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九尾の狐、 監禁しました  作者: 八神響
第3章 壊れゆく日常編

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第90話 過去

「ああ……、そうだよ。俺に力がなかったばっかりに磨は遺言を残す暇もなく死んでいった。俺の選択が磨を殺したんだ」

「……そう自虐的にならなくてもいいじゃないですか。それよりもどうして急にこんな話をし始めたんですか? 私はもう貴方が磨の話題を出すことなんてないと思っていたんですけど」

「……そうだな、正直俺もそのつもりだった。過去なんて振り返っても良いことなんて一つもない。どれだけ願っても時間は戻らないんだから、思い出しても辛いだけだ。良い過去も悪い過去も、囚われてしまえば呪いになる。だったら未来さきのことだけ考えてたほうが建設的だ、って俺はいつも思ってる」


 大黒は自分の手のひらを見て遠い目をする。


「まあ俺の嫌いな陰陽師って人種がどいつもこいつも過去に執着してたり、俺には過去と向き合う強さがないっていうのも理由だけどな。だから俺は磨のこともこのまま忘れて生きていこうなんて考えてた。ハクがどうしたいかなんて聞かず、ハクにも磨のことは忘れてもらって、また二人の空間を過ごしたいって思ってた」

「…………」

「けど、それじゃあダメだって今日ある妖怪と話して分かったんだ。……俺はハクのことを信じてるし、ハクも俺のことを信じてくれてる。何も言わずともお互いのことを理解し合ってる。俺はちょっと前までそう思ってたんだけど、俺は自分で思ってたよりもハクを信じられていなかった。ハクはちゃんと俺を信頼してくれてたのにな」

「……そうですね。自分や磨が危機的状況に陥っても、ここの結界を解除しきらないのはわりと傷つきました。機会さえあれば私は貴方達を置いてどこかへ行くのだと思われているようで」

「実際、俺の心のどこかでその考えはあったんだと思う。結界がなければハクがここに留まる理由はないんだって考えが……」

「貴方は自信がなさすぎるんですよ。そのくせ妙な所で行動力があって、空回りをして、また自信をなくして。過去に囚われないのは結構ですが、たまには過去を振り返ってもいいと思います。良い過去は自信になりますし、悪い過去は戒めになります。人間はそうやって成長していくものでしょう?」

「ぐうの音も出ない……」


 ハクの言葉に思い当たる節のあった大黒は、意気消沈して項垂れる。

 

「まあ、自信がありすぎる男もどうかと思いますけどね。……話はまだ終わりじゃないのでしょう? その妖怪と話して、貴方は何を思ったんですか?」

「……そいつは、死に際にこそ生き物の本当の望みが出るって言ってた。そして、仲間の望みを叶えてやるために、どんな手を使っても仲間の死に様を見届けるような奴だった」

「仲間思いな妖怪だったんですね」

「ああ、呆れるくらいにな。そんな仲間思いのそいつはたとえよく知っている相手が死んでも妥協せず、知ることを諦めない奴だった。……それで思ったのは、俺は話すことと知ることを怠けていたんじゃないかってことだ」

「……私に対して、という意味でしょうか」

「ああ」


 大黒は窓の外に顔を向け、照りつける太陽の眩しさに目を細める。

 溜まっていたものを少しずつ吐き出している大黒は、太陽の暖かさを感じて、ようやく夏が近づいてきていることを実感する。


「ハクはさ、長いこと生きてるから俺みたいな人間にも慣れてて、俺の考えていることも分かってくれる。だけど俺はそれに甘えて、ハクを知ろうとしなかった。理想の九尾の狐だったってことに満足して、それだけしか見てこなかった」

「…………」

「俺は今までハクが喜ぶと思ったことをやってきたけど、それも結局は俺の考えでしかなくて……。だから俺は聞きたい。今更だけどちゃんとハクを知って、その上で一緒に生きていきたい。……これが俺の話したいことの全部。もし、ハクがまだ俺に愛想が尽きていないのなら、ハクもこれから俺とどうしていきたいか話してくれないか……?」

「……分かりました」


 返事をしながら、ハクはソファから降りて大黒の隣に腰掛ける。

 大黒が自分の肩に頭を乗せてきたハクの横顔をふと盗み見ると、その目元には涙を流した跡がくっきりと残っていた。


「ハク……それ、」

「あまりこっちを見ないで下さい。恥ずかしいので」


 大黒は涙の跡について触れようとしたが、言い切る前にハクに拒まれる。


「……私は確かに長いこと生きてきましたが、それに見合わず大したことのない女です。自分のせいで子供が死んでも涙を流すことしか出来ないし、自分の言葉で誰かを傷つけたと分かっていてもその後どうやって関係を修復したらいいのかも分かりません。……貴方には申し訳ないことをしました。貴方は自分に出来ることを精一杯やってきたのに、私は慰めることすら出来なかった」

「いやっ、悪いのは全部俺で……。俺にもっと力だあれば……」

「……貴方はまず、自分で全てを背負おうとすることをやめましょう。それが、私が貴方にしてほしいことの一つ目です」


 ハクは腕を大黒の前に持っていって人差し指を立てる。

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