039話 真正面から当たればひき肉
ばたばたしていて遅くなりました
更新です
よろしくお願いします
真正面から当たればひき肉。
そんな未来が易々と思い描けてしまうからこそ、ユアたちはじっくりと考えた。
なっち(「・ω・)「が斥候に出て調べたところガス溜まりはある一定の閉じた空間であるらしく、半径数キロ程度の円形内部で木の根のように通路が入り組んでいるようだった。ランプダンパー以外に敵の類は存在せず、ランプダンパーは何に邪魔されることもなくその通路を無作為に弾み転がり暴れまわっているという。
その速度は至る所にぶつかるロスを踏まえてもかなりのもので、試してみたなっち(「・ω・)「いわく追いつくのに苦労するほどだったらしい。
ついでに軽く一当てしたところ急激に方向転換して向かってきたのを適当に撒いて帰ってきたとあっさり言ってのけるなっち(「・ω・)「に、賞賛こそあれさしたる驚きはないのだった。
ともあれそうなると、機動力に欠ける後衛組やリーンが対峙すれば逃げきれずひき肉にされる可能性が高いということになる。
であればどうするかと考えた結果、最終的にいっそ二手に分かれてしまうことになった。
上層に残るのがユア・リーン・リコット・ゾフィ、下層に降りて戦うのがきらりん・なっち(「・ω・)「といった布陣で、通行のための穴の真下を戦場とする。
下層組が跳ねまわるランプダンパーを掻い潜り隙あらば攻撃してと引きつけ、上層組は主にリコットがリーンに支えてもらいながら顔を出して攻撃するという形となる。
安地をフル活用する卑怯な戦術ではあるものの、あるものは使うに越したことはないという思考の持ち主が集まっており、むしろ全員ノリノリだった。強いて言えば作戦上仕事のあるリーンがユアを下ろすのにわずかに難色を示したが、ユアに念入りにもちもちされてけろりと受け入れた。
そんな訳で作戦会議を終えた一行は、なっち(「・ω・)「レーダーでランプダンパーが接近してくるのに合わせて作戦を開始する。
当然危険を一手に引き受けることとなる下層組には念入りなバフを掛けて下準備をするのだが、そんな折、現パーティ唯一のバッファーであるユアがきらりんを優しく手招きした。
「おいできらりん」
「……っす」
慈愛に満ち満ちているのになぜか不安になるユアのアルカイックスマイルに戦々恐々としつつも、きらりんは大人しくユアのそばに近づいた。
警戒をするきらりんの手を、ユアはまず優しく取った。
そうして視線を合わせ、笑みを向け、きらりんに困惑が生じたところで指先を触れ合わせ、指を絡ませる。
そのまま手のひらを重ね、間の空気をすら邪魔とばかりに強く握れば、きらりんはそれだけで顔を紅潮させ目を泳がせた。
そんなきらりんへと顔を近づけ、そうしてユアは詠う。
「『付与』―『魔力保護』」
触れ合う手のひらから伝う光がきらりんを包む。
なんだそれだけかとほっと息を吐いたきらりんに、さらにユアは顔を近づけた。
「ひょっ」
すれ違うように、ユアはきらりんの耳元に口を寄せる。
触れる軌道でないと分かってもなお緊張する身体、引きつった喉からおかしな声が飛び出る。
硬直するきらりんを手の感触で愛でながら、ユアはくすぐるように囁く。
「『わたし、きらりんの戦うところ大好きなんだ。とってもかっこよくて、楽しそうで。だから、ね。せっかくのボス戦も、いっぱいきらりんの素敵なところ、見せてね』」
ちゅっ、と。
わざとらしく音を立てるように、耳元に熱を触れさせる。
やりすぎだとゲームの方から警告がこなかったことに安心しつつユアが顔を離すと、きらりんは顔を真っ赤にして口をパクパクと開閉していた。
「頑張ってね、きらりん」
「…………………………ガンバルッス」
脳が熱暴走しているのではと思えるほどに真っ赤になりつつもぎこちなく頷くきらりんをやはり慈愛に満ちた笑みで見下ろしながら、ユアはきらりんをなでなでする。
「なっちも。『付与』―『魔力保護』。『なっちなら心配いらないと思うけど、頑張ってね』」
「ありがとうございます」
「わたしもわたしもー!」
「なかまはずれだなんてひどいですの♡」
「もちろん」
わいわいと寄ってくるメンバーたちを笑顔で受けいれ、ユアはそれぞれに付与魔法をかけていく。
一通り終わったところで、依然顔は赤いもののやる気十分なきらりんと普段通りのなっち(「・ω・)「が下層に降りた。
きらりんは両手につるはしを携え、なっち(「・ω・)「は長弓に矢を番える。
準備が終わったころには、ランプダンパーの移動による振動はもはや間近に迫っている。
「っしゃ。じゃーひっさびさにぃ……『こぉぉいやおらぁぁああああああ――――――!!!!』」
穴に顔を突っ込んで叫ぶリーン。
山に来て初めての『挑発』、生物ならざるランプダンパーに通ずるかは不明だったが、戦闘開始の合図にはちょうど良い。
けれど響いた声は、あまりに早く破砕音に食い潰され。
―――そして巨岩は襲来する。
「おでましっすね」
「開始いたしましょう」
壁を天井を地面を砕きながら、猛然と進む巨岩。
相変わらずちょっとした天災じみてすらいるランプダンパーを視界に捉えた瞬間に、なっち(「・ω・)「の長弓が弦を弾く。
飛翔した矢はランプダンパーに叩き込まれわずかに岩肌を削りはするものの、あっけなく弾かれた。
しかしそれでも攻撃としてみとめられるには十分だったらしい、ユアたちの背筋を毛の逆立つようなぴりりとした感覚がさかのぼる。
始まったのだと、誰ともなく理解した。
矢の一撃を受けたランプダンパーは即座にそのターゲットをなっち(「・ω・)「へと向け急速に迫る。サイズと速度はあれど直線的な動きはなっち(「・ω・)「からすれば脅威にならず、さっと身をかわしながらさらに矢を放った。
「こっちもいるっすよー!」
そこへきらりんが躍り出る。
空中のランプダンパー目掛け叩きつけるような双つるはしの一撃。
僅かに軌道を落としたランプダンパーは、しかしその勢いを衰えることなく今度はきらりんへと跳ね飛ぶ。
それを回避ざまにつるはしが叩き、淡々と放たれる矢が削る。
ランプダンパーの動きによって掻き乱されたガスが空間を埋めつくし、ぬるま湯のような温度が肌に張り付く。鼻をつくほわほわした臭気にきらりんは顔をしかめた。LPが減っている訳でも状態異常が発生している訳でもないことに安心こそあるものの、不快であることに変わりはなかった。
そんなさなか、なっち(「・ω・)「の放った一矢がランプダンパーにさっくりと突き刺さった。
それがランプダンパーの身体の中でも土っぽい素材で構成された部分だということを、なっち(「・ω・)「の目は捉えていた。
「土の部分は脆弱になっているようです」
「りょーかいっす!」
とはいうものの、毎回の攻撃チャンスに都合よくその部分を狙える訳でもないし、なによりそこそこの速度で回転するランプダンパーの一部分だけを攻撃するのは至難だろう。
そんな発見もありつつ、きらりんとなっち(「・ω・)「を狙い跳ねまわるランプダンパーと、それを回避し攻撃を叩き込むふたりの攻防に、さらに加わるひとり。
にゅ、と。
リーンに足首を掴まれ、逆さづりになるリコットが穴から顔を覗かせる。
と同時に偶然にも首を抉り抜くコースで飛来したランプダンパーを腹筋運動で回避しつつ、お返しとばかりに魔法を放つ。
「『光弾』―『拡散』」
後ろ手に向けた杖先に生ずる雪ダルマ型の魔法陣。
身体を丸め視線は向かず、しかし完璧なタイミングで発生したその魔法陣から、まさに通過せんとするランプダンパー目掛けて光が爆ぜる。
LV.1連結魔法『拡散』。
MP消費1.5倍で総威力が2.0倍になる代わりに、攻撃が拡散し射程が短くなる。
拡散するということは必然的に遠ざかれば遠ざかるほど威力は減衰するのだが、ほぼゼロ距離で放ってしまえば関係ない。
爆ぜた光弾がランプダンパーの表面を削り飛ばす。
しかしさすがに一発でどうなるでもなく、元気に弾んだランプダンパーは下層のふたり目掛け勢いよく飛び掛かっていった。
リコットはそれを追うように穴から顔を出し、今度は『強化』により威力を上げてランプダンパーへと光弾で追撃する。
そうしていれば優先的に突撃してくるので、ひょっこり隠れまた拡散接射。
したところで、そろそろ支え続けるのも限界なリーンが一度リコットを回収する。
そうして上層メンバーは、リーンへのねぎらいとリコットのMP回復も兼ねてしばしなでなでタイムに入った。
リコットが引き戻されて戻ってこないのを見てなんとなくそれを察したきらりんは、八つ当たり気味にランプダンパーを殴り飛ばす。
そんな邪念が祟ったのだろうか、少しでも力を叩き込もうと迎え撃つように振るわれたつるはしは、奇跡的に比較的脆弱な土の部分に直撃し、そしてさっくりと突き刺さった。
衝突した瞬間に返ってくる今までと違う感触。
それを感じ取った脳が情報を思考へと届かせるよりも早く、全身に走った悪寒がきらりんの手をつるはしから弾いた。
それでもなお一瞬間に合わず、ランプダンパーもろともに回転したつるはしに腕を持っていかれ地面に腕を突くきらりん。上げた鼻先を掠めるように通過するランプダンパーに声を失う。
もしも手を離していなかったら地面に叩きつけられていたことは間違いなく、それどころか引き込まれて潰されていた未来すら想起し冷や汗をかいた。
「っぶねぇーっ!っす!」
「きらりーん!だいじょーぶー?!」
「だいじょぶっすー!」
穴を覗いていたユアの心配に笑い返し、それからきらりんはランプダンパーを睨みつける。その身体に突きたっていたつるはしが壁と衝突しへし折られたのを見て舌を打つと、突撃してきたランプダンパーを回避しつつインベントリから取り出したメイス(東の街産)を両手にぶん殴る。
「ごめんっすなっちさん!ロストしたっす!」
「きらりんさまがご無事であればなによりでございます」
「今度ケーキでも奢るっすよ!」
「お気になさらなくとも構いませんよ」
「わたしが構うんっすー!」
「かしこまりました。であれば、活躍でもって精算を」
「上等っす!」
犬歯をむき出しに笑ったきらりんは、手の中でメイスをくるりと回すと果敢にランプダンパーへと突貫してゆく。それを受けてなっち(「・ω・)「もそれをサポートするように動きを変えた。
ランプダンパーと戦いながらのそんなやり取りを上から眺めていたユアは、なんとなくふたりが仲良くなっているらしいと感じて嬉しそうににっこにこ。
そんな朗らか(?)な空気の中、ただ単にはね回るだけだったランプダンパーに異変が起こる。
スーパー使用人なつき(「・ω・)「さんでなくとも気がつく異変。
音。
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり―――
と、硬質なものの擦れる耳障りな音が響く。
弾み回転するランプダンパーが、なにか、蠢いている。
戦闘が続く中それは鳴り止まず、やがてついには、ばぢっ、と、弾けるような音が響く。
ランプダンパーの周囲がその瞬間ぼんやりと赤く光り―――さながら炎を纏うように、揺らめく。
「避け―――」
「きら―――」
ボゴドォウッ!
互いに発した警告の声。
それを消し飛ばすかのように、空気を焼き尽くす音が爆ぜる。
弾む壁を砕き散らし、そしてこれまでにないほどの速度で加速したランプダンパーは、間一髪で飛び退いたきらりんのいた空間を抉り抜きながら地面にめり込む。
かと思えばランプダンパーは、変わらずぎゃりぎゃりと音を立てながら元気に飛び出しまた縦横無尽に暴れ回る。
上層から見れば、視界の外から急速に飛来したものが刹那で通り過ぎるというだけの光景。
火の粉舞う軌跡を見下ろして、思い浮かぶのは無機質なウィンドウ。
たしかある特定の条件下でなんとかと書いてあったなと、ユアは頬をひきつらせる。
対照的に、これまでさして興味のなさそうにしていたゾフィがにっこりと笑んだ。
「やっぱりダメだからね?ね?」
「……♡」
「死んじゃうからね?きらりんとなっち死んじゃうからね?なんなら私たちも」
「……♡」
ダメだこれは早くなんとかしないと。
再度響き渡る爆音に揺られながら、ユアは頭を抱えるのだった。
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《登場人物》
『柊綾』
・それをしようと思った理由は特にない。ただなんとなく、きらりんこういうの好きじゃん、とかふと思ったからやってみたという試験的な所業。快楽主義者め。
『柳瀬鈴』
・ボス戦(吊り下げ役)。働いては……ええ、まあ、います。はい。多分下層に降りたらぎゃんっぎゃんに叩き潰されてるのでこんな感じに。
『島田輝里』
・やる気十分でもつるはしは失う。かっこつけてるけどつるはしは失う。というかつるはしってそもそも武器じゃないですから。下手したら死んでたという事実に、実は結構本気でビビってる。なにせこのメンツで初となっちゃう訳ですから、そりゃあダサすぎるもの。
『小野寺杏』
・ボス戦(吊り下げ砲台)。初ボスなんだからまともに戦ってくれよ。上層勢ほのぼのしすぎですよ。
『沢口ソフィア』
・……♡。破壊欲求むらむら。性欲じゃないので少女がむらむらしてても問題ないと思うんです。教育には悪いと思いますけど。
『如月那月』
・なんで弓師がスピード型近接職と一緒に戦ってるんでしょうね。スーパー使用人だから仕方ないのです。
ご意見ご感想批評批判いただけるとありがたいです。




