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九尾の狐、 監禁しました  作者: 八神響
第1章 大黒家争乱編
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第29話 決死

「あああああああああああっ!」


 雄叫びを上げて大黒は瓦礫から飛び出て来る。

 頭からは血を流していて、体の骨も何本折れているか分からない。


 それでも大黒はしっかりとした意思を持って豊前坊を睨みつけた。


「大人しく倒れていればいいものを、そこまで苦痛が欲しいか」

「人をマゾみたいに言うんじゃねぇよ! この苦痛を乗り越えなきゃ手に入らないものがあるから俺は立つんだ。だからお前も乗り越えさせてもらうぞ、豊前坊!」


 大黒は自分を鼓舞するように大声を上げる。

 そして自らが目指す幸せのために、豊前坊に立ち向かっていった。


「お主がそこまでする価値があの狐にあるのか! あの狐はそこにいるだけで悪! 生きているだけで悪なのだ! それがどうして分からない!!」


 力は圧倒的に豊前坊が上、しかし速さは少しだけ大黒の方が上。

 大黒は僅かに勝っている速さで豊前坊を攪乱する。


「知るかよそんなことっ! お前には俺が良い奴にでも見えてんのか!? 俺はハクの在り方に惹かれた! それが善だろうが悪だろうが関係ねぇ! 俺はハクと共に生きることを望んでんだ!」


 縦横無尽に駆け巡り、豊前坊が自分の姿を捉える前に場所を移動する。

 ヒット&アウェイの形で、大黒は豊前坊の体に小さな傷を増やしていく。


「そう思わせることがあやつの魔性だ! 惑わされるな! 取り返しがつかなくなる前に正気を取り戻せ!」

「お、ま、え、にそんなこと言われる筋合いねぇっ!!」


 大黒はあえて木刀を刀で受けさせ、霊力で作った左手で豊前坊の顔に拳を入れる。

 しかし豊前坊に大したダメージは与えられず、逆に捕まりそうになったので慌てて飛び退く。


「ちっ! ハクの事を何も知らねぇ癖に好き勝手言いやがって! お前らがそんなんだからハクは幸せになりきれない! 欲に眩んだ人間が、力を欲した妖怪が、正義を自称するどっかの馬鹿が! ハクを追い詰める! だけど、今! ここには俺がいる! だから俺がハクを守る! そう決めたんだ!」


 大黒は叫び、さらに速度を上げる。


 大黒が足を止めることは無いが、それで豊前坊の攻撃を全て躱しきれているかというとそうでもない。


 移動速度こそ大黒が勝っているが、豊前坊の剣速だけは越えられない。

 基本を突き詰め、一振り一振りが必殺技と呼べるほどに昇華された豊前坊の剣はもはや肉眼で追う事もままならない。


 そのため大黒はほとんど感覚だけで豊前坊の剣を避けているが、たまに読み違えて攻撃を食らってしまう事がある。


 しかしそれでも大黒は止まらない。ハクの敵を殲滅するまで大黒は止まることは無い。


(傷のことは考えるな! アドレナリンを出しまくれっ! 俺は、豊前坊よりも強い!)


 大黒はそう自分に言い聞かせて、木刀を振る。


「生成!」


 そして護符をばらまき、空中に足場を形成して三次元的な動きで豊前坊を翻弄する。


「ぬうっ!」


 器用に飛び跳ねる大黒に、豊前坊の息が一瞬乱れる。

 その隙に大黒はハクの記憶で見た技を使い、さらに豊前坊を追い詰めようとする。


「首、獲ったぁ!」


 大げさに叫びながら首を狙ってくる大黒に反応して、豊前坊は大黒を袈裟切りにする。 


「幻覚かっ!」


 しかし手応えが全くなく、その大黒の姿は偽物であると見抜く。

 妖狐の得意技である幻覚を使った大黒は背後から豊前坊の胴体を狙う。

 だが、


「――――小賢しいっ!!」


 一瞬で振り返った豊前坊に手を掴まれ、そのまま投げられてしまう。

 抗えない力を肌で感じながらも大黒は護符を取り出し、後方に投げた。 


「生、成、反衝結界……!」


 後方に作った反衝結界にぶつかった大黒は爆発的な速度で豊前坊に迫っていく。

 そして勢いのまま、今度は実体で豊前房の首を落とそうとする。


「ぐっ……!」


 豊前坊は刀で防ぐことは間に合ったものの、自らの力と大黒の力、その二つが合わさると耐えきることが出来ず、道場の扉まで吹き飛ばされてしまう。


 「生成! 可変結界!」


 大黒は間髪入れず豊前坊が飛んだ場所に五枚の護符と大量の木行符を投げつけ、豊前坊が立ち上がる前に木行符と共に豊前坊を結界の中に閉じ込めることに成功した。


「この程度の結界、破壊出来ぬと思うたかぁ!!」


 豊前坊が怒号を上げながら、結界を斬ろうと刀を振り上げる。だが、その時には既に大黒の仕込みは終わっていた。


「木行符!」


 大黒が呪文を唱えると、結界の中に出てきたのは無数の鋭利な木。

 結界の内側に向いて木が生えたことを確認すると、大黒は最後の呪文を唱える。


「圧縮!!」 


 それを合図に無数の木々が杭となって豊前坊に襲い掛かる。


 可変結界は、大小可変の特殊な結界。

 結界に霊力を込めればどこまでも大きくなり、結界から霊力を吸えば中に何があろうと限界まで小さくなる。


 しかし結界だけでは豊前坊の硬さに敵わない。そう感じた大黒は木行符で結界の中を彩ることで豊前坊を突破しようとした。


「ぬうううううううううう!」


「はああああああああああ!」


 豊前坊は体に力を込め耐えきろうとし、大黒は豊前坊を貫こうと圧縮を続ける。


 そして、決着の時が訪れる。


 大きな破裂音を鳴らして結界が壊れると、中から出てきたのは全身が穴だらけになり、腕や足が千切れ落ちた豊前坊。


「………………」


 片足で立っている豊前坊は自分の姿を見下ろし、観念したように空を仰いだ。


「己の、負けか」

「はあっ……! はあっ……! こっちとしてはあんまり勝ったって実感ないけどな……! 空も飛ばないし、術も使わないとかどんだけ舐めてたんだ」


 大黒は木刀を地面に突き刺し、そこに体重を預ける。

 勝利したのは大黒のはずなのに、豊前坊と違って大黒の立ち姿に余裕はない。

 だが豊前坊はそんな大黒を笑うことはせず、真摯に自分の負けを認めていた。


「剣の修行もまともにこなさぬ未熟者に、そのような姑息な手が使えるはずもない。それに己の生涯を賭して極めた剣を使って負けたのだ。他に何をしても己が負けていたことには変わりがないだろう」

「いや、普通に使われてたら俺が負けてたと思うけど……。まあ、俺からしたらありがたいが」


 大黒は自虐的に笑う。


 そして体が崩れ始めた豊前坊は大黒に最期の言葉を残そうとする。


「真、お主が本当にあの狐と添い遂げたいのであればもっと力を付けよ。神をも殺す力が無ければ、お主は早々に願いを叶えられず野たれ死ぬであろう」

「俺はもっと平穏に生きたいんだけどな……。でも、肝に命じとくよ。お前も今度契約するならもっとまともな人間と契約しろよ」

「ふっ、覚えておこう」


 そう言って豊前坊は破顔する。


 それを最期に豊前坊の体は完全に崩れ去り、塵となって宙へと舞っていった。

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