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九尾の狐、 監禁しました  作者: 八神響
第2章 混ざり妖編

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第69話 運動

「大学行きたくない……」


 五月も下旬に差し掛かり、世間が衣替えをし始めた頃、大黒は朝食を食べながら心底気怠げな声を出す。


「貴方はどうしてそう……」


 同じく向かい側で食事をしていたハクは、大黒の怠惰な発言を聞いて呆れた様子を見せる。

 食卓にはもう一人大黒の隣りに座っている磨がいるが、磨は特に反応することもなく黙々と食事を続けていた。


「いやいや待ってくれ。別にサボりたいって話じゃなくて、ちゃんとした理由があってのことなんだ」


 ハクに生ゴミを見るような目を向けられていた大黒は、自らの名誉挽回のために大学に行きたくない理由を説明しようとする。


「はぁ、まぁ聞いてあげます」


 ハクはきっとしょうもない理由なのだろうと想像がついていたが、万が一の事を考えて一応聞く姿勢を見せた。


「五月病っていうのがあるだろ? 四月に色々頑張ってきた人が、五月の連休で気が緩んでその後やたらと気力がなくなるっていうあの」 

「…………」

「……あの、まだ話し初めだからそんな白けた目で見ないでほしい」


 大黒はハクに冷たい目で見られながらも、とりあえず聞いてくれるならいいかと考えるようにし、一度咳払いをしてから続きを話し始めた。


「んんっ! とにかく、その五月病は意外と深刻な症状にも繋がったりするんだ。特に真面目だったり、責任感が強い人とかはうつ病にまでなったりもするらしい」

「貴方とは無関係じゃないですか」

「歯に衣着せてくれっ!」


 バッサリと切り捨てられた大黒は悲痛な声で叫ぶ。


「というかそこを否定されたらこの話終わるんだけど! 俺みたいな人間が五月病に罹ったらヤバいって話をしたかったのに!」

「でしたらもうこの話は終わりですよ。そもそも貴方が大学に行くのにそこまで気力を使っているとは到底思えませんし、無理やり大学に行かせたとして精神を病む可能性は微塵も無いでしょう」

「否定の時の語気が強くない? いや、いつもそんな感じではあるけども」

「……ごちそうさま」


 二人が話し合ってる中、磨はマイペースに食事を終え、使い終わった食器を片付けるために立ち上がろうとした。


 しかし完全に立ち上がる前に頭に大黒の手が置かれ、その場を去るタイミングを失ってしまう。


「分かった、じゃあ五月病の話は置いといて俺が大学に行きたくないのは実は磨のためだったっていう話をしよう」

「……私欲の言い訳に磨を利用するのなら、私は貴方をクズの極みと認識することになりますが」

「さっきよりも目が怖い!」


 ハクに本気で睨みつけられた大黒は思わず磨から手を離し、その手を上げたままの状態で話し続ける。


「ははは、大丈夫だ。まさかこの俺がそんなことするわけないだろう、ははは」

「目も泳いでいますし、笑いも乾いていますが」

「ま、冗談だよ。磨のためだっていうのも本当ではあるし」


 そう言って大黒は再び磨の頭に手を置いた。


「ほら、妖怪に遭遇した後はまた妖怪に襲われやすいからってゴールデンウィークの後も磨にはずっと家にいてもらっただろ?」

「そうですね、この家の中が近辺では一番安全な場所でしょうし」

「そう。だけど流石にずっとこのままってわけにもいかない。子供は外で遊ぶもんだとは言わないけど運動は大事だ」

「それは確か、ですけど……」


 だったらどうするつもりなのか、と目で問いかけるハク。


「まあ問題は一つずつ解決していこう。妖怪に襲われると何が面倒かって周りの人を巻き込むことだ。他人の生死にあまり興味がない俺でも巻き込み事故は出来るだけ避けたい。だから磨を外に連れて行くなら人気の少ない時と場所が大前提になる」

「……それでまず時が今日というわけですか」

「ああ。今日は平日で、俺は学校に行きたくない気分で、しかも取ってる授業をまだ一度も休んでないという最高のタイミングだ」

「ほとんど貴方主体の理由なのがどうにも気にかかりますね……」


 大黒は納得のいかない顔をしているハクを極力見ないように、磨の方へと顔を向ける。


「それで後は場所だけど、こっちは人気が少ないだけじゃなくて磨が楽しく運動出来る場所がいいと思って色々調べてみた結果、月光が丘がいいかなと」

「「月光が丘?」」


 大黒が言った地名に聞き覚えのなかった二人は同時に首を傾げる。


「京都にある最大級の公園らしい。アスレチック遊具とかもあるし普通に走り回ったり出来る芝生もあるとか。それに自然が多い所だからいざという時に人が居ない場所に妖怪を誘導出来るのも利点だな。もちろん、最終的に行くかどうかは磨に任せるけど、その気があるなら一緒に行こうってお誘いだ」

「…………行き、たい」


 問いかけられた磨は一瞬だけ悩む素振りを見せたが、すぐに途切れ途切れながらも返事を返した。


 今まであまり自分の意志を出してこなかった磨が、辿々しくも意思表示したことに内心驚きと喜びを感じながら、大黒は破顔して勢いよく立ち上がった。


「よし! 善は急げだ! 外に出る準備をしたら玄関に集合ってことで!」

「……分かった」


 大黒の言葉を聞くと磨も食器を持って立ち上がる。そして食器を流しに置くと着替えのため、ハクの部屋に向かった。


 そして大黒も出かける支度をするためリビングを出ようとしたが、その前にハクに呼び止められる。



「あの、ちなみに私はもう一ヶ月以上外出していないんですが。それに磨と遊ぶのなら私も一緒に……」

「……よし! 善は急げだっ!」

「誤魔化さないで下さい! 聞こえているでしょう! ちょっと!」

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