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34話 つるはしは鈍器ではない

更新です

よろしくお願いします

つるはしは鈍器ではない。

確かにその破壊力は絶大だ。持ち手と先端の重量差故に発生する遠心力の不均衡、振るう速度が増せば増すほど吹き飛びそうなほどに暴れるその力を投擲するかのように叩きつける一撃は岩をも砕くだろう。そも岩を叩くことを前提に鍛え上げられた鋼鉄の塊は、質量にしても硬度にしても驚嘆すべきものだ。


しかしそれは単に重々しく強いという話でしかない。

たしかに、鎚がそうであるように、質量というのはそれだけで力だ。

そのシンプル極まりない原初の暴力を叩きつける鈍器というのはだから強い。

つるはしも同じく、それに見劣りしないほどの強さを秘めているのは間違いない。


しかし、しかし。


鈍器、などと。

よりにもよって、鈍い、などと。

その(くちばし)の鋭さをその尾の閃きを見れば、そんなことは口にできようもない。


ひとたび岩石を打てば、それがいかに強固であれど穿ち抜きこじ開ける。

ひとたび大地を叩けば、それがどれだけ踏み固められていようとも切り裂いてみせる。


番成す二極を一つとまとめた、質量をもった閃き。


世界そのものを相手に戦い抜く者たちの武器として十全に役を満たしてみせるだけの性能は、ゆえに、モンスター相手に振るったとて一切の見劣りなどない。


―――その一端を、ユアは垣間見た。


「せぇーので、ごーっす!」


クラウチングスタートの体勢からどっ!と破壊音を立てるほどの勢いで地を蹴ったきらりんが、そのままほとんど体勢を上げることなく倒れこんでしまいそうなほどの前のめりで駆け跳ぶ。振動によってかそれともほかの理由によってか亀裂の向こうで蠢きだすストーンクラウドなど眼中にはなく、ほんの数舜で目標たるロックドットを己が領域に飲み込んだその瞬間にきらりんは跳躍していた。

前方への跳躍と同時両足を背側に跳ね上げそのまま一回転、ほぼ水平とすら見える放物線を描く跳躍はその速度を最大限保ちながらも着地。それにより蹴り足の遠心力と落下速度という地面に受け止められるはずだった勢いは、倒れこむ上半身に、そしてその手にいつの間にか握られていたつるはしへと余すところなく乗せられた。


「―――ッ!」


ガギィォッッッ!!!!

最高速で叩きつけられたつるはしが岩石を穿ち、放射状に広がった亀裂がロックドットを半ばほどまで覆う。着地と攻撃との衝撃で停止したきらりんは、つるはしの持ち手の端を持ち上げるように片手を添えて、もう片方の手を持ち手と金属部分の接続部位に添える。

と同時ほんの刹那だけ体重を地に預けることをやめ、次の瞬間には全身を沈ませるようにして全体重でつるはしを押し込んだ。


つるはしがめり込むにつれ、びぎぃ、と広がる亀裂。

全身を駆け抜けた亀裂にロックドットはその身を保つことができず崩壊、がれきとなり、そして消える。


くるりと回したつるはしを肩に背負ったきらりんが振り返るころには、亀裂から出現していた2体のストーンクラウドも魔法で滅多打ちにされているところだった。

その討伐で、ちょうどゾフィ・なっち(「・ω・)「がレベルアップした(LV.8→9)。


「ま、ざっとこんなもんっすね」


ほどなくして敵がいなくなった道を悠々と歩いて戻ってきたきらりんが、自然にユアのなでなでを頂戴されながら胸を張る。

そんなきらりんにユアはにこにこ笑いながらうんうんと頷く。


「さっすがきらりん。言うだけのことはあるね」

「石ころ程度ならちょちょいのちょいっす」

「うん。すごいかっこよかったよ」

「さんきゅっす」


頬を染めて身を寄せるきらりんを、ユアは調子に乗ってなでかわいがりまくる。

とうぜんその矛先がきらりんだけにとどまる訳もなく、なでなで祭り勃発。

山にやってきてからは初のきらりんの戦闘ということで、無駄に張り切っているらしい。


というのも、ここにきて新たな戦闘スタイルが考案されたのに端を発する。

剥き出しのロックドットとは異なりストーンクラウドは亀裂に潜んでいるため、遠距離から突っつくのも面倒がある。そのためいっそのこと一斉に出現させてしまってから諸共討伐しようということになったのだが、そうするとロックドットがストーンクラウドに隠れてしまいこれまた面倒。

そんな訳でロックドット討伐係として素早くかつ攻撃力のあるきらりんが抜擢されたのだが、満々だった自信に恥じないその戦いぶりに、どうやら新スタイルは確立されることになりそうだった。


「あ、そうだ。ねえきらりん」

「っ、っす?」

 

なでなでなでときらりんを愛でていたユアが、ふと思いついてその耳元に口を寄せる。

触れる吐息にぴくっと身を弾ませながらもなんとか耐えてみせたきらりんが問い返せば、ユアは興味津々といった様子で目を輝かせていた。


「さっきのも白銀流とかいうやつなの?」

「っ!?ごほっ!げふっ!」


ユアから放たれた言葉に全力で咳き込むきらりん。

その背をよしよしとなでる手の感触が今はなにか恐ろしく感じられた。

どうしてそれをと視線で問えば、ユアは当然にそれに応える。


「ほら、東の街でやってたでしょ?白銀流“天上人”。あれとさっきつるはし押し込んだのって方向性は似てるよね」

「や゛、その、んん゛っ」

「体重を使うの上手いんだよね。そういう流派なの?」

「なんっ、まっ、は!?なんでそこまで……」

「えー?きらりんのこと見てたら分かるよ」

「ひぇぇ」


どうかしてるっす、と戦慄の表情をうかべるきらりんだが、ユアは変わらずにこやかに笑っている。

もはや言うまでもなく、ユアにとってその程度は当然のことなのだ。


じぃぃ、と見つめられたきらりんは、しばらくあわあわと視線をさ迷わせていたが、最終的にそっぽを向くことでユアから逃れた。


「そっ、れは、できれば黒歴史っすから触れないで欲しい感じっす」

「ずうっと?」

「……や、その、まあ、とりあえず今はっすね」

「そう。まあきらりんが言うならあんまり触れないようにするねっ」

「あんまり……?」


なんとなく不穏なものを感じるきらりんだったが、ユアとしてはもう話は終わったということなのか、みんなをなでなでするのに戻ってしまう。

もしかして自分は取り返しのつかないことをしてしまったのかと思い悩むきらりんをよそに、和やかに時は進んでいった。


しばらくして、倒したモンスターがリスポーンして二度手間になってしまいつつ、一行は進行を再開する。

相変わらず点在するロックドットはもちろんストーンクラウドも壁だけでなく天井や足元など至る所から噴き出し行く手を阻もうとするが、つるはしをぶん回し駆け抜けるきらりんと遠距離から滅多打ちにするリコット・なっち(「・ω・)「の前には障害足りえない。


ユア・リーンとゾフィ・なっち(「・ω・)「のレベルアップ(ユアリン:LV.13→14、ゾフなち:LV.9→10)をはさみつつずんずん進んでいった一行は、やがてひび割れ地帯を抜けてY字の分岐路へと到達した。

これまでの分かれ道とは異なって、なにやら片方の通路には奥を向く矢印の彫り込まれた金属板が埋め込まれている。

目を凝らしてみれば、スターの明かりで見通せるその果てに、かすかに大きな扉のようなものが見て取れる。

明らかな人工物の気配に、一行は迷いなくそれを目指すことにした。


近づいてみれば、その扉はすべてが金属で作られた見るからに重厚な代物だった。

ユアが観察眼を向けてみても『扉』ということしか分からない、なんとも異様な扉。

取っ手らしきもののないところを見るに、どうやら押し扉らしい。


「街エリア、かな?」

「ずいぶんと重厚なようですが」

「魔王城の扉とかでもおかしくないっす!」

「ボスとか待ってないよね」

「ボス戦!?燃えてきたー!」

「リーン、ステイ」

「わう!」


なにはともあれ立ち止まっているのも馬鹿らしい。

手の塞がっていない中で最もSTRのあるきらりんが、代表して扉を押し開く。


「あ、軽々っす」


重さはあれどさしたる抵抗もなく開いていく扉。

それならまあいいかと躊躇いなく開かれたその向こうに広がっていたのは、まっすぐと伸びる通路だった。


『世開の山脈/職人たちの街サザンロック』


「あ、街だ、?」

「ちぇっ」

「やー、広い街っすねーこれ」


つまらなさげなリーンを尻目に、一足早く踏み入れ奥まですすんでいたきらりんがそれを見下ろす(・・・・)

はてなと首を傾げながらユアがそれにならえば、なるほどと疑問は氷解する。


伸びた道の先には、円筒形の巨大な空間がある。

ユアたちが足を踏み入れた通路はその中ほどに位置し、見下ろせば空間の底に広大な街が広がっている。ふとその明るさに見上げてみれば、天井から生える巨大な結晶のようなものから柔らかな光が降り注いでいた。

横を向けば、円筒形に沿う形でそこそこ急な石の階段が続いている。らせんを描くその中途にはユアたちが出てきたような道が続いているのがいくつか見られ、街エリアへの入り口が一つでないことを示している。


「……高所恐怖症殺しだねこれ」

「先輩高いとこダメな方っす?」

「ううん。でもリーンがちょっと」

「うに?」

「余裕そうっすけど」

「まあ私抱いてるから」

「……ああー」


それで納得できるのもどうなんだろうと思いつつきらりんは頷く。

それから他のメンバーはと見回せば、リコットとなっち(「・ω・)「はさして気にした様子もなく、ゾフィは天井を見上げながらなぜか頬を染めている。


「ばくやく、だいじしん、ほうらく……♡」


ぽつりと呟かれる物騒な独り言。

きらりんは聞かなかったことにした。


「まあ問題なさそうっすね!」

「そうだね。落ちないようにだけ気をつけなきゃ」

「まっかせろーい!」


元気いっぱいに胸を張るリーンに、やはりユアを除くメンバーを不安が襲う。

きらりんとリコット、そしてなっち(「・ω・)「は街エリアだからといって気は抜けないとアイコンタクトを交わし、そうして一行は街へ降りる階段を下ってゆく。



《登場人物》

(ひいらぎ)(あや)

・きらりんに興味津々。ちょっと変わったきらりんに気を取られて視界の隅にあったけれど、そういえばなんかこの前面白いこと言ってたなー。人の黒歴史抉るの止めろよぉ!


柳瀬(やなせ)(すず)

・南エリア最大の関門に、いざ挑まん。足を滑らせて落ちたら悲惨なことになるだろう程度の高さがあるのでほんとに気を付けてほしい。6d1で5以上とかは要求されそう。ひそかに若干高いところが苦手だけれど、綾と触れ合っていれば問題ない。ペット療法的な。


島田(しまだ)輝里(きらり)

・つるはしは武器。殺意に満ちた形状してるぜ。ちなみにカテゴリは『その他』に分類されて、『つるはし術』てきなアビリティはないです。『採掘』とかはある。黒歴史まで発掘されそうで危機感。リアルより思い通りに動く身体があってしかも魔法とかまであったらそりゃあオリジナルの流派とか作っちゃいますよね。中二病だものね。別にきらりんが特別なんじゃないんだからねっ。


小野寺(おのでら)(あんず)

・意識的にどうにかしないとほんと喋らん。記述してないところではユアと視線で会話とかしてるからさ。まあ仕方なし。


沢口(さわぐち)ソフィア(そふぃあ)

・一体何を想像しているんでしょうね。怖いですね。というか結局この人マジでここまでなにもしてないんですけど……。


如月(きさらぎ)那月(なつき)

・いざとなったらゾフィは落としてもいいかなあとか思ってる。一応ご主人様やぞ。ちなみに使用人なだけで保護者のつもりは皆無なのでゾフィがよくない成長してるとかスルーですよスルー。所詮金の付き合いよ。


次回、ほのぼの街探索……!


ご意見ご感想批評批判いただけるとありがたいです

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