013話 最初は軽いところから、などという発想はきらりんとリコットにはないらしい
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卒論つらたん
最初は軽いところから、などという発想はきらりんとリコットにはないらしい。リーンの【挑発】によって発生した危機的エピソードを苦笑交じりにユアが紹介すれば、きらりんは面白そうに眼を光らせ、リコットはユアを振り回すことになったというリーンの不甲斐なさに自分ならもっと上手くやったのにと不快感を示した。
そんな新メンツのやる気に応える形で、初戦闘は小鬼&草人形with【挑発】というフルセットで行うことになる。
ちなみに新メンツのステータスは以下のようになっている。
NAME:きらりん
LV:1(0/0)
SP:0
LP:100/100
MP:100/100
STR:5
VIT:0
SPD:5
MIN:0
DEX:3
LUK:0
~アビリティ~
【強力.1】【俊足.1】【器用.1】【戦士.1】
~魔法~
~スキル~
~称号~
きらりんは自己紹介通りの軽戦士らしいステータスとなっている。アビリティの方も、それぞれのステータス上昇系と職業系というシンプルなものだ。
NAME:リコット
LV:1(0/0)
SP:0
LP:100/100
MP:260/260
STR:0
VIT:0
SPD:0
MIN:11
DEX:0
LUK:0
~アビリティ~
【魔力.1】【知的.1】【魔法適応】【陣魔法.1】
~魔法~
【陣魔法】
『魔弾』
~スキル~
~称号~
リコットの方はユアと同じくMIN特化の陣魔法使い。
LV.1陣魔法である『魔弾』はMP15ポイントと、ユアの領域魔法がいかにMP食いか分かるというものだった。
「みんな、準備はいい?」
「ん」
「ばんたーん!」
「いつでもいけるっすよ」
意気揚々と答える三人は、各々得物を構えて準備万端といった様子。
木のステッキを携えユアのそばに寄り添うリコット、大剣を引きずるように構えるリーン、そして長剣をその感触を確かめるように手の中でくるくる回すきらりんを軽く見まわし、ユアは頷く。
「よし。じゃあリーン、やっちゃって」
「おうさー!『っしゃあ!こいやおらぁぁあああああ―――!』」
なんとなく気の抜ける咆哮に、しかしモンスターたちは弾かれるようにリーンを振り向く。夜であっても寝静まることのない平原がひととき静けさを増し、そしてそれを薙ぎ払うように金属を歪ませるような不快な鳴き声の大合唱が届く。
「『領域構築』―『決戦場』」
「うわぁ、壮観っすねえ」
わらわらと押し寄せる敵にきらりんが楽しげに笑うのを、ユアは半径2倍で領域を展開しながら興味深げに見やって目を細めた。領域からの赤い光に照らされるその獰猛な表情は乗りに乗っているリーンが見せるようなもので、つまり戦闘狂のそれに近い。少なくとも現実を生きる人間が普通できるような表情でなく、それだけでもゲーマーという言葉に嘘偽りはないらしいことがうかがえる。
きらりんの好みが少しわかった気がして、ユアは微笑む。
そんなユアに気が付いたきらりんがうっかり目を合わせてしまい頬を赤らめるが、すぐさま「腕が鳴るっす」などとごまかすようにモンスターたちに視線をやった。
やっぱり可愛いなあ、などとのんきに思うユアのそばで、今にも領域を侵さんとする小鬼へとリコットが杖先を向けた。
「『魔弾』『魔弾』」
発現した魔法陣から、青白い魔法の弾丸が続けざまに飛翔する。
それはまさに小鬼を迎え撃たんと腰を下ろし力を込めたリーンの脇腹をかすめ、そのまま一発が小鬼の顔面に直撃、仰け反りによりやや照準がずれもう一発は喉元にぶち当たる。二連撃に打ち据えられた小鬼はそのままわずかに吹き飛ばされ地を転がり、当然のように弾けて消えた。
「『魔弾』『魔弾』『魔弾』――――」
それを見届けることすらなく次々に魔法を連射するリコットは、計14発の魔弾により周囲から迫る小鬼の半数近くを討伐したところで手を止める。
途中でユアのレベルアップがあったが、ユアとしてはそんなことよりも見事な手際を見せたリコットを撫でるのが優先だった。
「ん。上々」
「さすが、百発百中だね」
「むぐぐ、やるなー!」
「見事なもんっすね」
周囲を囲む小鬼相手に、しかも後半など学習したのか回避行動を取ろうとしたものもいる中で一発も外すことなく魔弾を叩き込んで見せたリコットにユアは素直に感心し、リーンときらりんも各々感嘆の声を上げる。当然、とばかりにユアを見上げるリコットだが、その口角はわずかに上がってまんざらでもないらしい。どちらかというと、ユアのなでなでにが嬉しいのかもしれない。
それからリコットは、自分を振り向くリーンときらりんにどことなく挑発的な視線を向けた。
「これくらいはできないと、ユアさんを守る資格はない」
ここまで驚くほどに言葉数の少なかったリコットからの分かりやすい挑発に、リーンときらりんは揃って頬を引きつらせる。しかしそれも一瞬のことで、ふたりは競うように動き出した。
「はははー……まけない、ぞぉ!」
「あんま舐めないでほしいっすねー」
リーンはただひたすらに全力で大剣を振るい、正面から襲い来る草人形たちを盛大に薙ぎ払う。
きらりんは気軽に言いながら領域の内周を散歩するように回り、手近な草人形をしなり弾むような連撃で次々に処理していく。
性質は違えど一方的な戦闘を見せるふたり。
流石はゲーマーを名乗るだけあって手馴れてるなあとユアがきらりんに感心の視線を向ける一方で、リコットもまたきらりんの動作を見て興味が湧いたように目を細めた。
「あー、これやっぱダメージ一律じゃないんっすねー」
そんな視線を向けられつつも、3体ほどの草人形を刈り取ったところできらりんはそんな独り言とともに攻撃を変える。
連撃を意識した軽やかな斬撃から、草人形の首と言えそうな部分を殴りつけそのまま地面で挟みちぎるような斜めに打ち下ろす重い一撃に。さらに返す刃で他の草人形の首元を突き、薙ぎ千切る。
それにより二体の草人形はあっさりと光の粒子に変わり、きらりんは楽し気に笑う。
「んよし、把握したっす」
「わあ、なんか、すごい上級者っぽい」
「おっ、そうっす?照れるっすねー」
ユアの漠然とした言葉に、冗談めかして言いながらもしっかり頬を染めるきらりん。そんなことをしながらも足と手は止まることはなく、草人形たちは次々に光の粒子に変わってゆく。
「お、レベルアップっす。いいっすね」
「多分終わったころにはもう一個上がってるよ」
「まじっす?さくさくっすね!」
そんなことを言っている間にも、比較的遠くリコットの魔法の被害を受けなかった小鬼たちが領域内に到達する。
それを横目に見つつなでなでを楽しむリコットはMP的なこともあってどうやら動く気がないらしく、なにやら見えないウィンドウを弄っている。
ユアは苦笑とともに、頼れる二人へと声をかけた。
「その調子で、ってああ、そうだ。えっと、『その調子でやっちゃって!』」
「おー!お?……おっしゃー!」
「おお?ああ。さんきゅっす!」
すっかり忘れていた【声援】のアビリティを発動すれば、ユアを除くメンツの身体を淡い金色の光が包む。領域からの光もあってやや見えにくいそれは、どうやら本人たちにとってはすぐに分かるらしい。リーンはなにやらよく分からないながらもやる気を再燃させ、きらりんは恐らくユアのおかげなのだろうと軽く振り向き笑いかける。
一方ひとりなでなでのおかげで上機嫌だったリコットはぴくりと眉を動かし、ステッキを構えたところをにこやかなユアに抑えられた。
見上げる。
首を振られる。
ステッキを下ろす。
リコットは大人しくユアに可愛がられることにした。といってももちろん、その表情に不満などある訳はないのだが。
そんなやり取りが行われていることになど気づかず、「うぇるかむっす!」などと言いながら最も近い小鬼目掛けきらりんは駆け出す。そして迎え撃つように振るわれるおんぼろの木の棒を当然のように長剣で弾き流れるように喉を一突き。
小鬼は勢いの乗った一撃に弾かれ仰向けに倒れると、そのまま光の粒子に変わった。
「柔いっすね?」
首を傾げながら、付いてもいない血のりを払うように長剣を振るうきらりん。それから振り向けば、リーンが大剣で薙ぎ払った小鬼と草人形が数体まとめて光の粒子に変わるところだった。
「あー、バフ効果っすか」
なるほどと納得しつつきらりんは後続の小鬼の首を無造作に一薙ぎし弾き飛ばすが、どうやらそれでは倒れないらしくよろよろと立ち上がろうとし、同じようにきらりんに弾き飛ばされた小鬼に巻き込まれて転がったところをもろともに串刺しにされ光の粒子に消える。
「折るよりは突くっすね」
ふむふむ頷きながら、きらりんは周囲を見回す。
そのころにはすでにモンスターの群れは大多数が壊滅しており、特に小鬼など片手で数えられるほど。そしてリーンが大剣を振るうたびにモンスターが数体まとめて光に消えるとあっては、これはうかうかしていられないと、きらりんは即座に残党を蹴散らすために駆け出した。
それからほどなくして、最後の草人形をきらりんが討伐したことで戦闘は終了した。
「お疲れ様。みんなすごいね」
「ん」
「よゆー!」
「ユアさんの補助のおかげっすよ」
戦闘が終わりあつまる三人(リコットは元からだが)に労いの言葉をかけ、ユアは空いた方の手でリーンを撫でる。嬉しそうに笑いすり寄るリーンをわしゃわしゃ弄びながら、ユアは戸惑ったように自分を見るきらりんに問いかける。
「きらりんも、なでていい?」
「えっと、?」
いまいち理解できないとばかりにぱちくりと瞬くきらりんに、ユアはそっと目を伏せる。
リーンやリコットはなでなでを心底喜ぶため喜ばせたいという意図もあってのなでなでだが、ユアとしても相手をなでなでという行為は特別にお気に入りだったりする。自分の気持ちを伝えるにはなんらかの直接的な接触が一番だと信じてやまないユアなので、お手軽かつどこでやってもおそらくは社会的問題の生じないであろうないなでなでは言葉と同じくらいに多用されるコミュニケーションツールだったりする。
そのためあまり受け入れが良くないらしいきらりんに、ユアは分かりやすく悲しんでいた。
「嫌なら、無理にとは言わないけど」
「へ?あ、ああ!?いやいやいや!いや違くてっすね!?いやだから、いやこれはいやじゃないって意味のいやで―――」
ユアの言葉をなんとか飲み込み、かと思えばあわあわと混乱しだすきらりん。
そんなきらりんの頭に、そっとユアの手が触れる。
「あぅ……」
「ふふ。きらりんも、かっこよかったよ」
「あ、ありがとっす」
なんか照れ臭いっすね、などと言いながら目を泳がせるきらりんは、緊張からかユアのなででもリラックスできないらしい。これはもうちょっと力を込めてなでなでしてあげたほうがいいかなとユアの視線が細まると同時に、ぐいとローブを引く感触。
ユアが視線を向ければ、きらりんに派遣されてしまったせいでお預けを喰らったリコットの不満げな視線とぶつかる。戦闘中からなでなでを享受しておいてまだ満足ではないらしい。そんなリコットに笑みを深め、ユアは両手を順々に巡らせて三人を均等になでなでする方針に切り替えた。
そしてしばしなでなでタイムに興じていたが、ある程度堪能したところユアが思いついたように言う。
「ああ、そうだ。ステータスとか、あとアビリティも確認しといたほうがいいんじゃない?」
「そだね~」
「ああ、そういえばレベルアップしたっすね」
半熟くらいのとろけ具合のリーンと未だに動揺が抜けきらないきらりんは、それでも各々ステータスを確認し始める。一方でリコットは返答すらないが、とっくのとうに終わっているのをユアが知っているのでわざわざ口にする必要性を感じず、むしろユアを見上げて視線で『その間は私だけなでなですればいい』といったことを主張してみるが、当然ユアは受け入れることなく苦笑する。それからユアがご機嫌取り代わりにリコットの好きな耳後ろをくすぐれば、とりあえずはそれで満足するらしい、リコットは心地よさそうに目を細めてユアに身体を押し付けた。
「ん~、い~や」
SPを割り振ったあとでアビリティを眺めていたリーンが、特に興味が惹かれることもなかったらしくさっさと切り上げてふぅと息を吐く。それからリコットとユアの密着具合にふと気が付き、「む」と不満げに頬を膨らませると手早く防具を外し同じようにユアに身体を押し付ける。
そんなリーンをよしよしとなでつつ、ユアはきらりんに視線を向けた。
「きらりんの方はどう?」
「こっちも特にアビリティはないっすね。ああ、STRとDEX上がってたっすけど、これ結構簡単に上がるんっすね」
「そだね。私はMINで……3ポイントかな?上がってるし、リーンなんて一回STRとVIT両方上がってたよね」
「そだよ~」
「……これ筋トレとかしたらステータス底上げできそうっすね」
「確かに」
きらりと目を光らせるきらりんに頷きを返すユア。
もしそれができるなら私もSTRとかちょっとは上げておこっかな、などと思っていると、きらりんが「それはそうと」とユアとリコットを見る。
「先輩……はまあ置いておくとして。リコットさんはステ弄らないっす?」
「ああ、リコットはもう終わってるからね」
「まじっすか」
いつの間に、と瞬くきらりんに、リコットはこくりと頷いて見せる。
まあ確かに時間はあったかもっすね、などと、きらりんはとりあえず納得しておいた。
「まあ、私の方もやろうと思えばできるんだけど」
そんなことを言って、ユアは右目を二度連続で瞬く。
《視線操作モードがONになりました》
そんなアナウンスとともに、ユアの視界の右端にメニューのツールバーが出現する。
そのツールバーに頭を固定したまま視線だけを向ければ焦点のところにカーソルが出現するので、一度右目を瞬くことでそれをタップし、ステータス画面を開いた。
「視線操作っすか。器用っすね」
「慣れてるからね」
そんな動作を見ていたきらりんが感心したように言えば、ユアは苦笑する。
視線操作とは、文字通りVRのメニューなどを視線で操作することだ。
手などでウィンドウに触れる接触操作とは異なり今のように両手がふさがっていてもウィンドウなどを操作できる代わりに、頭の向いている方向を中心にウィンドウやツールバーが配置されるためあっちにこっちにと視線だけを動かすことになり、しかもその視線というやつが微妙に狙いを捉えづらくやや扱いづらい。それに性質上どんな場合でもかならず視線を向けなければならず、ショートカットアイコンなどを手元に忍ばせて戦闘中咄嗟に回復アイテムを使うといったような技術は使用できなくなってしまう。
ゲームにもよるが総じていえばなんとも微妙で、人によっては視線・接触ハイブリッド操作を扱う程度で、視線操作のみを扱うVRゲーマーはあまり多くない。
ユアはそれをなんともスムーズに扱いステータス画面を表示したが、そのステータスに見覚えのないものを見つけて首を傾げる。
【ナデリスト】
・撫で、絆し、癒す者。
・アビリティ【ラヴィング】取得
【ラヴィング】
・撫でることにより好感度を上昇させやすくなる
・撫で動作に属性『癒し』を付与する
・撫での心地よさによって効果上昇
『属性:癒し』
・あらゆる自然回復速度を増加させる
詳細を確認し、ユアはしばし絶句する。
そんな様子をいぶかしんだ三人にウィンドウを共有してみれば、返ってきたのはにこにことなでなでのおねだり、そして唖然だった。
とりあえず、ユアは深く考えるのをやめた。
ともあれステータスを割り振る。
MINに1ポイント、それでMINが20に到達したのでLUCに1ポイント割り振った。それから今度は前回見送りとなった【魔法使い】のアビリティを取得する。
【魔法使い】ALV.1
・魔法の効果に補正
リーンの【戦士】と同じく職業系のアビリティを、やや効果は漠然としているものの取っておくに越したことはないだろうと取得しておいた。
「こんなものかな」
軽く頷きウィンドウを消し、それから左目で二度瞬き視線操作モードを解除する。
それからユアは、なにやら呆然とした様子で自分を見ているきらりんに視線を向けた。
「……なんか、先輩ってウィンク似合うっすね」
「そう?」
「ん」
「かっこいーよね!」
右目や左目だけの瞬きは、確かにウィンクと言えるものだろう。
それにしてもそれを似合うと言われたことはこれまでついぞなかったユアが首を傾げると、即座にリコットとリーンの強い同意が飛んでくる。
「それは……ありがと」
何と答えるべきか迷い、とりあえず好きな人たちから褒められて嬉しいことには間違いなかったので、ユアはにこりと笑って礼を言う。
そんなユアに、リーンやリコットが甘えるようにねだる。
「ねーね、わたしにちょーだい?」
「ん。私も」
「いいけど、こう?」
戸惑いながら、しかしこういった場合に全力を尽くせるのがユアという人間であるからして、『キラッ☆』とでも効果音の発せられそうなウィンクを披露してみせる。
しかしどうやらそれでは満足には至らないらしく、おねだりは止まらない。
「もっとかっこよくー!」
「もっと」
「かっこよくかあ……」
「わたしはこう、さわやかな感じで……いやなんでもないっす」
「きらりんっ」
「はぅあっ!」
それからしばらく、ウィンクをねだるリーンやリコット、時々きらりんに望まれるまま、ユアはウィンク製造機になるのだった。
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《登場人物》
『柊綾』
・ナデリスト(笑)。管理者のお気に入りというのはつまりこういうことなのさ……!まあこんなもんならそう大したものでもないしね。持続回復とかじゃなくて自然回復、それもその強化だけですし。それに心地よさとかいう、VRD.Nerveでこそできるような指標の宣伝みたいなもんです。ところで綾さん、ウィンクが似合うらしいです。なかなか日本人では稀有な気がする、って思うのは筆者が日本人だからでしょうか。
『柳瀬鈴』
・活躍どこ……ここ……?まあ基本やってること同じですしね。終始ね。いやほんと。この人はトンデモ挙動とかなんかすごいエフェクトの必殺技とかそういうのはないんで。とはいうもののうちのプロットダインさんはよくお亡くなりになるので。まあ、はい。
『島田輝里』
・グロイ。血とかは出ないけどね?でもグロイ。動作がグロイ。まあVRとリアルの区別はつけれるタイプの人種なので。まだまだステータス的に普通の人くらいの動きですが、まあ今後に期待。
『小野寺杏』
・まあ、凄い射手だね、っていうくらい。今のところ。こいつの本領発揮はいつになるのか。まあそう遠くはないです。
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