035話 職人たちの街サザンロック
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職人たちの街サザンロック。
色とりどりの建材により造り上げられた豪華絢爛な建築の並ぶ街。
職人たちの街、つまりは技術が才能が集う街というだけあってか、その建築様式は誰が見てもカオス極まりないと理解できるほどに種々多様。らせん描く塔の真横にジャングルジムのごとき要塞の並ぶ様を見ればもはや浮かぶのは感心だ。
まるで海賊のお宝箱を覗き込むような心地に、ユアは感嘆の声を上げた。
「イミタート、のようですね」
階段を下りながらそれを見下ろしていたなっち(「・ω・)「がふと呟く。
その呟きに記憶の奥で引っかかるものがあり、ユアは答えを探して視線をさ迷わせた。
「あー……美術の授業で聞いたことある、ような?」
「模倣芸術っすね。AIによる情報芸術。もともとはいろんな芸術技法をAIに模倣させたら同じ技法の参考データでも年代範囲によって異なった表現が発生した、みたいな感じだったのが、それならいっそと無差別にぶち込んだデータを画材にAIによって造り上げる新しい技法になったやつっす」
「きらりんよく知ってるね」
「……きょ、きょーよーっす」
ユアの感心の視線を受けて、模倣芸術という言葉が格好良くて覚えているとは言えないきらりんだった。とはいえそれを当然に見透かしたユアがにこにこと笑むその意味がなんとなく分かり、ついと視線を逸らしてしまう。
そんなきらりんもまた愛しとひととき笑みを深め、それからユアはまた街並みを見渡す。
イミタート、ということはつまりここに並ぶ建築は人間のVR建築家などではなくAIによるものということになる。イミタートまで取り入れるのは別として今どき人力に寄らない仮想世界などそう珍しいことでもなかったが、そういう視点で見れば、なんとなく随所にユアの目を引くようなものがあった。
特に気になるのが、街の中央にある大きなお城のような建築物。
風もないのに、水色の旗がぱたぱたとはためいている。
マップで確認してみると、どうやらそこは『鍛冶師ギルド』となっているらしい。
冒険者ギルドと同種の気配を感じる名前だった。
「ふぅん」
なるほど、と目を細めたユア。
その袖が、二方向からくいと引かれる。
「よそみはいやですの♡」
「ごめんごめん」
袖を掴んだリコットとゾフィをよしよしとなで可愛がり、ついでにもちろんリーンやきらりんも可愛がる。
そうこうして降り立った街を、一行はのんびりと散策してみる。
東ではいろいろと味気なかったのだが、この街は驚くほどに見どころにあふれていた。
道を歩けば、すれ違う住民たちは意志を持つ岩石。単体からなるロックドットとは異なり岩石が集まって人型を成すそれらは、気さくに手を振ってユアたちを迎えた。
ぎりぎりと擦れる石のよう声の飛び交う活気溢れた街の中、マップを見れば、鍛冶屋や道具屋などが数えきれないほどにマークされている。
それに、そもそも街並みそのものが芸術品だ。
そういえば長らく美術館のようなところにもいっていなかったなあと、住民たちに手を振り返しながらユアは思った。
今度誰かを誘っていってみようか、などとデートプランを建てていると、また袖が引かれる。
「いく」
「ごいっしょしますの♡」
「じゃあよさそうなとこ探しとこっかな」
「今の会話途中から発生してなかったっす……?」
「そう?」
「いやいいんっすけどね?美術館っすよね多分。わたしの分の予定も明けといてほしいっすー」
「もちろん」
いたってかるぅく、を装いながらも心音で耳の痛いきらりんににこやかに笑みを返すユア。
リーンは美術館になど欠片の興味もないので、せっかくのデートをそんなことのために使うなんてもったいないなあとぼんやり思っていた。
わいわいと語らいながら歩いていた一行は、やがて例の鍛冶師ギルドに到着する。
派手であることが条件のひとつなのかと思えるほどに輝かしい周囲の建物と比べると、驚くほどに地味で、いっそ場違いとすら思えるほどに、いたってまじめに白亜のお城、のような形をしている。
絵本の中から持ってきたと言われても信じられそうな、子供が夢見るお城をそのまま形にした結果変に小さく収まってしまったような建物。
堀もないのに吊り橋になる城門を渡れば、内装は外観とは裏腹に眩いものだった。
床を覆う真っ赤な絨毯。空間を照らすのは黄金でできたシャンデリア。壺や彫像などの調度品がそこかしこに飾られて、宝石でできた星々が宙を舞っている。
そんなお城の中央には、大黒柱ともなっていそうな極太の柱を囲むように、円形のカウンターが設置されている。カウンターには街の住民たちと同じ岩石の生き物が受付らしく佇んでおり、プレイヤーがそこに話しかける様子も見られたりした。
視線を転じれば、入ってきた門の左右には上の階に通じているらしい階段があり、そちらを目的とするプレイヤーもいるらしい。
ひとまずユアたちはカウンターに向かい、受付に並ぶ。
さほど待つこともなく到達したカウンターに立てば、受付の岩石人がごりごりと身体を鳴らした。
『ヨウコソ カジシギルドへ 』
「あ、どうも」
音が組み合わさった結果声に聞こえる、といったような聞き取りにくい言葉。
それでも意味が素直に伝わる辺りにシステムの恩恵を感じつつ挨拶したユアは、それから受付からこの場所の説明を聞いた。
鍛冶師ギルドというものは、簡単に言えばプレイヤー間取引のシステムだ。
鍛冶師と名がついているものの、その領分は生産全体に渡る。
鍛冶師ギルドにおいてできることは、大きく分けて『製作物の出品』『道具製作の依頼』『材料調達の依頼』の三つ。
まず、プレイヤーは自分の製作物を鍛冶師ギルドを通して出品することができる。出品された制作物は、鍛冶師ギルドに登録したプレイヤーであればどこでも閲覧・購入が可能となる。
とはいえ、当然出品アイテムの中に目当てのものがないこともある。
そういった場合には、プレイヤーが欲しいアイテムの種類やスペックを提示し、それを依頼として公開することができる。また、出品者として名前を公開しているプレイヤーに限り指名して依頼をすることもできる。
それだけでは偏ってみえるが、製作者側からも自分の求めている素材アイテムと個数を依頼として公開することができるようになっている。
製作にしろ調達にしろ依頼を行う際には事前に決めた報酬を支払っておく必要があるという当然の決まりはあるものの、こと生産関連においてはおよそ過不足のないプレイヤー間取引のシステムといえる。
しかしながら、そこに一部制限もある。
それは、実際にアイテムを受け取ったり納品する場合には鍛冶師ギルドの窓口を通さなければいけないというものだ。
出品物や依頼の確認は鍛冶師ギルドに登録して以降解禁されるのだが、そこで可能なのは閲覧と購入のみとなっている。
その辺りは、物品や報酬をギルドで管理するという設定上の名目が用意されているらしい。
冒険者ギルドにせよ鍛冶師ギルドにせよ妙なところでリアルさを出すものだと、ユアは思ったが口にはしなかった。
さてそんな解説を受けたユアたちは、ギルドに登録しないなどという理由もなく、そのまま鍛冶師ギルドへの登録を済ませた。
手続きを終えれば受付から渡される鍛冶師ギルドのギルドカードは、なんならただの鉄板だった。
特に階級のようなものは用意されておらず、穴が空いた鉄製の金属板が等しくプレイヤーを保証するらしい。
冒険者カードと同じく【ID】タブに収納されるもののどうやら装備品扱いもできるようで、試しにと装着すればドッグタグのように紐で首に結える形となった。
煩わしかったので、試したユア・リーン・きらりんは全員直ぐに外してしまったが。
そんな鍛冶師カードに記載されるのは、プレイヤー名とやはりここでもあるIDらしき英数の羅列。
ユアの場合だと、16-223-777777。
冒険者カードで全員に共通していた前5桁(91-000-)が変わっており、プレイヤー固有の末尾6桁は変わらずということらしい。
ひとまずそれにて受け付けでできることを概ね終えた一行は、鍛冶師ギルドの隅っこに移動する。
「さて、せっかくだし色々見てみる?買えないけど」
「!つまり―――
「うぃんどーしょっぴんぐー!」
「上手く言ったつもりっすかそれでッ!」
「わ、なに?!」
「……や、ごめんなさいっす。完全に八つ当たりっす……ほんと申し訳ないっす……」
「うんうん。上手いこと言ったねえ」
はてなを浮かべるリーンとしょんぼりするきらりんをユアはよしよしとなで可愛がり、それから一行はメニューから鍛冶師ギルドの出品アイテムを眺めてみることにする。
せっかくMMORPGに定番のプレイヤー間取引を発見したこともあり、そこでスルーする道理もなかった。
ウィンドウを開いてみれば、特にカテゴリ分けもされていない出品一覧が表示される。
この一覧はカタログのようなもので、この一覧の中から気に入った物があればその場で支払いを行うことが可能となっている。中には購入に際して出品者とのやり取りを必要とするように設定されたものもありはするものの、基本的には通販のようなものだ。
どうやら一覧は性能順でならんでいるらしく、その上位にあるものとなればユアたちには分不相応が過ぎる。実際、横に並ぶ値段はユアたちの手の届く範囲からいくつも桁が違った、。
「う、わあ、これ、うわあ……」
「さすがにこれは眺めてもむなしいだけっすよねー」
当然のようにユアのウィンドウを覗き込む形になっているきらりんが、ソート機能を使って自分たちのレベル帯に合わせて表示する。
そうして表示されたアイテムは、やはり手が届きそうもないが、それでもずいぶんと親しみやすい値段だった。
「これくらいならリアルでもまあ、ぽっと買えそうだよね」
「あ、あなわこれくらいだったよ!」
「おやつくらいですの♪」
「世界と同じ値段のおやつかあ」
「さてはご令嬢っすね!?」
そんな会話をしつつスクロールをくるくるしていたユアが、ふと手を止める。
「あ、これリコットに着けたいかも」
「ピアスっすか?ってこれへそピっすか?」
「検索したら似たのあるかな……」
「いやなんでリアルにショッピングしようとしてるんっすか先輩」
同期した.Abyssアカウントからゲーム外のブラウザを起動するユアに、きらりんがびしっと突っ込みを入れる。
まったくその通りな指摘に「ごめんごめん」などと言いながらウィンドウに視線を戻すものの、ユアの手は目当てのピアスをスクリーンショットした画像から検索にかけていた。程なくして表示されるたくさんの類似品の中から、もっともリコットに似合いそうなものをくるくると探す。
そんな忙しない様子ながらも、割としっかりとウィンドウを眺めていたらしいユアはまたきらりと目を光らせた。
「あ、これリーンに履いてもらいたいなあ」
「んお。かわゆー」
「靴下?ゲーム内で?そしてなぜそのニッチなんを拾うんっすか……?てか高っ!世界2個買えるっすよ!?」
「いやでもほら、SPD補正すごいよ」
「どうかしてるっす!これだから変態は!」
「あ、もう出品者は変態確定なのね」
「鍛冶師ギルドに靴下出品するやつが変態以外の何者なんっすか!」
「どうどう。や、まあそれは確かにそうかもだけど」
どこかで誰かが倒れ伏した音が聞こえた気がして、ユアはきらりんをなだめる。
宥められたきらりんはふしゅるふしゅると息を荒らげつつもまたウィンドウに視線を戻す。
「ふぅ……というか、や、別にいいんっすけど、武器とかには視線がいかないんっすね」
「いや、まあ、普段武器欲しいとか思わないしね」
「そりゃ普段思ってたらびょーきっすけど」
「ああ、心の」
「や、感性っす」
「感性の」
中二病=感性疾患。
恐らく、この時代のICDにも乗っていない。
不可解な納得に頷くユアは、それはさておきと一覧に目を通す。
「武器……あー、これなんかすごい綺麗かな」
なんとなく、目に映ったそれをユアは指さす。
それは一見いたって普通の長剣で、性能を確認してもさしておかしなところは見られない。
「……めっちゃ普通っすね」
「そう?すっごい綺麗だと思うんだけど」
「業物ではあるようですが」
が、恐らくそういうことではないのだろうとなっち(「・ω・)「はちらと出品者を確認するも、そこは非表示になっていた。
そんななっち(「・ω・)「にユアはひととき視線を向け、しかし何も言わず視線を戻す。
「まあどっちにしても買えないんだけども」
「まねー」
「っすねー。ちなみにピアスはどうだったっす?」
「ん?買ったよ?楽しみにしててね」
「ん」
「ひろがる経済格差……!」
「現実はひじょー……!」
「ここはきょこうですの」
「あはい」
「あははー」
そんなこんなで、一行はしばらくウィンドウショッピングを楽しんだ。
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《登場人物》
『柊綾』
・博物館に行っても良し悪しとか分からないけれど、なんとなく見るだけで心が震える感じがして嫌いじゃない。昔の名残で、好きな人をたまにデートで連れて行ったりする。別に、それが特別なイベントという訳でもないのだけれど。ところで君、ヘソピって軽率に相談もなく買うもんじゃなくない?杏がむしろウェルカムだからいいんです。本気で嫌がることはしないんですけどね。
『柳瀬鈴』
・ウィンドウでウィンドウショッピング……!思いついたら条件反射で口を突いて出るので瞬発力がある。瞬発力しかない。なおこの時代なら多分n番煎じだしくっそくだらないことに関しては間違いなく時代を問わない。
『島田輝里』
・ウィンドウでウィンドウショッピング……!思いついたらまず口にしたとき大外れはないかどうかフィルターをかけたうえで恥じらいを突っ切って口にするので瞬発力はない。でもテンション高いときはフィルターの網目が緩すぎる。瞬発力はないが、かといってほかに何があるでもない。
『小野寺杏』
・おへそのことを考えるときっと夜も眠れない。とりあえず剃毛から始めよう……そもそも産毛くらいしかないけど。外から見えないところにあると興奮する。したとか。でも耳は感触薄いし髪で隠れるからいらないかなって。なんというかこう、取り返しのつかないことを、積極的にしてあげようという筆者の気持ち。
『沢口ソフィア』
・察し能力は主に嫉妬由来のものなので綾の感情の機微とかまずもって興味がない。どうかしてるぜ。自分に向けられる好意と他者に向いてしまった感情だけは余裕で理解できるので質が悪い。……ここ今のところソフィの悪口しか書いてないのでは……?
『如月那月』
・察したことを察された、それで視線を受けたのはなっち(「・ω・)「だけなのですよ。なにせこいつ恋人じゃない。まったくやれやれ。
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