044話 どごん、がががが、どすんどすん
更新です
よろしくお願いします
とごん、がががが、どすんどすん。
決闘の場として選ばれた試験場。
聞こえてくる愉快な破壊音をBGMに、ふたりのプレイヤーが向かい合う。
方や全身に金属の防具を着けた長身の戦士―――リーン。
身の丈に迫るほどの大剣を居合の如く前のめりに構え、ぐるると威嚇の唸りを上げている。
方や真っ黒なローブを纏った小柄な魔法使い―――リコット。
久々にかぶる三角帽子に顔を隠し、短めの杖を手の中で弄びながら静かに待っている。
決闘のフィールドとして区切られた半径10m程の空間の、その半径の中間ほどで向き合うふたり。
円の外では決闘開始のタイミングを委ねられたユアがきらりんとゾフィを侍らせてにこにこ笑いながら座り、その傍になっち(「・ω・)「が泰然と佇んでいる。
ふたりの準備ができていることを確認したユアは、そうして告げる。
「じゃあ、始めるよー」
「おいさー!」
なんとも緊張感のない声掛けに、リーンが元気よく応える。
リコットもユアに視線を向けて確かに頷き、それを受けたユアは目の前のウィンドウをタップした。
そのとたん始まるカウントダウン。
3―――
2―――
1―――ッ!
「うぅおっしゃおらぁあああ―――!」
鳴り響くゴングの音をかき消す咆哮。
大剣の切っ先で地面に線を刻みながら、リーンが地を抉り抜くような勢いで駆けだした。
同時にリコットが動く。
「『呪弾』『呪弾』」
杖がくるりとリーンのほうに向けられたときには、既に展開されていた魔法陣。
「しゃらくせー!」
続けざまに放たれる呪弾、しかしリーンそれに真っ向から突貫。
胸元と肩に直撃した呪弾は鎧に弾け、リーンの身体を暗い呪いが包む。
それでも一切構わないと突き進むリーンが、あっという間にリコットを射程圏内に捉えた。
リーンが瞳に炎を漲らせ、大剣を振るうため身体を沈ませる―――ことはできなかった。
「ぬぇっ!?」
ばしんっ!と、唐突に弾ける足元。
タイミングを合わせて差し込まれた魔力弾を踏み抜いたことによりバランスを崩したリーンはそのまま身体を投げ出すように倒れ込んだ。
「むぎゃ!」
どしん!ごろずざぁ!
盛大にすっ転んだリーンが地面を転がり滑る。
そうしてあっさりと大きすぎる隙を晒したリーンの頭に杖先が触れた。
「『光弾』―『拡散』」
「へぐぅ!?んにゃろっぬごぉ!?」
容赦なく叩き込まれるリコットの最大火力。
悲鳴を上げながらも腕をつき立ち上がろうとすれば、今度はその腕が魔力弾によって弾かれ立ち上がることすらままならない。
「『光弾』―『拡散』」
「ふぎぃ!?ぬむむっ!」
「『光弾』―『拡散』」
「みぎゃあ!」
「『光弾』―『拡散』」
「ひでぶっ!」
―――結局。
その後リーンは一度も立ち上がることを許されず、無情にもLPは消し飛んだ。
最後の一撃で光に散ったリーンが天に昇って行く中、試合終了のゴングが高らかに鳴り響く。
『第一試合』
『勝者:プレイヤー"リコット"!』
ファンファーレとともに告げるアナウンス。
決闘フィールドから締め出されたリコットと、リスポーンしたリーンがユアたちの傍に現れる。
「ゆぅあぁ〜!」
「お疲れ様、ふたりとも」
「ん」
リスポーンするなり泣きながら抱き着いてくるリーンと、当然とばかりに余裕綽々としたリコットを揃って抱き止めるユア。リーンは慰め、リコットは賞賛を称えてそれぞれ優しくなで可愛がる。
「ぐや゛じぃ゛……!」
「うんうん。いい勢いだったよ」
「う゛ぅる゛う゛ぅ……」
「うんうん。ナイスファイトナイスファイト」
「悔しすぎて人の器失ってないっすか……?」
「別に中に魔物とか飼ってないよ」
やや引いたきらりんの言葉にのんびりと返しながら、リーンの頭のてっぺんあたりを手のひらでなでなで。このスタンダードななでスタイルが、荒ぶリーンには効果てきめんなのだった。
「……すみやかにつぎをはじめますの」
「んー?ふふふ、そうだね」
リーンとリコットが戻ってきたせいでいったんお預けをくらったゾフィが、当然のようになっち(「・ω・)「に抱っこされながら口を尖らせる。
そんなゾフィに頷いたユアは、若干落ち着いてきたリーンの頭を肩の上に誘導し、リコットを膝の上に枕させた上で傍らにゾフィを招く。
やや不満げながらも寄り添ってくるゾフィもなでなでの対象に入れつつ、ユアはきらりんとなっち(「・ω・)「をそれぞれ見回した。
「さて、じゃあふたりともいける?」
「もちろんでございますユア様」
「あー、おけ。いけるっすよ」
「うん。じゃあ早速だけど第二試合始めちゃおっか」
にっこりと笑ったユアに見送られ、そうしてふたりはそれぞれ決闘フィールドの中へと転送されていった。
■
「っ、ふぅ……」
緊張は、正直、していない。
普段モンスター相手の戦闘の際も、ほぼほぼ常に途切れることなくユアの意識が自分に(より正確に言うのなら自分たちだが、あえて馬鹿になるのも悪くはない)向いているのだと実感している。だから今更緊張はしない。
しかしきらりんはそれでも、武者震いを止められなかった。
向き合って立つなっち(「・ω・)「。
しょせん後衛などと未だに胸にあったわずかな緩みが、こうして向き合うとあっという間に消失していた。
強い。
具体的になにがどうということではない。
ただ、間違いなく彼女は強いのだと、確信する。
先程リコットの戦いぶりを見たというのも恐らくは理由のひとつだろう。
肉体的に貧弱になりがちな後衛であるという事実は、一対一の決闘においてもアドバンテージとして存在できるのだ。
絶対に負けられないと、気持ちを引きしめるきらりん。
そこへユアからの確認の声が届き、そうして、カウントダウンが始まる。
1秒で両手に長剣を携えた。
1秒で前のめりに疾走の体勢をとった。
1秒で世界を切り離した。
ゴングの音が鳴り響くと同時、疾駆―――ッ!
「っ、」
流れるような動作から放たれる一射。
矢じりの向く方向を判別する時間はほんの刹那しか与えられず、きらりんは直感に基づき長剣を振るう。
カインッ!と、手に感じる痺れと共に確かな手応え。
目にも止まらぬ早さで飛翔する矢を長剣で払い落として見せたきらりんはなおも走る。
第二射。
それを長剣の腹で逸らし通り抜ける頃には、すでにそこは己が制空権。
矢を放った直後の体勢で直立するなっち(「・ω・)「から確かな隙を見てとったきらりんは、それをモノにするため全霊でもって長剣を振るう。
びゅおんっ!
盛大な音を立てて、空を斬る。
驚愕に目を見開くきらりんの視界の中で、既に弓も矢も手にしていないまま懐に潜り込んだなっち(「・ω・)「の瞳が残光を刻み閃いた。
とすっ、と。
軽々と、浮かぶきらりんの身体。
どう力を込められたのかも判然としない、魔法で空を飛ぶような心地。
それを楽しむ余裕など当然与えられず、次の瞬間にはきらりんは頭から地面に叩きつけられていた。
視界が明滅し、身体が反射的に弾む。
それでもまだ足掻こうという動きすら許されず、頭部を砕きねじ込まれる鉄の感触。
そうして、それで終わりだった。
敗北を理解する余裕もないままに、気が付けばきらりんは立っていた。
唖然としてまたたくきらりんの手が、そっと引かれる。
引かれるままに、崩れ落ちるように座り込む。
とすっ、と抱き留められる心地に、ようやくきらりんは現実を理解した。
「まじ、っすかぁ……」
「ナイスファイト」
「……あははは、さんきゅっ、す」
よしよしと頭を撫でながら慈しむように見下ろすユア。
ぎこちなく笑い返せば、ユアはゆっくりと頷いて、それから視線を向こうに向けた。
「なっちもね。流石って感じかな」
「強敵でございました」
「えへへ、きらりんは凄いでしょ」
「……いや、完敗っすよ」
なっち(「・ω・)「の言葉に、誇らしげに笑うユア。
堪らなくなって口を挟むと、ユアはぱちくりと瞬き、そしてそっと目を細める。
なにを言うでもなく、ただ頬に触れる手。
ああなるほどこれかと、きらりんは不意に思った。
ユア―――綾という人間は、これほどあっさりと正解をくれる。
「次は、負けないっす」
「組手程度であればいつでもお相手いたしましょう」
勝者と敗者はそんなあっさりとしたやり取りを交わして。
そうしてしばらくの後、ユアの可愛がりを独占するきらりんに各所から抗議の声が上がったりしつつ。
残るは決勝のみとなった。
■
《登場人物》
『柊綾』
・予想していなかったかといえば、まあ、予想していたんですけどね。鈴は鈴だし。杏ってのが相性悪すぎる。きらりんもまだギリギリ人間スペックですし。普通の人間がタイマンで如月さんに勝つことは多分ほとんど、それこそよっぽどハンデとかないと勝てないだろうなあと。
『柳瀬鈴』
・全然本気で勝つ気でしたよ?とりあえず大剣ぶち当てれば勝ちっていうひどくシンプルな事実でゴリ押ししようとしたけれど、もちろんそんなものが通用する訳もなく。どんまい。
『島田輝里』
・久々にあんな一方的に敗北したので、結構ワクワクしていたりして。これはちょっと本気出すしかねえな……。
『小野寺杏』
・魔力弾を踏ませるという鬼畜戦法。歩幅とかを計算して完璧なタイミングで差し込まないとできない所業。ついでに呪弾を撹乱に使うという念の入れよう。なんならあの一撃が実質トドメみたいなところありますよね。
『沢口ソフィア』
・自分は代理を立ててリワードだけかっさらおうとしながら当然なでなでも享受するという……なんか……まあ年齢が年齢だからさ。そういう自己中心感は仕方ないよね。なにげに如月さんの勝ちを疑ってない辺りはさすがと言うべきか。
『如月那月』
・投げて落として頭を射抜いた。スーパー使用人はスーパー使用人なので対人戦闘もバリバリこなす。経験豊富なお姉さんなんですよ。ええ。本当は触れるまもなく殺すつもりだったけど思いのほか反応良くて、なるほど対人戦闘には慣れているのかと理解したので急遽方針変更。だから、強敵と言ったのは思った事実を口にしただけなのです。
ご意見ご感想批評批判いただけるとありがたいです




