061話 オンリーウルフのドロップアイテムはたったひとつだった
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びっくりするほどのろまな亀
オンリーウルフのドロップアイテムはたったひとつだった。
『孤狼の誇り』というらしい長く鋭い牙一本。
『孤狼の誇り』
・オンリーウルフの牙の中で最も猛々しいものの一つ。鋼より硬く、刃より鋭い天然の武装。オンリーウルフにとっては自らの強さの証であり、誇りそのもの。そのため己を下した者には自らの屈服の証として捧げられる。
「一本ってなると、」
「ぽちっと」
「ん」
「まあ、先輩っすよね」
「ユア様にお取りいただくのが適切かと」
「うん、まあ、そうくるよね」
分配をどうするか、そんな問いかけすらなく当然にユアに捧げられるレアっぽいアイテム。
どのみちパーティ財産のようなものだろうから誰に渡ってもさして変わりはないので、ユアは大人しく受け取っておく。
それから一行はレベルアップに伴うステータス操作を行う。
先の戦闘で全員がレベルアップ(ユアリンきらリコ:LV.16→LV.17、ゾフなち:LV.14→LV.16)しており、各々新規取得可能アビリティもちらほらと見られる。
特にゾフィはユアとお揃いの『スター』を取得できたとあって、なんとも上機嫌な様子だった。
これでパーティメンバーのうち3人がスターを持ったことになり、リーンやきらりんなんかも狙うべきかもしれないと割と真剣に考えていた。
一方、なっち(「・ω・)「もユアに続き『観察眼』を取得。
ゾフィから冷ややかな視線を受け取りつつ全く気にした様子はなく、あくまでもパーティ内で最も察知能力の高い自分も取っておいて損はないだろうというスタンスである。基本的にはユアが情報共有するというのは変わりないが、例えば複数の敵が同時に現れた場合などは分担するということになった。
ひとまずその程度でステータス操作を終えた一行は、森の散策を再開する。
しばらく森は平穏そのものだったが、やがてちらほらとモンスターの姿が見られるようになってくる。
その種類はオンリーウルフと遭遇する前と変わり映えのないもので、ユア達の敵ではない。
「もうじき森を抜けられるようです」
森の生き物たちをばったばったとなぎ倒しながら進んでいくと、やがてなっち(「・ω・)「は進行方向が拓けた場所に続いていることに気がついた。
その瞳は猛禽のごとく鋭く閃いており、どうやら『ホークアイ』によって見通しているらしい。
ユアが目をこらしてみても、流石に暗闇の向こうはあまり見通せない。
とはいえなっち(「・ω・)「の言うことを疑う余地もなく、一行は気持ち早足でその先を目指した。
―――むせかえるような、花の香り。
木々を抜けた向こう、少しだけ窪地になったそこには、なるほど広大な花畑が広がっている。
うっすらと輪郭をぼやかす燐光、月光をはじくような光沢、風に舞う綿毛のような光。
色とりどりに、個性豊かに、闇夜の中で己を誇示する華々しい花々。
僅かに起伏する大地をところせしと覆う花は、そのどれもが穏やかに光を放って夜空を照らしていた。
「わぁ。すごい、きれい」
「ほぁー!」
「ん」
「現実ではお目にかかれない景色ですね」
「やー、絶景っすねー」
「……♪」
各々感嘆を示す一行。
しゃがみ込んだきらりんがそばに咲く一輪の赤い花を手折り、それをしげしげと見つめる。
花はスズランのように膨らんだ白色の花弁を持ち、中に灯る赤い光によって赤い花に見える。
「ランプみたいっすね。夜だから、とかなんっすかね」
「うん。そうみたい」
「おっ。ここでも大活躍っすね」
『観察眼』を向けたユアが、表示されたウィンドウを共有化する。
その花は『ムーンライト(赤)』というらしく、月の光を受けて淡く赤の光を灯す性質を持っているらしい。名前通り、他にも色々と種類があるようだ。
「じゃーこれはこれは!?」
きれいな花々に好奇心がうずうずしたらしい、目をきらきら輝かせながらしゃがみ込んだリーンの視線の先にある花へと『観察眼』を向ける。
まるで水滴のような形の花が稲のように垂れ下がる、黄色に光る花。
「うんと、『星の雫』だって。はい」
「ありがとー。じゃこれー!」
共有化したウィンドウを見せてやれば、また別の花に興味を示すリーン。
次々と「これー!」「あれー!」と言われるがまま花々の名を明かしてみれば、『月雪華』、『ムーンライト(青)』、『リンポップ』、『天照らす月』、『夜明一輪』、『ムーンライト(白)』、『レイニーベル』……などなど、混沌としているようなそうでないような名前の数々。
しばらくそうして花の名前で遊び、リーンがひとまず満足したくらいのところで、ユアは改めて花畑を見回す。
何度見ても美しく、幻想的な光景。
けれど、当初の目的を考えれば言うまでもなく、それだけの場所ではない。
意図的に意識から外していた諸々へと、ユアは順番に『観察眼』を向けた。
『パピヨン』LV.10
・耐性:魔法、聖光、闇呪
・弱点:炎熱
・ドロップ:幻想蝶の鱗粉
〜詳細〜
魔力の多い場所で生息するうち、いつしか幻影の魔術をその身に宿した蝶のモンスター。幻想的な美しい羽根模様が一種の魔術式を成しており、自身の姿を隠す効果を発揮する。モンスターではあるが極めて善良な存在で、危険なものからはすぐに離れて行ってしまう。
『フローラルラビィ』LV.10
・耐性:なし
・弱点:炎熱
・ドロップ:花香兎の毛皮、花香兎のしっぽ
〜詳細〜
花畑に生息するラビィ種のモンスター。他のラビィ種と同じように草食だが、花の花弁しか口にしない偏食家。そのせいか、身体からなにかフローラルな香りを漂わせている。とても欲張りな性格で周囲の花を全て自分のものだと思っているので、近づく相手には敵意を剥き出しにするという過激な側面もある。
『フローラルビー・ワーカー』LV.14
・耐性:緑地
・弱点:風雷、炎熱
・ドロップ:労働香蜂の羽、労働香蜂の甲殻、労働香蜂の針
〜詳細〜
花と共に生きるうちに花が生えてきた蜂のモンスター。ワーカーは群れの中で最も数の多い労働者階級である。根のような特殊な器官となった足から他の花の養分を吸い取っては寄生する花に蓄えるのが仕事。そして最後にはその花ごと身体を群れに捧げるという哀れな存在。
『フローラルビー・ガード』LV.15
・耐性:緑地
・弱点:風雷、炎熱
・ドロップ:護衛香蜂の羽、護衛香蜂の甲殻、護衛香蜂の針
〜詳細〜
花と共に生きるうちに花が生えてきた蜂のモンスター。ガードはワーカーが養分を貯える際に外敵から守る役目を持ち、ワーカーよりも強靭な身体を有する。職務の途中でときおりワーカーをつまみ食いすることがあるが、一方で身体を張って護っても傷を負った際などは真っ先に養分にされる惨めな存在。
『タイラントワーム』LV.15
・耐性:風雷、緑地
・弱点:炎熱
・ドロップ:暴君虫の肉片、暴君虫の糸
〜詳細〜
栄養豊富な場所で生息するうちに身体が巨大に進化した芋虫のモンスター。縄張り意識が極めて強く、自分以外の生き物が縄張りに入ると有無を言わさず襲いかかってくる。口から吐き出す糸は粘着性と柔軟性に富み、一度絡まると抜け出すことは至難のわざ。
花畑を揺蕩う蝶、草原で見たもふもふにも似た桃色わたがし、花々にまとわりつく花々がまとわりつく蜂、その蜂たちを護るように飛び回る蜂、そして花畑に寝そべる肥満体型な芋虫。
少し遠くに視線をやれば、少なくともユアやなっち(「・ω・)「であれば容易に発見できるその数々のモンスターたち。
人が寝そべっているように見えるタイラントワームを除けばどれも一般的なサイズかやや大きい程度ではあるものの、歴としたモンスターであるのならば油断はできない。
「いるねえ、巨大芋虫」
「ん」
「あはは、きもー!」
「巨大ってほど巨大でもないっすけどねー」
「体積にして27000倍程度かと」
「数字で聞くとおっきいね……」
「身長30倍、でも確かに数字見るとビビるっすね。これは燃やしがい的にはどうなんっす?」
「きやすくはなしかけないでほしいですの♪」
「ゾフィ。めっ」
気まぐれに尋ねてみたきらりんへ、ゾフィは見下す視線を向ける。
もちろん即座に諌められたゾフィは「はぁい♡」と全く反省の様子がないとろけた笑みで応え、やる気はなさそうにきらりんへと視線を向ける。
「もやしがい……そうですのね、すいぶんがおおくてもえにくそうですの」
「あー、っす。確かにそうっすね」
「それよりむしろ、うふふ……♡」
きらりんに言うというよりは、想像に浸って悦に入る様子のゾフィ。
その脳内でどんな火災が起きているのか、きらりんは気にしない方針で行くことにした。
「……っ、あー、ともかく一回戦ってみるっす?」
「そうだね。ドロップは、どうやら目的のものじゃないみたいだけど」
言いつつ、へπトスから送信されているアイテムの名前をポップアップする。
どうやら目的のものは『暴君虫の剛糸』というらしく、ドロップアイテムの欄には載っていない。
とはいえ一度戦ってみないことには始まらないと、一行は近場のタイラントワームを狙って動き出した。
■
《登場人物》
『柊綾』
・はてさてへπトスの要求に応えられるのか。わりとどきどき。
『柳瀬鈴』
・きれいな物は好き。花、というよりはいろんな物に名前があるのが面白い感じ。
『島田輝里』
・このくらいの景色なら見慣れちゃってるので今更どうってことはない。VRゲーマーの弊害ですね。とはいえリアルとかの風景はまた違って感じられようですが。
『小野寺杏』
・同上。どちらかというと嬉しそうな綾の表情が嬉しい。
『沢口ソフィア』
・綺麗なものを綺麗と思う心はある。が、綺麗だからこそ、という気持ちも確かにある。轟々と唸る竜の姿は、きっと美しいものだろう。隠喩を使えば多少マシかなって。
『如月那月』
・感情をどこかに置き去りにしたタイプ。どこかと言われると即答が返ってきそう。芋虫のサイズを遠距離から目算でほぼ正確に測定する変態。ちなみに、イメージとしては全長6cmくらいの短めな芋虫をそのまま全長180cmに拡大してみた感じ。人よりやや背丈が高いけど、見渡せば結構な頻度でうねってる。
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