Day9
この村に来て、一週間が経過した。
僕らは男女別に分かれて、さまざまな手伝いをしている。女子は毎日の食事の準備をしたり、草むしり、機織りや糸をつむぐ仕事をしている。僕とトモは畑を耕したり、作物の収穫や、村の周りに設置された塀の修復など、慣れない力仕事に励んでいる。マサキは一応歩けないということにしているので、木の皮を使ってかごを作るのを手伝っている。ちまちました作業は苦手なようで、一週間かけてもまだ1つも完成していない。教えてくれるおばちゃんに不器用っぷりを笑われているらしい。
言葉の問題はわずか1週間で解決の兆しが見えてきている。仕事をしながら、できる限りしゃべることを心掛けていることもあるけども、ハルナが言っていたように、日本語とよく似ているのだ。
いくつか判明した単語から想像すると、文法は日本語と同じ構造をしている。そのうえ、響きが似ている。全く違う単語も当然あるけども、ところどころ同じではないけども、なんとなく似ているなと思う言葉も多い。例えば日本語で「おはよう」を村人は「アヤヨウ」という。違うけど、似ている。そういう風に聞いていると、徐々にチューニングがあってきたのか、だんだんと相手の言っていることがつかめるようになってきた。
耳のいいハルナは、かなりのレベルで村人の言葉を理解している。もちろん、流暢な会話ができるようになったとは言えないけども、オリジナル辞書作りに精をだして、増えた語彙を夜な夜なみんなで一生懸命に暗記していく。覚えた単語は次の日に可能な範囲で使ってみる。そんなことを繰り返すと、単語レベルでの会話ができるようになってきた。
「※※※※、※※に行く。お前らも来るか?」
夕食を食べているとイド-さん(マサキの治療をしてくれたおじさん)がそんなことを言ってきた。全く関係ないが、この村の人の名前は、基本的に男性名にはドー、女性名にはネーと語尾が付く。日本語で言う、男とか、子にあたる言葉なのだろう。
「どこ?」
ハルナが聞き返す。
「マシルハ」
固有名詞なのか普通名詞なのかそれが不明である。だけど、最初のセリフにはなかった単語なので、固有名詞なのかもしれない。マシルハという場所。町か山か、森の名前か?
「いつ?」
つづけて、ハルナが聞くと「※※※※」と最初に言ったのと同じ単語が繰り返された。つまり、日程は先に口にしていたのだ。イド―さんが言ったのは現地語で【ミルカジ】なのだが、それが何を意味するのか僕らの辞書には答えがない。せっかく、5W1Hに関しては早々にわかっていたのだが、その先の答えがわからない。顔を見合わせて、
「ミルカジ?」
と聞くと、イド―さんは困った顔をして、「ハナカジ、ココカジ、ミルカジ」といいながら、指を折り曲げていった。曲げ方も変わっていて、指を開いたところから一本ずつ曲げるのだが、小指から順番に曲げていく。
おそらく「一日後、二日後、三日後」と言っているのだろう。もちろん、3時間後であるとか、3週間後という可能性もないわけではないが・・・。
マサキに視線が集まり、全員の考えを目で確認する。
「行く」
短く答える。イドーさんはわざわざ、事前に行くかどうかを聞いてきたのだ。
【マシルハ】はきっと町の名前なのだろう。まだまだ、言葉が完ぺきではないので、このままというのも選択肢の一つかもしれない。けど、怪我も治っているし、いつまでも世話になるわけにもいかないだろう。
村人には十分以上に世話になっている。ここら辺が潮時かもしれない。
「いよいよだな。いよいよ猫耳タウンに行けるんだな」
イドーさんが部屋を出た後、僕らはこれからについて話し合っていた。
「なんでだよ」
「えっ、イドーさんの話聞いてなかったのか。マシルハに行くって。マシルハって言えば人口の半分が猫耳で有名な町じゃないか」
「どこ情報だよ」
「もちろん、俺情報だよ。っていうか、猫耳に会いたい。異世界なんだから、いい加減猫耳だせよ。村のみんないい人だけど、猫耳じゃないじゃん。背はちっこいけど、全然かわいくないし」
「命の恩人になんつーことを」
「よく考えてみろ。俺たちこの世界にきて10日だぜ。ゲームや漫画だったら、初日に猫耳に遭遇しているところ、10日だぜ。こんなゲームだれもやらねぇよ。即売りだな」
「漫画だと、お調子者キャラって真っ先に死ぬよね。なんで生きてるの」
「やばい。ストレートに死を願われた」
「トモも悪ふざけが過ぎるし、アキも言い過ぎだ。話を戻すぞ」
マサキが軌道修正をかける。
「マシルハが町だとして、規模も何もわからない。多少の言葉は覚えてきたけど、十分かと問われたら足りないとしか言えないわけだ」
「そもそもお金は?」
「それも問題だな。この村に限って言えばお金は必要なかったし、ただでここに住まわせてもらっているけど、町だとそういうわけにもいかないだろう」
「そもそも、お金って概念あるの?この村基準に考えたら、文明レベル相当やばいよ。物々交換ってことも考えられるんじゃない?」
「いや、この村はともかく、ほかの場所の文明レベルはもう少し高いと思う」
「根拠は?」
ユッコの質問に、僕は村の手伝いをしていた時の話をする。
村に来てから4日目、僕らは村の外に出かけることになった。凶暴な獣がいることがわかっているので、トモと二人不安になりながら村人の後をついていったのだが、村人はまるで意に介した様子もなく普通に門を出て近くの森に入っていた。
森をしばらく歩いて、ふっと気づくとコーヒーに似た匂いが漂ってきたのだ。匂いの発生源をたどっていくと、イドーさんが首から小瓶をぶら下げていた。それこそコーヒーの粉のような茶色い粉末が中に入っていて、匂いがふんわりと漂ってきた。
こちらに来てから、食事は塩味のおかゆと串焼きの肉しかなかったので、その匂いには心惹かれるものがあったからはっきりと覚えている。
「これ、なに?」
覚えたばかりの言葉で質問すると【ドラゴンの糞】と教えてもらった。『うんこ』を表す単語は、初日のトモのトイレ騒動で教えてもらっていたし、『ドラゴンは』はそのまま『ドラゴン』だった。僕らが認識するドラゴンと同じかどうかはわからないけども、イドーさんの持っているのは【ドラゴンの糞】だそうだ。
ほかにもいろいろと説明してくれたけども、聞き取れなかった。
つまり、ドラゴンの糞の匂いが獣除けの働きをするのだろう。似たような話を聞いたことがある。畑を荒らす野生動物対策で、ライオンの糞を撒くと、寄ってこなくなるんだそうだ。つまり、そういうことなのだろう。上位の獣のうんこの匂いで、弱い獣は近づけない。話には納得できたけども、それはつまり【ドラゴン】なる恐ろしい生き物がいることに他ならない。漫画やゲームに出てくるような代物だとしたら、絶対に会いたくない。
「ドラゴンの糞ってコーヒーの匂いなの」
「うん」
ハルナの質問に素直に答える僕に、ユッコが突っ込みを入れる。
「聞き返すポイントそこ?問題はそこじゃないから、そもそもドラゴンいるの?」
「何言ってんだ。ここは異世界だぜ、ドラゴンの一匹、二匹いて当たり前だろ。むしろいないと思ってたほうが驚きだわ」
「いやいや、ドラゴンとかやばいでしょ。ドラゴンいるなんて危険な情報は早く教えてよ。なんで今日まで黙ってたの」
「忘れてた。毎日、肉体労働で疲れてたしな。あの日は特に疲れてたんだよな。くっそ重たいもの運んでたから」
「毎日バイトしてるのに情けない」
「皿洗いや野菜の皮むきで筋肉ムキムキになるなら、世の主婦は全員ムッキムキだわ」
「タクト、話がずれてる気がするんだが、それが文明レベルと関係あるのか」
「ああ。その【ドラゴンの糞】を入れていた小瓶だよ。ガラスの瓶だったんだけど、細工がかなり細かかったんだ。そもそも、この村にはガラス工房なんてないから、別の村か町があるらしいことはその時点でわかったし、取引もあるんだなって思ったんだ」
「そういう話はすぐに-」
「だーかーら、疲れて忘れてたんだって」
「でもさ、ガラス瓶だけで文明レベルってわかるの?ガラスって古代でも作られてるよね」
「えっ、そうなの?」
ドヤ顔で説明していただけに、ちょっとは恥ずかしくなる。
「そうだな。確かにエジプトとかでも見つかってるはずだと思う。けど、ガラス容器は一般には浸透してなかったんじゃなかったか。それに、こんな貧しい村のおじさんが持っているくらいだから、そこそこ一般に普及していると思う」
マサキの助成に気を取り直して、思い出した知識を付け加える。
「そ、そうだよ。それに瓶のふたにコルクが使われていたんだけど、僕らの世界でもワインの保存にコルクが使われたのが1600年ごろって話らしいよ」
「よくそんな話しってるね」
「バイト先のレストランのソムリエに聞いた。ウンチク語りがうざい先輩なんだけどね」
思い出しただけで辟易とする。しゃべり始めると30分は止まらない。知識はすごいと思うけど、求めてないことをしゃべられても「へぇ、そうなんですか」しか出てこない。
「まあ、そんな証拠みたいなの無くても、俺には中世くらいってわかってたけどな」
「えっなんでえ?」
「ばか、聞くな」
ハルナののんきな質問を遮ろうとするけど、遅かった。
「定番だよ。異世界といえば中世ヨーロッパの街並みと相場は決まっているんだよ」
「相変わらずというか、なんというか」
溜息しか出てこない。トモの持っている異世界系の本だと、十中八九中世ヨーロッパの街並みという描写が出てくる。いくつかのシリーズものを読んでいるので、僕にもそれが定番ということは分かっている。でも、ここは現実だ。この村の雰囲気だけなら弥生時代くらいにしか思えない。
「でも、中世くらい文明が発達してたらいいよね。少なくともお店とかありそうじゃない。この村の雰囲気だったら物々交換しかなさそうだもん」
「文明レベルとかどうでもいいから、お風呂入りたい。もう10日くらい風呂無し、着替えもなしだよ。頭かゆいし、もう限界」
ユッコの悲痛な叫びに全員同意する。風呂はないので、ずっと汲んできた水を桶に入れて体をふいているだけだ。なんかよくわからない石鹸もどきみたいなものを使って、体も頭も洗っているけど、髪の毛はギスギスして女子のキューティクルはとっくの昔に失われている。
服に関しても、ずっと同じ服を着ている。彼らの服は小さすぎるし、貧しい彼らから6人分の着替えをもらうのは忍びない。幸か不幸か秋口の登山だったため、半袖と長袖とみんな二着は持っていた。それを交互に洗濯しながら凌いでいる。
下着は洗ってノーパンだったり、男子である自分もかなりきつい状況、女子はもっと辛そうだ。
「確かにな。けど、そんな女子に申し訳ないけど、俺の知る限り異世界の一般家庭に風呂はない。宿に泊まっても桶にお湯を入れてもらうのが関の山だぜ」
「もう、そういう嫌なこといわないでよ」
「さいてー」
「そもそもトモの話に根拠ないから落ち着こう。物々交換なら、持ち物を交換するしかないけど、貨幣があるとしても僕らはお金を持っていない。それをどうするかだ」
「何を売るかってこと」
マサキの言葉を引き継いで、お金を作る方法を提案する。
「そうだな」
「確かにこれもまた異世界の定番だろ。持ち物売って億万長者に一直線。俺たちの文明レベルのものを売れば、もうウハウハだぜ」
「さすがにそれは言い過ぎと思うが、一度俺たちの持っているものを改めて確認しようか。まずは今着ている服や靴と帽子。バックパック、使えなくなったスマホ、家の鍵、財布。使い道のないだろう日本のお金と、ポイントカードや定期券。紙と筆記具。水筒、ペットボトル。弁当のごみ。お菓子のごみ。壊れた眼鏡、アキの持っていた緊急キット、マグネシウム棒にワイヤーソー、ナイフ、マッチ、ばんそうこう、包帯、LEDライト。こんなところか」
「スマホが使えたら相当不思議アイテムとして価値がありそうだよね。あと、LEDライトなんてのもいいんじゃない」
「わたしはペットボトルってありだと思う。もしもガラス瓶が保存容器として一般的だとしたら、ペットボトルってかなりの衝撃だと思うな」
「筆記具も魅力的かも。最初の時もそうだけど、ユッコの絵を見た時のイドーさんの驚きかたすごかったと思う」
衝撃に目をぱちくりとしていた様が思い出される。あの表情はユッコの画力に驚いただけではないのかもしれない。
「僕は普通に服を売るのがいいと思う」
「理由は?」
「理由は三つある。単純に僕たちの服が目立つ可能性もあるから、服を売ってこの世界の服を手に入れるのがいいと思う。二つ目は、言葉の壁かな。文明レベルにもよるけど、中世ヨーロッパ程度なら古着屋はあると思うし、探すのも難しくないと思う。それこそ、イドーさんも知っているかもしれない。でも、LEDライトやペットボトルを買い取るようなお店ってどこにあるかわからないんじゃないか。それを聞いて回れるほど、言葉が達者じゃない。三つ目もやっぱり言葉の壁かな。貴重品ならそれなりに高く売りつけたいけど、碌にしゃべれない僕たちだと、確実に足元をみられると思う」
「タクトの言う通りだと思う。あくまでもマシルハがある程度、文明が進んでいることが前提だけど、そればっかりは行くまでわからないからな」
「話は分かったけど、この世界の服の標準がこの村と同じだったら、絶対やだからね。あんな服着れない。それならこのままでいいよ」
「私もあれはちょっと・・・」
「大丈夫だって。中世ヨーロッパなめんな」
「お前も現実なめんな」
楽観主義と現実主義は相いれない。新たな場所へ行く期待と不安が綯い交ぜになる。進むべき道はわかったから聞かなきゃならないことも搾れた。あとは、ユッコの画力とハルナの会話能力で必要な情報を聞き出すだけだ。恐れもあるが、未知というものには同時に希望も見いだせる。だからこそ様々な想像をして僕らは楽しんでいた。なんだかんだと言いながらも、楽観主義のトモに引っ張られるように新しい街への思いを馳せていた。
その日の夜遅く、僕は夜明けのだいぶ前に目が覚めて、外の椅子に腰かけていた。夜空がきれいだった。この村に来てから、天気のいい日も悪い日もあったけど、今日は特に晴れていた。雲一つなく上を見上げれば無数の星が天上を支配していた。星だけでなく、大きな月も浮かんでいる。この世界に来たときは新月だったのが、いまは上弦の月を過ぎたくらいの黄色い見慣れた月がそこにあった。
「起きてたのか」
一人でぼんやりしていると、マサキがやってきた。
「まあね。日本だと、これくらいの時間には起きてるからね」
「そっか、朝も早いんだったな」
マサキはほかの四人と違って、レストラン以外のバイトに関しても知っている。
「そっちこそどうした。遠足前に緊張した?まだ、出発は先だぜ」
「いや・・・そうなのかも」
歯切れ悪く、マサキは僕の横に腰を下ろした。隣に座ったのに、何も言わずに夜空を眺める。言いたいことがあるのに、言えない。そんな雰囲気に、僕は黙ってしゃべりだすのを待っている。
「あのさ」
しゃべり始めたかと思えば、また黙る。
「・・・怖いんだ」
5分くらいして、ようやく口にした。
「怖い?まあ、村の外には化け物いるからな」
「そうじゃない。そうなんだけど、それだけじゃないんだ」
茶化せる雰囲気ではなかったから、何も言わずに続きを待った。マサキの表情は様々に変化する。不安や後悔、恐れ、覚悟。
「この村に来た時、死にかけただろ」
「ああ」
「あんときは無我夢中だったし、みんなのこと守んなきゃって思ったら、自然と【マインツ】の前に立って戦えたんだ。でも、次に同じことがあったらって思うと、怖いんだ。みんなを守るどころか、真っ先に逃げ出すんじゃないかって」
「お前はヒーローか!」
マサキの悩みを聞いて、わざと明るく突っ込んだ。マインツという名前のウサギによく似た肉食の獣。マサキに食いつき、失血死しそうになったときの恐怖であるならわかりやすい。でも、マサキの悩みは違った。化け物が怖いんじゃない。俺たちを守れなくなることが怖いという。
「お前さ、この村に来た時に言ったよな。俺たちはこの6人だから、ここまでこれたんだって。その通りだと思うよ。お前さ、みんなの役目を一人一人口にしただろ。でさ、その場合のお前の役目ってなんだ」
「・・・・」
「お前は僕たちのまとめ役なんだよ。方向性を決めて、進むべき道を指してくれるリーダーっていうのが、お前の役目なんだよ。化け物と戦ったり、盾になるのはお前の役目じゃない。剣道やってたからって野生の獣と戦えるわけないだろ。僕たちは誰もそんなことお前に求めてないよ」
「・・・そっか。戦う必要ないのか」
「ったりめぇだ。【ドラゴンの糞】もあるんだから大丈夫だろ」
「そうだな。ありがとう。やっぱり、俺はお前がいなきゃだめだな」
「ごめん。男に興味ないから」
「そういう意味じゃねぇよ。大体俺にはハルナいるし。タクトはいい参謀ってことだよ。いつも冷静だし頭の回転早いし、俺がダメな時はみんなを引っ張ってくれる。マジで頼りにしてる」
「そういうことを真顔で言うな」
照れくささに顔が上気する。まだ夜が明けてなくてよかったと思う。顔が真っ赤になっているのがバレバレだ。
「いいじゃん。誰もいないんだし」
「まあ、いいけどさ。じゃあ、僕からも一ついいか」
「ん。どうした」
「【マシルハ】だけどな。あんまり期待しないほうがいいかもしれん」
「どういうこと」
「この世界に来た時に、いろいろ意見を出しただろ。その時に、ユッコが言ってたこと覚えているか」
「違う時間軸に飛ばされたって話か」
「ああ。あの月みてどう思う」
煌煌と輝く月を見上げて、マサキは首をかしげる。
「・・普通の月だと思うけど」
「そう、普通の月なんだよ。満月じゃないからわかりにくいと思うけど、模様に見覚えないか。日本じゃ「ウサギがもちをついている」とか、海外じゃ「カニ」のように見えるクレーターだけどさ、お前には何に見える?」
「ウサギか・・・な。つまり俺たちの世界の月と同じってことか」
「見比べているわけじゃないから100%の自信はないけどな。言葉だって、日本語に似ている。住んでいる村人だって、アジア系の顔立ちだろ。大昔は背が低かったって歴史の授業で習ったし、ここが弥生時代の日本って言われても、僕は信じるよ」
「なんで、それみんなには・・・」
「せっかく、期待膨らませてるからな。でも、お前にだけは伝えておいたほうがいいかと思ったんだ。みんなが打ちのめされても、マサキがしっかりしてれば何とかなるだろ」
「無茶振りするなよ」
「化け物と戦うよりマシだろ。がんばれよ。リーダー」
そういって、マサキの背中を力強くたたいた。
日本で見るのとよく似た月をしばらく眺めた後、マサキは部屋に戻っていった。部屋に戻る背中を見ながら、これからのこと、そして日本に残してきたものについてじっと考えていた。
必ず帰るから待っててくれ、カナデ。