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九尾の狐、 監禁しました  作者: 八神響
第2章 混ざり妖編
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第37話 好物

「よっ……、と」


 自室から椅子を持ってきた大黒は、その椅子を磨の横に置きそのまま腰掛ける。

 ハクも二人の対面にある自分の椅子に座り、やっと話し合いが始まった。


「まずは自己紹介からだな、この子は佐藤磨。訳あって今日からしばらくこの家に住まわせることにした。あっちはハク、俺の嫁だ」

「違います」

「嫁だ」

「違います」


 頑なに否定するハクに、大黒が先に折れた。


「……まあ、あれだ。とりあえずあっちも訳あって同居してるってことだけ覚えててくれ」

「分かったわ」


 大黒の言葉に磨は頷いたが、納得はしきれなかったのかハクをじっと見つめる。

 それを警戒と受け取ったハクは安心させるように磨に微笑み返した。

 そして大黒は、二人の無言のコミュニケーションを邪魔しない程度に静かに説明を続ける。


「端的に言うとだな、家を出る前に話した昨日変なのから助けた子供が、ここにいる磨だ。なんでも行く宛がなくて俺に着いてきてたらしい。磨の事情は俺もまだ詳しく聞いてないけど、放っておくわけにも行かず、色々悩んだ結果家に連れて帰ってきた」

「連れて帰ってきた……って簡単に言いますね。貴方が考えもなしにそんな事をするとは思いませんが、少し軽率だったのでは?」


 ハクは視線を大黒に向け窘めるように言う。


「問題なのは重々承知してるけどしょうがないだろ。なんていうか……、本当に行く場所がなさそうだったんだから……」

「そう、ですね。きっとそうだったのでしょう。分かりました。ここは貴方の家ですし、その子も納得しているのなら、これ以上私から言うことはありません。でしたら今後の話をしていきましょう」


 ハクは目を閉じて考えを巡らす。


 三人で生活するにあたって気をつけることや、磨の日常生活、自分の正体の誤魔化し方。

 今までハクと大黒しかいなかったこの空間に磨を入れるということは、様々な制約が課されることになる。

 それらを一つ一つ解決するために頭を悩ましているハクを横目に大黒は全く別のことを考えていた。


「なあ磨、なにか今食べたいものってあるか?」

「…………?」


 大黒の質問に磨は首を傾げる。

 それを見たハクは一旦考えるのをやめ、大黒に話しかける。


「あの、どうしたんですか急に」

「何よりも重要なことだよ。磨はさ、昨日の夜から俺を待ってたんだ。多分その間何も食ってない、と思う」


 大黒は磨に視線で問いを投げかけ、磨はそれに緩慢な動作で頷く。


「ほらな、だからまずは飯だ。こんな小さい子どもが飯を抜くなんてあっちゃあならない。今後の事は磨の飯を用意してから考えるのでも遅くはないだろ?」

「……子どもの事になると気が回る人なんですね。普段もそれくらい相手の事を考えてくれればいいものを」

「ハクのことは常日頃から考えてるつもりなんだけど」

「それでは私もその人にならって磨と呼ばせてもらいましょうか。磨、その人が言ったようになにか食べたいもの、もしくは好きなものとかはありますか?」


 認識の違う大黒を無視して、ハクは磨に質問する。


「ないわ。食べたいものも好きなものもない。……だから私のことは気にしないで」


 しかし磨はそう言ったきり、俯いて黙ってしまう。

 そして、その答えを聞いたハクと大黒は顔を見合わせ、同時に立ち上がる。


「よし分かった、じゃあそこから始めよう。まだ昼間だが今日はパーティーだ、磨歓迎会パーティー。そういうわけで俺は必要そうな食材を買ってくるから、ハクは先に料理の準備をしててくれ」

「分かりました。少し待っていてくださいね磨。あまり時間はかけませんから」

「え……?」


 意気揚々と動き始める二人に磨は困惑の声を上げる。


 磨は訳が分からず大黒の袖を掴もうと手を浮かすが、その前に大黒はリビングを出て買い物に行ってしまう。

 ハクはハクですでにキッチンで食材の選定を行っていたため、磨も椅子から降りてキッチンにいるハクに声をかけた。


「ねえ、二人は何をしようとしているの……?」


 話しかけられたハクは一旦冷蔵庫を閉じ、磨の方を振り返る。


「もちろん、磨のご飯を作ろうとしているのですよ」

「私はいらないって言ったのに?」

「ええ、食べたいものがなくてもお腹は空いているはずです。それに好きなものだってまだ出会ったことがないだけかもしれません。だからあの人はきっと色んな種類の食材を買ってくるでしょうね。あ、嫌いなものやアレルギーがあったら教えて下さいね」

「…………分からない、どうして私にそんな事をしてくれるの」


 ハクの説明を理解ができなかった磨は無表情のまま首を振る。



 それに対しハクは、

「今はそれでもいいです。いつか分かる日もくるでしょう」

 と言って悲しそうに笑った。

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