033話 ふよりふよりと揺れるスターの明かりを頼りに洞穴を進む
更新です。
ついでに、最近初体験をこなしたことで有名な美月ちゃんと恋人になるまでの短編、『姫的な彼女の青春の話』を書いてみました。
青春あたりに疑問符つけたくなる出来ですがよろしければどうぞ。
ふよりふよりと揺れるスターの明かりを頼りに洞穴を進む。
陽光の届かない洞穴の中にあって唯一の光源であるスターの未だかつてないほどの活躍に、ユアはなんとなく嬉しくなった。
洞穴の中は、暗く、涼しい。
空気の流れがほとんど感じられず、土臭いような独特の匂いが停滞している。
こつ、こつ、と硬質な靴の音の響く静かな洞穴内では声を張る必要も感じられず、自然と一行の声は囁くようにひそめられた。それに伴い触れ合うほどに寄り添いながら、時折現れるロックドットを言葉もなく叩きのめすのんびりとした道中。
その途中でゾフィ・なっち(「・ω・)「がレベルアップ(LV.3→4)しつつ進んでいると、やがてY字の分岐点に到達する。
とくに道しるべがあるでもなく、リーンの勘というこの世界で四番目くらいに不確かなものに頼って右手側の通路を行く。
右手側の通路は、進むにつれてきわめて緩やかに下っていく斜面になっている。
これまでの通路よりもくねくねと曲がる通路を進んでいけば、やがていくつもの枝道が見えてきた。
手近な枝道をスターの明かりに照らしてみれば、どうやらそこまで長く続くものでもないらしく、突き当りがうすぼんやりと見通せた。そしてユアは、そんな枝道の途中でなにやら様子が異なっているらしいことに気が付く。
「なんか、ちょっと赤茶っぽくない?」
「ん」
「そのようですね」
「あー、奥のっす?」
「そうそう、ああ、やっぱりちょっと違うみたい」
洞窟の壁の一部分と、その辺りにいるロックドットの色味がなにやら全体的に赤褐色となっている。
ひとまずユアが色違いロックドットに向けて発動した『観察眼』によって開示された情報を共有化してみると、どうやらその個体もロックドットであることに変わりはないものの、ややレベルが高く、またドロップアイテムに『魔鉄鉱石の欠片』とやらが追加されているようだった。
近くの色違いの壁も、つまりはそういうことなのだろう。
一応『観察眼』を向けてみると、『鉄の鉱脈』という風になっている。
明らかにロックドットのそれと比べて質の落ちそうな気配に、ユアは唸る。
「つるはしは武器かなあ……」
「みたいっすねー」
「しかも武器すらねえ」
「っすねー」
のんびり語らうユアときらりんの視線の先で、リコットとなっち(「・ω・)「による掃討はすでに始まっている。
「『光弾』―『強化』」
リコットの言葉に応え、杖先に発生する雪だるま型の魔法陣。
『光弾』の円環に半ば重なるように追加された、LV.1『連結魔法』である『強化』の魔法陣。
放たれる光弾が、一際激しく輝き威力を増してロックドットに叩きつけられる。
威力が1.5倍となる代わりにMPの消費も1.5倍と激しくなるが、マナチャージャーとユアの『ラヴィング』があれば運用に苦はなく、敵が若干硬めだろう今、満を持しての初使用だった。
「『光弾』―『強化』
『光弾』―『強化』
『光弾』―『強化』
『光弾』―『強化』―――」
どんな早口言葉かときらりんが軽く引くほどの速さで、かつ妙に聞き取りやすい活舌で繰り返されるリコットの魔法。魔力弾よりは手数が少ないもののDPS自体は勝っており、結局やや強めのロックドットたちも瞬殺と言ってなんら問題のないあっさり具合で全滅した。
「まあうちの子にかかればこんなもんだよねー」
「ん」
ユアがうりうりとリコットを可愛がってMPを回復しつつ、ついでに当然すり寄ってくる他の面々をなで可愛がる。
この戦闘で、ゾフィ・なっち(「・ω・)「がレベルアップ(LV.4→5)し、なっち(「・ω・)「は『射手』のアビリティを取得した。
『射手』(EXP:3,000)
・投擲・魔法を除く遠距離攻撃の威力・精度・射程に補正がかかる。
『戦士』や『魔法使い』に続く職業系アビリティであり、取らない手はない。
ちなみにゾフィの方は、ここまで一度も戦闘を行っていないこともあり職業系アビリティは出現しなかった。出番が必要ないというのもあるが、なにもしないでレベルが上がるという現状を本人が楽しんでいたりするので、ユアも特になにも言わない。
そんなこんなで、一行はその調子で枝道を攻略していく。
どうも本道よりも枝道の方が強いロックドットがいるらしく、鉄や銅といったよく名を聞く鉱石がどんどんとインベントリに溜まっていき、ついでにゾフィとなっち(「・ω・)「のレベルもすくすくと上がっていく(LV.5→LV.7)。
やはり探索を続けても鉱石ロックドットばかりで、採掘スポット的な場所が目に見えて用意されている様子はない。壁の色は変わらず岩石で、特徴的な鉱物を含んでいる様子もなかった。
そうこうしていると、やがて一行は枝道の先に下の空間へと続く縦穴がぽかりと口を開けているのと遭遇する。
スターの明かりを頼りに見下ろせば、ちょうど一行が今いるのと同じような通路がねじれの位置的に通じている。
どうしようか、と悩むこともさほどなく、いざとなれば諦めてログアウトでもすればいいと、一行はその縦穴を降りることを決めた。
まず真っ先にきらりんが降り、安全確認を行う。次にリコットが降り、その次はゾフィを背負ったなっち(「・ω・)「。
「いける?」
「やる!」
「分かった」
やる気満々でその実答えになっていないリーンの応えに、しかしユアは盲信とすら呼べるほどの信頼でもって頷く。
リーンはやはりユアを抱えるのをあきらめるつもりはないらしい。ユア以外の面々はリーンの平衡感覚を微塵も信用していないので、ゾフィ以外はいざとなったら即座に動けるようにと臨戦態勢すら甘っちょろいほどの警戒と共にリーンたちを見上げていた。
「っし!いくよー!」
「いつでもいいよ」
「そりゃー!」
降りる前にまず鎧を全て外して軽量化したリーンは、それから気勢の声とともに飛び降りた。
ひゅう、と一瞬身体が浮いて、どしんっ、と着地。
「ぬ、ぐ、」
衝撃をもろに両足で受け止めたリーンは、目に見える程度にはLPを削りながら、しかしよろめくこともなく耐えきって見せた。
「さすがリーン」
「えへへ」
よしよしとユアに頭をなでなでされて、リーンは満面に笑みを浮かべる。
警戒していた面々も、出番がなかったことへの若干残念な気持ちを胸の奥に隠しつつ労いの言葉をかけ、それから一行は探索を再開する。
どうやら縦穴は、下の道の中途で繋がっているらしい。
前を見ても後ろを見ても見通せない程度の道が長々と続いている。
なっち(「・ω・)「曰くほとんど傾斜が存在していないとのことで、やはり道標もなく、またしてもリーンの勘に頼って歩き出す。
下の洞穴にも、やはりロックドットが生えている。
枝道らしきものはなかったが、鉄鉱石や銅鉱石のロックドットが普通に出現するようになっていた。自然と取得経験値も増すのか、道中できらりん・リコット、ゾフィ・なっち(「・ω・)「のレベルが上昇した(きらリコ:LV.12→13、ゾフなち:LV.7→8)。
少し進んだところで、ユアは行先の岩壁にひび割れがあるのを見つけた。
視野を広げてみれば、壁だけでなく天井や足元にもひび割れはあった。そのどれもが長々と続いてはおらず、繋がってしまうほどの密度でもないが、遠目にも分かる程度には広く裂けており、なんとなくユアの不安を煽った。
「さすがに崩落とかは……しないよね?」
「そんな即死ゲーじゃないと思うっすけど」
「かんたんですの♪」
どうするっす?とユアを見上げるきらりんに、名案を思いついたとばかりにゾフィが声を上げる。
「なっちをさきにいかせればいいんですの♪」
「えぐいこと言うっすね!?」
「ユア様の望みとあらば」
「乗り気っす!?」
「や、死ぬ時はみんな一緒だから」
「それもなんか違くないっす!?」
きらりんの三連ツッコミが洞穴に響く。
っすぅ、っすぅー、っすぅー……―――と反響が暗闇を揺らした。
やがて音が全て闇に飲まれた頃、ひとときの静寂を挟んでユアが言う。
「うん、大丈夫っぽいね」
「や、雪崩じゃないんっすから」
「え?雪崩ってそうなの?」
「大声きっかけに発生するとかよくあるっすよ?」
「アニメでみたー!」
「っす」
「アニメで」
「現実ではただの声が雪崩のきっかけになる可能性はほとんどないかと」
「やっぱそうなんっす?」
「じゃやっぱり安心できないかなあ」
「まーだいじょぶっしょー!」
「あー、ま、そうだね。悩んでても仕方ないや」
結局そんな雑な結論になって、一行はひび割れ地帯へと足を踏み入れた。
ひび割れのせいか見通せる範囲のロックドットの数はかなり少ないが、足元が危ういため特にリーンは慎重に歩を進める必要があった。
足を踏み入れて少し進んだところで、不意になっち(「・ω・)「がぴくりと表情を動かす。
それに目ざとく気が付いたユアの合図で一行は立ち止まった。
「どうしたの?」
「いえ、亀裂の中から音がしたような気がしたもので」
しん、と耳を澄ませたなっち(「・ω・)「は、すぐにやはりと頷いた。
「その亀裂ですね。なにかがいます」
「ぜんっぜん聞こえないっすけど……」
「むぅ、わかんなーい」
「なっちが言うならそうなんだよ。射抜いてみる?」
「試してみましょう」
そう言ったなっち(「・ω・)「は長弓を構え、亀裂の一つを目掛け矢を放った。
ひうんと飛んだ矢は拳ひとつ分程度の広さを持つ亀裂に吸い込まれるように突き刺さり、岩を抉るごづっという鈍い音が響く。
その途端、ぶわっ!と音が聞こえるほどの勢いで亀裂から煙のようなものが噴き出す。
先を見通すのが難しいほどの濃度を持ったそれはみるみる中空に集うと、渦を巻くようにしながらその中心に球体を構成した。
『ストーンクラウド』LV.8
・耐性:物理、水冷、緑地
・弱点:風雷
・ドロップ:雲砂
~詳細~
魔力を含んだ岩石が長い年月の中で砂になり、そこに意志が宿った魔物。元々同じ岩石だった砂の集まりで一つの個体となっており、他の個体とは絶対に交わらない。雲のようにきめ細やかな砂は研磨剤として優れている。
「びっくりするほど物理殺しだねここ」
「っすねー」
「『付与』―『魔力保護』っと。『さ、様子見がてら叩きのめしちゃって』」
「ん。
『光弾』―『強化』
『光弾』―『強化』
『光弾』―『強化』」
自分がなにに釣られて出てきたのかすら分かっていないようにふよりと漂うストーンクラウドに、三連の強光弾が叩き込まれる。
ばすんばすんと砂場に砲丸が叩きつけらるような音を立て、強光弾が直撃する度弾けていったストーンクラウドは、三発目の直撃と同時に大きく弾け飛びそのままあっさりと光の粒子に消えた。
「敵じゃない、けどちょっと硬い?」
「ん」
「どっちにしても遠くからならよゆーだねー」
「まあ、でもさすがにこっちはなっち頼りになっちゃうかなあ」
「お任せくださいユア様」
「奇襲すら満足にできない敵が哀れっすねえ」
「そんなおじひをむけるよゆうがありますの?」
しみじみ呟くきらりんに、ゾフィが無邪気に見える疑問顔で首を傾げる。
きらりんが問いかければ、ゾフィはにっこりと笑みを浮かべて言葉をつづけた。
「だっていま、まったくのやくたたずはあなただけですの♪」
「きっついこと言うっすね!?や、まあその通りっすけど」
苦笑するきらりんに、思ったような反応が得られなかったらしいゾフィの視線から、笑みはそのままに喜悦が消える。
つまらない、とでも言いたげなのがユアには見て取られ、進んで敵を作ろうとするゾフィを後で叱らなくてはいけないと思う。しかし同時に、それがカフェでのきらりんによる一方的な告白を受けての敵視から来るものらしいことも伝わり喜ばしさも感じた。
結果むむうと言葉に詰まり、きらりんとゾフィどちらもの頭をなでるだけで成り行きを見守るにとどまるユア。
不意打ちのなでなでによく分からないながらついつい口角の上がってしまうきらりんと、ユアを楽しませるためにやっているのではないのだと若干視線の温度を下げながらもうれしいはうれしいので頬を緩ませるゾフィ。
そんな微妙な空気の中で、きらりんは「までも、」と言葉を続けた。
「先輩のお傍って離れがたいっすからねー。しゃーなしっす」
「……そうですの……そうですわね。たしかにおねえさまとはなれるだなんてかんがえたくありませんの♪」
どうやらこのアプローチに意味はないらしいとあっさり手を引くゾフィにユアはほっと息を吐き、それから満面の笑みでふたりをなで可愛がった。
「まったく、そんなこと言ってもなでなでしか出せないからねもー」
「わ、な、ちょっと普段より……?」
特にきらりんから放たれるとは思わなかったわがままめいた言葉が特別に嬉しく、念入りになでなでなで。
まあわたしが一番近いんだけど!と言葉にせずとも伝わる自慢げな表情で胸を張るリーンと、きらりんも少しは分かってきたなと謎の上から目線で思うリコットももろともになで可愛がり、しばらく一行の歩みは止まることとなった。
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《登場人物》
『柊綾』
・もしかしたらひとパーティにひとりいると便利かもしれない。明かりとバフと観察と。そのためだけにこんだけ重い荷物背負うのもなあとか思ったけどこの人別に歩けるんですよねそういえば。街出てから自分の足使ってねえぞこいつ。どうなってんだ。
『柳瀬鈴』
・山にきて以来一挙手一投足に注目が集まってくる。いっそなっち(「・ω・)「とかきらりんあたりに代われよとか言ったら全力で襲いかかられます。さすがに転んでユア死亡とかはないと思いますけど……多分……気分によっては……。
『島田輝里』
・キャラぶれてない?大丈夫?そういうの綾は好き勝手可愛がっちゃうよ?リアルで辛いの君だよ?タイマンでやりあえる?まあ多分大丈夫です。これからの輝里は一味違うぜ。
『小野寺杏』
・早口言葉にはDEX・SPDで補正が入ったりします。それにしてもこの連射はどうかしてるぜっていうくらいの連射速度。陣魔法+連結魔法を初めて使用してみた(はず)。リコット砲台は本日も快調です。
『沢口ソフィア』
・どの口で言ってんだろこの幼女。多少性格悪いですけど、まあ愛嬌愛嬌。ブーメランぶっ刺さってますがまあ愛嬌愛嬌。今のところ可愛いくらいしか読者さんに好かれる要素なくねとか思ってるけどその可愛いも筆者の記述力不足のせいでいまいちかもしれないという悲劇。筆者は結構好きなんですけどねえソフィちゃん。
『如月那月』
・使用人ですから。もう突っ込みすら入らねえよ。ストーンクラウドのこすれる音をその出所ごと把握する。聞き取りはさておき場所は無理でしょうに普通。なんか困ったときはなっち(「・ω・)「にどうにかしてもらうでいい気がしてきてしまいます……自重しなければ。スーパー使用人の限界は一体どこにあるのやら。
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