062話 もしゃもしゃもしゃと、花を貪る姿は怠惰
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お知らせがあったりしますが、キリがいいので明日にします
よろしくお願いします
もしゃもしゃもしゃと、花を貪る姿は怠惰。
芋虫の身体についてる目っぽいものが目っぽいものでしかないのだとリーンが大発見するくらいに近づいてみても、特に反応を見せる様子はない。
縄張り意識が果たしてどれほど広くをカバーするのかと試す必要も特になく、ひとまず遠距離から一方的に殴りつけてみることに決めたユアたち。
「さすがにゾフィは届かないかな?」
「気ぃ引いたら来るんじゃないっす?」
「逃げるかもー?」
「うーん、まあ、とりあえず試してみよっか」
ゾフィも撃ちたそうだし、という言葉はあえて口にする必要もなく、彼女は既に魔導書に輝きを宿している。
そんなゾフィの頭をそっと撫でつつ、もう片方の手で、矢を番えるなっち(「・ω・)「に『魔力保護』を施す。
と同時、びんっ!と弦が鳴り、風を突き抜けて閃きが走る。
刹那の間に飛翔した矢は寸分の狂いもなくタイラントワームの眼球のひとつに深々と突き刺さり、そうしてほんの一呼吸の後にタイラントワームは大きくその身を傾げさす。
キュィィイイイイイイ―――!!!!
ぎゅう、と身を引き絞るようにして上がる甲高い悲鳴。
身体の側方に点々と続く黒い気孔から吐き出された空気が、大地を波打たせ光を散らす。
どこか幻想的でもあるそんな光景に見とれるでもなく、テキパキと『魔力保護』をかけてユアたちは体勢を整える。
それが終わるよりも早く、地面に身体を叩きつけるようにして着地したタイラントワームはユアたちめがけ勢いよく泳ぎ出す。
身体を蠕動させ、光の飛沫を上げながら滑るその姿は正しく泳ぐといった様子であり、その巨体からは考えられないほどの速度でユアたちに迫る。
キャァアアアアアア―――!!!!
先程の悲鳴とは少し違って聞こえる甲高い音。
タイラントワームの巨体が一回り脹れ、その口がぐぁば、と開く。
「『光弾』―『強力』」
迎え撃つリコットの光弾となっち(「・ω・)「の第二射。
続けざまに顔面を抉り取られながらもなお止まることなく動くその口から、びゅおっ!と白い糸を吐き出す。
どうやら先の方が丸く固まっているらしく、それを勢いよく射出することで高速に糸を吐き出しているらしい。
真っ直ぐに向かってくるそれをなっち(「・ω・)「はゾフィの正面という相対位置を保つ火球で受け止め、あっさりと焼き切った。
「そういう使い方も出来るんだ」
「思いつきですが」
「暴発とかしそうっすね、あんま強いと」
「留意いたします」
自慢の(?)糸をあっさりと焼かれたタイラントワームは苛立った様子でユアたちを狙って次々と糸を吐き出すが、あっさりとかわされ焼かれとまったく効果を発揮することなく終わる
そしてついに憎き敵たちへと到達したタイラントワームは、ユアたちがあっさり散開したため通り過ぎる。
急ブレーキを踏み、ずじゃああ、と停止するタイラントワーム。
それが勢いよく振り向き、動き出そうとする頃にはすでにゾフィの魔法は完成している。
「―――『迸る大火』、ですの♪」
迸る大火に包まれる巨大芋虫。
その身がむくむくと膨れ、キビュュィイイイイイイ――――――!!!!
と上がる悲鳴に炎が舞う。
巨体が踊りくねり、じっくりこんがりと焼き上げられたタイラントワームは自らを覆う炎をかき消すようにびったんびったんと身体を地面に叩きつける。
やがて炎が止むと、タイラントワームは全身から煙を上げその皮膚の至る所からポリゴンと緑色の液体を噴出させながらも蠢いている。
「うーん。グロい」
「なまいきですの」
一息に焼き殺せなかったことにムスッとした様子のゾフィをなでなでしながらも顔をしかめるユアの言う通り、なかなか悲惨な光景だった。
なんとなく青臭いような焦げたような匂いもする。
「『光弾』―『強化』
『光弾』―『強化』―――」
ユアを不快にさせる以上生かす価値はないと、リコットとなっち(「・ω・)「はさっさととどめを刺すべく光弾を矢を連射する。
それを受けたタイラントワームはぐわばと身体を起こし、そしてキィィー、と力なく鳴く。
がぱ、と開いた口がユアたちに向けられ、そうして、びちゅ、と吐き出された液体が花畑を汚す。
びぐっ、とひとつ弾んだタイラントワームはどう、と倒れ伏し、舞い上がる花弁と一緒になって夜に融ける―――
「……なんかこう、心をえぐる敵だね?」
「なまじタフなのがあれっすね」
「うむうむ」
「ユアさん、優しい」
「なかなかみごたえがありましたの♡」
ここにきて妙に凄惨な死に様を披露したタイラントワームになんとなく嫌な苦味を感じつつ。
なにはともあれ勝利したのでドロップアイテムを確認してみると、どうやらトドメはリコットだったらしくインベントリには『暴君虫の糸』が入っている。
取り出してみると、それは見事な糸玉として現出する。
リコットがもにもにと弄ぶそれを、ユアはしげしげと眺める。
「これじゃあないんだもんね」
「あ、あんまベタベタしないんっすねー」
「むむっ、さらさらしてるー」
「……リコットさん、お貸しいただいてもよろしいでしょうか」
「ん」
リコットから差し出された糸玉を持ち上げ、なっち(「・ω・)「はそれをじっと見やる。
そうしてひとつまみの糸を引き上げると、それをくるくるとこより合わせるなどしてなにやら確かめた。
やがてなっち(「・ω・)「は然りと頷き、リコットに糸玉を返却する。
「どうやら、先程のタイラントワームが吐き出していたものとは質が異なるようです」
「ベタベタしてたもんねー」
「いえ。確かに先程の糸は粘液が付着していましたが、糸自体の弾性に関してこちらの方が劣っています」
「あの、触ってすらないっすよね……?」
「はい。ですので、球体部の張りから見た推測となります」
きっぱりと言ってのけるなっち(「・ω・)「に、きらりんは『ああ、また例のやつっすか』と遠い目になる。
しかしもう慣れたものですぐに気を取り直すと、ユアへと振り向く。
「とするとこれはあれっすね。直接採取するタイプのレア素材かもっす」
「キャッチすんのー?」
「っす」
「普通のドロップじゃないって言ってたもんね。確かにそれへπトスさん好きそう」
「それは知らんっすけど、やってみるっす」
そんな訳で、タイラントワームから吐き出される糸を狙って見ることにする一行。
フローラルビーやフローラルラビィを避けて大きく迂回するように移動していると、自然にパピヨンたちの縄張りと重なるらしく、ユアたちはそれなりの数のパピヨンに囲まれる。
とはいえどうも友好的な様子で、リーンを止まり木にしたりユアが差し出した指先に止まってみたりと好き勝手に戯れている。
ユアの持つ称号『モンスターメイト』の効果もあるのだろう、警戒した様子もなくひらひら舞うパピヨンたちは花畑とはまた違った趣で。
ただ一人、ゾフィの傍にだけは一向に近づこうとしないのは果たして偶然か。
なんとも不服そうに唇を尖らせるゾフィを、ユアは多少の納得感を覚えつつも優しくなでなだめるのだった。
そんな蝶たちも、タイラントワームの縄張りに向かっていると自然に去っていく。
今度はゾフィの火球は一応なしで、かといって動き回るのもほかのモンスターを刺激しかねないので、ユアの領域を展開して戦うことに。
取り出した『白銀の姫百合』を地面に突き立て、展開する領域は『安らぎの地』の面積等倍・時間2倍。
『巡回する魔球』を呼び出し、全員に『魔力保護』を付与すれば準備は万端。
「『みんな、頑張ろうね』」
ユアの声援に続き、やはりなっち(「・ω・)「の一射が戦端を開く。
さも当然といったように瞳をぶち抜かれたタイラントワームは、甲高い悲鳴の後身をくねらせユアたちへと迫る。
吸気に伴う鳴き声、膨れる身体、そして次の瞬間放たれる糸の弾丸。
まっすぐとなっち(「・ω・)「を狙うそれに、ユアとなっち(「・ω・)「の観察眼が閃く。
『暴君虫の剛糸』
・暴君虫が獲物を絡めとる際に使用する強靭な糸。粘着力のある粘液が糸液に混入することで、普通の糸よりも弾性に富んだ丈夫な糸になる。衣服に使えば、その丈夫さ故に永遠に着られると言われるほど。
「ビンゴ!」「きらりんさん」
「っすー」
観察役ふたりの言葉に従い、飛翔する糸をメイスで搦めとるように受け止めるきらりん。
即座に長剣を引き抜き、メイスと同時に振るう。
振り回される勢いによって空中でひとときピンと張った糸を切り裂かんと叩き込まれた刃は、しかしあっさりと糸に受け止められ粘液に絡め取られる。
「あー、そうきたっすか」
とっさに引き離した長剣は辛うじて拘束を抜け出し、きらりんは糸を巻き付けるようにメイスをくるりと回す。
「糸は私が受け持つっす!」
「お願い」
「っとっす」
言っている間にも飛来した糸をメイスに絡め取る。
みるみると即席の松明のようなみすぼらしい風体になるメイスになんとなく複雑なもの覚えつつ、きらりんはとりあえず両手にメイスを構えた。
そうこうしている間にも進撃を続けるタイラントワームが、待ち受けるきらりんとマジックボールに突撃する。
「ふぐむっ!」
どぅっ!と突撃を受け止めた衝撃で僅かに後ろに滑るが、押し倒されるほどのものでもない。
むしろオンリーウルフと比べても随分と軽い感覚に、リーンは余裕ぶって笑う。
「へへー、『ざーこざー、こぉ!』」
目の前の敵だけに向けた『挑発』の言葉共に、タイラントワームを跳ね除ける。
即座に腰だめに引き戻した大剣を、かちあがったまま再度その身体を振り下ろそうとするタイラントワームめがけて全力で振り抜く。
「『|強撃《きょぉーげきぃ!!!!》』」
どぐじゅっ!とみずみずしく生々しい音を立てた一撃がタイラントワームの肉を抉りその巨体を弾き飛ばす。
「はっはー!おらおらどーしたー!糸はいてこいよおらー!」
あくまでも目的は糸なので追撃はなし。
分かりやすく挑発してみせるリーンに応えた訳でもないのだろうが、タイラントワームはごろりと転がって体勢を立て直すとその身をもたげさせ勢いよく糸を吐き出す。
「はいはいっすー」
当然のようにそれを受け止めるきらりん。
躍起になって連続で吐き出される糸の尽くを両手のメイスに絡めとれば、タイラントワームは苛立たしげにびったんびったんと身体を弾ませる。
そして身体を膨らませたタイラントワームは、糸を吐きながらに突進を繰り出した。
「へいへいまだまだ足りねーっすよー!」
「もっと出してみろよこらー!」
へいへーい!と妙に元気なふたりの挑発に躍起になって糸を吐くが、やはりきらりんの綿菓子を膨らますばかり。かといって体当たりはあっさりとリーンとマジックボールに受け止められ弾き飛ばされ、まったく散々な目に遭うタイラントワーム。
その後同じような展開を繰り返し、徹底的に糸を絞り切られるタイラントワームなのだった。
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《登場人物》
『柊綾』
・ひっそりと存在感をアピールする『モンスターメイト』。場合によってはきわめて便利かもしれないしやっぱりちょっとしたお楽しみ要素くらいのものかもしれない、そこが筆者の中でもあんまりよく分かってないという曰く付きの一品。
『柳瀬鈴』
・余裕ぶっこいて糸に絡まってぎにゃー!みたいな展開はボツになりました。ほかの面々がつよつよなので。ゾフィとか当然のように火球触れさせそうですよね。
『島田輝里』
・メイスと糸があわさってわたがしにみえる。そう言えばわたがしなんて何年も食べてないっすねー……はっ!今年の夏祭りは先輩と回れるのでは?というか絶対誘ってやるっす!今すぐ!はちょっとハードル高いっすから一旦覚悟決めてからっすけど。的なことをぽやーと考えているかもしれないという妄想。妄想じゃないかも。
『小野寺杏』
・この人の活躍をどう記述すればいいんだろう。魔力弾も陣魔法もめっちゃ撃ってるんですけど、どうにも存在感が薄い気がします。筆者としてはそこにいるだけで嬉しくなるんですけども。
『沢口ソフィア』
・はいはい放火魔放火魔。もっとみんなをちゃんと可愛く書きたいんですよねえ。ソフィとか今のところただのヤバい子な気がしますし。
『如月那月』
・お悩みタイムをぶっちぎった人。おかしい、謎解きとまでは行かなくとも少し苦戦するつもりだったのに気がついたらこの人が出張ってた。
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