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030話 美月とのデートを終え、帰宅するなりAW

更新です。

気がつけば30話目です。だからといって特になにがあるでもないですけど。



美月とのデートを終え、帰宅するなりAW。

シャワーを浴びたり鈴と戯れたりシャワーを浴びなおしたりしているうちにそれなりに時間は経過してしまったものの、それでも夕方と呼ぶには早い程度の時間帯。


本来約束していた時間より少しだけ早い招集にも一瞬で応えた輝里と杏は、綾がログインする頃には既に彼女を待ち受けていた。


降り立った場所は始まりの街セントエラの噴水広場。

東の街で更新しなかったため、リスポーン地点は依然としてその場所となっていた。


集まって、ひとしきりたわむれた一行が向かうのは、冒険者ギルド。

東の街での戦闘で蓄積されたHP(ハントポイント)を換金すれば、その総額は4,000マニ程度となった。一人頭1,000マニ、つまりケーキ二回分。よりダメージの激しい装備品の修理費用などを考慮すれば、ケーキ一回分に足りるかどうか。


「かつかつっすねー」

「そうだねえ。やっぱり狩りは効率悪いのかなあ」

「時代はお宝っすね」

「じゃあ次は西かな?」

「えー!山がいー!」

「ああ、鉱山資源も捨てがたいっすねー」

「んだんだ~」

「絶対そんなこと考えてなかったよね」

「まねー!」


なぜそこで誇らしげなのか。

苦笑するユアを、相変わらずお姫様抱っこで運んでいるリーンに、ふときらりんが問いかける。


「そういえばリーンさん、聞きたいんっすけど」

「なにー?」

「今どこ向かってるっす?」

「え?ケーキ」


一行を先導するような堂々たる歩みを緩めることなく、当然のように応えるリーン。

むしろいまさら何を言っているのかと不思議そうな表情を向けているくらいだった。


「いやお金ないって話してなかったっす?いままさに」

「いーじゃん。おいしーし」

「おおう、刹那主義」


まじっすかー、と呆れるきらりん。

あはは、とユアが困ったように笑う。


「まあほら、やっぱり英気を養うのって大事だよね」

「や、反対しないっすけどね。むしろ賛成っす。ケーキ好きっすし」

「お金のことはまあ、なんとかなるでしょ」

「最悪、武器、売る」

「さも当然のように言わないでほしいんっすけどぉ!?」


死活問題なんっすから!と自分の身を抱くようにリコットの視線を逃れるきらりん。

東の街で取得したきらりんの武器はHPに変換せず使用するということになっているが、試みに価値を確認してみるとそこそこいい値段になったのだった。


そんなきらりんをじっと見てから、リコットはふゆりと首を振る。


「街で集める」

「あ、ああ、そういうことっすか」

「リコット」


てっきりへそくり代わりにされているのかと思っていたきらりんはリコットの言葉にほっと息を吐くが、それを見とがめたユアがリコットに優しげな視線を向ける。


そうなっては仕方がないと、リコットはしょんぼりとユアを見つめ返す。


「ほんとは、身包み剥いでやろうと思ってた」

「うん。よく正直に言えたね。えらいえらい」

「ん」

「いやそんなほのぼのできる感じじゃないっすけど……?」

「まあまあ。さすがに本当にやったりしないから」

「……っす」


頷きつつも懐疑的な視線を向けるきらりんに、リコットはしかし見向きもしない。

そんな二人に苦笑して、それからユアはリーンを見上げて言う。


「でも、流石にケーキの前に修理はやっとこうね」

「えー」

「足りなくなったら、まあ―――」

「なんでそこで私を見るっす!?……?」


悲鳴じみた声を上げるきらりんだったが、しかし、その視線がきらりんの方を向いているだけできらりんを見ていないことに気が付く。


「―――たのしそうですわね、おねえさま」


声。

どこか舌ったらずな、からかうような声。


後ろから聞こえたそれに、きらりんは振り向く。


「なかまはずれだなんて、さみしいですの」


果たしてそこにいたのは、女性。

ユアに負けず劣らずすらりと背の高い、軽装に身を包んだ黒髪ポニーテールのアバター。

感情の見えない冷ややかな視線は、瞳の動きなくとも染みわたるように周囲を見渡している。


「ソフィちゃん?」

「はい。おねえさまのソフィですの♡」


ぱちくりと瞬くユアの言葉に応えたのは、その女性ではなく、女性の肩越しに顔を覗かせる灰色のローブをまとった少女。

美しい金糸の髪に、晴れ渡る碧眼。

幼気な顔立ちにどこか艶然とした笑みを張り付け、楽しそうに少女は言った。


「でもおねえさま。いまのわたしはゾフィというんですの♪」

「ああ、そっかそっか。ごめんね」

「かまいませんの♪」


ユアの謝罪をくすくす笑って受け入れるゾフィ。

そんな様子にユアも微笑み、それからゾフィをおんぶする女性―――『なっち(「・ω・)「』というふざけているとしか思えないプレイヤーネームの彼女に視線を向ける。


「えっと、なっち?さんも、こんにちは」

「はい。久方ぶりにございます、ユア様」

「あー、うん。久しぶり」

「……あのー、お知り合いっす?」


やや躊躇いがちに頷くユアに、ユアよりも分かりやすく戸惑った様子のきらりんがおずおずと尋ねる。


「まあ、そうだね」

「まあおねえさま。しりあいだなんて、いやですわ。こ・い・び・と、と。ただしくごしょうかいおねがいしたいですの♪」

「こいっ!?」


絶句するきらりんに、ユアは困ったような笑みを浮かべる。


「とりあえず、落ち着いてお話ししよっか」


ユアの言葉に異論はなく、そして一行は、結局カフェに赴くことになった。



「あらためまして、おねえさまのこいびとのゾフィといいますの♪えいしょうまほうつかいですわ♪」

「お嬢様の使用人をさせていただいているなっちと申します。弓師として後衛を担当させていただきたく存じます。ユア様の恋人ではありません」


にこやかに、誇らしげに告げながらユアしか見ていないゾフィと、明らかに含むところがありそうに一瞬ちらとユアに視線を向けるなっち(「・ω・)「。


なんだかまたとんでもないのが来たなと、きらりんは遠い目になった。

ユアをはさんできらりんと同じ席に座るリコットはユアのなでなでを受けつつもそんな二人を睨みつけ、リーンはユアと同じ席になれずテーブルをはさんでゾフィとなっちの側に座っているせいで露骨に不服そうにしている。


きらりんとリコットに挟まれたユアは、沈黙する一行を見やり困ったように眉根を寄せる。


「あー、えっと、言うまでもないかもだけど、ユアです。それでこっちはリコットで、」

「……」

「こっちはきらりん」

「あ、よ、よろしくっす。ちょっと意識跳んでたっす」

「それで、そっちはリーン」

「よーろー」

「よろしくしてやりますの♪」

「よろしくお願いいたします」


なにやらよろしくする気のなさそうな言葉があったが気にしないことにして、ユアは改めてふたりに問いかける。


「ふたりもAW始めたんだね」

「おねえさまがさそってくださらなかったんですもの」

「誘う理由がない」

「さそわないりゆうだってありませんの」


冷ややかに口を挟むリコットにゾフィはさらりと返す。

おや、ときらりんが二人を見比べる中、リコットはゾフィを見下し吐き捨てる。


「失せて」

「おことわりですの」

「いや、待って待って。ふたりって知り合いだったの?」

「敵」

「ゾフィはあなたごときがんちゅうにありませんの♪」


その関係性はユアの知るところではなかったが、どうやらふたりが知り合いらしいということは間違いなさそうだった。

そう思えば、なるほど仲良くなるイメージはないなとユアとしても妙に納得してしまうところだった。


バチバチと火花を散らすリコットとゾフィに、ユアは果敢に挑んでゆく。


「えーっと、それで口ぶりからして、ゾフィたちも一緒にやりたいって感じなのかな?」

「もちろんですの♡」

「ありえない」

「それはあなたがきめることではありませんの」

「うんまあ、今はリコットも一緒にやってる訳だし私の一存でも決めれないんだよ?」

「どうせおねえさまがそうめいじればしたがいますの」

「当然。けどあなたは認めない」

「ですっておねえさま♪」

「うーん」


そんなことを言われてもなあ、とユアは視線を巡らせる。

リコットは間違いなく敵対、リーンはあまり興味がなさそうで、きらりんはぽかんとしている。積極的な肯定がない以上否定勢力の方が優位になってしまう訳で、ユアとしてはリコットの気持ちを蔑ろにはしたくない。自分で誘って今一緒にやっているという事実は、優先すべき事柄だ。


そんなためらいに気勢を削がれたリコットに、ゾフィは変わらぬ笑みを浮かべたまま告げる。


「それに、あなたにとってもゾフィをうけいれたほうがよろしいですのよ」

「なに?」

「すくなくとも、そのあいだゾフィとなっちをかんしできますの。そうではなくって?」

「……」


諭すように告げられたゾフィの言葉に、リコットはしん、と目を細める。

しばらくゾフィを睨んでから、リコットは冷淡に呟いた。


「否定は、しない」

「じゅうぶんですの♪」

「ゾフィ、監視されなきゃいけないようなことしてるの?」

「おねえさまにはじるようなことはしていませんの」

「ふぅん」

「おのぞみであれば、ゾフィのぜぇんぶ、おおしえいたしますの……♡」


すぅ、と細められるユアの視線に、ゾフィは今にも舌なめずりせんばかりのにやにやとした笑みを浮かべる。


それをしばらくじぃ、と見つめて、それからユアは首を振った。


「まあ、それはまたの機会にするとして。ゾフィたちをどうするのかっていうのは、やっぱりみんなで話し合わないといけないことだから」

「別に、いいんじゃないっす?」

「きらりん?」


ユアが視線を向けると、きらりんはにへらと緩やかに笑う。


「ほら、だってやっぱり、好きな人とは一緒にいたいじゃないっすか。わたしも、誘われたときはマジで嬉しかったっすよ」


あっさりと言ってのけたきらりんに、ユアはぱちくりと瞬く。

そんな反応に、きらりんはいたずらが成功したような嬉しそうな笑みを浮かべた。


「そんな驚くことでもないと思うっすけどね?我ながら分かりやすかったと思うんっすよ」


いやもちろん、わたしが言えることでもないんっすけど。

そう言って苦笑したきらりんは、それからそっとユアの手を取った。


「先輩。この際だから言っておくっすけど、わたしはあなたが好きっす」


真剣な眼差しが、ユアを見据える。

ただ真っ直ぐに、きらりんは告げる。


「突然なことで申し訳ないっすけど、なんっすかね。せっかく他の恋人の方も沢山いるっすし、言おうとは思ってたんっすよ?もうちょっとこう、まともなタイミング選びたかったっすけど」


さすがに空気読めてなさすぎっすね、なんて冗談めかして笑いながら、なおもきらりんは続けた。


「でもまあ、とりあえず、なんかもう、やだなって思ったんっすよ。わたしも混ぜやがれって感じっす」

「べつに、きらりんを蔑ろにしたことなんて……」

「でも、許可とるっすよね」

「……」


きらりんの言葉にユアは言葉を返せず、口をつぐむ。

そんなユアに、きらりんはにっこりと笑った。


「いいっすよ。今度から。わたしは先輩が好きっすから、されてやなことなんてないっす。とりあえず、それだけは言っとこっかなって思ったっす」


多分これが正解だろうと、きらりんはユアの恋人たちを見回す。

突然に語りだしたきらりんに向かう視線はそれぞれに異なっていて、けれど分かる、彼女たちはみんなほんのわずかに機嫌を損ねていた。


それがきらりんにはこの上なく喜ばしいことで、きらりんは堂々と胸を張ってその視線を見返した。



《登場人物》

(ひいらぎ)(あや)

・VR世界まで自分を追ってきた可愛いあの子!その上仲良しな後輩ちゃんからの突然の告白!これから私、どうなっちゃうの〜!?みたいな。前者はなんとなく薄々来そうだなあとか思いつつ、なんとなく今のメンツと相性悪そうだなあとか思ってた。初期メンツじゃなかったのは、プレイ時間的に子供は誘いづらいから。後者はまあ、今日はなんか雰囲気違う?なんかいつもより可愛がりたいかも。くらい。


柳瀬(やなせ)(すず)

・AWでの楽しみの一つがケーキなので、当然隙あらばカフェに行きたがる。ルンルン気分だったのになんか遭遇しちゃってむっすぅー。なにが気に入らないって、初期メンツはの中で一人だけハブられてるのがなあ。リコットもきらりんも容赦ないぜ。


島田(しまだ)輝里(きらり)』完全平等

・大々的な宣言とかいらない。っていうかどうせ告白とかされ慣れてるだろうしちょっとは奇を衒うくらいでいこうってね。なんだかいろいろ吹っ切れて、おかげでなはずの恋人集合VR内でひとときだけ綾の意識をかっさらった。だからみんな気に食わない。そういうのはリアルでやれよ、マナー違反やぞ。


小野寺(おのでら)(あんず)

・ソフィとはなんとも折り合い悪そう。いろいろあったんです。スタンスが真反対だから、まあ相いれないのは当然です。


沢口(さわぐち)ソフィア(そふぃあ)

・ソフィ、またはゾフィ。金髪碧眼の純ロシアン少女。でも生まれも育ちも国籍も日本なので言語も当然日本語。両親も日常的にロシア語とか使ってないけど、ソフィアも一応喋れるには喋れる。今作における最低年齢。同年代と比べても発育はいまいち。さすがにプラトニックなお付き合いですよ!詳しくはデート回を待ちましょう。そして、まあ、言うまでもないですが、まともな人間ではない。綾の恋人だしね(偏見)。


如月(きさらぎ)那月(なつき)

・なっち(「・ω・)「(がおー)。がおー。無表情系クールビューティ。無口ではない。綾より背が高くて、スーツとかばりばり着こなせそう。表情変化薄いやつ二人もパーティに入れてどないすんねん。でも親しみやすいようにとキャラネームに遊び心(那月さんの精一杯)をいれる辺りいい人そうですね。ソフィアの使用人とかいう冗談みたいな肩書をいたって真面目にのたまいやがる。まあ事実だし。この人について大事なことといえば、まあ、綾の恋人ではないということくらいか。見かけはすごいまとも。


ご意見ご感想批評批判いただけるとありがたいです。


あとほんとに全く筆者に関係ないんですけど、といろフィルム更新してますよみなさん!(清々しいダイマ。『仕事してないキミが好き』が本編なのでまずそちらを読むことをおすすめします。なんで世の中にはこんな綺麗な人がいるんだろうって思えます)

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