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056話 「待ってたわよ!?」

更新です。

しはらくAW回です。

「待ってたわよ!?」


黒を基調とした軽鎧に深紅のスカート、炎の刺繍をしたマントと一度見れば見慣れてしまう彼女は、ユアたちがAWに降り立ったときには仁王立ちでそこにいた。

リスポーン地点は職人たちの街サザンロック。

実際相当に待っていたのだろう、ユアはへπトスがかなり喜んでいるらしいことを見抜いてほっこりと胸が暖かくなった。


響とのデートを終えた翌日。

現在が午前であることを考えれば、その寝不足具合からして相当待ち焦がれていてくれたのだろうと妄想が駆け巡る。


そんな喜びを満面に見せながら、ユアは素直に謝る。


「ごめんなさい、待たせてしまって」

「ちっ、まあいいわ!行くわよ!?」


すったかたー、と歩いて行ってしまうへπトスに、ユアはにこにことついて行く……とはいえもちろん、それを運ぶのはリーンなのだが。


おそらく話しかけたとて返答はないだろう(しかしちらちらと振り向いてくる可愛らしいところもある)へπトスはひとまず置いて、ユアは数日ぶりに顔を合わせた面々と挨拶を交わす。


「みんなも久しぶり」

「さっきぶりー!」

「ユア様と過ごす時が待ち遠しうございました」

「ん」

「おひさしぶりっすー」

「いちじつせんしゅうのおもいでしたの♡」


ユアは、挨拶のほとんどが自分を向いているという辺りはもはや気にしないことにした。

そしてへπトスが疎外感にうつうつしてしまわないかと気に留めつつ、のんびりと言葉を交わす。

数日会わない日があったので、雑談の種はそう尽きない。

特にきらりんがなにやらいつにも増して愛らしい様子だったので、なでなでにも力が入る。


そうこうしているうちにやってきたのは、街からすぐにある試験場。

相変わらず広々としたその場所は、相変わらず騒々しい人工音に満ちている。


それを打ち消すように、へπトスがぱぁんと手を叩く。

言われずとも向かい合ったユアが期待に満ちた視線をへπトスへと向ければ、ほかの面々もへπトスへと意識を向ける。


突然に集まった視線にややたじろぎつつ、へπトスは腕を組んでふんぞり返ると高らかに宣言した。


「さて!ついにこの時がやってきたわね!?」

「うん。へπトスさんの実力を見るの、ずっと楽しみにしてました」

「当然よ!あななたちもせいぜい死力を尽くしてみせることね!?」

「任せてください」


ユアが、とん、と胸を叩いて見せれば、へπトスはにやりと獰猛に笑う。

そうしてしゅばっ!と両手を広げ、指先がひゅひゅっと動いた。


「まずはこの私の実力を見せてやるわ!

畏れ驚く(・・)がいいわ!?」

「ごくり……!」


なんとも大袈裟に固唾を飲んで見つめるユア。

これがユアのユアたる所以なのかと後ろできらりんが畏れ戦いている。


思惑通り当然に上機嫌になるへπトスの正面に、それはしゅいんと現れた。


―――それは、白い剣。


金細工の装飾が成された白く艶のない鞘。

花をモチーフに描かれる模様は見れば見るほど細やかで、細部まで妥協のひとつもない。

柄は蕾のように膨らみを持ち、鍔は葉のようにしなやかに弧を描いている。

どうやら柄と鍔の部分はひと繋ぎの金属から加工されているようで、どちらも光沢弾く白無垢に金の細工が美しい。


数え切れない試行錯誤と、溢れんばかりの自己満足。

剣に秘められたへπトスの熱を見透かしたユアは、どうしようもなくその剣に見蕩れた。


空中でそれをキャッチしたへπトスは、そのままユアへと差し出す。

感動に打ち震えながら受け取ったユアは、まずその軽さにほぅ、と感動の吐息を零す。


長剣と、そう呼ぶべきだろう、小柄なリコットの身長に迫るだけの長さはある金属塊の重さとはとても思えない。

そんな驚きがお気に召したらしい、隠しきれない喜びに笑みが深まるへπトス。


「かっちょいー!」

「おはぁー。儀礼剣的なやつっすか」

「甘いわね!

この私がそんな程度のモチーフに甘んじるわけないじゃない!?」

「あはいっす」


どやぁーん、と胸を張るへπトスに、きらりんはすごすご引き下がる。

そんなへπトスの表情を慎重に伺いながら、ユアはその剣を引き抜いた。


鞘に触れる刃の音が耳に心地よい。

満悦するへπトスの表情を見るにちゃんと思惑通りの音を鳴らせたらしいとユアは内心でほっとする。


姿を現した刃身は、やはり白無垢。

ちょうど断面が平たいひし形となるようなその刃身には、歪みのひとつも見受けられない。

一点に収束する切っ先の閃きは、見ただけで身のすくむほどに鋭かった。


「業物ですね」

「うん」


なっち(「・ω・)「がうっすらと感心を乗せて呟けば、ユアはゆるりと笑む。


一目見て、ユアは理解していた。

全体を見た瞬間から抱いていた予測が、確信へと変わる。


剣に見蕩れるユアへとへπトスが自慢げに口上を垂れようとするのを察知して、それでもユアは、どうしても自分から言いたかった。


「これ、あの剣をベースにしてるんですね」

「っ!?なんで分かったのよ!?」

「そりゃあ、分かりますよ」


だってこんなに、思いが詰まってる。


どこか陶然とした様子でそんなことをのたまうユアだったが、普通はそんなことを言われて納得できる訳がない。


へπトスは絶句し、後ろできらりんが遠い目になっている。


しばし放心状態だったへπトスだったが、最終的に『剣を回収したことから推察した』ということなのだろうと強引に納得し、微妙に畏れ戦きつつも「ま、まあその通りよ!」と大きく頷いた。


「その剣の銘は『白銀の姫百合(リリィ・プラチナム)』!

あなたとこの私を繋いだ縁を打ち直した長剣をベースにした『長杖』よ!?」

「なるほ……え、長杖、ですか?」

「見た方が早いわね!

それを鞘に戻しなさい!?」

「はい」


言われるまま鞘に戻す。

そうすると、へπトスはシステム上でアイテムの譲渡を行い、ユアはその剣の詳細を見ることができるようになった。


白銀の姫百合(リリィ・プラチナム)』(へπトス)

系統:長杖

損傷:0%

〜特殊〜

・MP消費量減少:12.7%

・MP自動回復速度上昇:57.0%

・MP貯蔵:322/322

・魔法効果向上LV.4

〜備考〜

その白銀は純潔を、その鋭きは凛々しさを。

真白の百合を従えて、気高き姫百合は咲き誇る。


「わ、え、すごっ」

「当たり前よ!?この私が本気で作ってやったんだからね!?」


素直に驚きを表せば、へπトスは満面の笑みで胸を張る。

そんな姿にときめきつつ、ユアはウィンドウを共有化して他のメンバーにもその性能を伝えた。


「はぇー。これはまた、破格の性能っすね」

「ん。一線級」

「ね!今の杖がただの木の棒に思えてくるよ」

「やるなー!」

「……♪」


鍛冶師ギルドの出品物と比べても大言壮語に見劣りしない性能に、へπトスの能力を認めるきらりんとリコット。

そんなふたりにユアは嬉しくなる。

リーンもゲームをやる方なので、どうやらその性能の凄さが理解できるらしい。

なっち(「・ω・)「はいまいちそういう性能面は分からないものの反応からして相当な代物らしいとは分かるので、その刀身への評価と併せてなるほどと納得している。

そんな中『魔法効果向上』という文言に心惹かれるゾフィの胸の内は、自分の火炎の威力が上がったらどんな風に焼き尽くせるのかという想像に支配されていた。


各々反応は違えど、へπトスの実力の程はきちんと示されたらしい。


そんな面々にユアはにこやかに笑い、そうして褒め言葉を受け取るたびに鼻をひくひくさせて喜んでいたへπトスと改めて向き合う。


「へπトスさん。あなたの実力がほんとにすごいっていうのが理解できました。

今度は私たちの番ですね?」

「その通りよ!このわたしが期待してやっているのだから全力で力を示しなさい!?」

「はいっ。それで、私たちはなにを?」

「決まってるじゃない!?

わたしはあなたたちに助手になれなんて言ってる訳じゃないのよ!?」


ずびしっ!

と指を差し向けるへπトス。

きらりらと目を輝かせ、鋭い犬歯をむき出しにしながら、そうして彼女は高らからに告げた。


「ずばりっ!イモムシ退治よ!?」

「わぁー!……わぁー?」


思ってもみない言葉にはてなマークを浮かべるユア。

へπトスは自信満々な様子で、イモムシ退治とやらを語るのだった。



《登場人物》

(ひいらぎ)(あや)

・打ち直した、といってもゲーム内ではそもそも全く違うデータに置き変わっているはずで、だから見抜いたのはどちらかというとへπトス読み。なんか形の似せ方とかこだわってるなあ、装飾は華美なわりにシールドの造形はシンプルだなあ、とか。そういう情報を統合したらしいです。


柳瀬(やなせ)(すず)

・久々にユアを抱っこできてご満悦。後暗い優越感とか抱いてるけどユアを抱っこしてる事実以上になることは永劫ないので大丈夫です。


島田(しまだ)輝里(きらり)

・まだ一週間も経ってないとか信じられなさすぎてやばい。なまじユアと一緒の時間がありすぎだったから逆にやばい。しかも温泉旅行?2泊3日?絶対やることやってんじゃんくそう、とか嫉妬に身を焦がしてました。そして自分が一緒に温泉行ったらとか妄想して慰めていたらしい。わたしなにやってるんっすかねー……と呟いたことは数え切れず。これまでゲームで色々発散してきたのが初恋で循環不全起こしてる模様。強く生きろ。


小野寺(おのでら)(あんず)

・最後にあったのいつ?と訊ねると『さっき』と返ってくるタイプの人なので普段通り。でも日付とか時間はすごい正確に記憶してる。なのに『さっき』。見当識保つタイプの虚無。綾と触れ合わない時間はないのと同じなんですよ。


沢口(さわぐち)ソフィア(そふぃあ)

・えぶりでい嫉妬なのでこちらもまたいつも通り。他の人と比べて会ってない時間短いとか関係なく、他のやつと言葉交わしてるだけでも気に食わねえ。ぐつぐつ煮え立っております。


如月(きさらぎ)那月(なつき)

・微妙に積極性が見え隠れしているけど、きちんと放置プレーしてくれるご主人様なのです。おしおきがそんな一夜で終わるわけないじゃないですか。一応色々と命令してもらってるので今のところは大丈夫ですけど……まあ、さすがにゲーム内でクールな那月さんを崩すつもりはないです。ないです。


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