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015話 飛び掛ってきた小鬼の頭をぶん殴り地に落とす

更新です


飛び掛かってきた小鬼の頭をぶん殴り地に落とす。

そのままその小鬼を踏んづける一歩で加速し突き出した長剣で後続の小鬼の喉を一突き。

喉の皮を越え突き刺さった長剣をそのままわずかな手ごたえを突っ切って薙ぎ、「通行料はその命っす!」などと気取って言って勝手にテンションを上げながら、横を通過しようとする小鬼の側頭部に長剣を叩き込み弾き飛ばす。

即座にほんの一瞬身体を伸ばすように完全に体重を宙に浮かせながら棍棒を振り上げ、全体重を落下させるように、喉を抑える正面の小鬼の頭部を打ち据える。

ばぎゃ、と頭蓋がいびつにへこみ膝を折るように地に伏した小鬼から視線を切り離しながら足元で耳障りな悲鳴を上げる小鬼を一度全力で踏みつけ黙らせると、体を横に向け足元を踏みにじり跳躍するような一歩で転がる小鬼に肉薄、着地の勢いで振り下ろした棍棒と長剣を叩きつけ沈める。

とそこへ仲間への攻撃でヘイトを集めたのか背後の樹上からとびかかってくる小鬼を鳴き声で察知、「奇襲は黙ってやるもんっすよ!」と個人的にかっこいいと思っているセリフを口にできた愉悦を唇に乗せながらおおよそのあたりをつけて放つ振り向きざまの回し蹴りを、刹那の目視でアジャストし小鬼の首元に叩きつけ、そのままの勢いでそばにあった木に叩きつける。

その衝撃で足首の可動域が拡張され一瞬表情がぴくりと歪むがまるでなにごともなかったかのように足を引くと、首が変な方向にへし曲がり地に落ちる小鬼には目もくれず振り向き、最初に転がしてからは足場になっていた小鬼がしぶとくも起き上がろうとしていたのを見てさっと駆け寄ると棍棒で打ち据えとどめを刺す。

ついでに動き回るのに追いつけずうねっていた蛇の頭ををさっくり突き潰すと、休む間もなく周囲を見回し領域を侵さんとする小鬼の集団を見つけ口角を上げ、「いいっすね。まだまだわたしは腹ペコっすよ」などとにやけて言いながら軽く手首を回して駆け出した。


「きらりん楽しそう」


小鬼相手に無双の働きを見せるきらりんを見て、ユアがうっとりと笑む。

好きな人がその人らしく生き生きと楽しんでいればそれが一番であると考えるユアであるからして、多少深淵なる闇の息吹を感じさせなくもないきらりんであっても見とれるに支障などある訳もない。強いて言えばこの場合では自分で触れられないことが口惜しく、どうせならいつか背中合わせで戦ってみたいなあとやや難易度の高そうなことを思いつつ。


それはさておききらりんの方は大丈夫そうだと判断し、ユアは意識をリーンの方へ向ける。


「だー!もー!」


やや不満げな声を上げながら振り下ろす大剣が正面の小鬼を叩き潰す。その脇から飛び掛かってくる小鬼の手に持った棍棒による攻撃を肩で受けとめ頭突きをかますと、大剣を振り上げ振り下ろしまた同じように叩き潰す。しかし小鬼はまだ迫ってきており、さらには蛇までしゃーしゃー威嚇してくる始末。


「うなぁああ!」


いらだったリーンが思い切り大剣を振るいそれらを一気に薙ぎ払おうとするが、その切っ先が半ばで木に突き刺さる。それを隙と見て取ったか飛び掛かってくる小鬼を「んもぉー!」などと鳴きながら大剣を思い切り引き戻すことで吹き飛ばすが、今度はまた別の木に引っかかって大剣が止まる。


「あーもーこんにゃろー!」


先ほどからろくに大剣をぶん回せないことでフラストレーションの溜まっているリーンはそのイライラを小鬼や蛇を叩き潰し踏みつぶし蹴り飛ばしたりと暴力的に発散しているのだが、その動作がまたイライラの原因になったりとどうも上手くいっていないらしい。


それでも元からヘイトが集まっている分モンスターは十分に抑えられていることもあり、まあ後でなでなでしてあげればいいやとユアはさして気にしないことにした。


残るリコットはといえば、リーンに向かうモンスターやリーンに取り付いた蛇、きらりんの手が足りていない部分などに魔弾を撃ち込み上手く全体のフォローをしている。また不遜にもユアを狙い地を這う蛇は一匹残さず杖で迎撃しており、ユアとしてもおかげであまり不安もなくパーティの戦いぶりを眺めることができていた。


そのお礼と、またMP回復を少しでも助けるためということで、リコットは戦闘開始からずっとユアのなでなでを享受していたりする。それもまたリーンのフラストレーションの元になっていることは重々承知のユアではあるが、そこになでなでするにちょうどよく差し出された頭があるのに手を伸ばさないのは不敬にすら当たると、据え膳食わぬはなんとやら的な思想からその手が止まることはない。


そうこうしていると、ふとリコットがウィンドウを操作しだす。


「あ、レベル上がったんだ。おめでと」

「ん」

「【魔法使い(マジシャン)】とかおすすめだよ」

「属性が欲しい」

「ああ、そっか。魔法一個じゃ寂しいもんね」


AWにおける魔法には、領域や陣などの魔法系統と、属性という要素が関与してくる。

『声援』などの特殊なものを除いた基本的な属性は『炎熱』『水冷』『緑地』『風雷』『聖光』『闇呪』の6種類からなり、それぞれ様々な特徴があるのだが、属性の方も【属性適応:〇〇】というアビリティを取得しなければ使用することはできない。例えばアビリティ【属性適応:炎熱】を取得するとそれぞれの系統における『炎熱』属性の魔法を取得することができるようになる。


そういえばそんなもの初期取得アビリティにあったなあと思い返しつつ、同時に取得可能アビリティの中で見たことがなかったことを思い出したユアは気になってウィンドウを表示する。

すると、すっかり確認を忘れていた新規取得可能アビリティとして6属性がずらりと並んでいるのを発見した。


「やっぱり、ない」

「リコット、これこれ」


どことなく落胆した様子を見せるリコットに自分のウィンドウ見せると、リコットはふむと考える様子を見せる。それから徐に自分のウィンドウを操作した。


「【魔法使い(マジシャン)】、取った」

「あれ?いいの?」

「ん」

「そっか」


どのみち取得可能アビリティが増えるのはレベルアップ時であり、わざわざEXPを貯めておくほどにコストがかかる訳でもないので、それよりはユアとおそろいを優先したらしい。

そんなリコットにユアは目を細めより一層なで可愛がる。


『プレイヤー【ユア】のレベルが上昇しました』

『LV.7→LV.8』

『SPを2ポイント取得しました』


しばらくのんびりしていると聞こえてくるアナウンス。


「よゆうっすね先輩……」

「おつかれさま」


それに遅れて近づきながら呆れたように声をかけるきらりんに、ユアはにこりと笑いかける。

きらりんは「いや、まあ、いいっすけど」などと言いながらしばらくユアの目を見つめるが、ふっと頬を赤らめて首を振ると「あっちの援護いってくるっす!」と逃げるようにリーンの方へと駆けていく。


ユアが見回せば、すでにきらりんがいた方面からの襲撃はおおむね片付いており、リーンの方もやや苦戦しながらではあるが着々とモンスターを仕留めているところだった。そこにきらりんが加われば特に問題なく終結するだろうという予想は裏切られることなく、途中で領域が解除されるということはあったものの、だからどうということもなく戦闘は終了する。


「おつかれみんな」

「なかなか楽しかったっす」

「ゆーあー!」

「はいはい、頑張ったね」


にこやかに笑うきらりんにユアが応えるよりも早くきちんと防具を外したうえで飛び込んでくるリーンを受け止め、なだめるようになでる。

ぐりぐりと押し付けられる頭からどの程度のストレス具合なのかを察知したユアは、なでる手を滑らせ耳に触れるともにゅもにゅとリーンの耳を弄ぶ。それだけで表情が幾分安らぎにゃうにゃう甘えてくるのを存分に甘やかしつつ、ユアは改めてきらりんに視線を向ける。


「きらりん、すてきだったよ」

「そ、そうっす?」

「うん。とっても」


まさかそんな言葉が飛んでくるとは思わずたじろぐきらりんにユアはすっと目を細め、自然に手が伸びる。しかしそれは頭に触れる前にぴくりと止まり、ユアはこてんと軽く首を傾げた。


「なでても、いい?」

「だ、だいじょぶっす」


おずおずと近寄りなでやすいようにと頭を差し出すきらりんにユアは嬉しそうに笑い、それならと気兼ねなくその頭をなでる。


そうして、例によって例のごとくなでなでタイムに入るユア一行。


「それで、どう?敵はやっぱり強い?」

「そうでもない」

「まあ多少厄介になってはいるっすけど、そこまできつくはないっすね」

「木がうざい!」


環境に適応できない若干一名を除けば、森のモンスターはやや歯ごたえがあるものの苦戦するようなものではないということらしい。実際に見ていたユアとしてもそう苦戦する様子は見られず、まあそんなものかなと納得しておく。


問題は、だからやはり若干一名となる訳で。


「木はどうしようもないからねえ」

「木こるってのもありっすけど」

「木こる」


まさか木こりに活用形があったとは、と一瞬あほうなことを考えつつ。

それはどうだろうと、ユアは周囲の木々に視線を向ける。


先ほどのリーンの戦闘で大剣の攻撃を受けた木々ですら、多少幹は抉れていたりするものの傾いてすらいない。これを大剣を振り回せるだけ伐採するとなると骨が折れるでは済まないだろうなあと思うものの、リーンなら喜々としてやりそうとも思える。


しかしまさか戦闘の度にそんなことをするわけにもいかず、せめて一撃で薙ぎ倒せるくらいだったらと視線を向けると、リーンも同じことを考えているのか大剣を握ってむむむと唸っていた。


「……さすがに厳しそうだね」

「そうっすよねー」


きらりんとしてもそう本気で言っていたわけではないらしい、軽く肩をすくめ、そんな動作にちょっと萌えたユアの視線を受けてきゅうと縮こまる。


なんにせよ考えてみたところで慣れる以上の回答は見つかるようでもなく、結局その後なんらかの対処をするでもなく戦闘を繰り返してみることになるのだった。



《登場人物》

(ひいらぎ)(あや)

・好きな人の全部をもろとも根こそぎ好きになるタイプ。嫌いなところが一つもない相手とか理想じゃん?ならその人の全部を好きになったら必然その人が理想の相手じゃん?つまりそういうことだよ。どういうことだってばよ。それを素でやってんだから笑えねえ。


柳瀬(やなせ)(すず)

・結局森にいやな思いを抱くに終わった。なおその分ユアの甘やかし度が増すので収支はプラスに傾く模様。仕事終わりのビール≒戦闘後のユアのなでなで。筆者もリーンもビール嫌いなんですけどね。ゆくゆくは森ごと薙ぎ払ってもらいたいところ。


島田(しまだ)輝里(きらり)

・鈴と違って我に返ったら恥ずかしがるとかそういうのはない。なぜかって?おいおい、あれくらいのは別に中二病じゃないだろ?お前昔どんだけ……。でも結構中二病患者にはあると思うんですよ。ここからは中二病だなってラインが高めに設定されてるやつ。それです。


小野寺(おのでら)(あんず)

・ひそかに貢献度めちゃ高だけど完全に気づいてるの多分綾だけ。つまり杏からすれば完璧ってことですね。きらりんもまあなんかすごいことやってるっぽい?くらいには気づいてるけど、リーンの補助が多いから微妙。


ご意見ご感想批評批判いただけるとありがたいです


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