040話 段階はみっつ
更新です
40話ってなんだかあんまりキリが良さそうじゃないですよね。不思議。
段階はみっつ。
ぎゃりぎゃりと音を立てて、やがてばぢっ!と弾けるような音とともに突然に周囲のガスが励起し、そして最後に爆発を後押しに加速して突っ込んでくる。
その速度は軌道を予測し爆ぜる前に回避行動を取っていなければ確実に体の一部が持っていかれるだろうと理解できるほどであり、にもかかわらずランプダンパーはわずかに動きを止めるだけで即座にまた元気に跳ねまわるというのだから理不尽に過ぎる。
その弾丸突進攻撃を何度か繰り返す中で、きらりんとなっち(「・ω・)「はその原理をある程度把握できていた。
鍵となるのは、音だ。
最初のぎゃりぎゃりという音は、ランプダンパーが内部に取り込む金属や鉱石をすり合わせる音。雷雲がそうであるかのように摩擦したそれらは静電気を発生させランプダンパー内部に蓄える。
次のばぢっ!と爆ぜるような音は、さながら雷のように蓄えきれなくなった静電気が放電される音。この放電により感電したガスが励起状態となり、うすぼんやりと光るようになる。
そうして最後に衝突で弾んだ火花がガスに点火、接地面を起点に発生した燃焼は気体体積を爆発的に膨張させながら延焼し、結果ランプダンパーを弾丸のごとくに加速させる。
そういった機序さえ分かってしまえば、きらりんやなっち(「・ω・)「がそれに対応するのに時間はさして必要なかった。
「3秒後、こちらです」
「ぃっす!」
なっち(「・ω・)「の端的な言葉と共に放たれる矢がランプダンパーに突き刺さる。
突撃するランプダンパーを掻い潜りながら了解を告げるきらりんは反射してくるランプダンパーを殴り付けその場を退避。
直後ランプダンパーのターゲットがなっち(「・ω・)「へと向き、それを知っていたなっち(「・ω・)「は軽やかに身をかわした。
そしてきっかり3秒後、ランプダンパーは炎をまとい爆ぜる―――ッ!
ゴドゥンッ!!!!
地面に叩きつけられるランプダンパーの巨体に、壁を蹴りひらりと飛び越えたなっち(「・ω・)「の矢が次々と突き刺さる。
負けじと弾んだランプダンパーだが、ひらりひらりと軽やかに踊るなっち(「・ω・)「をかすることすらできずに空を切った。
そこへ突貫するきらりんのメイスと、少し遅れてまた顔を出したリコットの魔法がランプダンパーを叩く。
結局のところ突進一択の相手など、パターンを読み切れば作業でしかない。
事故を起こせば容易くひき肉とはいえど、きらりんとなっち(「・ω・)「ではあまりに相手が悪かった。
びぎっ、と、その音を捉えたのはなっちに限らない。
ランプダンパーの身体に入ったヒビ。
一行は勝利が近いことを察し、きらりんは獰猛に笑う。
ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ―――!
緩みそうになる空気を裂くように、ランプダンパーから響く耳障りな音が加速する。
ばぢっ!と、弾ける音。
発生しているのはこれまでと同じ現象。
次の瞬間を予測したなっち(「・ω・)「が一足早く安全圏へと逃れ―――
ボォゴォォ!バォァン!
二連する爆音。
咄嗟に移動をやめ飛び退いたなっち(「・ω・)「の眼前を通過するランプダンパーが壁面に叩きつけられ石片を散らす。
もし仮にあと一歩進んでいたら確実に直撃していたという事実の前にありつつも、弾ける破片をすり抜けるように距離をとったなっち(「・ω・)「は冷静に状況を把握していた。
一度目は同じように天井に衝突して点火した。
しかし今度はさらに空中で二度目の励起→点火を起こすことで、なっち(「・ω・)「の回避先を潰しにかかった。
最後のあがきというにはやや凶悪な軌道変更、しかしここまで戦ってきたなっち(「・ω・)「はきらりんであれば問題ないだろうと一瞬だけ視線を交した。
きらりんはその表情を喜悦に満たしながらも然りと頷き、さすがに再起動に時間のかかるらしいランプダンパーへと果敢に飛びかかっていく。
数秒の静止を経て再起するランプダンパーの動きに陰りはない。
ぎゃりぎゃりとやかましい音が、少しずつギアを上げるように加速していく。
そんなさなかで、ユアは下層のふたりにあるメッセージを飛ばした。
その内容を受け、ふたりは視線を交わして頷き合う。
「っし!もーちょっと付き合ってもらうっすよ石っころ!」
休みなく突撃してくるランプダンパーを殴りつけながら高らかに告げるきらりん。
それに応えるようにますますと加速する摩擦音。
なっち(「・ω・)「は忙しなく視線を巡らせながら適度に矢でダメージを与えていく。
その途中で、なっち(「・ω・)「の元へアナウンスが届いた。
『称号【百発百中】を獲得しました』
それを聞き流しつつ、なっち(「・ω・)「はきらりんへと告げる。
「3秒、そちらです」
「ひゅう!しょーねんばっすね!」
楽しげに笑ったきらりんは、そして突撃するランプダンパーを見据える。
その突進を回避しながら自らの立ち位置を調節、見上げればユアが自分を見ているという事実に胸を躍らせるきらりんの耳が、ばぢっ!と弾ける音を捉える。
同時に、跳躍。
次の瞬間爆音とともに弾かれたランプダンパーがきらりんのいた地面を目掛けて飛翔し。
そして二度目の、爆音。
V字を描くように反転するランプダンパー。
空中のきらりんは天井の穴にメイスを引っ掛け自分の身体を放り投げるようにしてそれを回避。
次の瞬間ランプダンパーは、轟音を立てて天井の穴を塞いだ。
「やっちまえーっ!っすー!」
空中でくるりと体勢を整えながら、きらりんは叫ぶ。
―――例えばランプダンパーに視点があるとして。
それが最期に見たものは、煌々と輝る太陽だった。
「―――『迸る大火』、ですの♡」
穴を埋め尽くし迸る大火。
落ちゆくランプダンパーの身を包む炎。
それはランプダンパーにはいった亀裂の中にすら届き―――
ドッゴォオオオンッ!!!!!
「おおおおお!??!」
「ッ、そうなりますか」
岩石球が、爆ぜて散る。
撒き散らされた岩石弾に絶叫しながらも全力で叩き落としていくきらりんとやや険しい表情ですり抜けるなっち(「・ω・)「。
やがて全てが降り止んだところで、一行にアナウンスが届く。
『【ランプダンパー】を討伐しました』
『初回討伐報酬として2,500EXPを獲得しました』
『ドロップアイテムの分配を行ってください』
「……♡」
「よしよし」
最後の爆発で飛んできた石の破片が肩に当たったゾフィは、しかしそんなこと気にならないほどに蕩けた笑みを浮かべているので、ユアはむくむくと愛しさを湧き上がらせながらなでなでする。
そうして危険域に落ちていたLPが回復しきった頃には、下層のふたりも上層へと登ってきていた。
「やー、死ぬかと思ったっす!」
「ただいま戻りました」
「ふたりともお疲れ様」
当然下層で頑張ってきたふたりもユアはなで可愛がる。
戦闘後の処理もそっちのけでしばらくなでなでタイムを過ごしたところで、ユアがしみじみと言った。
「それにしても、びっくりしたね。なにあれ」
「恐らくはヒビの中に残留していたガスに引火したのかと」
「考えてみればそうっすよねー。……ちなみにゾフィはなんでそんななんっす?」
「爆発したからだよ」
「あはいっす」
恍惚の笑みを浮かべてユアのなでなでを享受するゾフィは、なんというかとてもやばそうな光景だった。
しかもその理由までやばいらしいことを察したきらりんは、懸命にも追求するのをやめておくことにした。
「それより、ドロップ分配制らしいっすけどどうするっす?」
「ああ、それね」
ランプダンパーが特殊な敵だからか、そのドロップアイテムはパーティ内で分配するという形になるらしい。とどめをさしたプレイヤーが総取りというこれまでの形式でないのは、無駄な諍いを避けるためだろう。
一覧になって提示された色々な鉱石を眺めながら、ユアはふうむと唸る。
鉱石の中には、魔金鉱石や魔銀鉱石などなどこれまで手にしたことのないレアっぽい鉱石もちらほら混ざっている。それらは当然人数分あるでもない。
が、そもそも即席パーティでもない一行なので、誰がドロップアイテムを入手したところでさして違いはないという結論に至った。
他の面々からも特に要望はないらしく、ここは大人しく『ランダムに分配する』という項目を選択することにした。
ランダム、という割に軒並みレアな鉱石が自分のインベントリに収まったことになんとなくユアは申し訳ないものを感じつつも、むしろ他のメンバーが嬉しげなので気にしないことにする。
それから一行は、各々レベルアップの処理を行った。
初回討伐特典でかなりの経験値が与えられたことで、全員がレベルアップしている(ユアリンLV.14→16、きらリコLV.14→15、ゾフなちLV.12→14)。
また、ユア、きらりん、ゾフィ、なっち(「・ω・)「はそれぞれ新たなアビリティを取得した。
ユアはリコットとお揃いの『マナチャージャー』のみ、ゾフィは『魔法使い』を取得した程度だが、他ふたりは新規のアビリティだ。
きらりんの取得したのは、『戦術』というアビリティ。
『戦術』(EXP3,000)
・あらゆる戦闘行動時に補正。
『剣術』に並ぶ『〜術』系アビリティのひとつらしいが、あらゆる戦闘行動というその範囲の広さはきらりんにはぴったりだった。
なっち(「・ω・)「の取得したアビリティは、既に前衛メンバーの全員が取得している『ボディービルド』と、新たに『ホークアイ』というアビリティ。
『ホークアイ』(EXP3,000)
・MP消費:1.0%/s
・焦点に向けて視界をズームさせる
これまたなっち(「・ω・)「にぴったりなアビリティであり、特に迷いなく取得した。
ついでになっち(「・ω・)「は戦闘中に『百発百中』という称号を獲得していたが、その効果はヒット回数に合わせて最大1.5倍まで遠距離攻撃のダメージを増加させるというもの。今のところ正しく百発百中の精度を誇るなっち(「・ω・)「に、なるほど相応しい称号といえる。
他のメンバーは、ひとまず今回は保留となった。
そうしてアビリティの取得まで終えたところで、改めて労いのなでなでタイムへと突入する一行。
初のボス戦は、ユアたちの完全勝利で幕を閉じたのだった。
しばらくなでなでタイムに興じていた一行は、やがてその場を後にする。
積極的に探索を続ける程の時間はないので、アイテム換金がてら職人の街サザンロックへと戻る。
鍛冶師ギルドでドロップアイテム(レア鉱石除く)を納品すればそこそこのマニになり、一行の懐は潤った。ケーキも余裕で人数分食べられる。
とそこできらりんが、南エリアでもう少し稼いでいくことを提案した。
驚く程に稼げなかった東の街のことを思えば、西のエリアで稼げるとも限らない。
なにより貴重な純度100%のイチャイチャであるケーキタイムが失われることは、なんだかんだきらりんには許せないことだった。
そんなきらりんの意見に反対する声もなく、一行は次回もまた南エリアで稼ぐことにして、サザンロックをリスポーン地点に設定した。
最後に別れを惜しむようになでなでタイムを挟み、それから一行はログアウトした。
■
《登場人物》
『柊綾』
・結局初ボスでまともに貢献していないという事実。付与魔法使ったので実質MVPということにしましょう。領域魔法とは致命的に相性が悪い相手だったので仕方ないですね。
『柳瀬鈴』
・ひっそりとレベルアップでSTR上がっていたりする人。基本的にそれは増加する度リセットされるタイプの数値なので、今回のSTRは多分ほんとぜんぶ運搬によるやつ。戦えよ。
『島田輝里』
・つるはしは壊したけどメイスは壊さなかったよ。落ちてきた破片にあたったダメージと、跳ねまわってるときにかすったり飛んできた破片のダメージで実は割と危険域だった。とりあえず最後まで戦い抜けて大満足。
『小野寺杏』
・ユアがおそろいのアビリティを取得して上機嫌。ちょろいね。なにせ相手が相手なのでコンスタントに魔法をぶち込み続けた分ダメージ量で言うと結構な貢献度だったりする。
『沢口ソフィア』
・最後の締めをぶんどってご満悦。爆発したし。やっぱり爆発はいいね。爆発だもの。うんうん。もっと爆発させたいなあわくわくとかしてる。
『如月那月』
・『百発百中』単一武器(遠距離限定)による有効な攻撃のヒット回数100回以上かつそれが総遠距離攻撃数の95%以上となれば取得できる称号。防がれてもダメだしほぼダメージのない相手に弾かれるのも無意味。その上システム補助がある一定以上だと必要ヒット数が跳ね上がるとかいう鬼畜仕様。狙って取ろうと思えばそう難しくはないけれど、意図せず単に戦っているだけで取得できる人は少ない。スーパー使用人ですから。
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