第54話 武器
「じゃあどうする? 一対一か二対二か」
「お兄さんの結界で片方を閉じ込めてる間に二対一っていうのが理想っすけどね」
「そんな即席の結界じゃ五分も持たないってさっき証明されたろ。その五分で確実に殺せる自信があるならそうするけど」
「お兄さんが大黒家の時みたいに大暴れしてくれたらいけそうっすけどね」
「絶対無理だな。言っとくけど今の俺はあの時の五分の一くらいの力しかないぞ。だから二対一とか二対二で戦うなら攻撃は基本鬼川に任せるつもりだ」
「ああー……、だったら五分じゃ無理っすねぇ……。わっかりましたよ、そんじゃあ二対二でいきましょう。攻撃はあたしが頑張りますが代わりに防御はそっち持ちで」
「妥当なところだな」
背中合わせで鵺の動向を監視していた二人は話し合いを終えると、お互いの正面にいる鵺に向けて同時に攻撃を開始した。
「火行符! 鬼川! 磨からは離れすぎず近すぎずな目の届く範囲で戦ってくれ!」
「どっ! せい! はいはい! 過保護っすねぇ全く!」
大黒は鵺の足元に火行符を放ち、鬼川は拳でアスファルトを砕きその破片を鵺に投げつける。
もちろんそんな雑な攻撃が当たる相手ではないのだが、二人の狙いは鵺の立ち位置を調整することにあった。
挟まれている状況から二対二で戦いやすい形に持っていこう、そして出来れば磨がいる場所から少し離そう、そんな考えのもと二人は鵺を攻撃し始めた。
しかしそうそう思い通りにいくわけもなく、攻撃を躱した鵺達はそのまま二人に突っ込んできた。
「全然怯みもしないな! 普通獣って火を怖がるもんだろ!」
「そりゃ普通の獣じゃないっすからねぇ! そんな簡単なやつだったらさっきの間に倒せてますよ!」
「そりゃそうか!」
右に左にと駆け巡る二体の鵺の攻撃を紙一重で避けながら二人は怒鳴り合う。
そしてとうとう避けきれないタイミングで鵺の爪が二人を切り裂こうとする直前、大黒は自分と鬼川の前に護符を投げた。
「生成!」
ガキっと音を立てて大黒の結界が鵺の爪を防いだ瞬間に、既に鬼川は攻撃態勢に入っていた。
「纏、雷」
両手を広げた鬼川の手、いや、正確には手袋の周りにバチバチと青白い閃光が迸る。
鬼川がその状態のまま左右にある結界に手をつけると、同じく結界に爪が触れている鵺に結界を通して光が感電していく。
「ひ、ひ」
「ひひっ、ひ」
二体の鵺が呻き声のようなものをあげ、目に見えて動きが鈍くなる。
その隙を逃すまいと大黒は背中から自分の武器を取り出す。
大黒が手にしたのは今までも戦闘で使ってきた大黒家の神木から作られた木刀。しかしただ一点、木刀の長さだけが今までのものとは違っていた。
大黒が今まで使っていたのは一般的な木刀と同じく約百センチ程度の長さだったが、今大黒の手にあるのは精々五十センチ程度。同じ刀の部類で言うなら脇差と似たようなサイズであった。
大黒はこれまで片手に木刀、片手に札といったスタイルで戦ってきたが、酒吞童子との戦いで片腕になってしまった以上、同じようには戦えない。
そこで戦いのスタイルを出来る限り崩さないようにと試行錯誤した結果、大黒が考えついたものが木刀の縮小化であった。木刀を短くすることで小回りがきくようにし、瞬時に木刀と札を持ち替える。それが大黒の新たな戦闘スタイルだった。
しかし木刀が短くなった分、必然的に重さも軽くなり、打撃による攻撃による効果は今までよりもさらに薄い。
自らの霊力によって武器を強化しようと、人間より丈夫な妖怪相手にその差は致命的となる。
そのため大黒は木刀で鵺を叩くのではなく、力任せに鵺を眼球から貫こうとした。