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025話 多少歯ごたえのある敵を発見したとなれば、それを狙わない手もなく

更新です

25ってなんとなくクォーターな感じがしますよね

多少歯ごたえのある敵を発見したとなれば、それを狙わない手もなく。

リコットが新たな魔法やアビリティを習得したこともあり、まず可能な限り領域なしで戦闘を続けてみることに。


それに合わせる形で、せっかくだからとユアも新魔法を習得した。

MPもそれなりに増えてきたので、さすがにそろそろこういった場合にでも役に立てるようになろうと考えたらしい。


とはいえ当然、直接的な攻撃ではない。


「『付与(エンチャント)』―『魔力保護(マナコート)』」


ユアが触れる頭から、リコットの身体を白い光が包む。それはすぅとリコットの中に浸透し、心なしか全身が光沢を持つ。


LV.1『付与魔法』、『魔力保護(マナコート)』。

上昇率が低いとはいえ対象を全体的に強化するという効果を有する他、別の付与魔法の効果を上げたりもする言わば『付与魔法の下地』。とはいえ今のところユアは他の付与魔法を習得していないので、単体での運用だ。


付与魔法争奪大ジャンケン大会(勢いは花丸『ボクサー』リーン、高速フェイントの『忍術使い』きらりん、逆関節使いの『球体関節(マリオネット)』リコットによる三つ巴の激戦。リコットの逆関節グーによる初見殺しできらりんはあえなく敗北した。リーンは分かりやすすぎて瞬殺されている)を経て記念すべきユアのはじめてを獲得したリコットは機嫌良さそうに口角を上げ、喜びを示すようにむきゅうとユアに抱きつく。そんなリコットをなでなでしつつ、ユアはおずおずと差し出されるきらりんの頭に手を置いた。


「『付与(エンチャント)』―『魔力保護(マナコート)』」

「おおー」

「つぎわたしー!」


身体を包む光に歓声を上げるきらりんに遠慮の一つもせず、飛び込んできたリーンがユアに抱き着く。それを受け止めたユアは苦笑しながらその頭を撫で、きらりんは名残惜し気にユアを見上げる。当然そんな視線に応えるためにユアの手はリコットときらりんの間を往復し、ユアはさっさとリーンに魔法を使う。


「『付与(エンチャント)』―『魔力保護(マナコート)』」

「おぉー!ユアぱわーに包まれてるー!」

「ぱわー」


基礎の基礎というような魔法なだけあって恐らくはそう大した効果もないのだが、ユアの手によるという点でリーンには何倍もの効果がありそうだった。それにはきらりんやリコットも同意するところらしく、ユアもなんだかんだ満更でなさそうに3人を撫で回した。


そうこうしているうちについつい時間を忘れ、付与魔法の効果が切れてしまうという間抜けエピソードも挟みつつ。


気を取り直して付与魔法をかけ直し、スターも浮かばせたところで、ユアは面々を見回す。

返ってくる頷きに、ユアはにこりと笑って告げた。


「さあ、『気張っていこー』」

「「「おー!(っす!)」」」


声援でバフ効果を向上させつつ、先陣を切るはやはりリーン。

勢いよく扉を開き跳び出した(・・・・・)リーンは、その途端集まる視線を一身に受けながら振り上げた両手に大剣を握る。


「『ふきとべやおらぁあああ―――!』」


挑発と共に重力に沿って振り下ろされる大剣がちょうどそこにいた住民を光の粒子に破壊する。石畳に叩きつけられた大剣に両手を痺れさせながら歯を食いしばったリーンは、大きく足を広げながら強引に体を回し住民たちを薙ぎ払う。


「やっぱ圧倒的っすねー」

「割とどうかしてるよね」

「ん」


リーンの破壊力にわいわいと好き勝手言いながら、一行はできた小さな空間に勢揃いする。

のんびりする間もなく迫ってくる住民たちを見回したきらりんは、新品(中古)の手斧と長剣ををくるりと回し獰猛な笑みを浮かべた。


「んじゃ、行ってくるっす!」

「楽しんでおいで」

「っすー!」


領域を展開しているときのような防衛戦ではなく好きに動いて狩ってもいいとお達しを受けていたきらりんは、ユアの言葉に待ちきれぬとばかりに飛び出していく。そして向かってくる住民たちに真正面から飛びかかり、その首を手斧でへし折り長剣で引き裂き次々と光の粒子に変えてゆく。

リーンに向かうヘイトに紛れ傷一つ負うことなくくるくるりと暴れ回る姿は、力でねじ伏せるリーンとはまた違った方向で無双という言葉を感じさせるものだ。


それを眺めて楽しそうに笑みを浮かべるユアは、それから傍らのリコットの肩に手を置き語りかける。


「私たちも負けてられないね」

「んっ」


後衛、という意味で一括りにする『私たち』という言葉に格別の感動を覚えたリコットは、上機嫌で両手を左右に突き出した。そして左右に素早く視線を走らせると、ひとつ息を吐いて集中するように目を細める。


次の瞬間、リコットの手のひらから放たれる不可視の砲弾。

握り拳よりも一回り大きく歪んだ景色、それは真っ直ぐと飛翔し住民たちの合間を縫ってその奥の住民たちの顔面を撃ち抜く。

衝撃に仰け反る住民を確認したリコットはその威力ほほぼ正確に理解し、続いて両手から砲弾を連射してゆく。一見無作為にばら撒かれるかのようにも見えるそれは的確に住民たちの足や頭を撃ち抜き、転倒に巻き込みとその進行を著しく阻害した。


アビリティ『魔力弾』、威力自体は低いもののそれが弾幕と言えるほどに連射されるというのだからもはやスターの出る幕はなく、ほんの十数秒の内に住民たちは壊滅的なまでの足止めを食らうこととなる。


そんな成果をことさら誇るでもなく手を下ろしたリコットは、MP回復の促進という名目の元ユアに寄りかかりねだるように見上げた。

当然のようにユアはそんなリコットをなでなで可愛がりつつ、その間にもスターにてきぱき指示を出す。


そんなサイクルを回していれば、領域なしでも特に苦戦することもなく住民たちは仕留められていく。なんならリコットの援護力が強化された分討伐速度は上がったくらいで、隙だらけの相手に淡々ととどめを刺すという行為にきらりんはやや退屈そうだった。


しかし目的は、もちろんそんな無双ゲーではない。


蹂躙劇を止めんとするかのように、それらは突然現れる。


「来たっすね!」

「いったん集合!」

「どぉらっせぇい!」

「っすー!」


最後の一撃で大きく住民を薙ぎ倒したリーンときらりんが、ユアの言葉に従い周囲を固める。


「『領域構築(エリアメイク)』―『決戦場(バトルフィールド)

領域守護(エリアガード)』―『巡回する魔球(マジックボール)

『スター』」


時間2倍の領域と守護者の召喚、ついでにスターの再召喚。

それからユアは改めて告げる。


「さ、『存分に暴れていいよ!』」

「っしゃー!ぶっとばーすっ!」

「言われるまでもねーっすね!」


ひゃっはー!と駆け出すリーンときらりんが、住民たちの合間を縫って突撃してくる戦士を迎え撃つ。


しかし二人が戦士と接触するよりも早く、リコットが動いた。

両手を左右に開きながら首を反り、眼球を左右に動かすことでほんのわずかの時で周囲の住民たちを完全に補足する。


そしてリコットの両手から、不可視の砲弾が次々と放たれる。

撒き散らされたそれは、しかし狙撃のごとき精密さでもって住民たちの頭部に連続で直撃し薙ぎ倒していった。


1体の討伐に、計3発。

言葉を必要とせず思考によって発動可能であるが故の高速連射、毎秒1体以上が地に伏すこととなる。


そのとき街道にいた住民の全てがリコットの手で殲滅されるまでに、30秒も必要なかった。



次々と薙ぎ倒されてゆく住民たちを横目にやや引き気味になりつつも、リーンときらりんは戦士と接触する。


「いい剣持ってるっすねー!」


戦士の振るう長剣を自らの長剣で払ったきらりんは、続けざまにその手を手斧で殴りつける。きらりんはすかさず長剣をインベントリにしまうと、肉を裂き抉りこんだ手斧にたまらず緩んだ手から戦士の長剣をするりと奪い取った。

即座に押し出されるバックラーをバックステップで回避し、くるりと長剣を回したきらりんはにんまりと笑った。


「こいつはお礼っす」


武器を失ったことなどどうでもいいとばかりに突貫してくる戦士のバックラ―の縁をこするように突き込んだ長剣が喉を貫く。これまでよりも深く突き刺さる手ごたえを感じながら、きらりんは長剣を縦に叩き下ろしてこ(・・)の原理で戦士の首を千切り開く。

ぶづづ、と異常に開け広げられた首の傷からポリゴンが吹き出し、戦士は瞬く間にその力を失った。


それを蹴り飛ばしたきらりんは、付着してもいない血液を払うように長剣を振るい、それから新たに姿を現す戦士たち(・・・・)に笑みを浮かべた。きらりんの戦闘欲求を満たすのに、戦士のひとりではもはや足りないのだ。


一方リーンの方は、今回は『強撃』を使用しないで戦ってみるらしいものの、一対一であればその圧倒的な戦力差に変わりはない。


「うらぁ!」


ぶぅん!と振るった大剣が戦士の腿を薙ぎ倒す。

鎧ごと倒れた戦士が体勢を取り戻す余裕すら与えず、リーンは大剣を頭上に振り上げる。


「ちぇえりおぉおお―――!」


戦士は咄嗟にバックラーを空に向けて掲げるものの、そんなものは知ったことかとばかりに叩き下ろされた大剣がバックラーごと戦士を叩き潰した。


「ふぅ、っしゃ、つぎ!」


一息つき、けれどもまだまだ余裕を見せるリーンは、姿を現す次の戦士を見据えまた大剣を構える。思う存分大剣を振り回せるので、リーンもなかなか楽しんでいるらしい。


どうやら戦士の出現からは住民の追加はないらしい、ずいぶん見晴らしの良くなった街道へと次々に現れる戦士をリーンときらりんは順々に叩き潰していく。


「学習能力なさすぎっすかぁ?」


果たして意味があるのか、先駆するメイス持ちの振り下ろしを煽りながら回避したきらりんは、地面を殴るメイスを持つその腕を踏みつける。がくんと引かれ前のめりになる頭に手を乗せ、次の瞬間きらりんの身体が大きく跳ね上がると同時に戦士は頭から石畳に叩きつけられる。


「白銀流“天上人”、ッ!?」


簡単に言えば『戦士の頭を地面にして腕で跳躍した』きらりんは、ついつい()の癖で零れた呟きに咄嗟に口元を抑えつつ、倒れた戦士の手を踏みつけメイスを手放させる。

それを拾う間もなく正面からひうんと風を裂いて突き出された回転する槍を半身になって回避すると、手にしていた長剣と片手斧を躊躇いなく手放しながら穂先の根元をひっつかみ引き下ろし、同時に槍の柄を殴り上げる。槍の石突近くを片手で持っていた戦士はてこの原理によりいともたやすく槍を手放し、くるりと円を描くように跳ね上がる石突が天を向いたところできらりんは槍を停止させ、そのまま足元で倒れる戦士の背中から心臓部を目掛け突き下ろす。


『プレイヤーきらりんのLVが―――


聞こえてくるアナウンスに向ける意識はきらりんにはない。

しゃがみ込むように勢いを乗せたきらりんのそばには転がるメイス。

丁度光の粒子に爆ぜる瞬間を踏み抜きながら、その前にメイスを拾ったきらりんは飛び跳ねるように槍持ちの戦士に襲い掛かり、咄嗟に突き出されるバックラーを掻い潜る。

刹那のタメで前方への速度を消し去り全脚力を上方に向け伸びあがるきらりんの掌底に立ったメイスが、立ち上がりと腕の伸びの勢いを十全に乗せ戦士の顎を下からかち上げる。


顎を抉り飛ばし首を真逆に逸らす一撃によろめいた戦士へと逆の手に持ち替えたメイスを叩きつけ、それで2体目も倒れこんだ。


「っとお」


その瞬間飛来する矢をメイスで打ち払い、続けざまに振り下ろされる大剣をバックステップで回避。どうやら今度は弓持ちと大剣持ちらしい、楽しそうに笑いながら地面に散らばる武器たちを手早く回収しインベントリに放り込んだきらりんは、横ざまに振るわれる大剣をメイスで打ち上げながら掻い潜り、その勢いのまま回転して戦士の側頭部にメイスを叩き込む。たたらを踏む戦士に追撃を仕掛けようとするとたん行く手を遮るように飛来する矢を後ろ髪がふれるほどのぎりぎりで通り過ぎ、取り出した片手斧とメイスを戦士の首元に振り下ろす。

戦士を蹴り飛ばし片手斧を抜き去る勢いで後退した眼前を通り過ぎる矢にきらりんはひゅうと口笛を鳴らし、それから弓持ちの戦士に嘲笑を向ける。


「そんな腕前じゃ一生当たらないっすよぅおう!?」


調子に乗っていたきらりんの耳元を、脇の下を、頭上を、股の間を、連続して通過する不可視の砲弾。

ほんのわずか動けばそれだけで触れてしまうほどの至近距離を狙いすましたそれは、その上当然のように全弾弓持ちの戦士に直撃した。


顔を引きつらせながらきらりんが振り向けば、まるでなにごともなかったかのようにユアのなでなでを享受するリコットと、楽し気に笑うユアの姿。ついでにその向こうで戦士を頭から地面に叩きつけるリーン。


とりあえず、弓を破壊され跪いていた弓持ち戦士にきらりんはさくっととどめを刺しに向かった。



《登場人物》

(ひいらぎ)(あや)

・まっとうなバッファーになりつつある……?でも属性取らないから項目ごとのステ強化とかできないまま。まああくまで領域のついでと思うといらないっちゃいらないかもしれない。もはやこだわりの領域よ。


柳瀬(やなせ)(すず)

・なんだかんだちゃんと強い。力押し、極めていけー?


島田(しまだ)輝里(きらり)

・武器拾い放題。入れ食いだぁ。テンション上がって黒歴史が魂の奥から零れ始めている。当然のように、綾はそれを見逃していませんよ。突然出てきた『白銀流“天上人”』。 相手の身体(主に頭)を支点に腕の力だけで跳躍することにより輝里の体重(=47.2kg)を浮かせるだけの力を叩きつける白銀流奥義其の参。白銀流は最強無敵、故に立ち向かうそれだけで不遜。『頭が高ぇ』っていうことですね。体勢を崩してる相手にじゃないと上手くハマらない。頭下げるで足りると思ってんのか?謝罪の仕方を教えてやるよっ!白銀流が何かとか輝里に尋ねると真正面からぶん殴られます。ステータスとゲーム故の尖った物理演算による産物であり、リアルでやると腕を痛めるし全体重かからない。


小野寺(おのでら)(あんず)

・無双ゲーかな?連射と狙撃を同時にこなすとかどうかしてるぜ。


ご意見ご感想批評批判いただけるとありがたいです

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