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九尾の狐、 監禁しました  作者: 八神響
第4章 九尾の埋蔵金編
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第143話 暗闇

「ふぅ、こんなものですか」


 秋人の子供が息絶えるのを大黒が座して待っている頃、ハクは一足早く大軍を倒して次の試練に挑もうとしていた。

 

 死屍累々となった野原。

 こちらでも激しい戦いがあったことは一目瞭然だったが満身創痍となっていた大黒と違い、ハクの体はむしろ戦いが始まる前より力がみなぎっているように見えた。


「……容赦しないでいい相手だったとはいえ、少々はしたなく暴れすぎたかもしれませんね。あの人と会う前に多少整えておきましょうか」


 ハクは土で汚れた服や乱れた髪を霊力を使って戦う前の状態に戻した。

  

 大黒には出来るだけ綺麗な自分を見せておきたい、と心の奥底で思ったからこその行動だったがハクはそんな思いを否定するように首を振り、みっともない姿を見せるのは九尾の妖狐としての沽券に関わるからだと思うようにした。 

 九尾の妖狐のプライドのためには多少霊力の無駄遣いになろうがこれくらいは仕方がない、と。


(ええ、そうです。再開した時あまりに無様な姿をしていたら、あの人に舐められる恐れもありますからね。威厳を保つのも大変です。……逆にあの人があんまりな格好をしていたら笑ってあげましょうか。いえ、それは流石に可哀想ですし慰めてあげるほうが良いかもしれませんね)


 ハクはコロコロと表情を変えながら大黒と会う時のことをシュミレートする。

 その際に会えなくなるかもしれないという不安が頭をよぎることはなく、大黒と再開することは確定事項かのように考えていた。

 しかし、その無意識の信頼にハク自身が気づくことは無かった。


「しかし……次、何を仕掛けてくるかは凡そ予想がつきますが、あの男はきっと私の想像を超えて悪辣なことをしてくるんでしょうね……」


 野原を横切りながらハクは憂鬱そうにため息をつく。


 肉体よりも精神を痛めつける方が好みである天魔雄神。

 そんな天魔雄神の性格を知っているハクは、次の試練こそが本番だと分かっていた。


 そしてハクがどうにか試練を無視して天魔雄神に会えないかと考え始めたタイミングで、周りの景色が一変した。


「……まあ、そんな甘くはありませんよね」


 一寸の先すら見えない暗闇の中、ハクはひとりごちる。


 右も、左も、上も、下も、全てが黒く塗りつぶされ、一歩足を踏み出せば奈落へと続く穴があると言われても信じられる異質な空間。

 今更そんな罠を使ってくることは無いだろうと思っていても、どうしてもハクの足取りは慎重になる。


 一歩一歩地面がきちんとあるかを確認しながら、ハクは前に進む。

 その場で何かが起こるまで待つというのも選択肢の一つにはあったが、生来より強い力を持っていたハクに『慎重』という言葉は縁遠く、まずは行動してみるのがハクのやり方だった。

 大黒に監禁されて力を奪われていようと、その行動理念は変わらない。


 だが、だからこそ力ではどうにも出来ない局面に出逢ってしまった時、どうしたら良いかが全く分からなくなってしまう。

 

「…………?」


 ゆっくりと歩いていたハクの数百メートル先に、白くて小さいモノがあるのが見えてきた。

 その存在に気付いたハクは目を凝らしてそれが何なのか確認しようとする。

 しかしまだ距離があることもあり、果たして人間なのか妖怪なのか、生物なのかすらも判別がつかなかった。


(近づきたくはありませんが……ここにいても状況が好転することはなさそうですね。まずはあれの正体を掴みにいきましょうか)


 得体の知れない不吉なモノと認識しながらも、ハクはそれに向かって歩を進めていく。

 そして相手との距離を数十メートルまで縮めた地点でハクは相手の正体に気がついた。


「あ……ああ……」


 認識したと同時にハクは胸元を抑えて膝をついた。


「はぁっ、はぁっ、はっはっ、はっ」


 目を逸らしたいのに目を逸らせない。歩き出すことも出来ず、段々と呼吸が早くなっていく。


 白くて小さいモノ。

 その正体はハクに背中を向けて座り込んでいる小さな子どもだった。

 白い着物、十歳前後と思われる体躯、何よりも目立つのは日本人ではありえない銀色に染まった髪。


 まさか、そんな、なんて事は思っていなかった。ちゃんと予想をしていたはずだった。こうして攻めてくることは誰よりもハクが分かっていた。

 しかしそれでも目の当たりにしてしまったら、体が硬直することは避けられなかった。


「………………」


 銀色の髪を持った子供は動けなくなったハクの方を振り返る。


 緩慢な動きでも無かったのだが、ハクは子供の挙動がコマ送りにされているかのように感じていた。

 それは一種の現実逃避だった。だが振り返った子供の顔を見て、ハクはとうとう頭を抱えて体を丸めてしまった。


「…………っ! ……! …………!!」


 ハクは声にならない叫びを上げる。


「………………」 


 切れ長の目で少女はハクを睨みつける。


 彼女は、昔のハクが捨てざるを得なかった大切なモノ。

 ハクの前進である玉藻の前と鳥羽上皇の間に産まれた子供。


 ハクが『祐娜姫ゆなひめ』と名付けた一人娘がそこにいた

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