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64話 燃え上がるタイラントワームが光に散る

更新です

キリがいい話数

 燃え上がるタイラントワームが光に散る。

 それを見ていると、アナウンスが届く。


『プレイヤー【ユア】のLVが上昇しました』

『LV.17→LV.18』

『MINが1ポイント上昇しました』

『SPを2獲得しました』


『プレイヤー【ユア】のALVが上昇しました』

『【付与魔法】ALV.1→ALV.2』

『魔法【魔力譲渡(マナギフト)】を習得しました』

『【魔法使い(マジシャン)】ALV.2→ALV.3』

『スキル【集中】を習得しました』


 通算四体目のタイラントワームを撃破したことで、レベルが上がったらしい。

 うっとりと頬を上気させるゾフィをなでなでしていたユアがおっ、と瞬けば、傍らのリコットがてちてちと手を合わせながらユアを見上げた。


「レベル上がったや」

「わたしもー!」

「おめでとう」

「おめでとうございますユア様」

「おめっすー。てことはわたしももうすぐっすかね」

「みんなありがと。ちゃちゃっとステータス弄っちゃうね」


 戦闘が終わったことでリーンに抱き上げられながら、ユアはとりあえずSPをMINに放り込み、それからアビリティを確認する。

 レベルアップと同時にふたつもアビリティのレベルが上昇しており、それぞれなにかを習得しているらしい。


 確認してみると、『魔力譲渡(マナギフト)』は文字通りMPを誰かに分け与える魔法だった。

 そして念願の魔法使いスキルである『集中』は、なんと30sの間MPを5%/s回復する優れものだ。クールタイムは300sと長く、その上効果中は被ダメージが増加し大きく動いたり魔法を使うと効果が途切れてしまうという制限はあるものの、合計で150%ものMPを回復するというのは破格と言える。なにより、そもそもユアは戦闘中ほとんど動かない。


「『魔法使い(マジシャン)』のスキル、毎秒MP回復みたい。5% 30秒だって」

「ほへー」

「優秀」

「メチャ強っすね。制限とかあるんっす?」

「移動とか攻撃したり、あとダメージ受けたら解除で、クールタイム5分」

「あー、まあ、妥当っすか」

「ゾフィにはかんけいありませんのね♪」

「や、さすがになっち(「・ω・)「輸送でもアウトじゃないかな?『集中』」


 試しにと使ってみると、ユアの身体を淡い青の光が包む。

 そのままリーンがてくてく歩くと、それはあっさり霧散した。


「ほら、やっぱり」

「おねえさまのおそばにひかえていればいいことですの♡」

「まあ、そうだね」


 にっこりと笑むリコットをなでなでしながら、ユアは次いで取得可能となったアビリティを確認してみる。

 あまり取得可能なものは増えていない様子だったが、その中に目を引くものがあったので、ユアはあっさりそれを取得した。


治癒士(ヒーラー)】ALV.1(EXP.1,500)

・あらゆる回復効果に補正

・スキル:【治癒】【軽快】


 アビリティレベル1の状態から既にスキルを習得できるというレアなパターン。

 内容としては、『治癒』がLPの回復、『軽快』が状態異常の回復といったもの。

 どちらも効果は軽微であるらしいが、補助的役割が定まりつつあるユアとしては選ばない手はない。


「こんなんとったよ」

「おおー!ユアやってやってー!」

「や、リーンさん今全快っすから」


 自慢げに見せればほぼ反射的な様子でおねだりするリーンに、きらりんが苦笑する。

 もちろんユアはにっこりと笑い、リーンの頬に触れてスキルを発動する。


「はい、『治癒』」

「ひゅおー!」


 ぽわぁ、と身体を包む穏やかな緑色の光。

 回復的な演出か、なにやらくすぐったいらしく目を輝かせながらも身悶えるリーン。

 もにもにと頬を弄んでやれば、嬉しがってぴょんぴょんと小さく弾む。


 『治癒』の効果を試しているのか単純にユアとイチャイチャしているだけなのか、十中八九後者でしかないそんな様子に、きらりんはそういう方法もあるのかと深く納得する。

一方、当然のようにリコットやゾフィも態度や視線でおねだりをしていたので、リーンを弄ぶのも程々にユアは次々と『治癒』を与えていく。


「はいリコット。『治癒』」

「ん」


 ぽわぁと光に包まれたリコットは、ユアの手に頬をすりすりして心地よさげにする。

 それをふにふにと可愛がりながら、リコットを睨みつけるゾフィの目を隠すように手のひらを添え、その耳元で囁く。


「おまたせ。『治癒』」

「んっ、ぁ、♡」


 身を包む光、耳元の囁きに、妙に艶っぽい声を上げて口角を上げるゾフィ。

 分かりやすくあざとい反応にユアは楽しげな笑いをこぼし、柔らかな金髪をそっとなで上げる。


「……わたしもいちおもらっとくっす」


 いつものごとく自然に展開されるいちゃいちゃ空間。

 なにかとても負けた気がしたきらりんが身を寄せれば、ユアはその頭をよしよしとなでる。 


「ふふ。『治癒』」

「ぁー、なんかむず痒い感じっす」

「ね!ぞわわーってくる!」

「そうなの?」

「なんかこう―――」


 なにかを言おうとして、はた、と停止するきらりん。

 その頬がかぁっ、と真っ赤になって、「やなんでもないっす」と顔を逸らした。


―――まるで全身を撫でられるような。


 そんな内容の言葉を口にしようとして、ユアに全身をさわさわされる妄想をしてしまったが故の恥じらいだった。なにがかといえば、それをとても望ましいことと思ってしまうことが恥ずかしかった。

 そんなきらりんが急にどうしようもなく愛おしくなったユアは、試してみる?と喉から出かかったセクハラ発言を飲み込み、それからきらりんを念入りになでなでする。


 突然慈愛の視線と共に蕩けそうになるくらいのなでなでを頂戴したきらりんは、無意識に頬を緩めながらも戸惑いの表情を浮かべる。


「あの、」

「うんうん。きらりんは可愛いねぇ」

「は、はぁ。どもっす」


 しみじみと言うユアに、なんとなく、だいたいどういう思考回路でこうなったのかを察するきらりん。

 その正否はともかく、ユアがほぼテレパシストみたいなものであるという事実はそろそろ受け入れてきたらしい。


 それはさておき。


 レベルアップ処理を終えたところで、ユアたちは次のタイラントワームの元へと向かう。

 やり方は既にほぼ確立されているので、戦いはもはや流れ作業的に進む。


 なっち(「・ω・)「が気を引き、リーンとマジックボールが受け止め、リコットが糸を洗い、きらりんが拾う。

そして最後には、死に体になったところをゾフィによって火葬される。


完全に素材生成機でしかないタイラントワームである。


「―――『迸る大火(ぐらんふれいむ)』ですの♪」


 迸る大火がタイラントワームを焼き尽くす。


 燃え上がる小山をうっとり見つめながらも、炎を揺らしまんべんなく炙ろうとするゾフィ。

 やがて炎の中から光の粒子が弾けて立ち上り、ゾフィは満悦の吐息をこぼした。


「なんどやってもいいものですの……♡」

「まだまだいっぱいしていいからね」

「うふふふ♡」


 ただただ嬉しそうに笑うゾフィをなでなでしながら、ユアは詠う。


「『付与(エンチャント)』―『魔力譲渡(マナギフト)』」


 ユアの身体がぼんやりと光り、かと思えばその光が手を通ってゾフィへと流れていく。


「まあ♡……おねえさまがはいってきますの……♡」

「っ、」


 新しく覚えたばかりの魔法によってMPを分け与えられたゾフィが、うっとりと瞳を濡らしながらそんなことを言えば、思春期なきらりんは僅かに反応を示す。

 かわいいので、ユアの手は自然と伸びた。


 と同時に、ゾフィをなでなでしていた手は傍のリコットへと向かう。


「よくばりさんだね。『付与(エンチャント)』―『魔力譲渡(マナギフト)』」

「ん」


 戦闘中もなでなでをもらってMPがほとんど回復していたリコットなので、ちょっとだけ控えめなMP譲渡。

 それでも満足げなリコットをよしよしと可愛がる。


「……あ、そういえばレベル上がってたっす」

「ん」

「うん。おめでとー」

「おめー!」

「おめでとうございます」


きらりんがなんとか思い出したように、今度はリコットときらりんのレベルが上昇している(LV.17→LV.18)。

それに伴って、リコットはユアと同じように『魔法使い(マジシャン)』のレベルが上昇していた。


 一通り労い喜び、そうしてもろもろ処理していると、きらりんが「おっ」と声を上げる。


「いいアビリティあったっす」

「どれどれ?」

「なんか体感速度遅くなるっぽいっすねー」


『スローモーション』(EXP:3,000)

・挙動時、体感速度を減速させる(1.0~0.25倍)。


「へー、消費とか特にないんだ。いいね」

「っす。やー、実は密かに待ってたんっすよ」

「あはは、きらりん慣れてそう」

「100倍速くらいなら体験したことあるっすよ」

「わあお」

「はえー」

「やはは」


 ユアとリーンが揃って感心してみせれば、きらりんはてれりんと頭を搔く。

 とそこで、同じくアビリティを眺めていたリコットがユアを見上げる。

 ユアはすぐにその意図を理解し、少しだけ身を乗り出した。


「んー、見せて見せて」

「ん」


 こくんと頷いたリコットが見せてくれるのは、ひとつのアビリティ。


『思考加速』(EXP:3,000)

・思考速度を加速させる(1.0~3.0倍)


 思考と体感、加減速。

 その意味を捉えようとすればするほど、『スローモーション』と相反していそうでよく似たアビリティである。


「おー、たしかに似てるね」

「ん」

「むー?」

「むしろなんかこっちのが使い勝手良さそうっす」

「でも倍率がちょっと低いかな?」

「どっちもあると重複するんっすかねー」

「よくばりさんだね」

「ゲーマーっすから」


 謎に誇らしげなきらりん。

 とはいえ、今のところきらりんの取得可能アビリティの中にはないようだった。


 なんにせよ取っておいて損はなさそうなので、リコットは『思考加速』を取得する。


 そんなところでレベルアップ処理も終えて、一行は次のタイラントワームへ向かう。

 一応、残りの目標数は半分となっている。

 この調子ならわりと早く終わるかもしれないと、ユアはそっと笑みを浮かべた。



《登場人物》

(ひいらぎ)(あや)

・順調に補助的能力を伸ばし中。その尽くがメンバーを可愛がる動作に組み込まれているあたりは綾さんですね。


柳瀬(やなせ)(すず)

・マナギフトをもらう機会はなさそうなのでむぐぐぐって感じの気分。治癒を受ける機会が多そうだから我慢してね。


島田(しまだ)輝里(きらり)

・昔はスピード狂だったらしいです。体感速度を減速させる(例:秒速100mを秒速1mに感じる)ことは、つまり処理速度を速めるということ。こういうとき脳への負荷とか気になっちゃいます。特になにで調べるでもなくほんやり考えたりしていたんですけど、VR内では体感自体が仮想の存在で"ある条件で体感するだろう情報群"を脳に伝えて錯覚させているとするならば、この場合は情報獲得する場合にまずそれを統合演算して脳が処理しやすい形にするっていう手続きを踏めばあまり脳に負担なく処理速度を速められそうだなって。例えば『皮膚感覚:硬くて冷たくてつるつるしてる、嗅覚:歯の奥が軋むみたいな匂いしてる、視覚:鈍色で光沢がそこそこある立方体、ほか色々…』という情報群から『固体:鉄』と判断してると思うんですけど、この無意識下の情報処理をまるまる代替してダイレクトに『固体:鉄』と認識するような。それをより拡張して、世界を簡素化した情報群で捉えれば脳負荷は減るのかもしれないですし、瞬間を捉えるのは速くなるかもしれません。つまりこのとき素早く反応することは出来てもものごとを素早く考えることはできないということです。思考の瞬発力が低い人には向きませんね。まあ、それだけで何倍速も出せなさそうなので、普通に脳に頑張ってもらうのも併用するでしょうから身体におっつかないだけでしょうが。知らんけど。


小野寺(おのでら)(あんず)

・普段脳を使いまくってるからね。そりゃあ思考も加速するよ。こちらはダイレクトに思考速度を加速させるので倍率がやや低い。当たり前に言ってるけど思考を加速ってなんだよと思ったので考えました。これも脳に関する基礎知識すらないエセ科学です。えせかがくと言い直しておきます。思考を情報の伝達と考えます。きらりんの方の鉄の話だと、皮膚感覚や嗅覚で捉えた情報が色んな神経を通って脳に集結します。これらは最初@&%+とか*%&@%みたいな意味の分からない刺激情報です。これが脳神経を駆け巡って、ある場所で同じ姿をしたやつに会います。そこが例えば『冷たい』の部屋や『硬い』の部屋だったりすることで、刺激情報は『冷たい』『硬い』だと分かります。そうして意味の分かった情報たちはまた脳神経を駆け巡って、それらの意味が含まれている場所をノックしていきます。そんな心当たりならぬ総当りな脳当たりの中で、最もノック数が多い場所が『鉄に触れる経験』の保存してある区画だったので、今発生した刺激は『鉄に触れる』ことで発生したのだと結論づけます。こんな感じで情報が流れていくことを思考だと勝手に思い込んで、これを加速させる方法を考えるまでもないですね。ずばり、メタルケーブルより光ファイバー、あるいはシングルコアよりマルチコアです。つまり思考の加速とは情報伝達速度が脳神経の比じゃない近未来なCPUでもって思考を行うことか、あるいは思考に使う脳の部分を補助的に拡張して同時処理を行うことということにしておきます。思考は極めて高次元らしく、たぶん無意識のうちにより低次元な部分をめっちゃ統合してるので、その低次元な部分を多人数がかりでやったらなんか速くなりそうですよね。人が会議するのも、ひとりではたどり着くのに時間かかりそうな場所に力を合わせてたどり着くためな訳ですし。……登場人物紹介だっつってんのになんだこれは。


沢口(さわぐち)ソフィア(そふぃあ)

・やってることはまあ、中学生くらいの幼稚なもんですよね。そういう点はなんか結構低俗なんだよねこの子。すき(直球)。


如月(きさらぎ)那月(なつき)

・ゲーム内で存在感が薄れれば薄れるほど筆者の中では存在感が増していきます。二度とこの人のデート回を書かないという焦らしプレイを思いつきましたが、別に僕に焦らされたところで嬉しくないと思うのでいつか……書ける……のか……?


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