043話 クラン
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クラン。
ひとりをクランリーダーとした4人以上のプレイヤーにより構成されるチーム。
獲得EXP増加・ドロップアイテム増加・アビリティ解放基準緩和などなどクランメンバー全体に影響を及ぼす効果のある『クランロール』の設定を始めとしたさまざまなシステムが使用可能となる―――が、一行にとってそれは副次効果である。
クランメンバーは、プレイヤー名の上にクラン名を冠することができるようになる。
ユアをリーダーとした(既定路線)集団の名を冠するという点で、当然のように面々はクラン創設に前向きとなった。ユアとしても神輿になるに否はない。
とはいえ、これまで話にも上らなかっただけあり、無条件で創設できるものでもない。
クランを創設するためにはいくつか条件が必要となるが、そのひとつがユアたちには大いなる問題だった。
すなわち、拠点の存在だ。
AWにおいては、『ホーム』というシステムが存在している。
プレイヤー個人で所有する居住施設のことであり様々に有益な機能が備わっているのだがここではいったんそういった利点は置いておく。
クラン創設の際には最低ひとつのホームを有し、それをクランホームとして設定する必要がある。
つまりそもそもホームがなければクランを創設することもできないということで、ではどうやってホームを用意するのかといえば、それはひどく単純な話、マニによる購入に限られる。
「家、かあ……高いんだろうね」
「わたし調べだと、最低100,000マニっすかね」
「じゅっ、おぉう……」
ケーキにすら苦慮するユアたちにその桁数はあまりにも現実味がなく、むしろ現実的な実感がもしかしたら家一軒十万は安いのではないかと錯覚を与えてくる。
当然そんな訳もなく、ユアはむむむと眉根を潜めた。
「それは、またけっこう壮大な計画になりそうな感じ」
「まあだから目標って感じなんっすけど。なんもないよりいいっすよね」
「それもそうかも」
そんな訳で、今後の指針としてクラン設立を目指す、という程度のなんということはない結論になって話は終わる。
そのはず、だったのだが。
「……あ、これサブリーダーとかもあるんだね」
始まりは、クランのウィンドウを眺めていたユアのそんな言葉だった。
その言葉の通り、クランにはリーダー(ユア)と別で『サブリーダー』という役職がある。自然とパーティよりも規模の大きくなるクランを運営する上で、リーダー(ユア)の補助となる役職だ。
リーダーの補助である。
つまりそういうことである。
みしり、と、空間が軋む。
「あー、絶対荒れるから触れなかったんっすけど」
「うーん。まあ、正直ちょっと反省だよね」
もはや視線をユア以外に向けるまでもなく察するに容易いきらりんのしかめつらとユアの苦笑。
反省、などと言いつつ瞳のきらめきを隠しきれていないユアにきらりんは盛大にため息をついた。
しかしながらきらりんも色々なことを決意した身、遅れをとる訳にはいかないと気を引き締め、睨み合う三者に果敢に混ざりにいく。
「いちお聞くっすけど、」
「聞くまでもなかろー!」
「ん」
「すべからくゾフィのばしょですの♪」
「話し合うつもりがねーってのはよく分かったっす。気が早いっすねーまったく」
言葉を遮り獰猛に笑うリーン、然り頷くリコット、ひたすら我がままにあるゾフィ。
三者三様に一様な反応にやれやれと呆れて見せながら、きらりんは握り拳をすっと差し出す。
「まあこーゆーのは手っ取り早くじゃんけんで決めるって相場が決まってるっすよね」
「この前ずるしたからなしー!」
「いや別にルールに抵触するようなことはしてないっすよ?」
「なーしー!」
「分かったっすよ……」
以前に東の街を探索しているときの付与魔法争奪戦で瞬殺されたのを根に持っているらしいリーンの拒否でしぶしぶきらりんは拳を収める。せっかくだからリコットにとんでもない初見殺しでやられた雪辱を晴らしてやろうという意気込みだったが、仕方ない。
「じゃあどうするっす?話し合うっすか?クラン設立までに終わる未来見えないんっすけど」
「むぅ……はっ!うでずもー!」
「リコットとゾフィがいるんだよ、リーン」
「むぐぅ……」
「なにもむずかしいことはありませんの♪」
リーンが難しそうに口をひん曲げていると、そこへゾフィが口を挟む。
集まる視線を見回し、そしてゾフィは歌うように告げる。
「たたかえばいいんですの♪」
「むむっ」
「戦う、っすか?」
たとえ選択肢があったとして、もっとも口にしそうにないひとりから放たれたその言葉に、きらりんは怪訝な表情をする。
「ゾフィはなっちをだいりにたてますの。しょうしゃこそおねえさまのとなりにはふさわしいんですの♪」
「いや、まあなっちさんはただ者じゃないっすけど……」
「私に異論はございません」
きらりんが視線を向ければ、なっち(「・ω・)「は当然のように頷いた。
なるほど、とそれを受け取りつつ視線を向ければ、リコットはひどく不機嫌な様子で口を開く。
「……私も、そのつもりだった」
「まじすか」
サブリーダーを狙うもうひとりの後衛陣であるリコットが、非常に不服な様子ながらも前向きな様子を見せることにきらりんは驚いた。
そんな驚きをかき消すように、リーンがどすっ!と足を鳴らした。
「っし!決まりかー!もえるぞー!」
「いや、まあある意味願ったり叶ったりではあるんっすけど……」
「なんだかおもしろい展開になったねえ」
「若干不平等感は否めないっすけど……」
まさか手を組む意味もなく、戦闘、というのなら1vs1またはバトルロワイヤルの形式となるのは必然。
どちらにしても後衛陣にとっては不利になるだろうと思うきらりんに、ユアは楽しげに笑った。
「ふふふ、そうだね」
「いいんっす?」
「いいんだよ。まあ少しはね」
「……っす」
意味ありげに含ませるユアの言い草に、きらりんは納得いかなさげではあるものの頷く。
しかし考えてみればなっち(「・ω・)「に限らずリコットも恐るべき異能の持ち主であることに変わりはなく、どちらも単なる後衛職と見なすことなどできはしない。
なんにせよこういう流れになったからには全力を尽くそうと、きらりんは瞳に力を込めた。
そんな訳で。
クラン設立の方針をきっかけに、サブリーダー争奪戦という名の内部抗争が始まることとなった。
■
ルール1
戦闘の優勝者がクラン設立時にサブリーダーとなる。
ルール2
戦闘は『決闘』のシステムを使用して実施される。
その際のルールは『時間制限:なし』『敗北条件:死亡』『デスペナルティ:なし』、その他制限は一律でなし。
ルール3
戦闘はトーナメント方式で、厳正なるダイスロールの結果『第一試合:第一組"リーンvsリコット"、第二組"きらりんvsなっち(「・ω・)「(ゾフィの代理とする)"』の順に行われる。それぞれの勝者による決勝戦の勝者が本大会の優勝者である。
ルール4
戦闘中にユアは応援をしてはならない。
これは反応を返してしまったり片方への応援が不平等を生ずるからであり応援自体は本当はとてもしてほしいのでそこのところを履き違えないでいただけるとうれしいです。ちょっとだけなら応援してもいいです。
ルール5
戦闘中、ユアは戦闘していないメンバーを労う。
しかし戦闘に集中しないのは悲しいのでやっぱり戦ってるときは見ててほしいです。
「こんなもんっすかね」
「ところどころ私欲が滲み出ててとてもかわいいと思うよ」
「むむぅ……!」
ルール六(最重要!)
観てるときもユアはリーンが抱っこする!!!
「かんぺっき!」
「端から端まで私欲っすね!?」
「……」
ルール7
優勝したらユアさんからご褒美がほしい
「あはは。うんうん。いいよいいよ」
「くだらないことにじかんをつかわないでほしいですの♪」
「ゾフィはいいの?」
「どのみちおねえさまのすべてはしょうしゃのものですの♡」
「いつの間に私がトロフィーに……?まいいや」
ルール8
みんな仲良く頑張るように。
最後にユアがちょちょいと入力して、『サブリーダー争奪決闘大会規約』と題されたメモ帳が完成する。それを適当な位置にぽいと貼り付け、それからユアはメンバーたちを見回した。
「よし。じゃあぼちぼち初めていこっか」
「ん」
「おっしゃー!勝つぞー!」
「っすねー」
「はいぼくをうけとるつもりはありませんの」
「最善を尽くしましょう。勝負は時の運と申します故確約はしかねますが」
そんなのんびりした開会宣言に、各々が各々で意欲を示し。
そうしてさっそく、戦いは始まる。
■
《登場人物》
『柊綾』
・自分を取り合う面々に胸踊る性悪。いやもちろん、いがみ合ってるとかじゃないからっていうのが前提ではありますが。
『柳瀬鈴』
・リーダーとサブリーダーとかなんかカッケーじゃんね。つまりそーゆーことだ!
『島田輝里』
・不公平とかじゃんけん提案したお前が言うのかよ。でも多分じゃんけんってそこまで輝里有利ではないんですよね。手の動きとかほとんど見抜けるとはいえ、リーンはまあアレとして、リコットはまだまだ手の内の一部しか晒してませんしスーパー使用人はスーパー使用人なので。
『小野寺杏』
・杏さんは杏さんなので決闘でもなんら問題はないです。
『沢口ソフィア』
・わがままってのは我がままなのでつまりそれはソフィの存在そのものを指す訳ですよ。えにうぇあえにたいむそふぃ。如月さんは使用人なので実質ソフィの力です。異論は認めねえ。
『如月那月』
・なんだかあんまり乗り気じゃない風。まあ勝ってもなにも嬉しくないしね。粛々とやるのみですよ。
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