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九尾の狐、 監禁しました  作者: 八神響
第2章 混ざり妖編
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第74話 間合

 大黒は護符を十枚取り出し、それらが円状に並ぶよう地面にばら撒いた。


 円を描いた護符の中心にいる大黒は地面に手を付けて護符に霊力を通す。


「感応結界」


 大黒が呪文を唱えると護符が光りだし、藤の位置を捉える準備が整った。


 感応結界とは普段大黒が使っているようなすぐに形を成す結界とは違い、自分以外の霊力を持つ者が術の効果範囲に踏み入れた時に自動で反応する結界である。


 その効果範囲は護符から半径三十センチ。たとえ護符を踏むのを避けることが出来ても、正確に効果範囲を知らない者が感応結界を避け切ることは難しい。


 もちろん、それは藤も例外ではない。


「!」


 円状に並べられた護符の内側には入らないように警戒していた藤だったが、まさか効果範囲が円の外側にも広がっているとは思わず、近づきすぎてしまった。


 そして藤は自分を認識しづらくしているだけで、存在自体を消しているわけではない。

 そのため感応結界も他の相手と同様に効果を発揮する。


 結果、藤は結界に閉じ込められてしまい、大黒の眼に認識された。


った……!)


 間髪いれず大黒は藤を木刀で刺し貫くため地を駆ける。

 だが大黒が藤の元に辿り着く前に、藤は飢餓ノ剣で結界の内側をなぞった。

 すると、結界は急に形が不安定になり始め、役目を果たしきる前に崩れてしまった。


「……!」

「四級呪具を甘く見すぎだよ。飢餓ノ剣の効果は生き物だけじゃなく、霊力を有しているもの全てなんだ。だからこんな結界くらいなら一瞬で喰い尽くす」


 自由になった藤を見て、大黒はグッと足に力を込め急ブレーキをかける。

 ギリギリで飢餓ノ剣の間合いには入らなかった大黒だったが、そんな大黒を追い立てるように、感応結界を避けて背後から何かが地響きを立てながら迫ってきていた。


「それに僕にばかり気を取られ過ぎなのもよくないね。いくら君が強い力を持っているからと言っても、僕もその子もすぐにやられる程弱くはない。常に君の前には虎がいて、後ろには狼がいると思いながら戦った方がいいよ」


 藤は大黒の背後から地面を這ってきている野槌を指差した。

 さらに自身も攻撃に参加しようと、刀を構えながら大黒に走り寄る。


「殺す気は無いけどしばらく動かないでいてもらおうか」


 そして野槌の噛みつきと藤の袈裟斬りが大黒の体を捉えたかのように思えた瞬間、藤は想定外の光景に目を見張った。


「通り抜けた……!? いや、この感じは幻、覚……!」


 確かに大黒を斬ったはずなのに、その手には一切の手応えがなく、野槌の方もまるで砂を噛んだように口を歪ませていた。


 それが幻覚によるものだと見抜いた藤は、大黒の反撃に備えるため再び刀を構え直す。


「水行符」

「ぷぁっ……!」


 藤は大黒が木刀で斬りかかってくるものと思い身構えていたが、既に大黒は藤と野槌からは距離を取っており、水行符での攻撃を選んだ。

 咄嗟のことで木刀以外の攻撃に備えていなかった藤は、水行符の直撃を喰らい、地面を転がっていく。


 素早く藤の背後に回った野槌により、藤の体は停止し、藤は刀を支えにして立ち上がる。


「ふふ、わざわざ水行符なんて殺傷力の低い術を使うなんてもしかして僕に気を使ってくれてるのかな? だとしたら嬉しいね」

「そんな訳無いだろ。あんな状況で火行符とか使っても殺しきれるかは微妙だ。だったら水行符や土行符で隠形を封じた方が確実にお前を殺すことに繋がるだろ」

「……意外と冷静なんだね。もっと周りが見えなくなってるかと思ってたよ」


 藤は苦々しい顔で笑う。


 隠形とは陰陽師や妖怪が自らの霊力を隠す術であり、他人に影響を及ぼす術ではない。

 そのため、自分以外の霊力が体に纏わり付いている状態だと隠形は効果を発揮しない。

 だからこそ大黒はこれから戦いやすくするため、水行符で藤に自分の霊力で作った水を付着させ、藤から隠形を奪った。


(これでもうあいつを見失うことはない。あいつ自身の戦闘力は大したこと無いし、呪具にさえ気をつければ苦戦する相手じゃないはずだ。……けど、あの呪具が物の霊力まで奪うんなら鍔迫り合いはしたら駄目だな。腹や峰を叩きながら戦うしかないか……。あまり近付きたくもないが、近い方が野槌も攻撃しづらいだろうし)


 大黒が攻撃の組み立てを考えている内に、藤も自分の体についた水をピッピッと払いながら次の手を考える。


(すぐには乾きそうにないね。全身びしょ濡れだ。この格好で色仕掛けでもしたら通用しないかな? ……まあ、悲しいことに通用しないだろうね。さて、乙哉の力は跳ね上がっているが、付け入る隙がないでもない。僕はかすり傷をつけるだけでも勝ちなんだ。必要なのはどれだけ相手の虚をつけるか。今度は幻覚を使う暇も与えず、確実に手傷を負わせよう。それにしても幻覚なんて妖怪じみた技を使うとは、ますます乙哉の体に興味が出るね。研究が楽しみだ)


「ふー……」

「ふふっ」


 お互い考えをまとめ終えると、大黒は息を吐き、藤は笑った。


 そして同時に地を蹴って、それぞれ自分が攻撃しやすい位置になるよう距離を詰めた。


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