくわえていたフォークを抜き取り、その先をくるくる回しながら考える。
「せっかくっすからかっこいーやつにしたいっすよね」
「スーパーゆあゆあファイヤー!」
「まあ先輩はかっこいいっすけどあえて言わせていただくとだせぇっす。だせぇっす」
「むっ。やっぱスペリオルのほーがいーかな?」
「それはさすがにかっけえっす」
そう言って目を輝かせるきらりんに、ユアは頬をかきながら首を傾げる。
「そもそも私の名前入れない方がいいと思うんだよね。うん」
「えー」
「えー、っす」
「……」
ぶーたれるリーン、きらりんのみならず無言で無念を滲ませるリコットである。
そんなやりとりにさして興味を示すでもなくユアにあーんされていたゾフィが、ふと思いついたように笑みを深める。
「でしたら、ゾフィとおねえさま、というなまえにすればいいんですの♡」
「ゆかいななかまたちも忘れないでほしいっす」
「なにをおっしゃっているのかりかいできませんの」
「こいつぁ本気の目をしているっす……」
「あはは。これは確かにへπトスさんの言う通りにして良かったかもね」
なんとも癖がありすぎる面々にユアは笑う。
きらりんが同意するように苦笑し、それからにやっと笑ってケーキの刺さったフォークをユアに差し向ける。
「そーゆー先輩はどうなんっす?」
「はむ……うーん」
自然にそのケーキにぱくつきながら、ユアはしばし考える。
そしてケーキを飲み込んだくらいのところで、そっと視線を逸らしながら答えた。
「が、ガーデン、とか?」
「ひゅー!いーじゃんそれー!」
「ほほう。つまるところそれはわたしたちが先輩にとって花であるということっすね!?」
「そういうのって普通解説しなくない?……やなんか、さっき見たお花畑が印象に残ってたからさ」
「素晴らしい名付けであるかと」
「ん。すてき」
「さすがおねえさまですの」
「もぉー、やめてやめて」
朱のさす頬を隠すように手で包むユア。
なにか珍しい光景にきらりんがゴクリと唾を飲めば、ユアがここぞとばかりにジト目を向ける。
「じゃあはい。つぎきらりんだよ」
「ユアラヴァーズすっかねー。ニルヴァーナ的な雰囲気を感じるっす」
「ふうん」
適当言っとけばいいやとばかりにへらへらと笑うきらりんに、ユアは瞳の奥をじわりと光らせ目を細める。
びくりと震えるきらりんの顎をくいっと持ち上げ、身を乗り出してまで額を重ねたユアは、そのままそっと囁く。
「それって、きらりんは私の恋人のつもりっていうことかな?」
「ぉあ゛」
「それとも、単に大好きな人っていうこと?」
じぃ、とひとみを覗き見ながら、選択を強いるユア。
きらりんは瞳をくるくるさまよわせ、ひとしきり脳内で妄想をかけめぐらせてから、なんとかかんとかにへらっと笑った。
「こ、後者でおなしゃす……いまは」
「分かった。きらりんの候補はそういう意味のユアラヴァーズと」
「や、ま、や、やだな先輩冗談っすよ?分かるっすよね?ね?!」
「きらりん知ってる?普通人って口にしないと分からないんだよ」
「それこそどの口が言ってるんっすそれ!?」
にちにちと一通り意趣返しされるきらりんが、しばらくの後に撃沈したところで。
満足気に笑みを浮かべたユアは、それからリコットへと視線を向ける。
「ちなみにリコットは?なにか思いついてる?」
「ユア☆ラヴ」
「うん。この流れでも多分絶対採用されないよ?というかしないよ?」
「ん。しってる」
そのわりに妙に満足げなリコットである。
ユアは苦笑し、その頭をなでなでする。
しつつ、思えばまだ発表していないなっち(「・ω・)「へとちらっと横目を向けた。
「なっちは?」
「そうですね……ご主人様と下僕軍団などはいかがでしょう」
「いかがもなにもないよねそれ」
「……申し訳ありません」
「なっちさんも冗談とか言うんっすね!」
「そうだね」
ほほー、と感心した様子のきらりんに頷きつつ、ユアはなっち(「・ω・)「へと奇妙に笑んだ眼差しを向ける。
けれど何を言ってあげるでもなく視線を戻し、さっぱりとした紅茶っぽいお茶を一口。
「まあ、クランの名前はのんびり考えればいいかな。なにせ六日もある訳だし」
「それけっこう不思議だったんっすけど、なんでわざわざそんな日開けたんっすかね」
「ほとんど私のせいだけどね。まあヘπトスさんの方にも色々あるんだよ。それにまあ、今日話し合うってなったら私もちょっぴり大変だったかもだし」
「あー、そういえば今日は半日でしたっすね」
基本的にユアの予定を最優先することもありメンバー内でユアの予定を共有しているので、きらりんはなんとも名残惜しげに唸る。
ユアは頷き、ぐいぐいと身を寄せてくるリーンやリコット、ゾフィをなでなで。
「あーあ、明日からまた仕事っすねー」
しれっとなでやすいように机に突っ伏しながら、きらりんはぼやく。
当然にそれをなで可愛がりつつ、ユアはにっこりと笑む。
「ということは、きらりんとリアルで会えるんだね」
ユアときらりんの勤め先は、明日で正月休みを終わりとなる。
つまり、具体的に恋人という関係ではないとはいえ明確に告白まで済ませた相手と一緒の職場で働くというシチュエーションが発生する訳で。
ぴくりと耳を動かしたきらりんは、なんとも神妙な面持ちでユアを見る。
「……がぜんやるきでてきたっすねなんか」
「ぶーぶー」
「いやリーンさんだけにはその資格ないと思うんっすよ」
仕事、どころか住まいを共有するリーンである。
会話の節々でたまににじみ出る生活感をひっそりと羨んでいたきらりんとしては、どの口が言うのかまったく納得できない。
じっとりとした視線を向けるきらりんに、ユアは苦笑する。
「私が百四十人くらいに分身できたらいいんだけどね」
「この期に及んでまだ恋人を増やすおつもりなんっす……?」
「ひとりあたり二十人かなー」
「それはさすがに地獄絵図だと言わせてもらいたいっす。できたら私は一対一がいっすねー」
「あはは。まあ、私も百四十個も考えることあったらパンクしちゃうけどね」
「さも当然のようにマニュアル操作のつもりだったっす!?」
そんなくだらないやりとりをしつつ。
分身できないユアなので、二本の腕をフル活用して、お別れを惜しんでこれでもかと甘えてくる面々をなで可愛がるのだった。
それを堪能したところで、ほどほどにいい時間となったので、お開きとする。
それからさらに少しだけ別れを惜しんだのちにログアウトした綾は、その途端に抱き着いてくる鈴にされるがままに押さえつけられる。
「ふふ、嘘つきさんだね、鈴」
「うそじゃないもん」
「へぇーえ?じゃあ、今から私だれ、んむ、ふ、」
噛みつくように唇を奪われる。
貪るように動く鈴の舌を、綾は優しく絡めとった。
口づけを交わしながら、自分の身体を綾に押し付ける鈴。
ゆさゆさと揺れるベッドの上で、水音が弾ける。
やがて口を離した鈴は、熱に浮かされたような虚ろな瞳に綾を閉じ込める。
「だめ」
「うん。……ふふ、ごめんね、もう言わない」
ちゅ、と唇を触れ合わせる。
それから綾は視線で解放を命じ、鈴は大人しく綾の腕を離す。
そのとたん綾は鈴と体勢を入れ替え、頬を赤らめて期待している鈴を見下ろす。
「ちゃんと満足させてあげるね」
「うん……。して……?」
可愛らしくおねだりする鈴に、綾は笑みを深めた。
■
《登場人物》
『柊綾』
・名づけとか、照れ照れ。実は案外照れる機会少ない人かもしれないとか思いました。少なくとも好きな人からのなにかは喜ぶかめっちゃ喜ぶくらいのものですからして。
『柳瀬鈴』
・いや結局お前なんかい!とはいうけれど、じっさいのところこれは例外的措置であったりする。もちろんお昼からは鈴の時間っていう約束があったわけなんだけれど、その約束がありながら午前中が開いていたっていうのがかそこそこ異例な出来事なわけでして。
『島田輝里』
・へらへらしてたら当然のように刈り取られた人。それにしてもネーミングセンスよ。さすがに冗談100パーセントですけども。もしそれで行こうってなったらそれはそれで羞恥プレイだったかもしれませんね。
『小野寺杏』
・言ってみたかっただけの人。でも、もしあれで決定となったらそれはそれで満足する。嘘やろと思いたいけれど、杏さんの好みはわりとそんな感じ。
『沢口ソフィア』
・ソフィ、綾、塵芥、という分類らしい。どこかに似たような人いましたね。もしかして:同族嫌悪。まあ、同族と呼ぶにはまっとうさが違いすぎるんだけれども。
『如月那月』
・わりといい名前だと思ってた人。まあなっち(「・ω・)「ですからね。センスずれてるよね。もはやこの辺りはスーパー使用人としての必須項目とすら言えるよね。ひどい話だ。
ご意見ご感想頂けるとありがたいです




