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九尾の狐、 監禁しました  作者: 八神響
第3章 壊れゆく日常編
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第95話 秘密

「……確かにここは探してなかったな。なんなら今の今まで存在を忘れてたよ」

「私もですよ。だからこそ、ここにその人の隠し部屋があるのは間違いないでしょう」

「そうだろうな。あいつこういうやり方好きだったし」


 大黒は目の前にある大きな建物を見上げながら、昔の記憶に思いを馳せる。


「意識の隙を突くのが得意っていうか……、手品師にでもなっとけば大成したかもしれないのに」

「別に貴方もなろうと思えばなれるんじゃないですか? 妖怪を使って物を動かしたり、貴方が火を吹いたように見せかけたり。それだけで並の手品師は超えれるでしょう」

「それは手品師じゃなくてただの詐欺師だ」


 そう言いながら二人が入っていった場所は、どの教育施設にも設置されている資料を管理している建物。つまりは図書館であった。


 どれだけ隠形が得意であろうと、霊的感知能力が高い生き物がつぶさに観察すれば何かしらの痕跡は残っており、隠れきることは至難の業である。

 藤もそれを理解していたため、あえて自分の拠点となる場所には隠形を使った結界は張っていなかった。

 その代わりに、拠点としている場所とは少し離れた周囲の霊気を濃くなるように細工していた。


 陰陽師や妖怪は無意識に霊気の濃い場所に気がいくようになっている生き物であり、それはもはや本能レベルの反射と言っても過言ではなかった。

 その上、隠形の痕跡を見つけようと躍起になっていたら尚更である。


 だからハクは周囲の霊気がほんの少し濃いという違和感には気づけても、逆に霊気がほとんど感じられない図書館は目にも入っていなかった。それはもちろん大黒も同様に。


 痕跡がないはずはない、その思い込みを利用した藤は隠形も使わずに二人の視覚すらも騙しおおせていた。


 だが図書館を物理的に消したわけでもなく、構内マップで一つ一つの施設を確認していきさえすれば、その存在を認識することができる。


 そうして二人は藤の隠れ家と思しき図書館を見つけることに成功した。


「これはこれで見事な隠形ですよね。隠形術が苦手な陰陽師はむしろこちらの技術を習得した方が良いかとも思いますし」

「耳が痛いな。でもこういうのって発想やセンスの問題だし、例えば俺が同じことをしようとしても上手くいかない気もするけど」

「そこは努力でどうにかするんですよ」

「それ結局隠形術を練習するのと大差ないよなぁ……」


 大黒はぼやきながら迷いのない足取りでいくつかの本棚の間を通り抜けていく。


「ところで、図書館に来てからは随分と確信を持って歩いているようですけど、もう目星はついているのですか?」

「まあ、多分な。……あいつは俺に研究室があるって言ったけど、それは嘘だっていうのはここに来て分かった」

「その人の研究内容を考えれば、隠形術を施しているわけではないこの場所に妖気が感じられないはずないですからね」


 ハクは大黒の言葉に頷いて納得を示す。


 大黒が知っている藤の研究とは半妖についてのことだ。

 混ざり妖や磨といった研究成果を大黒に見せてきたこともあり、それは間違いない。

 だが、図書館を隠蔽していた方法から見るに半妖の研究自体は別の場所で行われていた、と大黒は結論づけた。


「そう。あえて研究室なんてややこしい言い方をしたのは俺を混乱させるため……っていうより普段から言い慣れてた言葉がそれだったってだけだと思う。協会からの追手とかに対して、あいつは自分の隠れ家を研究室って言ってたんだろうな。万が一、実験をしている場所を嗅ぎつけられてもこの図書館は見つからないように」

「その人が本当に守りたい『研究室』はここ、ということですか?」

「ああ。じゃあここには何があるかと言われれば、恐らく研究日誌……とか実験ノートって言われる類のもの、のはずだ」

「推測が多いですね」

「しょうがないだろ。答えを知ってる本人が死んでるんだから」

「それもそうですね」


 ハクは片目を閉じて肩を竦める。


「それで、その人の研究成果はどこにあると貴方は考えているんですか?」

「……ハクも知ってると思うけど陰陽道において奇数は陽に分類され、偶数は陰に分類される。そいつは昔っから変な奴で、陰の数字、その中でも特に不吉な響きのある四が好きだった」

「確かにそういった趣味の方はいますね」

「後、これは知ってるか分からないけど日本の図書館では日本十進分類法っていう方法で、本に数字をつけて管理してるんだ。その分類法において一番四に関わりのある分類は四百四十四番、太陽に関する本だ」

「……やけに詳しいですね。図書館でバイトでもしたことがあるんですか?」

「いや、俺が覚えてる分類は四百四十四だけだよ。昔、そいつと図書館に行った時にそんな話をしたのを思い出したんだ」


 ハクの手を引いて歩いていた大黒は、一つの棚の前で止まった。


「四百四十四番に分類されてる本が並べられている場所の、左から四つ目。そこは俺達にとって秘密の場所だった」

「秘密の場所?」

「……いや、なんでも無い」


 大黒は言葉を濁してハクの追及を避ける。


 大黒と藤の秘密とは、二人が小学生の頃その場所に置いていた交換日記。

 他の友達にはバレないように二人だけの会話を綴った幼き日の思い出。


 それをハクに知られるのは少しの罪悪感と多くの恥ずかしさがあったため、大黒はそれ以上秘密のことには触れずに話を進めた。


「その時と隠し場所が変わってなければ、ここにあるこれが俺達の探していたものだと思う」


 そして大黒は一冊の本を手にとり、ページを開こうとする。

 だが片手のため中々上手く開けず、見かねたハクが大黒の手から本をさらってページを捲った。

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