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017話 きらりんとリコットの参入二日目のこと

更新です

多少変態でも引いてはいけません。

きらりんとリコットの参入二日目のこと。

昨日いろいろと狩りをしたうえで結局森という環境に嫌気がさしただけのリーンの主張で今日は狩場を変えるという話になり、ではどこにするかという話し合いのために、ユアたち一行はとある喫茶店にやってきていた。


案内されたテーブル席に各々座り、注文をして一息つく。

ちなみに座席に関しては、意外なことに特に悶着もなく決まっている。できるだけユアの近くがいいリコットがその隣に、正面にいたほうが一番視線を交わしやすいし表情も見れるからとリーンがその正面に、それぞれがなにを言うでもなく自然に座ったせいで完全に出遅れたきらりんがユアの対角に座ることになった。ユアとしてはどの位置に誰が座ろうと等しく愛でられるという事実があるのでさして気にしていない。


「ご注文のお任せケーキセットでございます」


そう言ってお盆から色とりどりのケーキと湯気立つティーカップをテーブルに並べるのは、大人びた顔立ちの少女。ウェイトレスの制服、というよりは私服のようにも見える布のドレスを纏っている。短く切りそろえた赤毛は飲食店だからなのか、おかげで邪魔するものなく見晴るかす瞳は澄んだ空色だった。


そんな少女の顔がちょうど近くにあったのでじぃと見ていたユアだったが、ふわふわと香る甘い匂いに意識が惹かれ、ほどなくしてその視線はテーブルに向けられた。


テーブルに並ぶ、色とりどりの4種のケーキたち。

黒い生地を白い毛のようなものが覆う身のあるケセランパセランといったような白くふわふわしたケーキ、茶色のクリームでコーティングされ銀色の粒粒(アラザン)で飾り付けられたバームクーヘン形のケーキ、空色と若草色の透き通った生地が層になったケーキ、オレンジ色の土台を赤色の飴が細く格子状に覆うケーキと、色合いも形状も独特ではあるものの香りだけでも美味しいと分かる代物で。


リーンが覗いただけで(ユアは、その鼻がひくひく動いていたのを見逃さなかった)びびっときたらしい喫茶店、常連らしきNPCの客がぽつぽつといるだけの店内にはなんの変哲もないようだったがどうやら当たりだったらしいと、ユアは頬を緩める。


「とっても可愛らしいケーキですね」

「お味も保証ますよ。なんてったってウチの人気メニューですから」

「あはは、それは楽しみです」


ちなみにこの喫茶店、メニューは『おまかせケーキセット』のみだったりする。飲み物は応相談。


「ではごゆるりとおくつろぎください」


そう言って去っていくウェイトレスに礼を告げ、それぞれ適当に気に入ったケーキを選んで手元に持ってくる。

ユアはケセランパセラン、リーンはバームクーヘン型のケーキ、きらりんがオレンジ色の土台と赤色の飴のケーキ、そしてリコットが空色と若草色のケーキだ。


話し合いはさておきまずはケーキを楽しもうと、それぞれケーキをぱくり。


「んっ、おいしい……!」


ケセランパセランは、その中の黒い生地にフォークを入れると中からとろりと黒いソースが零れだした。それで白い毛を染めて口に運べば、すっ、と香るべリーの爽やかな甘酸っぱさ。白い毛は舌に触れると柔らかな甘みだけを残してほろりと解け、かと思えばやや酸味の強い生地と合わさり味わいを変えた。最後にはくどすぎないすっきりとした甘みだけが残り、自然と次の一口にフォークが進む。


しかしユアは、そのフォークを自分ではなく正面に座りにこにこケーキをほおばっているリーンに向けた。


「あーん」

「なっ!?」

「んぐ、あーんむ……んん!?」


口の中を飲み込んでからそのケーキにぱくついたリーンは、途端に瞳を輝かせた。

もきゅもきゅこくんと飲み込んで、ぱあーと笑う。


「おいしー!」

「リーンこういうのがいいでしょ?」

「うん!」


ベリー系の甘酸っぱさに目がないリーンは、なんとも幸せそうにうなずく。それからぱっと目を見開き、いいことを思いついたとばかりに楽し気に自分のケーキを一口フォークに刺すと、フォークをそっと口に入れていたユアへと向ける。


「おかえしー!」

「ありがと」

「な、なんと……!」


差し出されたケーキを躊躇いなくぱくりと一口。

どうやら茶色のクリームはコーヒーのようなものらしい、香り高い苦みが生地の甘さを引きたてる。アラザンのかりかりした食感も心地よく、なんともユア好みの一品だった。


す、と口を離し、ちろりと唇を舐めてユアは笑う。


「うん、おいし。ありがと」

「えへへー」

「よ、余裕っす……」


照れ笑うリーンにユアは目を細め、その目の前に横からずいとまたしてもフォークが差し出される。空色と若草色の透き通ったケーキの持ち主が誰だったかなど考えるまでもなく視線を向ければ、リコットがじぃっとユアを見ている。

言葉はなくとも、ユアは当然のように応えてぱくり。


透き通った生地は冷ややかで、普通のスポンジよりも舌ざわり滑らかな独特の触感ではあるものの焼き菓子のそれだった。それに驚き目を見開くユアだったが、さわやかなハーブの香りがすぅっとそよ風のように鼻を抜けるのを感じて知れずまなじりを下げる。

咀嚼に合わせもったりとペーストのようになるそれを飲み込むと、ユアは軽く自分のフォークをお返しに自分のケーキを一口分さしだす。


あむ、とぱくついたリコットは、ケーキというよりはユアのスプーンが嬉しいらしい、もぐゅもぐゅとフォークを咥えたままケーキを食べ、飲み込んだ後もむにむにと咥えていた。

やがて満足したのかリコットが口を離すと、ユアは苦笑しながらそれを自然に自分の口の中に入れた。


「ひ、ひぇぇ、っす」

「きらりん」

「はひゃい!?」


先ほどからユアたちのやり取りを見てびくびくしていたきらりんが、ユアに名前を呼ばれその身を弾ませる。そんなきらりんにユアはそっとケーキの乗ったフォークを見せつけ、こてんと首を傾げた。


「きらりんも、いる?」

「あぇ、あの、」


じぃ、と見つめるユアにきらりんはたじろぐ。

その視線はちらちらとユアの持つスプーンとユアの唇を往復し、どうやら並々ならない興味はあるらしいということは十分に伝わってくる。


いっそ強引に来てほしいっす。

などときらりんは思うが、どうもユアにはきらりんの返答を待たないという選択肢はないらしい。どうしてこう自分にだけ羞恥プレイを仕掛けてくるのかとやや理不尽な怒りすら覚えつつ、きらりんは意を決してぎゅっと目を閉じ口を開いた。


「あ、あー、っす」


音的に口を開くにあたって邪魔だろう“っす”はそれでも欠かさないきらりん。

暗闇の中、どきどきと自分の鼓動の音を感じながら待つこと僅か、その間にすらもしかしてこれからかわれてるんじゃないっす……?などと繰り返し考えるきらりんの口内に、ふわり、と振れる感触。咄嗟に口を閉じると前歯がフォークに当たりかちりと音が鳴り、くすくすと楽し気な笑い声が聞こえてくる。


耳まで真っ赤にしながら恐る恐る目を開いたきらりんは頬杖をついて笑いながらフォークを差し出しているユアを直視することとなる。そのフォークの先は紛れもなく自分の口内につながっており、口内には爽やかな甘酸っぱさが広がった。

ほぼ無意識に唇を閉じ、歯を浮かす。

するとユアはすっとフォークを抜き出し、そのまま自分の皿の上に置いた。


それを見ながらもぐもぐごくりとケーキを飲み込んだきらりんは、目を細め自分を見つめてくるユアを見返す。


「どう?」

「あまずっぱいっす……」

「そ。おいしかった?」

「おいしかったっす……」

「それはよかった」


ふわりと笑うユアにきらりんは力なく笑い、くたびれたように背もたれに沈んだ。

ただ『あーん』をしてもらっただけなのに異常なほどの疲労感だった。


なんとも疲れた様子でやれやれと首を振るきらりんは、ふとユアが依然としてじぃと視線を向けてきていることに気が付いた。

ぱちくりと瞬き、そこでふと自分のケーキを一口フォークに取ると、ユアはうずうずといった様子できらりんとフォークを交互に見る。


まさかと思い、きらりんは恐る恐るフォークを持ち上げ、そして言ってみる。


「え、と。あーん、っす」

「あー」

「!?」


きらりんの指示に従うように、口を開くユア。

それもきらりんに倣ってそっと目を閉じている。


目を閉じたユアが、ほんのわずかに舌を差し出して、口を開いている。

しかもなにやらその頬は紅潮しており、それはきらりんから見ると、なんというか、なんとも―――


「う、わえ、っ」


危うく口からこぼれそうだった言葉をとっさに口をふさいでせき止める。

口調が変わるレベルでの衝撃的な光景にきらりんは生唾を飲み込み、懸命に目を逸らしながら、しかし狙いを外すわけにはいかないとどこかに言い訳をしてちらちら見ながらフォークを差し出し、ユアの口内にケーキを運搬した。


にゅ、と、舌の上にフォークが乗る。

すい、とフォークを招き入れるように舌が動き、はむっと閉じた唇の向こうにケーキが消える。

むいむい動く唇の向こうの光景を想像したきらりんは顔を真っ赤に赤らめながらしゅばっとフォークを抜きだし、それを皿の上にでもいったん置こうとし、しかしふとそのぬらりと光る先っぽに気が付きまじまじと見つめてしまう。


先ほどまでユアの中にあったフォーク。

とそう考えるだけで無意識に生唾を飲み込むきらりんだったが、次の瞬間フォークに付着したそれはふっと幻のように消えてしまった。システム的にこういった汚れは残留しないのだ。


「……」

「うん。おいしい。あれ?大丈夫?」

「……へ?ああ、だいじょうぶっす。だいじょうぶ……」


あまり大丈夫でなさそうにずぅんと表情を暗くしフォークを見つめるきらりんに、ユアはそっと眉を顰め目を伏せた。


「……フォーク、変える?」

「はい!?……あ、いやいやそういうんじゃないっす!ほんと大丈夫っす!むしろウェルカムっす!……いやそういうんでもないっすけどね!?ないっすけどあのあれっす!とりあえずだいじょぶなやつなんっす!」


落ち込むユアに慌ててああでもこうでもないと言い募るきらりん。

そんなきらりんをユアはじぃ、と見つめ、それからそっと微笑んだ。


「うん。分かった。ごめんね、変にいじけちゃって」

「問題なしっす!いやー、にしてもケーキ美味しいっすね!」


分かりやすく話題を転換しようと自分のケーキにフォークを入れたきらりんはその瞬間一瞬硬直。


「…………いや、別にこれくらい普通っすし、そもそも別にどうもしないっすから」


などとぼそぼそ口の中で呟き頷くと、何事もなかったかのようにケーキにぱくつく。


そんなきらりんをしばらく見つめていたユアだったが、おかわりを差し出すリーンやおかわりをねだるリコットに望まれるまま応えることになる。その合間できらりんにまたフォークを向けてみたりと、一行はなんとも騒がしくティータイムを過ごすのだった。



《登場人物》

(ひいらぎ)(あや)

・ケーキはビターが気に入っている。甘いの苦手とかではないけど、あんまり甘すぎると胸焼けしちゃうんだよね。どの口が言ってんだと言われるようないちゃらぶを目指して頑張るぞ。ところできみ、なんかすっごい当然のように人の咥えたフォーク舐ってるけどそれ相当気持ち悪いですよ?大丈夫?ほのぼのいちゃらぶに度が過ぎた変態的所業は禁物だよ?まあ綾だし……。


柳瀬(やなせ)(すず)

・ケーキはベリー系のを気に入ってる。ソースのたっぷりかかったチーズケーキとかいいじゃないの。ケセランパセラン美味しいです。ベリーの酸味がね。いいんだよ。瑞々しい苺とかもいいね。無限にケーキ食べれるね。001話でも苺ショートケーキ食べてたあたりさすが綾さん。でもこういう味覚の好みとか筆者がうっかり忘れてなんかやらかしそうで不安。まあそのときはそのときですね。綾の手から与えられたらなんでも好物作戦で行きましょう。


島田(しまだ)輝里(きらり)

・ケーキはとことん甘いのが好き。急に視点がきらりんに寄ったせいでケーキの味についての描写は消失しました。なに味なんでしょうね。イメージは野菜系の自然な甘み。少なくともきらりんの好みドンピシャというつもりはないんですけど。耐性ゼロの上に経験皆無、というか意識したことないからあの反応。学生時代とか全然普通に回し飲みとかしてたタイプ。しかも運動神経よくて?気さくで?見た目可愛い?それなのに浮ついた話一個もないだと……?おっと忘れるな、こいつは中二病だぜ。とはいえそれを知らない後輩とかにはそこそこ人気だったらしい。ラブレターとか下駄箱に入ってたこともあるくらい。まあそれは輝里には届かなかったんですけど。おかげで今更の初恋にごらんのありさまだよ!


小野寺(おのでら)(あんず)

・ケーキはふわっと香るのが気に入ってる。今回のハーブケーキもいいね。紅茶の茶葉とか入ってるケーキもいい。リコットにとって嗅覚は味覚より感じやすいからさ。似たような理由で辛いのも気に入ってるけど、まああんま進んで食べる感じではないなあ。いやケーキの話じゃないじゃん。まあ登場人物についてなのでよしとしましょう。ああ、もちろん、綾の味が一番好きです。VRは妥協ですけど。


〜tips〜

VR内でなにか食べても味覚を感じるだけで、満腹感とか満足感はほとんど感じない。胃の辺りでデータの藻屑と消えるので、喉越しとかは感じられる。ちなみにリアルで空腹だったり連続プレイ時間が長時間になったりすると不定期でお腹が盛大に鳴るようになってしまうとかいうシステムがあったりする



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