012話 「つまり、おふたりはどちらも先輩の恋人ってことっす……?」
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始まらないっ
「つまり、おふたりはどちらも先輩の恋人ってことっす……?」
「そーだよ!」
「ん」
「おおぅ……」
いろいろと話を聞いた結果どうまとめてみても認めがたい結論にしか到達できなかったきらりんの、それでもどうか間違いであってほしいという祈りが多分に乗った問いかけに、しかし返答は残酷な現実を肯定するものだけで。にわかに覚えた頭痛を抑えるように片手で顔を覆ったきらりんは、それから気まずそうな表情で自分を見つめるユアへと視線を向ける。
「先輩。なんというか、あー、とりあえず、自己紹介でもするっす」
「う、うん。えと、大丈夫?」
「いや、なんというか、まあそういうこともあるっすよね」
疲れ果てた様子で力なく言うきらりんになんと言うべきか。少なくともユアには思いつかず、「じゃあ、そうだね。自己紹介からはじめよっか」と微妙な空気(主にユアときらりんから発せられる)のまま話を進めることにする。
主にユアがもふもふと毛玉に囲まれたまま、みんなで輪になって座る。
ユアを頂点としたら、時計回りにリーン、きらりん、リコットと続く。さすが、というべきか当然のようにユアの隣をゲットしているリーンとリコットの手際に、きらりんはやや残念そうな表情をしたものの気が付いた様子はなかった。
三方から向けられる視線に、まず中心となるユアが最初に切り出した。
「まずは私から、まあ一応?えっと、ユアです。領域魔法っていうちょっと特殊な魔法使いで、支援職かな。こんな感じ。『領域構築』―『安らぎの地』」
言葉で説明するのを諦めて魔法を発動すれば、ユアを中心に円形の領域が広がる。
その光景にリーンときらりんが小さく歓声を上げ、ユアはなんとなく照れ笑う。
「こんな感じでバフがかかる領域を展開できるんだけど、今のところ持続回復のこれともうひとつ、与ダメ・被ダメ補正のやつだけかな」
「それは……なっかなか使いづらそうっすね」
「なにおう!」
「リーン、ステイ」
「がるるぅ」
別に威嚇する必要はないんだけど、と苦笑しながらリーンをなでなで。
しつつ、ユアはきらりんに視線を向ける。
「どうも結構バフは大きいみたいだし、MP消費で半径広げたりできるから、種類増えたら結構使えそうかも?みたいな」
「玄人向け?じゃないっすけど、成長に期待って感じっすか」
「そうだね」
頷くユアに、今度はリコットがぽつりとつぶやく。
「なかったはず」
「ああ、うん。実はすっちん……管理者のスペードっていう子が、特別サービスとかどうとか」
「なるほど」
「いやなるほどなんっすそれ?」
管理者による贔屓宣言にあっさり納得したリコットにきらりんが首を傾げるが、ふとユアを見て、そしてリーンとリコットを見て、「……なるほどっす」という呟きとともにすっと遠い目になった。
少なくとも向こうの方はそういうのじゃないっぽかった、などといったところで意味はないだろうと、ユアはとりあえず口をつぐむ。なにより、それを口にするのはあまり気分のいいものではない。
それからユアは、リーンに視線を向けた。
「じゃあ次は、時計回りでいいかな」
「はいはーい!リーンです!よろしく!ぜんえー!」
ぺかーと笑いながら高らかに言ったリーンは、満足げに胸を張って順番的に次のきらりんへと視線を向ける。
「どーぞ!」
「いや、せめて武器とかくらいは紹介してほしいな」
「これー!」
「うおっ、っす」
ユアに言われるまま大剣を具現化しぶんぶん振り回すリーンに、左右のユアときらりんが身を引く。さすがにそれには気が付き「おっとぉ」と目をぱちくりさせたリーンは大剣をしまい、改めてきらりんに視線を向けた。
「はい!どーぞ!」
「あー、はいっす」
きらりんがちらと視線を向ければ、ユアは苦笑して頷く。
それならと、きらりんは三人を見回して続けた。
「えー、きらりんっす。よろしくっす。軽戦士っすかね。武器は、まあ片手で扱えるものなら大体いけるっすけど、いまは長剣っす」
「大体って、すごいね」
「まあだてにゲーマーやってないっすからね」
感心するユアに、きらりんはここぞとばかりに胸を張る。
なんの気なしにその胸に視線が向いて、ユアはふと、そういえばきらりんカップ数上げてるなあ、と改めて思う。
ユアとしては合流した時から思っていたことだが、こうして強調されると(とはいえ革鎧越しで、普通は気づけるようなものでもなさそうだが)確信できる。聞いてもいいものかと逡巡するが、まあ聞くべきではないだろうと視線を逸らし、気づかないふりをすることに決めた。少なくとも、自慢げなきらりんを愛でる以上に重要なことではないし、それで気づかれないつもりでいる辺りも途方もなく愛おしいので、しばらくは様子見だ。
そんなユアの視線をどう思ったか、きらりんは恥ずかし気に頬を染めると今度はやや縮こまり、そして最後のリコットに視線を向けた。
「わたしはそんな感じっす」
「ん。リコット。陣魔法。『魔弾』」
終始ユアの方を向きながらの端的な、というか単語とともに、リコットはユアのように魔法を発動する。
開いて突き上げた掌の前に、浮かび上がる魔法陣。
幾何学模様となんらかの文字列により構成された円形のそれから、青白い光の弾が月めがけて飛翔した。
「うん。まあこんな感じかな」
魔法を放ったかと思えばそれで沈黙するリコットと、まさかこれで終わりかと唖然とするきらりん、そしてその短さがなぜかツボだったらしくふすふす笑うリーンを見回し、ユアがぱんっと手を叩く。
視線が集まる中で、ユアは改めて言った。
「みんな、よろしくね」
「ん」
「よろしくー!」
「よ、よろしくっす」
各々反応をするものの、やはりきらりんはまだ戸惑いが見られる。
そんなきらりんに、ユアは苦笑する。
「まあ、いろいろとびっくりしたかもだけど、よかったらきらりんもこのまま一緒に遊んでくれると嬉しいな。ないがしろにとか、絶対そんなことしないから」
「は、はあ」
そんな言葉に、色々どころじゃないっすけど……?とユアの正気を疑いそうになるきらりん。
それとも自分がおかしいのかと考え、そんな訳ないと即座につっこみをいれる。
しばし考えていたきらりんは、やがてひとつ大きく息を吐くと、ユアへと真剣な表情を向けた。
「先輩は、あー、恋多きっていうっすかね?そういう、恋人たくさんいちゃう系な人ってことっすよね」
「そう、だね」
「……ちなみに具体的に何人とかって……?」
「今は6人」
「ろくっ!?」
興味本位で尋ねたきらりんはその予想以上の返答に衝撃を受けたが、何とか気を取り直すと大きく深呼吸をして、それからにへらと笑みを浮かべる。
「まあ、じゃあ、しゃーなしっす。リーンさんもリコットさんも、普通にゲームで遊ぶってことっすもんね?」
「ん」
「そだよ?」
当然、とばかりに頷くふたりに、きらりんはとりあえず深く考えるのをやめたらしい。
その内心を詳しく知ることはできないながらも、とりあえずは受け入れのようなものができたらしいと、ユアはほっと胸をなでおろす。
常識的に考えてそこでほっとできるのもおかしな話だが、そもそもユアにとって今回のことは、突然恋人を紹介されたらびっくりするだろうな、だとか仲間外れにされると思ってしまいそうだ、だとかそういった程度の認識でしかなかったりするので、きらりんの内心を推し量ることなど不可能と言っていい。
ユアはそういう意味では能天気に笑って、三人を見回した。
「じゃあ、親睦会を兼ねて一狩り行っとこっか」
そんなことを言い出すユアに、否定の言葉はなく。
「ん」
「っしゃー!」
「っすね」
ユアの言葉であれば基本肯定するタイプなリコットと、綾の撫での余韻が薄れ元気が蘇ってきてからうずうずしていたリーン、そしてなんだかいろいろ抱えるものがあるのでどこかにぶつけたいきらりんは、各々感情的には違うものの、とりあえずユアと一緒に遊べるならいいや、と同じような思いで立ち上がった。
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《登場人物》
『柊綾』
・恋人6人……?まあハーレムものならこれくらい……これ近未来とはいえ地球の出来事なんだぜ。しかもその6人が全員綾にたくさん恋人がいることを知ってるし、そこに序列とか優劣とかそういうのが一つもないことを知っている。そう考えると、綾もそうですけど、恋人連中も狂ってるんですよ結構。まあこれはほのぼのいちゃらぶなんですけどっ。
『柳瀬鈴』
・物怖じとかしないけどそれがコミュ力高いことにはつながらないっていう話。まあ悪いやつじゃないからさ。仲良くやってくれよ。
『島田輝里』
・まあ綾に好きを向けられるだけのことあるよね。恋人がいることを知った。にもかかわらず、こいつ失恋したつもりでいやがらないんですの。複数人いるからこそ、っていうんならいいんだけどね。
『小野寺杏』
・文章喋ると死ぬ病気の人かな?とりあえず伝わればいい。綾だけに、とかでなく、一応周りにも最低限伝わるようには喋ってるつもり。っていうか綾だけに伝わればいいなら言葉とかいらないですし。まあ、とはいえ、協調性はもちろんないですが。
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