037話 どんな道を選ぼうとも、洞窟は洞窟であるらしい
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11月も終わろうとしていますね
どんな道を選ぼうとも、洞窟は洞窟であるらしい。
街に至るまでに通ってきた洞穴と比べてもかなり低みに位置するはずだったが、出現するロックドットにはさして変化が見られないらしかった。断続的なひび割れから出現するストーンクラウドも相変わらずで、しかしその数は地味に増加している。
だからといって苦戦ということはないものの、さすがに瞬殺ともいかない。
探索開始からの初戦を経て、どうやら今までのようにずんずん進むのは難しくなってきそうだと一行が判断したところで、満を持して(?)ゾフィが声を上げた。
「ゾフィもたたかってさしあげますの♡」
「まあそれがいいかな。よろしくゾフィ」
「おっ、お手並みはいけんっすね」
「おねえさまののぞむままに、ですの♪」
そんな訳で、ゾフィの攻撃を組み込んでの戦闘を行ってみることにする。
色々と理由もあり、またゾフィ本人がさしてやる気を見せていなかったこともありここまで一度の貢献もなかったゾフィだが、特になにか相談する必要もなくその役割は確定していた。
お試し相手にちょうどいい集団を探し歩き、ロックドットたちの群生地を発見する。
補足したロックドットたちを前に、ゾフィはなっち(「・ω・)「に背負われたままインベントリから魔導書と呼ばれる系統の武器であるぼろぼろの分厚い辞書のようなものを取り出した。
リアルであればすぐに取り落としてしまいそうな程度の質量をシステムの補正で支え、両手に広げるようにして魔導書を開く。魔導書のページの放つぼんやりとした光がゾフィと、ついでになっち(「・ω・)「を下から照らす。
そうしてゾフィは、詠う。
「『焼き尽くすこそが真髄なれば、我が欲するは迸る大火』」
甘えるように舌足らずに、しかし拙さなど微塵も感じさせない流る小川のごとき口調で、ゾフィは詠う。
魔導書の光が、その強さを増す。
初めは小さな火の粉が舞った。
それが渦を巻き、集う。
「『空をも焦がし地を焼き払う、全てを飲み込み進む火炎』」
祝詞と共に、みるみる増える熱量。
ごうごうと空気を焼く音。
気が付けばゾフィの眼前には、太陽の模型のような煌々と輝る火球が浮いていた。
放たれる熱が照り付ける日差しのように肌を焦がす。
外部からだけでなく、内部からも炎で焼かれるように、ゾフィの頬が朱に染まる。
「『炎よ、我が意のままに真髄を示せ』」
ぎゅるり、と絞るように縮こまる火球。
密度を増した熱量に、火球は白く輝いた。
「―――『迸る大火』、ですの♡」
ゴゥッッッ!!!
解き放たれる熱。
火球から迸る大火が闇を食いつぶし洞穴を満たす。
炎熱属性のLV.1詠唱魔法『迸る大火』。
名前通り、シンプルに迸る火炎放射の魔法。
詠唱魔法というものは他の魔法にはないCT(魔法使用後に次の魔法が使用可能になるまでの時間)という概念があり、また最大限の威力を発揮するためにはたっぷりと時間をかけて詠唱する必要があるなどの制約こそあるものの、その威力と規模においては他の魔法の追随を許さない性能を誇る。
その詠唱魔法足る特質をいかんなく見せつけるかの如き圧倒的な火炎の奔流は、あっさりとロックドットたちを飲み込んでしまった。
「わあ」
「うぉー!すげー!」
「ひゅう、ぱねえっすね!」
その圧巻の光景にユアとリーン、きらりんが声を上げる。リコットは若干不機嫌そうに目を細めながらユアになでなでを頂戴した。
ゾフィはと言えば、巨熱に弾かれ撒き散らされた空気が空洞を削る音、吹き付ける熱風を浴びながら、眼球の渇きなど意に介さぬままに炎の奔流を見つめていた。
その破壊的な光景に湧き上がる恍惚からか、それとも単に渇きゆえにか、その目からはつぅと涙すら零れている。
やがて炎を出し尽くし、洞穴にはまた闇と静寂が戻ってくる。
残ったのは焦げ付き赤熱するロックドットだけ、どうやらストーンクラウドはひび割れから炎に飛び込んでいったらしくすでに消滅しているのをなっち(「・ω・)「が確認した。
残るロックドットたちもリコットの魔力弾であっさりと砕け散り、そうして戦いは終わった。
ぱたん、と魔導書を閉じたゾフィが、ほぅ、と熱い吐息を零す。
「いしでもすこしはたのしめましたの……♡」
「うんうん。とってもすごかったよゾフィ」
「おねえさまのおやくにたててうれしいですの♪」
頬を上気させうっとりと脱力するゾフィをよしよしと可愛がるユア。
嬉しそうに笑うゾフィにユアもついつい笑みを浮かべ、そしてそんなふたりにきらりんが若干引いていた。
これまでは味方の巻き込みや範囲の問題で出番を控えていたゾフィだが、もしかすると極力出番を与えない方が教育にいいのではないかとそんなことを思うきらりん。幼さゆえの残虐性とは、またなにか違う気配をひしひしと感じる。
しかし見るからにユアが上機嫌なところを見るに、今後もこのスタイルは続投となりそうだったが。
実際、その破壊力は恐るべきものと言える。しかもそれが範囲攻撃だなどというのだから、対多数の戦闘においては頭一つ抜けた戦力だろう。
規模が大きすぎるためフレンドリーファイヤがあり得るというネックこそあれ、初撃でぶちかますにはこれ以上ない代物だった。
そんなゾフィの記念すべきはじめての戦闘で、きらりん・リコットとゾフィなっち(「・ω・)「は丁度レベルが上昇することになった(きらリコ:LV.13→14、ゾフなち:LV.10→11)。
また、なっち(「・ω・)「は取得可能になったアビリティの中からそれとなく役立ちそうなものを取得した。
『センシティブ』(EXP:3,000)
・感覚が鋭敏になる。
現状ストーンクラウドの存在はなっち(「・ω・)「の超人的察知能力で捉えているが、それをシステムで補助できれば少しは精度も上がるだろうということで取得した。今のところ100%の精度を誇っているなっち(「・ω・)「の超感覚だったが、スーパー使用人は向上心も高いのだった。
そんな強化もありつつ、MP回復がてらにユアがひとしきりゾフィをなで労ったところで、一行は進行を再開する。
結局ゾフィによる開幕ぶっぱ戦術でいくことにしたらしく、なっち(「・ω・)「は新アビリティによる索敵、リコットやきらりんは射程外だったりして生き残った残党を狩りつくすというスタイルに自然と落ち着いた。
しばらく進んでいくと、ロックドットの中に見慣れない種類が交じるようになった。
それらはこれまで出てきていたような種々のロックドットの中にごつごつと黒い金属の結晶のようなものを含んだロックドットだった。
ユアの『観察眼』で確認してもやはりそれはロックドットではあったが、ドロップアイテムに『軽黒鉄の欠片』が追加されている。これまでの鉱石シリーズとは異なって、欠片そのものが金属の塊ということらしい。
「ついにファンタジー金属っすかね」
「魔!魔!」
「うん。魔じゃなくなったね。おかげでぜんぜん幻想的な感じなくなってるけど……お、ああ、なんか、軽いっていうだけでほぼ鉄なんだって」
「便利っすねそれ!」
「ね。思いの外融通きくっぽい」
ロックドット本体ではなくロックドットが含んでいる結晶に注視すると、『観察眼』はその金属の詳細をユアに教えた。どうやら認識次第で色々と融通は効くらしく、扱い切れるかなとユアはちょっぴり心配になった。
ちなみに金属の詳細は以下のようになっている。
『軽黒鉄』
・鉄の半分程度の比重しかないが、多くの部分で鉄に近い性質を有する金属。ほとんどの場合で単体として結晶化している。ある程度の深度があれば容易く発見されるが、純黒という金属には珍しい色合いから宝飾品として加工されることもある。その軽さゆえに身に着けるのに向いている。
試しに鍛冶師ギルドの納品依頼を確認してみると、鉄や銅などよりは比較的高値で募集しているようだった。
「まあ、だからなんだっていうね」
「おねえさま♡」
「うん。やっちゃっていいよ」
新しかろうが何だろうがロックドットはロックドット。
ユアのゴーサインの後はゾフィが魔法をぶっ放して残党狩りをしてとあっさり敵は全滅した。
「ん?あれ?っす」
とそこで、ロックドットをつるはしで叩き砕くだけの簡単なお仕事をしていたきらりんが、ふと壁にそのつるはしを向けた。
その壁には、ロックドットたちに混ざっていたのと同じような黒い金属が所々で覗いている。
きらりんがつるはしを叩きつけると、それは面白いほど簡単に壁からごとりと抜け落ちた。
「あ、そっか、こっちって魔じゃないから?」
「っす……あ、やっぱりこれドロップとおんなじっすよ!」
拾い上げた金属を調べれば、それはきらりんの思った通りに『軽黒鉄の欠片』というアイテムになった。これまでの『魔~の欠片』シリーズとは異なって、ロックドットからのものも採掘からのものも違いはないらしい。
「つるはしはつるはしだったんだね」
「や、つるはしはつるはしっすから」
これまでは上位互換が取得できる以上まあいいかとスルーしてきた鉱脈だったが、ロックドットから取得できるものと同じとなれば採掘する意味もあるというもの。
そんなことになんとなく感心するユアではあるものの、そもそも一行にとって金属の優先順位はさして高くないので、結局は進むのが優先ということでわざわざ採掘はしないのだった。
さてそれからさらに進んでいくと、今度は白い金属を含んだロックドットを発見した。そのロックドットからのドロップには『重白鉄の欠片』というものがあり、見るからに『軽黒鉄』と対比しているようだった。
『重白鉄』
・実に鉄の2倍近くの比重を有するが、多くの部分で鉄に近い性質を有する金属。ほとんどの場合で単体として結晶化している。ある程度の深度があれば容易く発見されるが、純白という金属には珍しい色合いから宝飾品として加工されることもある。その重さゆえに身に着けるには向かない。
「おもしろー?」
「いや、そんなやんちゃな名前じゃないと思う」
「ルビ振ってくんないと分かんないっすよね」
そんなきらりんの言葉に同意を示しつつ、ユアはなんの気なしにウィンドウの文字列へ観察眼を向けてみる。
するとあっさりとMPが消費され、文字列がポップアップする。
『重白鉄:ジュウハクテツ、ヘビィホワイト』
「んー……あ、ジュウハクテツだって」
「そんなことまでわかるんっすか?」
「うん。またはヘビィホワイト」
「かっけー!」
「どっから突っ込めばいいんっすかそれ……」
「まあ、深く考えないほうがいいんじゃない?」
呆れた様子のきらりんに、ユアは苦笑しながら肩をすくめる。
するとリーンが、ぴこーん!と閃いた様子で興奮気味にユアに顔を寄せた。
「ねねユア!じゃあっちは!?あっち!ぶらっくらいと!?」
「え?どうだろ」
「ほいっす」
「あ、ありがとね」
すかさずきらりんから渡された『軽黒鉄の欠片』を受け取り、『観察眼』。
「えっと……ケイコクテツか、ライトブラックだって」
「ぎゃくー!」
「あんちょくですのね」
どうも謎のツボに入ったらしくけらけら笑うリーンと嘲笑するゾフィ。
なるほどこれも白黒っすねと、きらりんはひとりうんうん納得していた。
「んじゃんじゃえとねー!」
『観察眼』の新機能に興味津々らしいリーンは、その後もいろいろな文字列の読みをユアに調べさせたがった。ユアとしても、『観察眼』の性能を確かめる一環にできるという理由もあり、それに次々と応えていった。
案外いろいろなものに謎読み方が隠されており、しばらく一行はわいわいと盛り上がるのだった。
■
《登場人物》
『柊綾』
・『観察眼』はAW中もっとも便利なアビリティの一つです。他の解析系アビリティの中でも一番汎用性高い感じですね。大体なんにでも使えるのが強い。ユアが持つにこれ以外のものはないです。
『柳瀬鈴』
・『重白鉄』『軽黒鉄』『魔石』『魔鉄(鉱石)』『魔銅(鉱石)』『雲砂』……などなど。別に今後の表記に現れたりもしませんがね。シンプルというか安直というか。でも横文字のルビっていうだけで嬉しくなれるタイプの人種なんですよ、鈴って。とはいえ今回みたいなパターンは常にある訳でもないですが。
『島田輝里』
・つるはしはつるはしだった。でも掘り師きらりんの出番はない(ない)。やはりつるはしは武器です。
『小野寺杏』
・ゾフィが楽しそうでムカつく。でもユアが撫でてくれるからうれしい。でもムカつく。私もやれるのに、的な嫉妬は微塵もないのですが、嫌いな奴が嬉しそうだとムカつくタイプ。生きづらそうですね。
『沢口ソフィア』
・げみんはせいぜいがんばってほしいですの♪とか思ってるので手を出さなかった。でも数多くなったしそろそろ綾にいいとこ見せとこっかなって。できれば森とかの方がよかったけど、妥協しました。破壊衝動マシマシ幼女。
『如月那月』
・ハイパー使用人なのでシステムも使う。センシティブとはいうものの、五感が凄い鋭敏になったりはしない。受け取った五感を処理する能力が増す形で、つまり聴覚なら聖徳太子ごっこしやすくなるし視覚なら簡単にミッケ!れるし触覚なら背中に書かれた英文とか読めるし嗅覚なら芳香剤同時に嗅ぎ分けれるし味覚なら合わせみその比率分かる。これまで感じられなかったものは感じられなくとも、これまで感じていたものをより細かく感じられる。つまり第六感っていうのはそういうことだと思っています。
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