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九尾の狐、 監禁しました  作者: 八神響
第4章 九尾の埋蔵金編
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第161話 灰塵

「はぁ……、面倒な」

「んんー……!」


 ハクを抱えたまま森の中を疾走する竜胆の後ろには、凄い勢いで距離を詰めてくる怜の姿があった。

 初動の動き出しに差があったとはいえ、竜胆の腕にはそこから逃れようともがいているハクがいる。

 そのため走ることにも集中出来ず、このままいくと後数十秒で怜に追いつかれることになる。

 そう判断した竜胆は、怜を迎え撃つため少し開けた場所で足を止めた。


「口説く時間くらい欲しいものだが……」


 暗い声で呟き、竜胆は腰から丸みを帯びた小型のナイフを取り出す。

 怜も竜胆が臨戦態勢に入ったのを見て刀の柄に手を添えた。

 二人の間に緊張が走り、戦闘が始まりそうになった瞬間――、竜胆の脇腹に強い衝撃が走った。


「ぐっ……!?」


 予想外の角度から攻撃を食らった竜胆は踏ん張りがきかず、近くの木まで吹き飛ばされた。

 そしてドォッという衝突音と共に葉っぱが散り、根本に倒れ込んでいる竜胆に覆いかぶさった。


「死んだ?」

「……驚かないのですね」


 竜胆の方を見て生死の確認をする怜の前には、体の自由を取り戻した状態のハクがいた。

 

「追ってる途中から、なんとなく、大丈夫な気がしてたから」

「ふむ。私が未熟……なのはありえないですし、貴女の感覚が特別鋭いのでしょうか」


 ハクは変化と幻術を駆使して竜胆の腕から逃れることに成功していた。

 最初は確かにハクを捕えていた竜胆が気付かない程の術の精度。

 それをなんとなくとはいえ見破っていた怜に、ハクは驚きの感情を隠せなかった。


「……まあ貴女とはまたゆっくりお話しするとして、今はあちらですね。貴女が言うように死んでいてくれたら楽なのですが」

「うん、でも……」


 二人の視線の先にいる死を望まれた男は、ガサガサと音を立てながら葉っぱの中から立ち上がる。

 足元は覚束ないが意識ははっきりしているようで、ドロリをした目をハクに向けていた。


「はぁ……狐に化かされていたか……。駄目だなぁ……駄目だ。噓つきは浮気の始まりだろう……」


 ボソボソと何かを呟いている竜胆に気味の悪さを覚え、ハクも怜も足を一歩後ろに下げる。


「……貴女の目から見ても、あれは人間ですか?」

「うん。少し気持ち悪いけど人間なのは間違いないと思う」

「そうですよねぇ……」


 竜胆を蹴り飛ばした時、ハクの足には間違いなく相手の肋骨を砕いた感触があった。

 感覚だけで言えば、内臓にも骨が刺さってダメージがあるはずだった。

 それなのに、竜胆にそこまでの苦悶は見られない。

 妖怪ならともかく、人間のはずなのに。


「……なぁ、俺は話がしたいだけなんだ。戦う意思はない」


 ひとしきり呟き終えた竜胆は、うつ向き気味だった顔を上げハクに話しかける。


「九尾の君だってそうだろう? 俺の腕から離れていたのにも関わらず、ここまで着いてきてくれたんだ。俺の気持ちを汲んで対話に応じるつもりだったはず。手荒になったのは謝るよ。あの刀岐貞親が近くにいたんじゃ、いつ首を切られるか分からなくて話す余裕もなくなると思ったんだ。誓って殺意も敵意もない。だからそっちも警戒を解いてくれないか」

「…………」

「…………」


 大仰な身振り手振りで訴えかけてくる竜胆に対し、二人は冷ややかな視線を返す。

 当然、二人が警戒を緩めることもなかった。


「狐火、じん


 ハクは竜胆に返答することなく攻撃を開始する。


 竜胆の周りを火の玉が囲い、一斉に襲いかかる。

 避ける暇がなかったのか、避ける気がなかったのか、竜胆は全ての火の玉に当たり、火達磨と化した。


「か……は……」

「長話をしている暇はないんです。貴方さえ殺せば天魔雄神が私達に絡んでくることも……恐らくないでしょう」

「おぉー……」


 怜は燃え盛っている竜胆を見て感嘆の声を上げる。


「私がここに来たのは天魔雄神との戦いを避けるため

という理由です。きっと今、あちらで足止めしてくれているであろう私達の味方が殺される前に、私は貴方を殺さないといけないんです」


 ハクは感情の籠らない声で火種を追加していく。

 竜胆を消し炭にするため、一切の容赦なく。


 呻き声を上げて苦しむ竜胆が動かなくなるまでハクの術は続き、黒焦げになったところでようやく火が収まった。

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