表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
九尾の狐、 監禁しました  作者: 八神響
第4章 九尾の埋蔵金編
140/162

第139話 地下

「ここは……」


 所変わって、ハクと離された大黒が連れてこられた場所は、薄暗くカビ臭い大きな地下室だった。

 最初は暗さもあってそこがどこだか分からなかったが、暗闇に目が慣れてきて部屋を見渡すと大黒は顔をくしゃりと歪ませた。


「……なるほど、これは確かに性格が悪い。人が二度と見たくなかった風景をピンポイントで見せてくるなんて」


 その部屋にいたのは大黒一人ではなかった。

 

 おおよそ五十人前後の男児の集団、それらが互いを警戒するように一定間隔の距離を取って部屋に敷き詰められている。


 怯え、不安、憎悪、絶望。

 様々な負の感情が混ざりあったそこは、大黒にとって因縁浅からぬ場所であった。

 何度も何度も忘れようとしたが、終ぞ忘れることの出来なかった悪夢の檻。

 大黒が過去を振り返らない主義になっていた原因の過去トラウマ

 

 大黒家地下室、幼子を使った蠱毒ころしあいをした場所に大黒はいた。


「くそっ……、吐き気がする……」


 大黒は口を抑えて嘔吐を堪らえようとしたが、感情とは裏腹に胃の内容物が逆流してくる感覚はなく、今の自分が生の肉体ではないことを思い出した。


(……そう言えばあれだけ酷かった体の痛みもないし、骨折してた右腕も普通に動くな。まあ幽霊みたいなもんだし当たり前っちゃあ当たり前か。だったら……)


 大黒は左腕があった部分に目を向けて意識を集中する。


 そしてそこに左腕があることを強くイメージするとパッと腕が現れた。それは大黒が妖怪化している時に出す曖昧な形をしたものとは違い、肌色できちんと指先まで細かく動かせる元々の左腕だった。


「なるほど。霊力を使い果たす以外の死はない、か。でも体を再構成するにも霊力を使うっぽいしあんまり攻撃はくらわない方がいいな」


 大黒は左肩をぐるぐると回しながらこの世界での在り方を分析する。

 

 それはここで生き残るために必要なことでもあったが、それ以上に大黒は現状から目をそらすために行っていた。

 しかし、そんな現実逃避もすぐに終りを迎えることとなる。


『中々有望そうな子供が多いね。嬉しい誤算だ』


 するり、と扉の隙間から紙が一枚入ってきた。


 紙は姿を鳥へと変えると、人間の声で人間の言葉を喋り始めた。

 高圧的で粘つくような不快な声。

 この状況を作り出した張本人、大黒秋人の声が鳥から発せられていた。


(……もう十年以上前のことなのに、未だに鮮明に思い出せる。親が死んだばっかで途方に暮れてたら、いきなり知らない大人に連れられて無理やりここに押し込まれた。周りには知らない子供しかいなくて、何か嫌な予感だけはずっとしていた)

 

 大黒秋人の声を聞いて、大黒の頭の中に当時の記憶が次々と蘇ってきた。

 必死に思い出さないようにしていた忌まわしき過去も、一度記憶の蓋が外れてしませば溢れ出てくることを止められない。


(刀、槍、斧、ナイフ、色んな武器が並べられた壁に五行符や護符が置かれてる机。外から鍵を掛けられてる扉に俺を含めて濁った目をした子供たち。たとえ子供でもこのシチュエーションで楽しそうなことを思い浮かべるのは無理だった)


 その時はただ困惑の中で立ち尽くしていた大黒だったが、今は冷静な視点で周りを見ることが出来る。

 ここにいるのは何らかの理由で家族と別れた子供たち。親に売られた子供、親に捨てられた子供、親が死んだ子供、はたまた施設にいたが施設の経済状況が原因で放逐された子供もいた。


 失意の中にいる幼い子供。泣いていたり、その場で蹲っている子供が多かった。 しかし、その中でも悪意に敏感な子供はそれに対応しようと準備を始めていた。


(……こうして見ると、純みたいな一般家庭の子供もある程度はいたんだな。初めて式紙を見たって反応してる。でも陰陽師の出のやつはさすがというかなんというか、式紙が話してる内にこそこそと武器を懐にしまってるのが何人かいるな。これから起こることも予測がついているのか、周りと距離は保ったままで)


 陰陽師の家系であるならば、子供であろうと血生臭いことに対して多少の耐性がある。家によってはこの歳で既に人を殺した経験のある子供もいる。

 大黒はそれに比べたら平和な幼少時代を送っていたものの一般人よりは場馴れしており、机の端にあった護符をそっとポケットに突っ込んだ。


(あの時もこうやって護符を手にとったなぁ……、まあこの世界でのこれはどうせ使えないんだろうけど。…………小さい頃は結界なんて地味なものは嫌いで、火行符とか必殺技っぽいのが好きだったはずなんだけど、何で俺はこれを選んだんだろうな。生存本能ってやつなのだろうか)


 大黒が過去を思い返している間にも、秋人の話は進んでいた。


 秋人は大黒家がいかに優秀な家系だったか、いかに自分の子供が期待出来ないかを懇懇こんこんと語り、最後にこう締めくくった。


『だから僕はここで新しく次期当主候補を見繕おうと考えたんだ。君たちは幸運だよ、栄誉ある大黒家の当主に慣れる機会が巡ってきたのだから。武器は用意してある。術も好きなだけ使っていい。全てを殺し、最後に一人残っていたものだけがそこから出られる。じゃあ、期待しているよ』



 そうして地獄が始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ