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011話 『あ、もしもし杏?こんばんはー』

更新です。

続々新キャラ投入です。

これでようやく半分くらい……?

『あ、もしもし杏?こんばんはー』

『ん』

『突然ごめんね。今何してた?』

『……』

『あ、うん。ならいいや。えっと、そうそう。杏って、”.Nerve”買ったって言ってたよね?』

『ん。AW?』

『さすが。もう持ってるの?』

『やるなら、買う』

『まあそうだね。私も鈴と一緒に今日から始めたんだけど、杏も一緒にやろ?』

『いいの?』

『鈴はいいって。もちろん私も』

『ん。買った』

『じゃあ明日の夜からでいい?』

『ん』

『仕事上がったらまた連絡するね』

『あやさん』

『なあに?』

『30分でいいから、見てほしい』

『……いいよ。じゃあ一緒にしよっか』

『ん』


―――……


端末越しのそんなやり取りがあったのが、初ログインの日、つまり昨日の夜のこと。

綾の通話の相手は、綾の恋人の一人である小野寺(おのでら)(あんず)だ。いざゲームをやろうという話になったときに綾の恋人の中でも随一のゲーマーである彼女に声をかけるのは当然のことだった。

本来ならばひとまず杏一人を仲間に加えて様子を見てみるつもりの綾だったが、それに加えてもう一人、綾が今好きを向けている会社の後輩を勢いのままに誘ったりなんかしてしまったので、計4人。とりあえずはそれくらいがちょうどいい人数だろうと、綾は勧誘を打ち切ることにする。


といっても、受験生をゲームを誘うのは気が引け、いろいろな地方を転々としているような相手ではまずプレイすることすら難しいなどと考えれば、勧誘候補はそう多い訳でもない。

その中でも誘えば確実に乗ってくるだろう相手は思い当たる綾だったが、恐らく鈴とは合わないだろうとほぼ確信レベルで思えるので、避ける方が無難だろう。


もっとも、綾の思い描く彼女であれば、誘うまでもなくどこからともなく情報を仕入れ、しれっと混じってきそうなのだが。


まあそのときはそのときかな、といったん考えるのをやめ、鈴を含めたそれぞれに改めて連絡を取った。好みで言えばひとりひとりと通話をしてといきたい綾だったが、今後のことも考えせっかくなので全員を誘ってチャットルームを作成しておく。


――――――


~みんなでAW 4/4~

《“ユア”が“りんりん”を招待しました》

《“ユア”が“Apricot”を招待しました》

《“ユア”が“きらり”を招待しました》

《“Apricot”が参加しました》

《“りんりん”が参加しました》

《“きらり”が参加しました》


――――――


「わ、はやっ」

「くっそー!負けたー!」


まとめて招待するなり即座に参加した面々に驚きの声を上げる綾と、一番乗りできなかったことに悔し気な声を上げる『りんりん』こと鈴。

ちなみに『Apricot』が杏、『きらり』が輝里だ。


――――――


『《ユア》よろしく』

『よろしく《Apricot》』

『よろー《りんりん》』

『《ユア》みんな早いね』

 『よろしくお願いします《きらり》』

『ふつう《Apricot》』

『先輩からの連絡ですから《きらり》』

『《ユア》とりあえずAWやるみんなで部屋作ってみた。自己紹介はAWで会ってやるとして、みんな今ってどんな感じ?』


――――――


「いけるよー!」

「いや、まあ、いいや」


文面にするまでもなく満足気に言う鈴に綾は頷いておく。

それでいいならいいやと、端末をたぷたぷ。


――――――


『《ユア》とりあえずAWやるみんなで部屋作ってみた。自己紹介はAWで会ってやるとして、みんな今ってどんな感じ?』

『準備万端《Apricot》』

 『いつでもいけます《きらり》』

 『!《きらり》』

『《ユア》私とりんりんは準備できてるよ』

『《ユア》じゃあ今からログインして集まろっか』

『《ユア》キャラメイキングとか終わったらここで連絡入れてくれれば、』

『《ユア》位置情報とか出せるから、そこに集合っていう感じで』

『《ユア》多分広場だと人多いから、街の外の草原かな』

『《ユア》ok?』

「おっけー!」

 『了解《Apricot》』

 『承知しました!《きらり》』

 『おっけー《りんりん》』

『《ユア》じゃあそういうことで。向こうで会おうね』


――――――


そんなこんなで会話を切り上げ、綾はヘッドセットを被る。

もちろん隣では、鈴も同じようにしていた。


「向こうでね」

「あいあーい!」


ヘッドセットの電源を入れ、綾はVRへと沈む。

ユアとして目を覚まし、起き上がることすらせずに呼び出したウィンドウからAWを開始すれば、次に降り立ったのは夜空の下だった。


噴水のあるあの広場。立ち位置はやや違うが、なによりもその時間帯が大きく違っている。

見上げれば、大きく真ん丸な月。

街に建つ街灯には穏やかな明かりが灯り、喧騒はやや控えめだ。


AWにおいては、日によってその時間帯が変化する。

昨日が朝なら、今日は夜。そして明日はまた朝で、それが交互に続くというような形だ。インできるリアルの時間帯に差があるのは必然となる中で可能な限り平等にということかと、ユアは思う。


それにしても綺麗すぎる月だとやや鼻白むユアは、それから周囲を見回し、やや遠くにスポーンしきょろきょろと周囲を見回していたリーンを見つける。とほぼ同時にリーンもユアをみつけ、その表情がぱぁと華やいだ。


「ゆーあー!」


たたー、とプレイヤーの間を縫うようにやってきたリーンは、そのままユアに抱き着く。

見上げるにこにこ笑顔を見下ろし、ユアはその頭を優しくなでた。


「とりあえず、外行っとこっか」

「うん!かるぞー!」

「いや、狩りはみんな揃ったらね」

「むむ」


苦笑するユアの言葉にリーンは口を尖らせるが、すぐに気を取り直してにぱっと笑う。

なんにせよユアと一緒にゲームをやっているというだけで嬉しいらしい。


そんな訳で、ふたりはファストトラベル機能を使い同じく北門から外へと繰り出した。といっても狩りをしているというのもなんなので、手近な毛玉の群れを、そういえばそんなものもあったなとやや忘れかけていた称号【モンスターメイト】によりどうやら温厚なモンスターと仲良くなりやすくなっているらしいユアが手懐け、のんびりと戯れて待つことにした。


毛玉とリーンをモフりながら待つこと数分ほど。

手の甲に張り付けていた最小化チャットウィンドウが、続けざまに通知を知らせた。

表示してみると、どうやらあとのふたりがほぼ同時にキャラメイキングを終えたらしい。


ずいぶん早いなあと驚きつつユアが位置情報を知らせれば、即座にそちらに向かうとの旨の返答がくる。


「もうそろそろ来るって」

「ほへぇ~?」


ユアに愛でられ続けていたリーンが、陶酔したような様子でふにゃけた声を上げる。

周囲の毛玉たちもとろんと安らかに転がっており、もしかするとやりすぎたかもしれない、と今更ながらにユアは思う。心地よい毛皮の感触と愛しいリーンを存分にかわいがってやろうと無心で手を動かしていたせいで、毛玉もほぼ絶滅している。


「どうしようこれ」


ぽつりと呟くと同時、その手の中で可愛がられていた二体の毛玉が「ぷゅ~」と気の抜けたような声を上げするりと零れ落ちた。液体なのかと思えるほどの広がりを見せ草原に落ちた毛玉は、至福といった様子でぷすーぷすーと鼻息をもらす。


しばし転がった毛玉とまだ足りないとばかりにじゃれついてくるリーンを見下ろし、それからユアは考えるのをやめた。


それからまたしばらくしたところで、ユアは遠くから早足でやってくる人影に気が付く。

小柄でとんがり帽子をかぶった人影と、それと比べれば背の高いものの十分低い背丈の人影。

夜とはいえかなりの明るさを誇る満月のおかげで、ユアの視界にはその人影の正体までしっかり分かった。


だからユアは大きく手を振り、自分の存在をふたりに示す。

そして間もなく、待ち人来る。


「こんばんは。こんな感じでごめんね」

「こんばん、わ?っす?」


苦笑するユアに、小柄な方は躊躇いなく抱き着き、もう片方は戸惑いがちに応える。


「会いたかった」


小柄な方は、AWではアカウント名とアバター名が違うらしい、杏こと『リコット』。

とんがり帽子に真っ黒なローブという魔法使いルックなリコットは、その長い白髪(はくはつ)をユアに手ですかれながら、心地よさそうに赤い目を細めてほんのわずかに口の端をゆがめる。


「私もだよ、リコット」


表情変化がひどく小さいが、ユアにはそれで十分に伝わり、髪をすく手が自然とリコットを撫でる。


「なかよさそう、っすね?」


そしてもう片方は、こちらも名義がやや違う、輝里こと『きらりん』。

リーンの装備をそっくり革防具に変えたような装いのきらりんは、リアルとそう変わらないふわふわな茶髪を指先で弄りながら顔を引きつらせている。


「まあ、うん」


さすがにびっくりするよなあと苦笑しつつ、ユアは手を止めることなくきらりんに頷く。

さてなんというべきかとそこで言葉を区切るユアだったが、そこでリコットがくるりと振り向き、まるで見せつけるようにユアの胸元に頬をこすりつけながら、まったくの無表情で口を開く。


「恋人、だから」

「なぁっ!?!?」


そのとんでもない発言に度肝を抜かれたきらりんは慌ててユアに視線を向けるが、ユアは困ったように微笑みながら小首をかしげるだけ。


「はいは~い、わたしも~」

「、!?!?!?」


そこにふにゃっていたリーンもゆるゆると手を上げて同意を示せば、きらりんはもはや理解の範疇を超えてただただ混乱した。


そんなきらりんをじっと見ていたリコットが、ユアを見上げて首を傾げる。


「説明、してない?」

「いや、うん」


正直完全に失念していたユアだったが、こういうことになるのは考えれば分かりそうなもので。


どうやら相当浮かれていたらしい。

ユアはそんなことを思いつつ、とりあえずどうしたものかと思考を巡らせるのだった。



《登場人物》

(ひいらぎ)(あや)

修羅場セルフサービス。といっても許容できてないのは若干一名のみなのですが。どう収集つけるんだよ。とりあえず撫で殺すか……?いやそれは輝里にはないな。恐るべき撫でスキルの持ち主で、綾に本気で撫でられた者は二度とその快楽に逆らうことができないってばっちゃが言ってた。ところで本編で触れてないしアナウンス入ったのに本人も気が付いてないですが、実は称号ゲットしてたりします。すっちん大爆笑なう。


柳瀬(やなせ)(すず)

・今日の被害者そのいち。長年調教されてきた鈴が綾の撫でに抗うことなどできる訳もなくいともたやすく骨抜きに。でもVRだとリアルほど気持ちよくないし委ねきれないからまだ言語野が生きてる。


島田(しまだ)輝里(きらり)

・今日の被害者そのに。衝撃の事実でぶん殴られて心神喪失。恋人宣言二連撃とかいうオーバーキルにもほどがある仕打ちですね。っていうか理解できてない。こいび、え、ふたり、は?輝里よ、言っておくがふたりじゃ済まんぜ?


小野寺(おのでら)(あんず)

・綾の恋人そのさん(登場順)。今のところ分かってるのは無口、無表情、綾大好きっていうことくらいかな。あとゲーマー。あとで本編でも触れますが19歳とこれまでの登場人物の中では割と若いです。でも綾の恋人の中では最年少じゃないっていうね。ちなみに冒頭のやり取りについてもしなにか思うことがあっても気にしないでね。筆者との約束だよ!


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