番外編 大黒純と鬼川綾女①
世界が嫌いだった。人間が嫌いだった。だけど何よりも嫌いなのは自分だった。
いつからこんな風になったのかは明確に覚えている。
だけど『その時』に戻れたら、なんて思ったことはない。『その時』があったからこそ、私は兄さんに出会えた。
この世の全てが嫌いな私だけど、兄さんだけは別だった。
優しくて、かっこよくて、強くて、いつでも私を守ってくれる兄さん。
兄さんさえいれば私の人生は幸せで、兄さんがいなくなるなんて考えたくもなかった。
だけど、いつかそんな日が来ることは分かっていた。
私にとっての一番はずっと兄さんで、それはこれからも一生変わらないけど、兄さんにとっての一番はいつの間にか私じゃなくなっていた。……それに気づかないほど、私は鈍感にはなれなかった。
それでもどうにかしようと頑張った。兄さんの一番に返り咲きたくて、兄さんを一番幸せに出来るのは私だと証明したくて。
でも、結局何も変えられずその日は来た。
兄さんは自分に必要な最低限の荷物だけ持って、大黒家を出ていった。誰にも何も言わず、陰陽師の世界から姿を消した。
それからしばらくは、兄さんの血を抜き取って作った呪体と兄さんのベッドで寝ることで寂しさを紛らわしていたが、それも一週間が限界だった。
兄さんを想うようになってから、半日以上兄さんと離れたことがなかった私にとって、その状況は拷問以外の何物でもなかった。
このまま何もしないでいると、きっと兄さんはここに一生戻ってこない。
そんなことが耐えられるはずもない私は決めた。兄さん以外の全てを壊してでも、兄さんと私の世界を作ろうと。
そして、とうとう計画に向けて動き出せる日がやってきた。
――――高校一年生春、私は大黒家当主になった。




