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九尾の狐、 監禁しました  作者: 八神響
第4章 九尾の埋蔵金編
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第146話 偽物

「私、は……」


 相手が偽物であろうと、娘の姿と娘の言葉を使っていることに変わりはない。

 であればハクは、真摯な言葉と誠実な態度を持って相対する。

 それが自己満足とは分かっていながらも思いの丈を話そうとハクが口を開いた瞬間、暗闇だった空間が裂かれて外から光が差し込んできた。

 そして光と共に舞い降りてきた一人の人物が、ハクと祐娜姫の間に割って入った。


「……っ!」


 その人物はハクを祐娜姫から引き剥がすために祐娜姫の腕を蹴り上げようとしたが、直前で祐娜姫がハクの頭を投げ捨てたことで空振りに終わってしまう。


「貴方は……」


 雑に放られたハクは頬を擦りながら割り込んできた人物の顔を見た。

 それは知っている顔ではあったが、同時に知っているからこその違和感も覚えた。

 祐娜姫に攻撃を加えるという行動しか見ていないが、何よりもそれがその人物にとってありえない行動である。

 素早くそこに気付いたハクは、その人物も祐娜姫と同じく天魔雄神の作り出した偽物であると見抜いた。


「ハク、大丈夫だったか? なんとかこっちは終わらせたから手助けに来た。状況がよく分かってないけど、あの子供がここでの敵ってことでいいんだよな?」


 その偽物は、本物と同じ表情でハクに話しかけてくる。


「……ええ、そうですよ。敵、というのは些か荒い表現だと思いますが、凡そ間違っていません。あの子をどうにかしないとここから出られないのでしょうし」

「ふぅん、どうにかってことは倒すとか殺すとかじゃないってことか。俺としても子供と戦うのは気が引けるしまだそっちの方がやりやすいな」

「…………」


 ハクは適当に返事をしながら、天魔雄神がこの人物を出してきた意図を考える。

 仲間が来たと思わせてから後ろから刺すつもりか、三つ巴の殺し合いをさせるつもりか、それとも…………。


 そうやってハクが頭を悩ませていると、今度は祐娜姫が偽物に話しかけ始めた。


「どちら様でしょうか。今は家族でお話をしているので関係の無い方はお引取り願いたいのですが」

「へぇ、だったら俺にも参加する資格はあるな。なんせ俺はここにいる白面金毛九尾の狐、ハク様の夫である人間だ。家族の話っていうなら俺にも聞かせてくれないと」

「…………なんとも、不愉快な言葉が聞こえてきましたね。一応お名前の方をお聞かせ頂いてもよろしいでしょうか」

「大黒真だ。以後お見知りおきを」


 偽物は親指で自分を指して大黒真の名を名乗る。



 男は確かに大黒真と同じ顔をしていた。背丈も声も寸分違わず同じものだった。

 きっと本物の大黒と祐娜姫が会ったとしても同じようなやり取りをするのだろうとも思える再現度だった。

 それでもこれは記憶を読んでの再現ではなく、あくまで模倣。仕草等に細やかな違いはあり、たとえば大黒に十年近く寄り添ってきた純ならば即座に偽物と見破る程度の出来であることも否定できなかった。


 しかしハクと大黒はまだたった三ヶ月の付き合い、いくら幻術のエキスパートであるハクと言えど、この精度なら数分程度は騙せるだろうと天魔雄神は高をくくっていた。今、この瞬間までは。


「……意外と不快なものですね」

「どうした? 腹でも壊したような顔して」


 大黒の名乗りを聞いたハクは思考を止めてボソッと悪感情を口にする。

 それは大黒の耳には届かなかったが、ハクが纏う空気が変わったことには気が付き、心配そうな声をかける。

 

「いえ……、何でしょうね。ここまで程度の低い偽物に本物と同じ名前を名乗られるのが、自分でも驚くくらい不快だったというだけです。おかげで悪い夢から覚めた気分にはなれましたけどね」

「え、と……つまりハクは俺を疑ってるってことか?」

「疑っているのではありませんよ。確信を持ってるんです。何せ本物の大黒真であったなら、どのような状況であろうと自分から子供を攻撃するなんて真似するはずがありませんから」


 ハクは冷たい目で偽物と断じた大黒を見る。


 大黒がこの空間に入ってきて行った祐娜姫への攻撃。

 あれはハクの安全を確保するための行動だったが、本物の大黒真ならばハクのためであっても子供と認識している相手に蹴りかかるなんてありえない。

 三ヶ月の付き合いであろうと、それが分かるくらいにはハクも大黒のことを理解していた。

 祐娜姫の姿を見て動揺し続けていたハクの心も、明らかな偽物を見ることですっかり落ち着いてしまった。



 そうして膠着した空間に、重く低い声が鳴り響いた。



『つまらん』

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