表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
複写式世界の修復  作者: 朝倉神社
8/9

Day14-2

 城門から入って右手方向に僕ら男子3人は歩いていた。

 昨日街に入ったときに、城壁の修理をしているらしい影が遠くのほうに見えていたのだ。そこで、僕らは仕事がないか、聞いてみることにした。

 僕は日本でキッチンでのアルバイト経験があるので、皿洗いや簡単な野菜の下処理などはできるけども、出来る限り3人一緒に行動したほうがいいという判断で、全員で働けるようなガテン系の仕事を求めていた。

 トモの「俺は冒険者になる」発言は問答無用で一蹴した。

 日が昇りきった後もずっと続いていた説教だったが、仕事探しの重要性を訴えてくれたマサキのお陰で、いったん打ち切り、宿屋の一階で朝食を食べて(銅貨3枚で6人分になった)、仕事探しのために街に出た。

 女子は、村で教わった経験もあるので、機織か糸をつむぐ工場がないか探すらしい。

 壁伝いに歩いていると、昨日見えていた城壁の修復現場がはっきりと見えてくる。

「でか!」

 城壁には木材の枠組みが設置され、崩れた石と、これから積み上げるであろう石が置かれている。作業している屈強な男たちに混ざって、ひときわ大きな男が目に飛び込んでくる。遠くであっても、その大きさは異質だ。

 高さが4メートル近い城壁に手を伸ばせば届くほどにでかい。腕も足も首も太く筋肉がはち切れんばかりに血管を浮かび上がらせながら、1メートルほどの巨石を持ち上げて城壁に積み上げる。その後に、普通の人間が普通サイズの岩を乗せて、コンクリートのような灰色のドロットしたものを樽から出して、べたべたと隙間を埋めていく。その繰り返しだ。

 トモが目の前の巨人に興奮して走り出すと、僕らも後に続いた。バカトモが何をするかがわからない。

「<でけぇな。おい>」

 巨人の背中をバンとたたく。何でいきなりフレンドリーなんだよ。怖がれよ。少しは。しかも日本語だし。

「ごめんなさい」

 マサキがあわてて駆け寄って謝罪する。しかし、巨人はトモの平手など痛くもかゆくも無かったのだろう。のっそりとした動作で後ろを振り返って、僕らに目を向ける。

「ん。なんだぁ」

 動作と同じく、しゃべりも間延びしている。特に怒り出す雰囲気でもないことに、ほっと胸をなでおろすと、トモの頭をはたいた。

「<バカトモ、考えて行動しろ>」

 しかし、まったく意に介さず、トモはこちらを振り返った巨人に話しかける。

「俺はトモ、あんたは?」

「おで、トーゴ」

 そして、握手を交わす二人。ダメだ。常識が通じる気がしない。

「マサキとタクトだ」

 と、トーゴと名乗った巨人に僕たちを紹介する。すると、大男はのっそりと大きな手のひらを目の前に突き出してくる。握手をしたいのだろう。サイズがまったく合わないけども、なんとか手をあわせるとそっと握ってくる

 。皮膚が硬くごつごつとしているけど、僕の手をつぶさない力加減を心得ているようだ。遥か頭上を見上げると、トーゴが柔和な笑みを浮かべていた。巨石を持ち上げるパワーに圧倒されたけど、危険な感じはまったくしない。太く立派な眉毛に、つぶらな瞳。大きな団子っ鼻に、唇も厚い。髪はトモと同じような丸刈りで、余計に輪郭の丸さが目立っている。

「※※※※※※※働け※※※※」

 声のしたほうを見ると、宿屋の主人とそっくりの男がこっちに近づいてくると、トーゴの足を蹴飛ばした。「働け」という言葉からするに、ここの現場監督なのだろう。僕らのせいで怒られたのだとしたら申し訳ない。

 マサキの表情が変わっていくのがわかった。仕事中のおしゃべりだとしても、蹴るのは違うと思っているのだろう。でも、それは僕たちの常識でここの常識ではない。

「<待てって、気持ちはわかるけど。僕らは仕事を貰いにきたんだ>

 機先を制して、僕は現場監督のほうに目を向ける。

「ぼくたち働く。仕事、ほしい」

 ハルナ辞書を使って、作り上げた文章で現場監督に話しかけてみる。

「ふん。お前らか」

 値踏みするように、僕らを見る。昨日の古着屋の女主人の視線とは違う。昨日は日本の服を着ていて、怪しかったのもあるだろうが、あの人はどういうわけか、心を読まれているような気配すらあった。目の前の男はただ、僕らが仕事できるかどうかを見ているのだろう。

 ここで働いている連中は、筋骨粒々でたくましい。マサキやトモは部活をやっていて、かなり鍛えている。全体的に見て一回りほど小さい印象はあるけども、問題ないだろう。それに比べて僕は背も低いし、筋肉も厚くない。監督の値踏みはトモとマサキに比べて長めに僕を見ていた。

「※※※※※※1日銀貨1枚。いいか」

どうやら、合格らしい。だが、銀貨1枚とは少ない気がする。銀貨1枚1000円くらいと考えていたので、ちょっと心もとない。3人働いて宿代一日分にしかならない。それじゃあ食事代が賄えない。女子も稼げば、最低限の生活は出来るだろうけど。

「おねがいしまーす」

「バカトモ!!」

 僕とマサキが思案していると、またしてもトモが暴走した。

「<いいじゃん。とりあえず宿代にはなるんだし>」

「<だからだよ。バカ>」

「<言ってしまったんだし、いいじゃん。ここで働こうぜ。他に見つかるとは限らないしさ>」

 たしかに、それは正しい。トモに遅れるように、僕とマサキも監督に頭を下げる。

「おねがいします」

「リノ、こいつらはお前が※※※※※※!」

 監督に呼ばれて、一人の男が僕らの元に走ってくる。20代、もしかしたら10代くらいの若い男だ。外人の年齢はさっぱりわからない。彫りが深く、鼻がすぅっと高い。アメリカの青春ドラマにでてきそうなさわやか系美男子。

 リノが「ツァッテコー」っていうので、後を付いていく。

 現場から10分ほど歩いた場所にある、資材置き場のような場所だった。リノに指示されるままリアカーに麻袋やいくつかの仕事道具を積み込み、さらに樽に水を汲んだものを乗せる。そして、先ほどの現場までリアカーを押して戻ってくる。

 僕らの仕事1日目はわけのわからぬまま始まっていた。

 遠くから見えていたとおりの仕事内容だった。トーゴが大きな石を積み、他の人間が小さめの石を積む。そして、間を繋ぐようにセメントを塗りこんでいく。そして、木材で崩れないように支えていく。その繰り返しで、徐々に徐々に大きくしていく。目の前にある壁は横幅20メートルくらいの範囲で修復中で、とてもじゃないが一日では終わらない。僕らがへとへとになったころ、遠くのほうで鐘の音が聞こえ、監督から全員に聞こえるくらいの大声が上がった。それを皮切りに、石積みをやめ、みんなが片づけを始める。

 どうやら仕事終了の合図だったらしい。片づけを終えると、監督の前に作業員があつまるので、僕らも同じように集合する。すると、一人ひとりに監督からお金が配られる。

 僕らにも約束どおり銀貨1枚が渡される。一日フルで働いていないのに、ありがたいことだ。

 昼ご飯を用意してなかったから、ペコペコのお腹を抱えて宿へと戻っていった。

次回、温泉

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ