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019話 きっかけはユアの些細なぼやきからだった

更新です

待ちに待った街に来た


今日と明日(9/26・9/27)はミクちゃんのバーチャルソロライブです。18:30から入場開始らしいです。ナユタン星人さんのテーマソングも素敵ですよ!

きっかけはユアの些細なぼやきからだった。

東エリアを目指していざ出発といったところで長々と続く道を見たユアの、当然と言えば当然なぼやき。


「移動も、結構大変だよねえ」


都市を隔てる巨大な壁がうっすら霞む東エリアへと、今から歩きで行こうというのだ。

さすがにVRなだけあって歩き続けることで疲労が蓄積したり足の裏が痛むなどと言うことはないのだが、歩行による労作感自体はそれなりにある。それに、ステータス的に純魔法使いなユアなので、その歩行速度はリアルとそう大差ない。つまりはそこそこの時間の歩き旅、それもさほど変化もない見慣れた景色を移動優先でとくれば、やや面倒臭いというのがユアの正直なところだ。


雄大な自然、と言えば聞こえはいいものの、そういうもので感動できるような初心さは、そこそこ長い間VRに触れてきたユアにはないのだった。


「こう、せめて乗り物的なシステムがあってくれると嬉しいんだけど」

「騎獣とか、できなくはない、らしい。面倒」

「そっかあ」


モンスターを何かしらの方法で手懐けてそれに乗るということは、AWにおいても可能となっている。ただ専用のアビリティが必要だったり騎乗センスが必要だったりとなかなか人を選び、さらにそもそも騎乗に向いたモンスターを探すところから始めなければいけない訳で、それをもってリコットは面倒と言った。


リコットが面倒と言うのならば誰でもなくユアにとって面倒なのだろうと、ユアは当然にその言葉を受け止める。機会があれば、とは思うものの、進んで求めていくには微妙らしいと判断し、それはそれとしていろいろと調べてくれているらしいリコットを改めて撫でておく。


そんな姿を見てむむむと唸っていたリーンは、ふとぺちこーんと手を打った。


「じゃーこーすればおっけーだ!」


そう言ったリーンの取った手段というのは、ユアをお姫様抱っこで運搬するというものだった。


25にもなって、しかも歩くのが大変だからなどという理由でというのはどうなんだと思わないでもないユアだったが、リーンの心底満足げな表情を見上げれば仕方ないと苦笑するに収まる。筋力的にリアルではどう考えてもあり得ない体勢なこともあり、まあゲームの中くらいいいかとそんな風に受け入れたらしい。


それに対してリコットやきらりんに思うところがないでもなかったが、リコットがユアを抱こうと思えば体格やステータス的にもやや難しく、ひとまずはその思いを胸の内に秘めることにした。なにより、どちらかと言えばリコットはユアの腕の中にある方が嬉しいのだ。もちろんそんな感情の機微を読み取ったユアに微笑みを頂戴し、リコットとしては文句もない。


一方のきらりんは、うらやましそうな表情を浮かべはするものの、では実際にあんな体勢になったらと考えるだけで頬が熱を持つようでは文句を口にすることもできず、もごもご口を動かすだけにとどまった。ほんのちょっぴり残念そうな視線を向けてくるユアには気が付くことはない。


そうこうして、移動の際にユアがリーンにお姫様抱っこされるというスタイルが確立されることとなる。必然的に周囲の注目を集め、なにやら面白い集団がいるということでその存在が広まっていくことになるのだが、一行にとってはどうでもいいことだった。


なにはともあれ、一行は東を目指す。

遠い、といっても所詮は十数分の道のりだ。

モンスターを完全に無視して進んでいけば、前方の壁はみるみる巨大になっていく。


陸地を横切る大きな壁。

円を描き都市を囲むその壁は、まるで一つの山から削り出したかのように、継ぎ目もない滑らかな石材により形成されている。いったい何に備えようとしていたのか、登ろうという意思が湧かない程度には高く、また重厚なその壁には、道の先、巨人でもかがめば通れそうな入り口がぽつりと開いている。


「すごいねあれ」

「ん」

「圧巻っすねー」

「強そー!」


遠めに見ても威圧感を感じさせるその姿に感嘆の声を上げる一行。

どうやら他にも初見のプレイヤーがいるらしい、わくわくしたような声がちらほらと聞こえ、中には待ちきれないとばかりに駆け出す者もいる。


リーンもそれにつられてうずうずしているが、ユアに宥められれば大人しく喉を鳴らして落ち着いた。

とはいえ眺めている必要もない、一通りリアクションを取り終えたところで、再度歩き出す。


距離感を見失いそうなほどのサイズの壁は、近づけば近づくだけその威容を増した。

そして見上げるほどに近づけば、入り口を通してその内部も見えてくる。

なるほど街というのは確かなのだろう、理路整然と立ち並ぶ高層建築、まっすぐ通ずる街路はセントエラよりも高度な文明を感じさせるもので、そこをうろつく人影はセントエラよりも栄えているという風にも見えなくはない。


やがてユアたちは、その入り口に到達する。


マップが切り替わり、『無法の都市』という名称が記される。

その際に立ち、ユアたちは顔を見合わせた。


聞こえてくるは、戦闘音。

剣戟の音、悲鳴じみた声、魔法らしきエフェクト、舞い上がるポリゴン。

みれば道端で住民相手に斬りかかるプレイヤーと、それを囲み襲う住民たちという構図がちらほらみられる。


無法というのはこれを指しているのか、もしそうだとしても納得以外しようがない、そんな光景だ。


ちょっとばかし想像と違う光景に、どうしようこれ、とユアはやや戸惑うが、当然ながら進む以外を選択する理由もなく、また他のメンツにそんな思考はないらしく、ユアは腹をくくった。


「よし。リーン、ごー」

「あいあいさー!」


ユアの号令に従い一行は入り口をくぐる。

長剣と棍棒を携えたきらりんを先頭に、ユアを抱えたリーンが続き、リコットがしんがりを務めた。


街は、面白みがないほどに整然としている。

入り口から伸びる長い長い街路は壁と同じような石材で、くすんだ白線が縁どっている。それをはさみ立ち並ぶのは5階建ての直方体な建造物、扉までが石材で構成されそのどれもが寸分の狂いもなく同じ形をしていた。建物の間を縫うように小道が通っており、その左右には四点杖のような形をした街灯がこれまた等間隔で並んでいる。奥に視線を向ければ、他の建造物よりも太く、しかし背の低い建造物が道の先に建っていた。


色彩はなく、歪みすらない、無機質な街。

無法とは裏腹に整って、響く喧騒がひどく場違いだった。


足を一歩踏み入れれば、その途端に近くをうろついていた住民が気が付く。

画一的な、縫い目がない白無垢のシンプルな布の衣服をまとった住民たちは、奇妙に白目をむき、さながらゾンビのようにおぼつかない足取りでユアたちの元へと向かってきた。ゆっくりとではあるが、囲まれ迫られるというのはそれだけで脅威だ。また、顔ぶれはいたって普通の人間で、身体的にも異常は見られず、だからこそその異常な様子が際立って恐怖を感じさせた。


「こんちわっす!」


しかしながらユアたちも伊達にVRゲームをやってきたわけではない。

今更そんな程度のホラー要素にひるむわけもなく、きらりんは最も近い金髪碧眼の住民になぜか挨拶などしだす。当然のようになんの返答もないのを見て取ると、「や、まあそりゃそうっすよね」などと肩をすくめ、それから躊躇いなくその喉に長剣を突き立てた。


ぞぐ、と喉を潰し肉を抉った長剣の勢いに押され、たたらを踏む住民。

構わず長剣を振り抜いて喉を抉り飛ばせば、傷口からポリゴンを吐き散らしながらあっさりと住民は倒れ伏した。


「結構もろいっすよ。てか弱いっす」

「まあ、普通に人だもんね」

「あいさつがなかったら敵っす」


そんなことを言いつつ、きらりんは近づいてくる住民を同じように仕留めていく。

ゾンビというならつゆ知らず、ゲームの中とはいえ進んで人殺しをしたいわけでもない。その基準の一つがどうやら挨拶らしく、だからわざわざあんな風に声をかけたらしい。


その謎のこだわりに苦笑しつつ、ユアは周囲を見回す。

見渡す限り、人、人、人だ。

立ち止まっていては囲まれるだろうし、他のプレイヤーの邪魔にもなりかねない。


「とりあえず、適当に倒しながら進んで行こっか。本格的に狩りするにしてももっと人がいないところがいいし」

「ん」

「うぃっす」

「さんせー!」


そんな訳で、一行は都市を進んでいく。



《登場人物》

(ひいらぎ)(あや)

・荷物かお荷物か。まあバフかけれるしお荷物っていうほどでは……ない……ない?ちなみに領域魔法発動中にお姫様抱っこすると領域解除されます。軽いジャンプくらいなら大丈夫なんですけどね。あと発動自体は足ついてないとだめ。つまりお荷物なのでは……?


柳瀬(やなせ)(すず)

・綾を抱っこできてうれしい。リアルだと絶対無理だしね。むしろ逆。食後に眠そうなところをベッドに運ばれたりするときあっさりお姫様抱っこされてる。だから、いつもと逆なことできてたのしーなーくらいの気持ち。人の目とか気にしてやってられっかよ。


島田(しまだ)輝里(きらり)

・サイコパスかな?ゲームとリアルの区別はつけましょうね。リアルだと魚さばくのも顔しかめるくらいの子です。まあ、グロとかより不快感なんですけど。ゾンビとかならね。どんな残虐なことしても心は欠片も傷まないんですけど。そんなためらう前にまず弾丸をぶち込んで、それからリアクションすればいいじゃないですか。


小野寺(おのでら)(あんず)

・拳銃とかそこら辺落ちてないかなとか思ってる。まあないですけど。別にいくらでも狙撃できるけどまあ輝里一人で十分かなと今回は静観。リーンが運び屋やっている以上出番はすぐ来るんですけど。新魔法もお披露目したいところですし。


街に行くだけで一話って詐欺みたいなものかもしれないとふと思いました

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