第42話 勉強
「さあ、朝食も食べ終えたことですし、勉強の時間ですよ」
三人が朝御飯を食べ終わって30分もした頃、ハクは自室から大量のプリントを持ってきて、それを机の上へと置いた。
「……いや、気が早くないか? 磨も色々環境が変わって疲れてるだろうし、今日くらいは勉強しなくても……」
ソファーに座ってテレビを見ていた大黒は、ハクが持ってきたプリントを見て少し引き気味になりながら口を出す。
「甘いです。そうやって先伸ばしにする癖がついてしまったら、貴方みたいな怠惰な人間になってしまいます」
「まあ、それは否定しないけどさ……」
大黒も自分を模範的な人物だと思っていないため、ハクの言葉を素直に受け入れる。
だが、机に置かれたプリントの束をパラパラめくって内容を確認すると、途端に顔に渋味が増した。
「……なぁ、ハク」
「なんですか?」
「一応聞くけどこれって磨のために用意した問題なんだよな?」
「ええ、むしろそれ以外に何があるというんですか」
「俺としてはそれ以外の何かであってほしいから聞いたんだけども」
「?」
要領を得ない大黒の言葉にハクは疑問符を浮かべながら首を傾げる。
ハクが持ってきたプリントには国語、数学、英語、理科、社会といった基本五課目の問題と解答が、それぞれ五十部ずつ印刷されていた。
今まで勉強をしてきたことがない相手に初日から渡す量、というより見せるべきですらない量なのだが、大黒が渋面を見せているのはそれとはまた別の内容からであった。
その内容がハクにもちゃんと伝わるように大黒は明確に言葉にすることにした。
「俺の見間違いでなければ小学生レベルの問題なのはどれも最初の数枚だけで、その後はどんどん難易度が上がっていって最終的にはもう専門家レベルの問題になってるんだけど」
「…………私としては、これから磨が生きていくのに際し必要になるであろう知識分しか問題にしてなかったつもりなんですけど」
しかしそれでもまだピンときていないハクに、大黒は思わず大声になってしまう。
「いやいやいや! これから磨がどういう人生を送るにしてもこれらの知識を全て使うことは無いぞ!?」
「なんですかなんですか。そんなに言うのならどこが駄目なのか言ってみてくださいよ」
不満げな顔で腕を組むハクに、大黒はプリントをいくつか抜き出して、それぞれの教科の問題点を一つ一つピックアップしていく。
「じゃあまず国語! 五ページにも渡る原文ママの論語! しかも何故か問題文まで漢文!」
「ろ、論語には人生の役に立つ言葉がいっぱい書かれていますし……。問題文が漢文なのは、少しでも漢文に慣れさせるためで……」
「日本語も勉強途中な小学生にやらせることじゃない! 次数学! 意味のわからない証明問題の羅列! 今度は日本語の問題文のはずなのに何を言ってるか全く分からない!」
「それは貴方の勉強不足では……」
「そうだよ! 勉強途中な文系の俺にも一目で超難問って分かるレベルなのが問題なんだよ! 次英語! 超長文! その上見たこともない単語がいっぱいあるし、絶対一般人向けの文章じゃない!」
「ああ、それは海外で発表されている医療系の論文から抜き出してきました。英語を勉強しながら医学も学べますし一石二鳥かと」
「これじゃあ一鳥目すら落とせないんだよ! 次理科! なんか宇宙の話してる! 理科の範疇を超えてる!」
「延長線上にはあると思ったので……」
「だいぶ先のな! 最後社会! 細かすぎる法律の問題! 六法全書でも覚えさす気か!」
「いずれは……」
「覚えさす気だったんだ!? ていうか何よりも問題なのは、このプリントの山にあるのが問題文と解答だけで解説の類が一切無いことだ!」
「? 答えさえ見れば解き方は分かるでしょう?」
「常識が通じねぇー!」
自然と天才的な発言をするハクに大黒は頭を抱えて叫ぶ。
まだまだ言いたいことはあった大黒だったが、とりあえずの問題点は言い終わったので、一旦プリントを置き冷静になることにした。