042話 〜AWぐる〜
更新です
進まなすぎですが。
〜AWぐる〜
【"あや"が"りんりん"をグループに招待しました】
【"あや"が"Apricot"をグループに招待しました】
【"あや"が"ソフィア"をグループに招待しました】
【"あや"が"如月"をグループに招待しました】
【"あや"が"きらり"をグループに招待しました】
【"りんりん"がグループに参加しました】
【"Apricot"がグループに参加しました】
【"如月"がグループに参加しました】
―――
年が明けて。
またまたのんびりと過ごしていた綾と鈴だったが、突然に鈴がAWをしたいと言い出した。
綾としては鈴がそれを望むのならば文句のひとつもなく、早速みんなを誘うためSNSでグループチャットを開設したのだが、一斉招待が終わるとほぼ同時に参加者がやってきた。
「はやっ」
「暇人だなー」
「そういうことでもないと思うけど」
ほへーと感心しながらの無礼千万な鈴の言葉に苦笑しつつ、綾はメッセージを送る。
―――
〜AWぐる〜
【"如月"がグループに参加しました】
『はやいね《あや》』
『こんにちは《あや》』
『《りんりん》こんちー!』
『《Apricot》今日は』
『《如月》ご』
―――
無難な挨拶をする『あや』こと綾と、チャットでも話し方の変わらない派の『りんりん』こと鈴。
返信をするのは、こんにちはを変換しがちな『Apricot』こと杏と、内容が謎な『如月』こと那月。
綾はかなり正確なところで那月のメッセージの意味を把握し、笑う。
「あはは、如月さんだなぁ」
「ごー?」
―――
〜AWぐる〜
『《Apricot》こんにちは』
【"如月"がメッセージの送信を取り消しました】
『《如月》こんにちは皆様』
『わざわざ取り消さなくて大丈夫だよ《あや》』
『《如月》かしこまりました』
【"きらり"がグループに参加しました】
『《きらり》こんにちは』
『あ、きらりちゃんきたー《あや》』
『こんにちは《あや》』
『《如月》こんにちは』
『《りんりん》こにゃちー!』
『ソフィは?《あや》』
『《如月》ただいま端末をお持ちしています』
『《如月》しばしお待ち下さいませ』
『ああ、ケイタイ携帯してないもんね《あや》』
『《きらり》りんりんがリーン』
『《きらり》如月さんがなっちさん』
『《きらり》ソフィさんがゾフィちゃん』
『そうそう《あや》』
『《きらり》でいいですか?』
『《きらり》了解です』
『そういえば紹介とかしてなかったね《あや》』
『《りんりん》リーン!』
『《如月》如月 那月と申します』
『《如月》改めてよろしくお願いいたします』
『《きらり》これはご丁寧に。どうもありがとうございます』
『《きらり》島田輝里です。読みにくいですが、キラリと読みます』
『《きらり》こちらこそよろしくお願いします』
―――
「わたしもやったほーがいい!?」
参加するなりAWでの雰囲気とは打って変わって真面目なやり取りを交わす『きらり』こと輝里に、自分も真面目口調でやった方がいいかとあわあわする鈴。
「いや、別に普通でいいから普通で。ちょっと面白くて見てたけど」
「分かったー!」
―――
〜AWぐる〜
『《きらり》こちらこそよろしくお願いします』
『《りんりん》柳瀬 鈴だよ!』
『《りんりん》よろしくねー!』
『《如月》よろしくお願いいたします』
『《きらり》よろしくお願いします』
『《Apricot》小野寺杏』
『《Apricot》宜しく』
『《如月》よろしくお願いいたします』
『《きらり》よろしくお願いします』
『《りんりん》しくよろー!』
『今更だけど《あや》』
『ソフィも揃ってからの方が良かったよね《あや》』
『《きらり》確かにそうですね』
『《如月》履歴が残っていますので問題はないかと』
『まあ確かにソフィは気にしないけど《あや》』
『《りんりん》もっかいやればー?』
【"ソフィア"がグループに参加しました】
『あ、きたー《あや》』
『こんにちは《あや》』
『《ソフィア》"@あや"ごきげんようお姉様?』
『《きらり》こんにちは』
『《りんりん》こんにちは』
『《ソフィア》自己紹介は必要有りませんの?』
『《りんりん》さー?』
『《きらり》疑問符?』
『《ソフィア》"@あや"そんなことよりお姉様のお顔が見たいんですの?』
『ソフィ“?”好きなんだって《あや》』
【"ソフィア"がビデオチャットへの参加を求めています】
【画面下の"ビデオチャットに参加する"より参加してください】
『あー《あや》』
『今ダメな人いる?《あや》』
『《きらり》なるほど好みですか』
『《ソフィア》"@あや"いませんの?』
『《Apricot》問題ない』
『《如月》問題ありません』
『《きらり》すみません10分待ってください』
『《きらり》お願いします』
『《りんりん》おけー!』
『じゃあビデオチャットでお話しよっか《あや》』
『"@きらり"急がなくて大丈夫だよ《あや》』
―――
参加したと思えば早々にわがままを発動するソフィアの提案だったが、輝里以外は特に問題がないらしい。
そんな訳で綾がビデオチャットに繋げると、みっつのウィンドウが迎えた。
満面の笑みで高そうなチェアへ優雅に腰かけるシックなドレス姿のソフィア(結局PCから参加しているらしい)とそのソフィアの後ろに控えるスーツ姿の那月が『ソフィア』のアカウントから、以前綾がせがまれて置いていったカッターシャツだけを着てベッドに横たわる杏が自分のアカウントからそれぞれビデオチャットに繋げていた。輝里も参加自体はしているようだったが、カメラをオフにしているらしい。
せっかくなので自宅のカメラ付きディスプレイに映像を出力し、綾と鈴は椅子を並べて一緒に画面に映る。
「お待たせ。あ、あけましておめでとー」
「あけおめー!」
『あけましておめでとうございますのおねえさま♡』
『ん。あけおめ。ことよろ』
『あけましておめでとうございます綾様』
『あけおめっすー!』
すっかり忘れていた新年の挨拶に、遠くから聞こえてくる輝里の声が混ざる。
それに紛れる、なにやら忙しないことが伝わってくるどたばたした音に生活感やライフスタイルの一端を垣間見たような気がして、綾は胸の内を疼かせた。
「ほんと急がなくていいからねー、輝里ちゃん」
『はいっすー!もうしばしお待ちをー!』
しばらく、きらりんを待ちのんびりと雑談に花を咲かせる。
そうして、メッセージでのやり取りからきっかり10分程度で、輝里はビデオチャットに顔を出した。
『おまたせしましたっす』
はぁ、ふぅ、とやや息を荒らげる輝里が軽く片手を上げながら画面に映る。
仕事場ではなかなかお目にかかれない緩めのセーターとちょっとだけ跳ねた髪のプライベート感は感動もので、恐らく相当な値段がするだろうがっしりとしたフルダイビングチェア(フルダイブVRでも身体を痛めないよう様々な機能を搭載した椅子。ともすれば専用ベッドよりも断然高いが、その分椅子としての利便性は高くそこそこ普及している)に小柄な輝里が座っている姿はなんともいえない趣を感じる。
「ごめんね急かしちゃって」
『やや、だいじょぶっす!全然ほんと大したことじゃないっすから!』
からからと笑いながら、輝里は画面に映った自分の映像を見てそれとなく前髪を整える。
どうやら輝里はかなり頑張って身だしなみを整えようとしてくれたらしいと綾は理解した。そうして少しでも格好つけようとしてくれることに微笑みつつ、ソフィア辺りの視線がひえひえしてくるのを感じて、こほんとひとつ咳払い。
「じゃあみんな揃ったし本題に入るんだけど、みんな今からちょっと時間空いてる?」
「あなわしよーぜ!」
「そういうことなんだけど」
どうかな?と綾が身を乗り出した鈴を引き戻しながら言えば、返ってくるのは当然のような返答ばかり。
『もちろん行けるっす!』
『もんだいありませんの♡』
『お嬢様も私も予定はございません』
『いく』
「よかった」
前向きな返答に頷き、それから綾は時計を見る。
時間は昼間と夕方の境目的な微妙な時間帯。
ここからなにか予定があるというのもあまりなさそうではあったが、綾は一応尋ねておく。
「じゃあどうしよっか。何分後ならみんな集まれそう?」
「今からー!」
『わたしも今からでいいっすよー』
『ん』
『おねえさまがのぞめばソフィはいつでもおそばにおりますの♡』
『こちらもいつでも合流可能です』
「分かった。じゃあ今からすぐっていうことで。またAWでねー」
ばいばい、と手を振れば、画面の向こうからも手を振ったり礼をしたりと返ってくる。
しばらくそうして別れを謎に惜しんだりもしたが、新年早々に一行はAWに集結することとなる。
チャットを抜けた綾たちもさっそくベッドに横たわりVRへと沈んでゆく。
そうしてAWにログインしてみれば、案の定とでも言うべきかすでに他のメンバーは揃っている。
城門の前に降り立ったユアの元にあっという間にメンバーは集った。
VRとはいえ対面できたからということで改めて新年のあいさつを交わし、それから一行は人気のなさそうなところに移動する。
「やー、突然誘っちゃってごめんね。リーンがやろーって言いだしたから」
「うむ!」
「やや、むしろ嬉しいっすよ。誘ってくれてありがとっす」
「ん」
「もっとおさそいしてほしいですの♡」
「ユア様のお誘いであればいつ何時であれ喜ばしいものでございます」
「あはは、そう言ってくれるとありがたいや」
にこにこと嬉しそうに笑うユアに、きらりんが「あっ」と声を上げて手を打つ。
そうしてリコットに視線を向けると、リコットはこくりとひとつ頷いた。
「なになに?」
「や、じつはわたしとリコットさんから先輩にプレゼントがあるんっすよ」
そう言ってきらりんはインベントリから、例の長剣を実体化して見せる。
それを一目見ただけで正体を見抜いたユアが、「わぁ!」と瞳を輝かせる。
「うそっ、あの剣だ。え、どうしたのこれ!」
「昨日リコットさんと一緒に稼いで買ったんっす!もともとはリコットさん発案なんっすよ!」
「ユアさん、欲しそうだった、から」
「わぁ、どうしよ、ほんと嬉しい……!ありがとリコット!きらりん!」
おいでおいでと手招きするユアは、近づいてきたリコットときらりんをこれでもかとなでなでする。
リーンやゾフィがむぅ、と口を尖らせやや不満げではあったものの、いったん後回しにしてユアは自分の喜びを表情と指先で伝えた。
まさかほんとうにここまで喜ぶとは、と少し面喰うきらりんだったが、なでなでにより強制的に与えられる幸福に驚きはあっという間にどこかへと消え、ただただ妙な誇らしさと嬉しさに無邪気に笑みを浮かべる。リコットもなんとも満足げな様子でなでなでを満喫し、くるくると喉を鳴らして喜んだ。
ひとしきりなで可愛がったところで、ユアはきらりんから長剣を受け取った。
同時にシステム的にも譲渡をすませ、正式に自分のものとなった長剣をユアは天上に掲げて「おおー」と歓声を上げる。
「やっぱりきれいだなあ……」
「わかんなーい」
「ふつうのけんですの」
「あはは、ごめんごめん」
むっつりするリーンと冷ややかな表情のゾフィをなでなだめる。
そんなユアたちに、きらりんがばつの悪そうに声を上げる。
「あー、でも正直それ気になってたっす。どの辺が凄いんっす?」
「んー、なんだろねー」
にこにこと、まるでなにかを見透かすように笑うユア。
きらりんは今更になってなんとなく嫌な予感を覚え始める。
そんな空気をあっさりと切り裂くように、ユアは長剣をインベントリにしまうときらりんとリコットに微笑みかけた。
「ありがとね。とっても嬉しい」
「……ま、喜んでもらえたならよかったっす」
結局きらりんはひとまずその予感を脇に置いておくことにする。
なにはともあれプレゼント作戦は成功ということだ。
それで今は納得しておくことにして、きらりんはもうひとつ、次にこのメンバーで揃ったらしようと思っていたことを口にする。
「ところでみなさん。ひとつ提案なんっすけど」
言いつつ、きらりんはすすっとウィンドウを操作する。
そうして目当ての項目にたどり着くと、それを共有化して示した。
「クラン、作ろーっす!」
「クラン?」
「むむっ」
はてなを浮かべるユアに、なにやら心当たりがあるのか反応を示すリーン。
リコット、ゾフィ、なっち(「・ω・)「もきらりんの示すウィンドウに視線を向けた。
「クランってのはっすね」
それを見てとったところで、きらりんはその“クラン”とやらについて説明する。
これがきっかけでひと騒動起こることになるなどと、このときのきらりんに知るよしはないのだった。
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《登場人物》
『柊綾』
・別になにを見透かしてるでもなくて、ただ単に微笑ましいものを見るような感じ。一目すらなくともこと足りるというのだから驚きです。
『柳瀬鈴』
・同じ枠の中に綾と写ってるとか優越感。むふん。
『島田輝里』
・最低限の身だしなみを整えようとしたらしい。常に両手で別のことしてるくらいの勢いで頑張ったけど10分は短すぎた。でも言ってしまったのだから仕方ない。AWについて調べてる時に面白いこと知ったので提案してみたけど、はてさて。
『小野寺杏』
・とりあえず長剣喜んでもらえたからそれで満足。輝里の嫌な予感とか今更すぎて呆れてくるね。
『沢口ソフィア』
・最初はハートマークだったけどなんか自分でそんなん付けるタイプじゃないよなって思ったので謎の好みが追加されました?でもクエスチョンマークって可愛くないですか?わりと好きなんですよ?いや、ソフィがですけど?
『如月那月』
・主人を差し置いてチャットとかしちゃう系の使用人。リスペクトはないです。スーパー使用人はスーパーなのでその辺は自由なのだ。
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