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九尾の狐、 監禁しました  作者: 八神響
第4章 九尾の埋蔵金編
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第138話 大軍

「無意味な移動の果てにどこへ連れて行かれるのかと思えば……本当に趣味が悪いですね」


 二輪となった足で走り続けていた車は、ある場所でハクを残して消えていった 

 その風景を目にしたハクはうんざりとした顔をして天魔雄神の性格を詰る。


 ハクの目の前に広がっているのは見渡す限り緑一色の広大な野原……を埋め尽くす程の武士の大軍。

 太刀、槍、弓、それぞれ思い思いの武器を携えて、ハクに対して殺気を向けている。


 その中でも一際威圧感のある武士が刀を払って居丈高に叫んだ。


「どこまでもしぶとい狐め! お前が弱っているのは分かっているぞ! 長きに渡ったこの戦いもお前の首を討ち取って今日で終わりにしてくれる!!」


 男の気合に呼応して、他の武士たちが『うおおおおぉぉぉぉ!!!!』と鬨の声を上げる。

 ハクは声に気圧されることなく冷静に武士の群れを見渡す。

 そしてその中に一人だけ甲冑ではなく狩衣かりぎぬを着た人間を見つけ、その人物を強く睨みつけた。

 

(そうですよね……、いますよね……。これは私の記憶を見て再現しているんですから。……落ち着きましょう、雪辱を果たす時は今ではありません。煮えくり返る気持ちは否定できませんが、どうせ本人ではないのですし)


 ハクは大きく深呼吸をして、頭に昇った血を下げていく。



 ハクの試練として再現されているのはハクが玉藻の前であった時代、安倍泰成によって正体が暴かれた後、討伐隊を組まれて那須野の地まで追い立てられた時のものであった。


 十万近い武士の軍勢の中には三浦介義明みうらのすけよしあき上総介広常かずさのすけひろつねなど武芸で名を馳せた武士もいる上に、伝説的な陰陽師の安倍泰成の姿もある。


 しかしそれらはあくまでハクの記憶を元に作られた虚構の存在、幻覚とは違うものの天魔雄神の霊力で形を模しただけの人形である。

 霊力の塊であるため攻撃力はあるが、力は本人のものと比ぶべくもない。それはハクもよく分かっていた。


「ですが数が数ですよねぇ……」


 ハクは自分の姿も当時のものに変えて大軍と向きあう。


 偽物相手なら勝てるだろうという楽観的な考えは無く、死力を振り絞っても勝てないのではないかという悲観的な考えが頭を過る。 

 この世界では肉体こそないものの、幻覚によって精神が壊れれば心が肉体に戻ること無く死んでしまうし、戦いによって霊力を使い果たせば同じく死んでしまう。

 そのため天魔雄神に取り込まれた生き物のほとんどは天魔雄神に会うことなく最期を迎える。


 九尾の狐といえど無敗の道は歩んできていない。敗北や恥辱に塗れたことなど一度や二度ではない。


 ――――だから今回も、何も為すことなく死んでしまうのだろう。


「なんて考えていたらあの人に怒られてしまいますよね」

 

 後ろ向きな考えを消し去るために、ハクは強気に笑う。

 

 どれだけ強大な相手だろうと、どれだけ絶望的な状況だろうと、諦めずに戦い続けた人間を知っている。

 その人間はきっと今も自分との約束を果たすために前を向いている。

 ならば自分も諦めてなんかいられない。共に生きると誓ったのだから。


「さて、覚悟も決めたことですし張り切って殲滅させていきましょうか」


 地震にも似た足音を鳴らす大軍を、ハクは鋭い眼光で見据える。



 そして、その全てを迎え撃つために足を前へと踏み出した。

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